(旧)アリナレコード〜光と闇の小夜曲〜   作:選ばれざるオタクⅡ

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 前回のあとがきで致命的なミスをしていました

 ほむらがこの世界に来たのは3月10日であっています。
 書いてる最中に勘違いしてしまい3.11と同じとかなんとかわけわからん事言ってしまいました
 既に該当部を削除してありますが、混乱させてしまった皆様には心からの謝罪を

 本当に申し訳ありませんでした

 あ、あとシン・エヴァ:‖見ました。
 カヲル君が円環円環言うので
 月の上の棺で目覚めたカヲル君のシーンでアルまど様がこんにちわしちゃったんですが、同志いますか?


ほむら編その8『分体達の日常』

 ピピピピ ピピピピ

 

 家主が寝静まった部屋にスマホのアラーム音が鳴り響く

 それは一見、日常の焼き直しにも思えるが、この場所に精通している者ならば違和感を感じ取るだろう。(家主はぐっすりと眠りこけているが)

 まずアラーム音がいつもより小さい・・・と言うより()()()()()()()と言った方が正しいか

 これではいつもよりも目覚ましとしての効果は気体出来ない。(いつも目覚ましとして効果を発揮しているかと聞かれると首を傾げざるを得ないが…)

 だがしかし、部屋を見渡せば日常とは違う違和感の元は音だけでは無い事がわかるだろう。

 差し込む陽光が照らすのは掛け布団がはねのけられぐっちゃぐちゃになったベッド

 あまり寝返り*1をしないという家主の性質上、床にまで散乱するほど乱れているのは明らかに異常だ。

 そして若干湿っている布団の上に転がっているのは家主だけでは無い。

 もう一つの人影はアラームの音に目を開けると上半身だけ起き上がる。

 それに伴いいくつかの家主の黄金に輝く髪が長く艶めく黒髪に絡め取られ、宙を舞いまた落ちる。

 一種の幻想的な光景になっているのはひとえにその人影と家主が人類種から逸脱した美貌を兼ね備えているからであろうか。

 そんな人物は一人しかいないだろう。この家主にとってたった一人の友達である。

 

 

 ん〜?

 あ゛〜……もう朝かぁ

 はい、どうもおはようございます…

 暁美ほむら2号(仮)(カッコカリ)です

 現在時間は午前06:00

 結局あのあと一睡も出来ませんでした……

 

 脳内で思考の記録ログをつけながら分体である暁美ほむら2号(仮)――長いので以下2号と呼称する――は、少しぼんやりしている頭できょろきょろと周りを見渡す。

 スマホのアラーム音は確実にこのベッド付近から出ているハズだが、ざっと見渡した範囲では見当たらない。

 その瞳にはくっきりとクマが浮かんでおり心なしか髪もかなり傷んでいる…ように見える。

 だからといってその人外じみた美貌が損なわれるどころか一種のアクセントになってより際立っているのだから末恐ろしい。

 ノーメイクの寝起きでコレとか世の女性の大半が泣いて羨むだろう。(そもそも化粧とか必要無い)

 

 まぁ別に寝不足でこうなったわけじゃないんだけどね

 というのも、私達分体はデフォルトで睡眠無効のパッシブスキルが備わっていて

 眠る必要どころか一ヶ月以上不眠不休で働き続ける事も可能だから

 こんなになってるのは……ぬ、スマホ発見。アラームOFFっと

 

 とりあえずロフトの床に散らばった掛け布団*2を回収すると下から件の家主のスマホが出てきた。

 昨晩のてんやわんやの間にここまで飛ばされていたらしい。

 未だに動き出さない家主を横目にため息をつきアラームを切った2号は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()T()w()i()t()t()e()r()()()()()()()()()()()()

 

 う〜ん予想通り酷い中身ね。直近のメールは全部学校からの保護者宛お知らせメール、たまに親戚からのメールも混じってるけど内容は事務的な会話のみ。

 うわ、ついったアカウント名『救世済民の魔法少女』とかタルトさんかな?

 内容も……うん、見なかったことにしよう。

 

 いかにも”ボッチを極めました”とでも言いそうな中身のスマホに顔をしかめる2号。

 Twitterでは主に自身の不安を吐露しているツイートが中心に投稿されている。

 マミ本人の状況を鑑みて読めば内容がある程度わかるツイートの数々は、魔法少女の事をぼかして書いていたり現代人が決して抱かないような自らの命をかけた戦いへの不安などが悪い具合に組み合わさり、傍から見れば痛々しいポエム集にしか見えない。

 フォロワーはもれなく中二病患者ばかり。

 だがしかし、中二病患者といってもプロフィールやツイート内容を見る限りかなり社交的で良識がしっかりしている。

 いや、しすぎている。人間として中身が出来ている*3。コレもう社会人じゃないか?

