(旧)アリナレコード〜光と闇の小夜曲〜   作:選ばれざるオタクⅡ

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 お久しぶりです。

 今回の話を書くにあたって、誠に勝手ながらほむらコピー体の設定を色々と変更させていただきました。
 それに伴いほむら編その3後編の内容も加筆修正しています。
 もう一度読み直してもらうのは流石に申し訳ないので加筆修正した内容を簡単にまとめておきますね

「ほむらコピー体」
・限りなく『現在(いま)』に近い『過去』や『未来』の自分を観測し、ほむらの超技術とバケモンレベルの魔力量のゴリ押しによって無理やり肉体を現実に固定化させた存在
・時間の概念はフェムトファイバーのソレ(詳しくは東方儚月抄読むか”フェムトファイバー”で検索)
・ほんの少しの過去や未来の(それも生き物が決して認識出来ない須臾の)自分なので、作り出した当時の記憶をそのまま引き継いでおり、指紋や声帯はもちろん、ふとした時のしぐさまで完全再現
・素体はほむらの魔力によって作られる関係上、立場としてはほむらの眷属であり、命令に忠実
・しかし、この世に同じ魂は存在出来ない為、一人ひとり本体とは違った個性を持つことになる。
(なお、口調などの表層部分は本体が優先されるので、あくまでも頭の中の思考のみ個性を持っている。傍から見ただけじゃ全くわからない。みとちゃんが知らずに心を繋げてビックリするヤツ。)
・この分体作成は言わば「技術を最大限使った超脳筋のゴリ押し技」
 故に一体の分体を創るのに総魔力量の半分程度が必要
・多少違うとはいえ、一般的には本体とは完全に同じ身体であるためソウルジェムの誤リンクを防ぐ必要がある。(一つのソウルジェムに2つ以上の生命体が接続されるとソウルジェムの方のOSが対処出来ずにエラー吐いてフリーズする)
 故に分体は魔力を持たないどころか魔法少女ですらない
・ほむらがフルチャージした魔力コンデンサを渡せば一応魔法は使えるが、一般魔法少女レベル
・魔力コンデンサの素材は超希少&すぐ壊れる
・現在所持数は一個のみ

 こんなところですかね
 他にも時間があったら過去話の推敲は度々やっていきたいです。。今読み返すと酷い文だ……(今も昔も五十歩百歩)


ほむら編その7『分体達の苦悩』

現時点での出来事時系列まとめ

 

〜西暦2011年(平成23年)〜

 

 3月1日  美国織莉子 契約

      キュウべぇに千歳ゆまを紹介し撹乱

      (おりマギ無印一話、おりマギ新約一話)

      呉キリカ 契約(時期不明だけど織莉子と同じ日だと良いよね)

 

 3月6日  織莉子が帰り際に魔女に遭遇、浅古小巻(あさここまき)が魔女を殲滅し

      彼女が魔法少女である事を知る(新約一話)

      帰り道キュウべぇとの会話「魔法少女候補(千歳ゆま)を見てきた」(新約二話)

      織莉子VSキリカ 

      キリカが織莉子の駒になる(新約二話〜三話)

 

 3月7日  美国公秀(みくにきみひで)とのエンカウント キリカのライダーキック(新約四話)

 

 3月8日  キリカ、浅古小巻と行方晶(なめかたあきら)を殺害(新約五話〜六話)

 

 3月9日  キリカ、人殺しのショックで美国家に引きこもる

     →織莉子のクラスメートを殺してしまった事を知って精神崩壊

     →織莉子のキリカ改造計画(性癖暴走)の始まり(新約七話)

      まだ、キリカは織莉子に『理想の織莉子』を抱いていない。

      キュウべぇが魔法少女殺しについて調べ始める(新約七話)

      優木沙々、風見野で襲撃を受け(新約八話冒頭)

      『魔法少女が巴マミしかいない』と噂の見滝原に侵攻(新約七話最後)

 

 3月10日 ほむら、襲来(全ての元凶)[朝](ほむら編その1)

      織莉子が告別式の帰りにほむらの襲撃を予知する[お昼ごろ?](新約八話)

      巴マミ、陥落[放課後〜夜](ほむら編その2)