 少なくとも様々な場所に顔突っ込んでクソリプ貼り付けてイキっているような中学生(クソガキ)では無い。

 幸運にもフォロワーには恵まれていたようだ。内容はアレだけど

 でも鍵垢になっている。以前なにかしらがあったのかもしれない。

 内容を遡ってみるとたまに本の感想なども投稿していて、フォロワーも反応している事から、現実よりかは遥かにネット文化を謳歌していた事がわかる。

 中二病患者達が閉じたコミュニティ内でお互いの傷を舐め合う蠱毒・・・その結果が例のマミのセンスなのだろうか。

 

 ……で、なんだっけ?

 あぁ、そうそう。ボロボロになってる理由ね。

 コレ別に寝不足でクマが出来たわけじゃなくて、冷静になって考えたらその場の流れに身を任せてマミにカミングアウトしたのは悪手だった…というかかなりマズイ事だったって気づいたからなのさね。

 

 基本的に分体は各々の自我に備わっている価値観によって本体の暴走を止める役割を持っているが、

 元となったベースが()()()()()()()な以上、分体も分体で暴走する時がある。

 本来の仕様としては他の分体と共にチームで仕事が割り振られるため、お互いの暴走をそれぞれが抑える仕組みなのだが、

 2号は単独任務であった為その仕様が起動しなかった。

 というかそもそもこの時間軸に飛んでからまだ一日しか経っていない今、分体の数は雀の涙ほどしかいない。

 新しい時間軸についてからしばらくの間付き纏う人手不足の問題はデータが殆どないマギレコ時空においてはあまりにも致命的だった。

 

 意図的に一部情報を盛ったり秘匿したり*4したからマミが()()()()()という状況にはならなかったものの

 暴走止める為のストッパーが命令無視して勝手にメンタルケアして、更に正体カミングアウト

 コレ最悪の場合本体のチャートが機能しなくなるのよね

 いや、本当にこの件どうやって報告しよう……

 

 そういった自分のガバによってチャートが崩壊する心配で精神にダメージを受け、マミが眠った後に冷静になりベッドの中で悩んだ結果がこのボロボロの姿だった。

 分体は他の魔法少女よりも精神状態が表に出てくるように設計されている為だ。

 が、2号はまだ知らない。

 自分のガバに関係無く、もうとっくにチャートが崩壊している事を

 

 ジリリリリリリリリリリリリ

 

 しばらくするとロフトを降りた先にある棚の上の目覚まし時計がけたたましく鳴りだした。

 ベッドに腰掛けていた2号が少しうんざりした様子で立ち上がろうとすると

 

 パンッ

 

 乾いた銃声が鳴り響き目覚まし時計が貫かれその役目を終える。

 そして間髪入れる間もなく2号の身体は黄色いリボンに絡め取られ無理やりベッドの中に連れ戻される。

 

 「眠い」

 

 一言そう呟くと、目覚まし破壊と2号拉致の犯人であるマミは2号を抱きまくらにして眠ってしまった。

 今日は金曜日なので普通に学校があるハズ

 二度寝なんてキメたら確実に遅刻する事になる。

 2号は抗議するために超質量を誇るマミの胸部装甲から顔を無理やり出すが

 

 「すー……すー……」

 

 安心しきって眠りにつく顔を見ると、どうにも毒気が抜かれる。

 ……まぁ、マミはこれまで苦労してきたからなぁ。

 ある程度は好きにさせてやるか

 

 そう思いって目を閉じ、再び目を開けた時には、()()()()()()()()

 

 

 

 まだマミは時が止まった事に気づいていないが、先程までマミの中でぽかぽか暖かくなっていた2号の身体は急激に冷えていった。

 何のためらいも無くマミの拘束を力ずくで抜け出した2号はマミから離れることで止まった時の中からマミを追い出す。

 時が止まった以上、それはヤツ(本体)が時止めを使ったということであり

 それすなわちヤツ(本体)が接触しにくるかもしれない。

 とてもじゃ無いがあんな姿は見せたくない。

 

 

 

 はぁ……はぁ……あっぶねぇ!!

 駄目だ、マミの中危ないわ……

 あんなにまで人を堕落させる事に特化した身体あるの?