      キリカ、美緒(名字不明)を殺害して沙々とコンタクト

      織莉キリ沙々同盟を結ぶ[午後〜夕方](新約八話〜九話)

      原作とは違い織莉子が沙々を利用しようとせず、依頼に全力を注ぐ

     →人見(ひとみ)リナ、佐木京(さきみやこ)朱音麻衣(あかねまい)、を暗殺[夜](おりマギ原作からの乖離)

 

 3月11日 ほむらVS織莉キリ沙々同盟[01:00〜](ほむら編その3)

      ほむら、織莉キリ沙々と同盟を結ぶ[〜03:00](ほむら編その4パート1前半)

      一日を甘やかしに使い切り織莉子達のSUN値を回復させる(パート2前半)

 

 3月12日 VS第一の魔女アダム一日目(パート2)

 

 3月13日 VS第一の魔女アダム二日目(パート2)

 

 3月14日 VS第一の魔女アダム三日目(パート2)

 

 3月15日 VS第三の魔女サキエル(パート3)

 

 

 

 


 ……ハッ!?

 こうして振り返ってみると最近織莉子やらキリカやらばっかりで私の出番少ない…少なくない?

 いや、明らかに少ない!(断定)

 これは私の物語のハズなのに……と、言うわけで

 いつの間にか飛ばされていた私の”裏”の活躍を振り返るRTAはっじまーるよ〜

 


 

Part 5/X「夜、逃げ出した後」

 

〜3月11日 午前01:00〜

 

 今現在、私は巴家にて奇妙な人影と対峙している。

 未だ明かりの灯るリビングから扉を開け、照明の灯いていない廊下に現れたソイツは、光が逆行となり表情を読み取る事が出来ない。

 わかるのは私と同じぐらいの背丈である事。同じ黒髪長髪で、左腕に小型のラウンドシールドをつけている事ぐらい。

 私と寸分違わない姿をした、言わばもう一人の”私”とも言えるような存在。

 リビングにいる家主(マミ)が二人の”私”の存在に気づきそうなものだが、残念ながら私が認識した瞬間に時が止め()()()いる。

 世界に入門していない彼女が気づくこともないだろう。

 勿論の事だが、その”私”の姿は鏡写しになんてなっていない。

 故にミラーズの使い魔ではないことは明らかなのだが*1

 一体、この”私”は何者なのか―――

 

 ……と、まぁ謎のドッペルゲンガー出現!みたいに描写してみたけど、コレむしろ私のほうが偽物なのよね。

 あ、どうも

 本体である「暁美ほむら」の分体が一人、「暁美ほむら2号(仮)(カッコカリ)」という者よ。

 

 『んじゃ、そういうわけだから。マミさんベッドに押し倒してしっぽり朝まで楽しんでね!』

 

 前述の通り、私はこの眼の前で巫山戯(ふざけ)てる色ボケ馬鹿…もとい本体(オリジナル)の暁美ほむらに今しがた創られたばかりの分体で、この人格も出来たばかりなのだけれども

 生まれて早々、忠誠心がゴッソリ削れるような事言わないでくれないかなぁ…

 もっとこう…威厳というかカリスマというか……何かあるでしょう?

 ガラでも無いのにバチコンウィンクなんてキメちゃって、陽キャ御用達の横ピースなんかをクッソ腹立つ顔しちゃって、

 そういうのはコミュ力つよつよの陽キャ筆頭のエミリー先生にでも任せときなさいよ

 『はぁぁぁ〜〜〜………』

 こんな奇行を目覚めてすぐに見せられたら特大級のため息を吐きながら頭を抑えたくもなるものね。

 まさか、初めてのため息が自分の創造主に向けて発せられるモノだなんて夢にも思わなかったわ。

 まぁ自我芽生えてから夢なんて見る暇無かったけれども。

 

 今現在、本体は美国織莉子に(脳内で)喧嘩をふっかけて、待ち伏せしてる所を返り討ちにして、最終的に丸め込んで仲間にしようと企んでいるのだけれども、

 その戦いにパトロール中のマミが乱入してくるととんでもなく面倒な事になるからその解決作として分体である私を創り出してマミの相手をさせておこうとした……と、まぁそういう状況なのね。

 

 え?そこらへんは本体視点で既に読んでるって?

 ……そう

 それはともかく、私が物申したいのは

 メインの任務が『足止め』のハズが何故か()()()()()()()()()()()()()()()事になってる事ね。

 いや本当に訳がわからないわ…(例の白いゴミクズでは無い)

 

 『巴家の戸締まりヨシ!

  美国家に…イクゾー!デッデッデデデデッ!!(カーン!)デデデデッ!!』

 

 いきなり耳を貫いた定型文に驚いて思考の海から浮上すると*2、既に本体は外に出ていて、玄関はチェーンロックがかかっていた。

 おそらく声からして現場猫(指差し)確認は既に済んでおり、もうあと数秒もかからないうちにマンションの廊下から大空へと飛び立ってしまう所だろう。

 

 あぁもう!まだ何も抗議出来てないのに!

 勝手に言いたいことだけ言ってさっさと姿消す所とか、本当に…本体は本体だなぁ!

 チェーンと鍵を外し、ドアを開けて本体を追うような時間はもう無い。

 仕方ないが、多少の犠牲には目をつむろう。大丈夫、きっと修理は本体がやってくれるだろう。

 私はすぐに数歩後ろに下がり助走距離を確保すると、全身の筋肉をフルで使った本気の飛び蹴りを玄関ドアに放つ。

 防犯性から並のドアとは比べ物にならない程に頑丈に作られているはずの玄関ドアだが、高レベル魔法少女としてのフィジカルから繰り出される圧倒的破壊力を一点集中で受けたその姿は見るも無惨な物に変わり果ててしまった。

 が、そんな事はお構いなしに私は既に外に出てしまった本体めがけて跳ぶ。

 魔法が使えない以上、二段以上のジャンプは出来ないが本体に追いつくだけならばこれだけで良い。

 本体はドアをぶち開けた時の音で気づいたらしく、こちらを見て顔を青くしている。

 『え……また私、なにかやっちゃいましたか……?』

 うるさい!存在自体がチートの塊みたいな奴が今更なろう系主人公ぶるな!!

 追加された怒りの分もついでに込めて全身全霊の力で腕を振るう。

 拳はキレイに顔面に吸い込まれ、次の瞬間には本体は数メートル下のコンクリートに叩きつけられていた。

 

 

 

 

 

 

 『スミマセンでした……』

 『あら、顔面真っ赤にはらした本体(バカ)がなんか言ってるわ〜』

 『いや、ホント、調子に乗ってました。添い寝で大丈夫です。許してください』

 

 数分後(時止め中)

 本体に壊れた道路と玄関ドアを修理させてマミの家に戻り、正座をさせている。

 

 さて、混乱している人もいるだろうから、ネタバラシというか解説の時間ね。

 確かに私達分体は上記の通り「眷属」という立場上本体に逆らう事は出来ない。

 しかし、だからといって私達分体は自我を持っている以上()()()()()()()()()()()というのはどうしても存在するし、本体の判断だっていつも正しいわけじゃ無い……どころか大抵が暴走してるからストッパーが必要なのよ。

 だから、私達分体の物理攻撃には本体の暴走を止めるために”本体にのみ攻撃力UPⅩⅩ”が付与されてる。

 また、分体は魔法は使えないからバフはかけられないけどもフィジカル面は本体と全く同じだから玄関ドアをぶち破るといった事も可能。

 つまり、こと本体に限った話なら、本気で逃げられない限りしばき倒せる。

 

 まぁ一応本体は馬鹿であっても阿呆では無いので分体の拳は避けずにちゃんと殴られてくれるしその後の行動も改善してくれる。

 そのための右手

 あと、そのための…拳?

 

 とにもかくにも、なんとか本体が冗談半分で出した命令を取り下げさせる事が出来た。

 本体が例のお約束をやってくれていなかったら命令の撤回が出来ず、危うくマミの貞操が失われる所だった。

 