 本体が介入(時止め)してなかったら戻ってこられなかったわ…

 あ〜・・・でも本体が来たら怒られるんだよなぁ……

 

 止まった時の中で同じ場所をぐるぐる周りながら自らのガバをどう報告するか悩む2号

 

 うん、顔洗おう

 本体について考えるのはその後だ。

 

 結局たどり着いた答えは後回しなあたり、やはり分体といえども暁美ほむらは暁美ほむらだった。

 憂鬱な考えを無理やり頭の隅に追いやって、2号はロフトを降りた。

 

★☆★☆★☆

 

 ジャーー

 バシャ バシャ

 

 はふぅ…

 3月の朝はまだ冷える

 温かいお湯で顔洗うのは間違いなく至福の一時だわさ

 おかげで、かなり酷かった寝起き顔もいつもと変わらない程度にはマシになった。

 やっぱりストレスには癒やしをぶつけるのが最適解ってハッキリ分かんだね。

 

その癒やしってマミの効果も入ってない?などという質問は禁句だ。

 状況的にそんな指摘をする人物はいないが、もしもそんな事を言ってしまった者がいたとするならば、ソイツは正拳突きで上半身を跡形もなく消滅させられるだろう。

 飛び蹴り一発で玄関ドアをぶち破った筋力はもはやドラゴンボールの世界だ。

 並の魔法少女では話にならない。

 


※ここからしばらくこの世界の設定に関するうんちくの垂れ流しが始まります。興味が無い方は次の水平線まで飛ばしてもらっても物語にはなんの問題もありません※

 

 

 指摘するならば、時間停止中に洗面台を使っている事にすべきだろう。

 本来この状況はおかしい。

 雨や噴水が時間停止中に空中に静止するのはよくある表現であり、それすなわち水が落下するという状況は起こりうるはずがないからだ。

 まぁ、そんな事言ってしまったらそもそも時間停止中に普通に動いたり、重火器ブッパしたりしてる時点でおかしいのだけども

 しまいには(某百年の眠りから蘇った吸血鬼のナイフのように)銃弾や砲弾が目標に当たる直前で止まるなんていう、訳がわからない事をしているのだからそんな疑問は聞くだけ野暮というモノなのだが、

 それでも一応この世界には”理由”が存在する。

 

 そもそも、この世界における”止まった時の世界への入門”というものは大きく2つの能力に分かれている。

 一つは自分が止まった時の世界を()()する能力

 そしてもう一つが()()()()()()()()()()()()()()()()()()を可能にする能力である。

 

 

 まずは1つ目の認識するという事について

 

 そもそもとして”世界”というのは得てして観測者がいなければ成り立たない。

 シュレディンガーの猫とかいう有名なアレである。

 量子物理学だか量子力学だかよくわからん学問の、観測されるまではどうなっているかわからない状態でどうなっているかは観測されるまで確定しない〜だとかなんだとか

 よくわからない説明をうんぬんかんぬん垂らされてもわからないと思うし、ボクもほぼ確実に理解していないのでわかっている部分だけ取り出すと

 観測されるまではその世界は存在出来ないという事だ。

 うん、最初の説明とほぼ全く同じだな。

 そもそも、時が止まった世界なんてものは時が流れている以上観測のしようが無い。

 そして一秒前の時が止まった世界と今現在時が止まった世界は全くの別物である事もわかるだろう。

 一秒あれば様々な事が起こるし、そもそも一秒たてば自分が存在している座標は全く異なる。

 地球は常時トンデモナイスピードで移動し続けているからな。

 自分が微動だにしていなくても地球が移動しているのだからどうしようもない。

 そんな時間の数だけ存在する時が止まった世界も観測する人がいなければ空想上のモノでしかない。

 だからこそ時が止まった世界なんてものは存在しない。

 存在出来ない。

 

 だから時を止める能力とは、まずはこの時が止まった世界を観測する必要があるわけだ。

 1つ目の能力はわかってもらえただろうか?

 わかってもらえなくとも次に行くぞ。

 

 

 2つ目の”自分及びその周囲の限定的な時間の進行を可能にする”という事について

 

 止まった時の世界というモノは基本的に全てのエネルギーが()()になる。

 ここで言うエネルギーとは科学でいうエネルギーの事だ。

 位置エネルギーだとか運動エネルギーだとか熱エネルギーだとか化学エネルギーだとか

 そういったアレである。

 まぁ、もちろんの事だが、時が進んでいる世界でエネルギーがゼロになんてなったらありとあらゆる熱エネルギーもゼロになり、世界は一瞬で凍りつくのだが

 しかし、時が止まっているという事はエネルギーがゼロだとしても”変化しない”

 物質が保有している熱エネルギーはそのまま熱エネルギーとして保有したまま動かないのだ。

 そして、時が動き出せば止まっていた物は元の運動エネルギーで動き始める。

 つまり、『エネルギーがゼロになる』というよりも『変化が出来なくなるから実質的にエネルギーはゼロ』と同じなのだ。

 

 なぜせっかく時が止まっている世界で自分はともかくとして周囲まで時間を動かさなければならないのかという事だが、

 それがこの”変化出来ないが故のエネルギーゼロ”と密接に関わってくる。

 

 そもそもとして活動に酸素を必要とし陸上で生活してる大抵生物は皆空気に包まれている。

 この空気が動かせなくなった・・・つまりガッチリ固定されてしまったらどうなるだろう?

 魔法少女は確かに生きるのに酸素なんて必要無い。

 ぶっちゃけ、呼吸しているのは周りの人間族に溶け込む為でしかなく、水中や宇宙空間での活動なんてお茶の子さいさいなのだ。

 マギレコの夏イベではみたまさんが人魚に調整する事で水中呼吸を可能にしていたが、あんな事しなくても普通に活動エネルギーを人間ベースのものから何から何まで魔力を使う魔法少女特有のモノに変えてしまえば良い。

 まぁ、『自分は人間では無い』という事をハッキリと認識していなければ出来ないのだが

 ここらへんの事を考えるとまさにインキュベーターとの契約は悪魔の契約だったんだなとしみじみ感じる。

 

 閑話休題(また話が脱線した)

 

 ともかく、空気を必要としていなくとも周りに空気が存在する以上、こいつらを動かせなくなったらコンクリで固められているのと一緒…どころか変化出来ない空気は破壊不能なあたりコンクリの方がまだマシ

 時が止まった世界で活動するためには少なくとも自分の周りの空気は変化を許容しなければ動くこともままならないのだ。

 そして、時が止まった世界で物を移動させるためにはそのモノも変化出来るようにしなくてはならない

 しかし全ての変化を可能にしてしまったら、それは時を止めている意味もなくなってしまう。

 

 だからこその『自分及びその周囲の()()()()時間の進行を可能にする能力』なのだ。

 

 例えばマグマがあったとする。

 マグマにたいして熱エネルギーや化学エネルギーはそのままに移動する為の変化のみを許可する。

 すると触っても熱は感じないままドロッとした液体を素手ですくって、持ち運ぶ事が出来る。

 熱エネルギーがゼロのモノ=絶対零度ではあるのだが、あくまでも変化しないだけ故のゼロなので触った手が凍傷になったりなんて事はない。

 

 ね?わかりやすいでしょ?

 そうでもない?

 悪かったな、説明が下手で

 

 ともかく、暁美ほむらの能力は

 この”限定的な変化の許可”を”自らが触れたモノ”に対して常にかけている。

 だからこそ、触れた空気は変化できるので止まった世界で動ける。

 だからこそ、触れた物体は動かせるので物を持ち運ぶことが出来る。

 だからこそ、暁美ほむらに触れている人も止まった世界に擬似的に入門できる。

 

 だが、これでは何故止まった時の世界で放った銃弾が目標に当たる寸前で止まるのかが説明出来ない。

 コレに関しては”一度触れたモノの変化はある程度自由にON/OFFが出来る”と解釈するしかない。

 叛逆でマミにリボンで時止め防がれた事からOFFに出来るのは自分から離れたモノ限定だろう。

 

 余談だが、某吸血鬼及び星の高校生の時間停止もコレと同じような仕組みだと思っている。

 時を止められる時間が作中最長でも九秒という点から推察するに、このあまりにも短い時間は”変化の許可”の能力の持続時間なのではないか?

 だとしたら、時に入門したばかりの星の高校生が動けずに見えるだけ…つまり観測のみ出来たのも納得が出来る。

 

 世界入門は世界の観測

 動くためには”変化の許可”を可能にする能力が必須

 そして、人間の身にはあまりにも負担が大きすぎる為時間は短い。

 星の高校生は全盛期で5秒、10年ぶりの仕様で2秒

 某吸血鬼は吸血でハイになった事で9秒になったことからも、

 吸血鬼の人間とは一線を画す能力による停止時間の長さだったのだろう。

 ”変化の許可”はそれほどに燃費が重いのだ。

 …が、人外の吸血鬼でさえ()()()()()が限界なあたりやはり時止めというのは非常に高度な技術なのだという事がわかる。

 あ〜、でも確か成長していけばいずれ停止時間は増えていくんだったっけ?