 その後、腫らした頬をケアルガで回復してから出発していった。

 でも本体の事だから、”自分の分体にしばき倒された”なんて恥ずかしい事は本体視点には書いてないんだろうなぁ。

 私は呆れたように二度目のため息を吐いてからマミが待っているリビングへと戻る。

 ちょうど私がクッションに座ったと同時に、再び時が動き出し世界は急速に色を取り戻していく。

 あまりのタイミングの良さに思わず笑ってしまう。

 あんなにも情けなく、分体にストッパー役としての機能をつける必要があるほど常識が欠如してしまっている本体だけれども、それでも、あくまでも私達の創造主なのだ。

 このぴったり過ぎる時間停止解除に『愛されてるなぁ』と感じてしまうのはおかしなことだろうか。

 それが反乱を防ぐために仕組まれたプログラムだと知っていても、やっぱり私は本体を本気で嫌いになることが出来ない。

 そんな本体と入れ替わった私は何食わぬ顔で任務を遂行する。

 

 「さ、今日は色々あった事だしそろそろ寝ましょうか。」

 

☆★☆★☆★

 

 

 「じゃあおやすみなさいね、暁美さん」

 「えぇ、おやすみ巴さん」

 

 二人でベッドに入り照明を落とすと部屋は暗闇に包まれる。

 カーテンの隙間からは夜景の光が漏れているが、それほど気になるわけでもない。

 ロフトの上、普段マミが寝ているベッドには私とマミが二人で寝ることになった。というかした。

 もちろん、本体からの命令もあるのだが、そもそも巴家には予備のベッドや布団なんてものは無い。

 両親が死んでから2年以上、その間まともに友達も出来ていなかったのだ。無理もないだろう。

 マミはしばらく逡巡していたもののやはり向かい合って眠る勇気は無かったのか、外側に身体を向けて眠ってしまった。

 

 チッ…チッ…チッ…チッ…

 

 時計の秒針のみが部屋に響き渡る。

 片や分体故に表向きの本体の皮である無口のクールビューティー(顔が良いだけのコミュ障)を装うしかないという縛りを抱えており、

 片や何年ぶりかの人の温もりに触れ、(本体のせいで発生した)慣れない感情にドギマギしている状態

 おやすみと言ってしまった手前、そんな二人に会話が発生するはずもなく

 なんとなく気まずいような違うような微妙な空気が漂い、時間だけが過ぎる

 

★☆★☆★☆

 

 一体どれぐらいたったのだろうか

 マミの寝息が聞こえ始めてしばらくたち、時間の感覚がかなり曖昧になった頃

 

 突然マミがうなされ始めた。

 

 「……っ゛…やっ………………っぁ゛あ゛ッ…!!…」

 

 息は荒く額からは汗が吹き出し何かを掴むように虚空に腕を伸ばす

 私達分体は本体の記憶を引き継いでいるので、当然マミの精神の不安定さやその理由を知っている。

 大方、今日一日慣れない他人との触れ合いで両親の事を思い出してしまい、そのまま契約当日の悪夢でも見ているのだろう。

 しかし、『巴マミの不安定な精神は今後の計画に必要だ』と本体は主張していたし、おそらくこのまま眠ったフリをしてマミの監視を続ける事が”分体”の行動としては正解なのだ。

 

 

 ……だからと言って、こんなにも苦しんでいるマミを放って置くなんて”私”には出来なかった。

 

 

 「巴さん、巴さん!?大丈夫!?」

 

 気づいた時には、私はマミをゆすり起こそうとしていた。

 が、多少外部からの刺激を加えた所でマミの意識は未だ悪夢の中であり、防衛本能が私の手をはたき落とす。

 それは明確な拒絶の意思

 並の人間ならば多かれ少なかれ弾かれた事にショックを受け、頭ではわかっていつつも本人が正気を取り戻すまで動揺が続くだろう。

 だが、腐っても私は暁美ほむらの分体

 拒絶された経験なんてものは何回、何十回、数え切れない程ある。

 故に、その無駄に多いデータから最適解を導き、無理やり抱きついて落ち着くまで拘束する。

 錯乱状態のマミは必死に私を引き剥がそうとするが、じっと耐える。反撃(拒絶)なんてもってのほか。

 分体だろうと玄関ドアを破る程のパワーを持っているのだ。無意識に魔法による身体強化を使って半ば本気で抵抗しているマミでもギリギリ抑えられる。

 

「ッ!?あ、暁美さん??」

 