 でもアレただ単にDIO様がそう感じたってだけで何も正確性が無いのよね。

 少なくとも吸血鬼の上位種である柱の男がいる以上、吸血鬼に限界はあると思われる。

 そもそもとしてディオ様が石仮面産の吸血鬼として異質すぎるんだよな。

 石仮面によるミーム汚染を受けているとはいえ、それさえも利用して頂点に上り詰めようとする意思

 吸血鬼の能力を最大限引き出す圧倒的な身体能力

 何よりも気化冷凍法なんて普通考えつかないどころかその後の二部でも使いこなせた吸血鬼がいない事からわかる天才的な戦いのセンス

 どれをとっても圧倒的なんだよな

 ジョジョとの因縁のせいでとてつもなくアホになっちゃうのは物語上仕方ないことなんだ。

 でも新たな力手に入れたって言ってもそれで遊んじゃって無様さらすのはどうかと思う。

 

 

 

 閑話休題(終盤殆どジョジョの話しかしてないな)

 

 

 

 それじゃあ話を本編の元に戻そう

 

 

 


 

 

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 時止めから数分後、ベッド周りを片付けている最中にソレはやってきた。

 私達分体の(オリジナル)である暁美ほむら

 本体がいつになく真剣な表情で玄関ドアを開けて入ってきたのだ。

 ご丁寧に靴を揃えている所から、現在本体は純度100%の真面目モードである事がわかる。

 つまり・・・

 

 あ、これバレてますね。間違いなく。

 どうする…?ここから言い訳をしてみてもいいが、納得させられるだけの材料なんて無い。

 何より、アレは完全に本気の目

 一つでも選択肢をミスったら消し炭になるのは間違いなくこちらのほう

 しからば……最終手段ッ!

 

 コンマ1秒にも満たない思考の末、結論を出した2号。

 逃げ出さずまっすぐに本体の目を見る。

 リビングにて二人は同時に動き出した。

 

 

 「スミマセン!ガバやらかしてチャート崩壊しましたァッ!!」

 「スミマセン!うっかりマミに過去話しちゃいましたァッ!!」

 

 

 

 「「へ?」」

 

 

 高さ、角度、勢い、その他細やかな身体の動き、全てが寸分たがわぬ動きでジャンピング土下座を敢行する本体と分体

 まるでスマブラのガノンミラーマッチで度々目撃される儀式かのごときシンクロ率であった。

 そりゃそうだ。どっちも暁美ほむらなんだもん。

 

★☆★☆★☆

 

 「え〜と、要するに……」

 

 こめかみを押さえながら本体と分体が状況を整理する。

 

 「そっちでうっかりマホカンタを力んじゃって沙々を洗脳しちゃっていた時…」

 「そっちでは勢いに任せてマミに過去を話していた・・・と」

 

 「「アホなの!?」」

 

 お互いがお互いでガバやっていた事が判明し、感想がダブってしまう二人

 しばらく二人でリアル大乱闘(魔法抜き特攻一時解除の完全互角ミラーマッチ)に興じていたものの、無駄に体力を消耗してへろへろと横たわる。

 何をやっているんだコイツらは……

 

 「で?新しいチャートってのは?」

 

 「主に織莉子キリカ沙々達を育成して、グランドクエスト『使徒、襲来』をクリア

  S2機関と死海文書を回収、そしてリリンによる養殖魔女計画

  その間にマミや杏子、ゆまを使ってなぎさの回収、魔女化回避

  どこかのタイミングでまどか達に真実を伝えてその上でまどかを自分の意思で契約させる。

  ただし、強要はしないであくまでもまどか自身の選択に任せる。ただ、まぁ…願いについては口出しするけども

  その間に拠点の発展と分体の大量生産をやりながら神浜に行ってインキュベーター避けの結界の調査

  出来れば接触しておく事でこの先やりやすくなる魔法少女とはこの時点から干渉していく(特に八雲みたまはリヴィアに取られる前に最優先で回収)

  変装した分体を何人かマギウスに潜り込ませるのもアリね

  時期的にまだ更紗帆奈の事件とかホオヅキ市の事件にも間に合うからそこらへんも回収しつつ

  環いろはが神浜に来たら情報で支援しながら成長させていってマギウスの方も加速させていく

  最終的に神浜にワルプルギスを誘導したら本格介入

  環ういを救出して速攻でエンブリオ・イブを撃破し、キモチの石も全回収からの永久封印

  万全の体制でワルプルギスを迎え撃つ

  …とまあ大ざっぱに言えばこんな感じね」

 

 「うん。まぁ、いいんじゃない?どうせまたどっかでガバって修正する事になるだろうけど」

 

 こめかみを押さえながらため息と共に不安を吐き出す2号

 どう考えてもこんな長期的なチャートが全てうまくいくはずが無い。

 今回だって優木沙々というイレギュラーが出てしまったのだ。

 今後もチャート修正は必要になってくるだろう。

 

 「ま、とりあえずは今日の予定ね。

  マミの前で変に色々隠す必要が減ったんだから、マミと一緒に登校して好感度上げてきて。

  チャート変更に伴って、高感度はあればあるほど良くなったから、荒稼ぎ出来る時に稼いでおいた方が良い……というか現状ソレ以外にやることあんまり無いのよね。

  行きとか帰りとかその後のパトロールでもし魔女結界を見つけたらこの時間軸のマミの実力を把握しておくのと、軽く戦闘指導もよろしく」

 

 「はぁ?んじゃ魔力コンデンサー頂戴よ。丸腰で魔女と戦えって?」

 

 「アレは3号に渡してるから現状無理。

  せめてこっちが第一の魔女倒した後じゃないと量産は不可能だから。

  大丈夫、どうせ魔女なんてマギウスのせいで全然見つからないでしょ。

  それにそこらへんの魔女ならいざとなったら拳で吹き飛ばせばいいし

  たむらに出来て私達に出来ない訳が無いんだから。」

 

 「確かにそうだけど……」

 

 「あぁ、あといつものアレ学校にやっておいてね。

  一通り道具はまとめておいたから。」

 

 「いや、まぁうん……コレはありがたいんだけどさぁ

  この用意周到さをもうちょっと他の事にまわしてくれないかなぁ?」

 

 「いや、たとえ分体でもガバやらかしたキミが言えたことじゃないでしょ」

 

 「正論だけどいつもやらかしてる本体には言われたくないわぁ」

 

 「あ゛ぁ?」

 

 「ん゛?」

 

 その後、売り言葉に買い言葉でまた大乱闘に発展する本体と2号

 止まった時が解除されたのはそれから数時間後の事だった。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 トン トン トン トン

 

 

 包丁の音と味噌汁の匂いで私は目を覚ました。

 頭がガンガンして気持ち悪いが、確か目覚ましを壊して暁美さんと一緒に二度寝したはず……

 ところが、手元のスマホを見てみると対して時間がたっていない。

 せいぜい5分程度眠っていただけのようだ。

 首を傾げながらも正直昨日の疲れが残っていて少しだるい身体を起こしてロフトから降りると

 

 「おはよう、巴さん。和食で作っちゃったけど大丈夫かしら?」

 

 「え、えぇ、大丈夫よ。……おはよう暁美さん」

 

 割烹着に身を包んだ暁美さんがキッチンでザクザクときゅうりを切っていた。

 は?私の友達可愛すぎでは?こんなの男子女子関係なく誰もが嫁に欲しいって思うレベルじゃない

 突然の新衣装供給で多少声が上擦ってしまった。眼福なのだが心臓に悪い。

 

 テーブルの上には既に二人分の朝食の用意が並んでいる。

 お茶碗によそわれたご飯、豆腐や大根などが入っている具沢山の味噌汁、焼き鮭の切り身にほうれん草のおひたし。

 どう考えても私が意識を失っていた5分で作れるような献立では無い。

 なるほど、これが例の時間停止……日常生活でも使うとなると末恐ろしいほどに便利な魔法ね。

 と、ここで一つ疑問が生まれる。見た感じもう朝食は出来上がっているのだが、彼女は一体何をしていたのだろう?

 

 「暁美さん?」

 

 「あぁ、ちょっと待っててね巴さん。コレ冷蔵庫に入れたらご飯にしましょ」

 

 再びキッチンを覗くと暁美さんはジップロックに乱切りにしたきゅうりをいれて塩を揉み込んでいた。

 どうやら浅漬けをつくっていたらしい。

 そういえば最近忙しくって冷蔵庫の中の野菜使えてなかったような……

 冷蔵庫の中を見る限り、他の野菜も漬けられている。どれもすっかり存在を忘れて冷蔵庫の奥底で息を潜めていた野菜達だ。

 悪くなりそうなものを優先的に漬物にしてくれていたそうで。

 とても助かるのだけど、自分の家の冷蔵庫を見られるだけでは無く、整理までしてもらうとなると存外に恥ずかしい。

 

★☆★☆★☆

 

 きゅうりの浅漬けも無事に冷蔵庫の中におさまり、ようやく……いや、寝起きからまだ三分もたっていないが……朝食である。

 不思議な事に、どこからどうみても洋風のガラスのテーブルに並べられた和食達はそこにあるのが当然の如く周りの雰囲気と同調していた。

 いや、違う。和食の方が周りの雰囲気を侵食しているのだ。

 たとえどんなにオシャレな部屋だとしても、この和食が出てくると田舎のおばあちゃんの家のような暖かさが辺りを支配するのだ。

 いや、こういう風に表現するとなんか私の部屋がオシャレだって言ってるみたいに聞こえるけど、そういう意図は全く無い。*5

 