 目が覚めたらしいマミをベッドにおろしてやると、荒い呼吸を整えながらもその眼はまるでありえないものでも見るようにこちらを見上げている。

 やはりまだ完全には悪夢から戻りきれてない。

 その顔を覗き込むようにして話を続ける。

 「大丈夫?かなりうなされていたけれど」

 「え…、……わ、私………」

 そこでようやくマミは現状を理解できたらしく、途端に申し訳無さそうな顔になった。

 「ご……ごめんなさい!暁美さんを起こしてしまって……」

 そう言ってマミは頭を下げるが、その瞳には恐怖が浮かんだまま

 「酷い汗よ。怯え方も普通じゃなかった。」

 額の汗を拭ってあげていると、マミのパジャマの内側からスルスルと魔法のリボンが伸びていき、キッチンから水を持ってきた。*3

 

 

 「…………魔法少女になった日の夢を見ていたの」

 

 しばらくの静寂のあとにマミがぽつりと呟く。

 

 「詳しく聞いても?」

 

 私は難聴系主人公では無いのでしっかりと拾って話の続きを促す。

 いや、難聴系主人公はシリアスな場面ではしっかりと聞こえているか。

 

 「別に、面白い話じゃないのよ………ただ、私が失敗しただけ。こんな話聞いても暁美さんも困っちゃうわよね。さっきのは忘れてちょうだい。」

 「それでも、私は気になるわ。勿論、巴さんが嫌ならそれでいいのだけれども……他人に話してみると案外スッキリするものよ?」

 

 それから少しずつではあるがマミは過去の誤ちを話してくれた。

 一つ一つ、噛みしめるように

 それに対して私は相槌をうつ。

 長年不満を吐き出せる相手がいなかったマミの心は本人が思っていた以上に負の感情を溜め込んでいたようで、

 次第にそれらはどんどんと表に出てきた。

 

 「どうして私だけが生き残ってしまったの…」

 ――生き残ってしまった罪悪感

 

 「パパもママも生き返らせる事だって出来たじゃないッ!!」

 ――最良の選択肢を掴めなかった悔しさ

 

 「結局私は親殺しと変わらないのよ」

 ――それによる自責の念

 

 「どうして親戚の人達は私を恐れるのかしら……」

 ――理不尽に対する憤り

 

 「魔法少女の活動で忙しいのに、友達なんて出来るわけないじゃない!」

 ――環境の違いによる孤独

 

 「何故魔法少女はテリトリーを奪う為に戦うの?どうして手を取り合う事が出来ないの!?」

 ――思想の違いによる衝突

 

 「あのまま飛び出して行っちゃったけれど、佐倉さんは大丈夫かしら……戻ってきてくれるかしら……」

 ――疎遠になってしまった愛弟子

 

 「なんでッ!なんで私はッ!!いつも、いつもいつもいつもいつもッ!!」

 

 最後には涙を流しながら布団を叩き、半狂乱とも言える状態のまま枕に伏してしまった。*4

 確かにそれらマミの独白は知っていたモノとそう代わりは無い。

 しかしそれはあくまでも”本体の知識”で得たものあり、”私”が巴マミから聞くのは初めてなのだ。

 実際に体感した彼女の寂しさというモノは知識のモノよりも遥かに辛く、寒く、暗いものだった。

 ――”私”は初めて涙を流した。

 本体のものであるこの体は反応してくれなかったけども、確かに心では泣いていた。

 

 「………そう、アナタは十分頑張った。もう大丈夫。頑張らなくてもいいのよ。甘えたって良い。

  今のアナタには私、暁美ほむらがいるんだから」

 

☆★☆★☆★

 

 「なんで……」

 

 私は泣いているマミの近くで正座をし、その膝にマミの頭を乗せる。俗に言う膝枕である。

 

 「一人ぼっちは、寂しいもの。それに、これからは巴さんだけが無理をしなくてもいいのよ。幸い手持ちのグリーフシードは沢山あるから」

 

 優しくマミの頭を撫でるとマミはひとしきり泣いたあとに静かに私から離れる。

 

 「何故、こんな事をするの…?」

 

 その表情は先程とは打って変わってこちらを睨んでいる。いや、警戒している?

 

 「友達が苦しんでいるのを助けるのに、理由が必要かしら?」

 「………ッ!そう言って近づいてきた魔法少女は沢山いたわ。全部ぜーんぶ嘘だったけれどね」

 

 マミらしくもないような事を……ナニカを隠すために、目をそらす為にわざと攻撃的な事を言っている…?