 私の向かい側に暁美さんが座り二人で手を合わせる。

 

 「「いただきます」」

 

 まずは味噌汁を一口。

 具沢山だけれども、あえて汁だけをすする。

 適度な味噌の塩気、出汁と一緒に煮た野菜の旨味、やけどはしないが冷えた朝の身体を温めるには十分な温度、

 思わず「ほふぅ、」と息が出てしまう。

 寝起きは多少なりとも口の中が気持ち悪いがこの一口だけでそんなものは吹き飛んだ。

 昨日の晩ごはんの時点で暁美さんの料理がありえないくらいに美味しいという事は知っていたが、コレは何というか……美味しいだけじゃ無い。

 おそらく日本人が愛してやまない「おふくろの味」というやつだ。

 確かにお母さんが存命の頃作ってくれていた味噌汁とは何もかも違うのだけれども、

 無条件で安心出来るような、それでいて体中に活力がみなぎるような、うまく言葉には言い表せないがそれが「おふくろの味」なのだろう。

 

 焼き色がきれいについた鮭は箸を入れるとキレイに身が割れてくれる。口に運ぶと魚特有の美味しさが口の中を蹂躙する。

 思わずご飯をかき込んでしまう。

 鮭、ご飯、鮭、ご飯、少し大きめに割った鮭をご飯に乗せて一緒に、たまに味噌汁やおひたし

 がっついて食べるなんてマナーとしては悪いが、我慢なんてしていられない。させてくれない。

 普段は食べない鮭の皮ももったいなく感じてしまい食べる。

 パリパリで香ばしく塩が効いている表面と、身についていた部分故にすこしぬるりとした食感の裏面がこれまたご飯にあう。

 そして、このご飯もやわらかすぎず、かたすぎず、ちょうど食べやすい具合に炊き上げられている。

 私が炊いたらこうはいかない。どうしてもべちゃってしてしまうか固すぎて芯が残ってしまうかなのだ。

 2年間一人暮らししている私でもこうなのだ。暁美さんは一体何年の間………いや、やめておこう。

 味噌汁は汁も美味しいのだが、具材ももちろんおいしい。

 豆腐、大根の他にも人参、玉ねぎ、白菜、キャベツが入っており、どれも柔らかく煮込まれていて口の中でほろほろと崩れていく。

 小鉢に入ったほうれん草のおひたしもなめらかな舌触りと共にほうれん草の旨味としょうゆが絡み合って非常においしい。

 思えば普段私が意識してとっている野菜は大抵がサラダなどの生の野菜ばかりで、こう煮込まれた野菜というのはあまり食べていなかった。

 年越しそばもわざわざ作るのも面倒だったからどん兵衛ですませていたし、一人で鍋というのは寂しさが際立ってしまいやっていない。

 この加熱された野菜特有の甘みというのも何時ぶりに味わったのだろうか。

 というか料理だって簡単なモノしか作っていなかった。だって面倒くさいんだもの。

 誰かと一緒にたべるのならともかく、私一人の為に作るとなると途端にやる気がなくなる。

 それに魔法少女と学校を両立させている以上、あまり料理に時間をかけたくなかった。

 こんなにもしっかりと朝ごはんを食べたのは何年ぶりだろうか。

 朝はいつも食パンの上にその日の気分で様々なモノを乗っけて食べるだけで済ます事が殆ど

 寝坊しかけた日なんて朝食を抜かすこともザラにある。

 

 そんな風に自らの生活のだらしなさを考えているといつの間にか完食していた。

 

 「「ごちそうさまでした」」

 

 後片付けする暁美さんを手伝おうとしたが、断られてしまった。

 というかそもそもここは私の家なのだから洗い物とか私がするのが当たり前なのだけども、暁美さんは譲ってくれなかった。

 曰く、「手伝ってくれるのはありがたいけれど、まずは着替えしてきなさい」とのこと。

 もはや完全にお母さんだなぁ…と思いながら制服に腕を通す。

 

 

 

 

 一通り朝の準備が終わっても起きるのが速かった分時間に余裕が出来た。

 

 「そういえば暁美さんは今日どうするの?」

 

 話では見滝原中学への転校は新年度と同時だったハズ。(この場合は転校というよりも編入だろうか?)