 

 「私は違う」

 「嘘」

 

 「本当よ」

 「そんなの、貴方にメリットが無いじゃない!」

 

 ついにマミは魔法少女衣装を身に纏い、ベッドの上に膝立ちでこちらにマスケット銃を向けてきた。

 知識の中にあった『みんな死ぬしか無いじゃない!』が頭をよぎり、冷や汗が流れる。

 が、銃身やトリガーにかける指は震え、顔は歪み涙としゃっくりで銃口はブレブレ

 とてもじゃないがまともに狙えていない。

 ここが攻めどきか、少し荒っぽくなってしまうが仕方ない。

 私はマスケット銃を手で弾き飛ばしマミの胸ぐらを掴む。

 

 「いい加減にしなさい!巴マミ!!それじゃあ、私達の出会いは一体何だったの?一緒に晩ごはん食べたりお風呂入ったりしたのは??私が損得勘定で何かを決めると持っているの!?!?」

 

 それまでのは私では無いけれど、まぁ「暁美ほむら」ではあるのだから間違っていないし、普通に私の本心だ。

 (ちなみに本体は損得勘定で動いてる)

 

 「………そんなの、全部ウソだと思ってたほうがいいじゃないッ!!

  何故貴方はそうやって私に希望をもたせようとするの!?

  夜の時から………いいえ、最初に魔力を浴びた時からずっと思ってた……

  こんな私が、両親を殺した(人殺しの)私が暁美さんと釣り合うハズが無いって………」

 

 マミが力なくうなだれる

 

 「契約の時の話を暁美さんに伝えている途中で、私の中でも整理がついたわ

  私が一人ぼっちなのは()()()()()()()()()()()()()()から。

  正義の味方として魔女は使い魔まで全て倒してきた。それが私の贖罪だから。

  でも、それによって佐倉さんは離れていってしまった!!

  私は私の罪のせいで佐倉さんを失ったのよ!

  暁美さんがどんな風に思っていても!!

  どうせ私はまた一人ぼっちになる…

  結局私はそういう運命なのよ。」

 

 マミの瞳は諦めに染まっており、それに呼応してかソウルジェムも濁っていく。

 今の魔女が少ない見滝原なら、もはや魔女化は免れないレベルだろう。

 もしもその罪とやらが本当にあるのだとしたら、どうやらその罪とやらはよっぽどマミに救われてほしく無いらしい。ここまで頑固な運命、もはや一種の呪いとでも言うしかない。

 すると、この穢れは私と過ごした時間の代償といった所か。とことんまで巴マミという存在を一人にしようとしているコレにはもはや天晴(あっぱれ)という他無い。

 

 ――だが、それはあくまでも()()()()()()()()()、だ。

 グリーフシードを取り出し、浄化する。

 私達、暁美ほむらは別の世界から来た存在。

 たとえ、世界から呪われていようとも、そんな呪いは私達が断ち斬ってやれば良いだけの事なのだ。

 

 さて、ひとまず魔女化は防げたけれども残念ながらマミの心は閉ざされたまま。

 このままではマミのソウルジェムは時を置かずしてまた濁った状態に逆戻りするだろう。

 ……これは、私もそれ相応に腹を括らなければならないかな。

 ベッドから腰を上げロフトの柵に腰掛ける。

 すこし高い柵だからほとんど飛び乗る形になってしまったが、まぁ良い。

 大事な話をする雰囲気ぐらいは作れるだろう。

 

 「実は私ね、魔法少女になる前は入院していたのよ。」

 

 マミは(うつむ)いたまま何も言わない

 

 「生まれつきの心臓の病気でね、治る見込みも殆ど無い難病だった。」

 

 窓から見える月を眺めながら、何百何千年も前の昔話を語る。

 

 「生きるためには特殊な医療機器が必要。でも、それは都会の大病院にしかおいてない貴重なもので、

  両親は仕事の都合上引っ越しは出来なかった。」

 

 思えば両親の事を思い出したのなんて、いつぶりだろうか。

 会おうとすれば会うことはできるだろうが、今更会った所で何が起こるわけでも無いだろう。

 

 「主治医と両親の相談の結果、私は一人でこの見滝原の病院に入院することになった。

  元の家はここから数県離れた田舎町で、仕事も忙しいというのに、両親は毎日仕事終わりにお見舞いに来てくれた。

  ……でも、

  私が成長すると次第にその頻度は減っていった。」

 

 月から目を離しマミに視線を移すが、その姿は話し始めてから微動だにしていない。

 

 「中学2年の秋、完治とはいかないんだけれども私は学校に通える程度には回復した。

  が、まだ定期検診が必要だったから元の家に戻ることは出来なくて

  見滝原にアパートを借りてそこに住みながら通学することになった。」

 

 マミがのそりと体を起こす。

 いまだ眼は真っ赤に泣きはらしているが、その表情には先程には無かった困惑の色がうかがえる。

 良い兆候だ。

 

 「登校初日

  今まで両親と主治医、看護師ぐらいとしか話したことが無かった私は

  他の生徒とうまくコミニュケーションを取ることができず

  また、微妙な時期からの転校生という事もあってかなり浮いていた。

  勉強も周りの数段下のレベルで、体育はもちろん見学。

  私は、生徒達の好奇の目に突き刺されて、何もかも自分の数倍以上出来る周りに押しつぶされそうだった。」

 

 何かを言いたげにマミが口を開きかける。

 その疑問は最もだろう。

 『何を言っているんだコイツ』と思われて当然だ。

 

 「そんな私を助けてくれた心優しい人もいた。

  もちろん、その時は筆舌に尽くしがたい程嬉しかったけれども

  結局、自分は保健委員である彼女の負担にしかなっていないと気付いて

  また自分が嫌になった。」

 

 何しろ見滝原中学にはこれから転校するハズなのだ。

 しかも、新学期と共に。

 話している内容と現実が噛み合っていない。

 

 「そんな負の感情を抱えていたからでしょうね。

  帰り道、私は魔女に襲われた。」

 

 疑問と困惑ばかりだったマミの表情にわずかに驚愕が混じる。

 彼女からしてみれば私が魔女に襲われている姿なんて想像も出来ないのだろう。

 

 「もちろん、魔法少女では無かった私は抵抗する事も出来ず命を散らす筈だった。

  そんな私を助けてくれたのが同じクラスの心優しいたった一人の友達と……」

 

 

 

 言葉を一度切り、柵から降りてマミと正面から向かい合う。

 

 

 「巴マミ。アナタだったのよ。」

 

 

 「……………………はぁ?」

 

 たっぷり数十秒の硬直のあと、マミの頭の上に大量の(疑問符)が飛び交う。

 まぁ普通に考えてそらそうなるわな。

 今日初対面の相手を今日よりもあとの日付で助けたなんて。

 しかも、それを過去のこととして聞いている。

 事情を知らないと時系列がゴチャゴチャで何を言っているかわからないだろう。

 

 「それからはとても楽しい毎日だった。

  友達がいて、頼れる先輩がいて…

  共通の秘密を持つというのは仲間関係を作る上で有効な手段。

  私は魔法少女では無かったけれども、魔法少女という秘密の存在を知り

  それを共有する仲間として迎え入れられた。

  楽しく、平穏で、すこし刺激的で、

  輝いていた日常をおくることが出来た。

  ………一ヶ月後までは」

 

 私の声のトーンが一段階低くなったことを察知したマミが溢れんばかりの疑問をとりあえず棚において話を聞く姿勢を整えてくれている。

 このような事が出来るんだからマミのコミュニケーション能力は低くないのだけれども……

 

 

 「巴さんは『ワルプルギスの夜』を知っているかしら?」

 

 「……地球を周回し、ありとあらゆる厄災を振りまくという伝説上の最凶最悪の魔女…よね?」

 

 「えぇ、そのとおりよ。

  舞台装置の魔女『ワルプルギスの夜』そんな伝説の魔女がここ、見滝原を襲った。」

 

 「そして、巴マミ。

  アナタはワルプルギスに立ち向かい、そして、」

 

 

 

 

「死んだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「それでも、たった一人の私の友達は、

  あなたが育てた魔法少女は、絶望に立ち向かった。

  ………そして、同じように死んでしまった。」

 

 

 「なんで、どうして、そんな思いでいっぱいだった。

  そんな所に現れたのがキュウべぇ。

  私は、たった一人の友達と()()()()()()()出会いをやり直すため、

  守られるだけではなく、護るために、魔法少女になる事を願った。

  そして、世界は一ヶ月前に戻っていた。」

 

 

 「私の固有魔法は『時間遡行』

  そして、その副次的効果の『時間停止』

  この魔法で、私は今度こそ友達と()()()守り抜く事を誓った。」

 

 

 「でも、魔法少女になったばかりの私は弱かった。

  時間停止をしても素の体力も無く、自分にバフをかけられるほど魔力操作もうまく無かった私は、ドラム缶一つを壊すのが精一杯だった。

  それでも、アナタは私に魔法少女として色々な事を教えてくれた。

  その一ヶ月も、魔法少女としての戦いは苦しかったけれども、楽しいヒ日々を過ごした。

  けれど、その平穏はまた崩されてしまった。」

 

 

 「3回目もうまく行かなかった。

  4回目もうまく行かなかった。

  5回目、6回目、7回目、8回目

  9、10、11、12、13、14…………

  いつしか私は数えるのをやめた」

 

 

 

 「私はね、巴マミ。アナタを救うために魔法少女になったの。

  それは確かにアナタとは違う巴マミだったかもしれない。

  それでも、私は巴マミという魔法少女に助けられて今、此処にいる。

  私がアナタを救おうとする理由としては…軽いかしら?」

 

 

 

 マミの瞳から涙が零れ落ちる。

 先程の自らを呪った涙とは違って、どこまでも透き通った涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そっか、……もう私ひとりぼっちじゃないのね」

 

 

 

 「えぇ、そうよ」

 

 

 「―――暁美さん」

 

 「何?」

 

 「もう一度、手…繋いでもらってもいいかしら」

 

 

 

 「えぇ、構わないわ」

 

 

 「………温かい。そう、いつの間にか人の温もりさえも忘れてたのね…私」

 

 

 「………失ったものは、またこれから取り戻せばいいのよ」

 

 

 

 

 

 東の闇がうっすらと群青に変わり、その色を少しずつ淡く落としていく。

 

 (あかつき)の空は未だ暗く、夜闇が覆う部分が多い。

 しかし、だからこそ炎の星によって白み始める光景は美しいのだ。

 

 

 

 開けない夜は無い。

 

 

 

 

 が、夜明け前が一番暗い。

 

 

 

 

 巴マミは、確かに今、夜明けを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
というかこの時期にミラーズが見滝原まで繋がっていたら割と大事件だわ。せっかくマギウスが神浜に結界を張ってるのにミラーズからインキュベーターが入ってくるとか勘弁してくれ…

*2
ため息からコンマ1秒程度しかたっていない

*3
全くの余談だが、マミの精神状態を鑑みるにこんな精密な魔力操作は出来る訳が無い。恐らくだが、このリボン自律行動してる。自我を持った眷属の生成とか普通は固有魔法でも無い限り出来ないんだけど……本体でも研究開始から百年程度はかかったのに

*4
マスケット弾が飛んでこなくて助かった




暁美ほむら(本体)
・今回かなり残念要素が際立っているが、こんななのは分体の前だけです。
 他人の前ではもう少しちゃんとしています。
 ちゃんと…?(2連寝起きドッキリ催涙煙幕グレネード)


暁美ほむら2号(仮)
・圧倒的光属性
 コイツ、本体よりもかなり主人公してるのでは…?
 でも、時間遡行カミングアウト時に伝える情報を取捨選択してたり、
 ギリギリ嘘じゃないレベルの嘘ついてるから
 世の完全な光属性タイプの主人公さんには程遠い。
 やっぱりキミもアリナレコードの登場人物なんだね
・長い間少しずつ書いては消してを繰り返したのでキャラがブレブレ(安定のアリナレコードクオリティ)
・途中綾波さんみたいになった
 書いてた時期はシンエヴァ見に行こうとしてウキウキしてた時期だったと思う
 結局色んな不幸と判断ミスが重なって見に行けてません
 アマプラで見ます。
・両親云々の部分は完全にボクの妄想100%

巴マミ
・ご乱心マミ先輩
・光属性の分体に丸め込まれて危険なフラグを全て安全に処理することに成功
・最後にもうこれ以上絶望しないフラグが建設された。
 ()()()()()()作中メンタル最強キャラとして君臨する予定。

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