 今日は3月11日なので大体一ヶ月程時間がある。

 もちろん編入手続きなど学校側としなくてはいけない事はあるだろうが、わざわざ今すぐに必要な事では無いだろう。

 ところが、暁美さんは何故か見滝原の制服に着替えている。

 

 「基本的には巴さんについて行くわ。学校にはこれから魔法少女になる候補となる生徒もいるから」

 

 おそらく一番最初に私と共に暁美さんを助けたという優しい保健委員の事だろうか。

 暁美さんは私だけじゃなく彼女の事も救いたいと願って魔法少女になったらしいので、気に掛けるのは当然ね。

 今は最初の時間軸とは違って半年前まで戻っているらしいから「魔法少女()()」なんでしょうね

 

 「候補、となるとその子がキュウべぇに会う前に魔法少女について色々レクチャーしておく必要があるわけね。」

 

 2年もこの見滝原で魔法少女をしている以上、それなりに他の魔法少女とも関わってきた。

 その中にはキュウべぇに言われるがままに契約してしまい、覚悟の無いまま魔法少女になって後悔していた人も少なからず居た。

 まだ魔法少女になっていないのならば、できるだけ具体的に魔法少女の実態を教えておかなければならない。

 ただでさえ、今この見滝原からは魔女が少なくなっているのだ。

 魔法少女が増えれば当然グリーフシードの食い扶持も増える。

 見捨てるつもりは無いけれど、戦えないままの魔法少女を養っていく余裕は無い。

 

 「まぁ彼女達の事だから、いくら危険で取り返しのつかない事だって教えても魔法少女になるんでしょうけどね。

  何度も『魔法少女になるな』って言っても聞かなかったもの。

  それに、生半可な願いでは魔法少女になってもいたずらに苦しむだけだし……」

 

 暁美さんの場合、それで彼女達が崩れる様を何回も見てきているのだろう。

 その表情からは悲痛な色が見て取れる。

 願い……私も魔法少女になってから願いを後悔したクチだ。

 キュウべぇによると固有魔法や武器は契約者の資質と願いによって決まるらしい。

 ワルプルギスとの戦いに向けて特訓していく以上、願いの内容にも気を使わなくてはならないのだろう。

 その点、私の願いは「助けて」と単純なモノだったからこそこんなに汎用性が高い物になったのかもしれない。

 ただ、私自身知っている固有魔法や魔法少女の願いがそう多いわけでもない。

 固有魔法の方はそれなりであるとしても、大抵の魔法少女がこの見滝原を縄張りにしようとした襲撃者だったのだ。

 最初から敵意むき出しの魔法少女の願いを知るほど私はコミュニケーションが得意ではないし、そんな事が出来るのならもっと友達も多いハズである。

 まぁ、もう暁美さんがいるから良いのだけれど…

 そう考えると過去を思い出して辛そうにしてる暁美さんを見るのはかなり辛い。

 その痛みを肩代わりする事は出来ないけれど、せめて何か元気づけられれば

 私は自らを鼓舞するように立ち上がる。

 

 「大丈夫よ。暁美さんの話だと、他の時間軸の私も先輩として色々教えていたんだもの。

  暁美さんも加わってくれるんだから、この魔女が少なくなっている今の見滝原でも、きっとなんとかなるわ。」

 

 ・・・ちょっとわざとらしかったかしら。

 

 「……ふふっ。じゃあ、巴センパイのお手並み拝見といった所ね」

 

 暁美さんが笑ってくれた。よかった。

 

 「もうとっくに暁美さんの方が先輩でしょ

  魔法少女としても、人生においても」

 

 言ってから気がついた。この発現かなり失礼では…?

 

 「私の中では巴さんは先輩よ。どれだけ時が経ってもそれは変わらないわ」

 

 内心かなり焦ったし、ひやひやしたけども

 暁美さんが気にしていない様子だからセーフ!

 

 うーん、でも。そっかぁ…私、先輩かぁ。

 駄目だ、ニヤニヤが止まらない。

 顔も熱いから多分真っ赤になってる。

 コレは流石に暁美さんに見せられない。

 

 「ん〜?」

 

 でも暁美さんもニヤニヤしながら私の顔を覗き込んでくる。

 慌てて違う方を向いて逃げる私。追いかけてくる暁美さん。

 その追いかけっこは私がソファに顔から飛び込む事でようやく終わった。

 

 「ところで、そろそろ出発しないとマズイんじゃない?」

 

 暁美さんに言われてソファに(うず)めていた顔を上げて時計を確認すると、校門が閉まるまであと5分といった所だった。

 

 「えぇ!?嘘、いつの間に!?」

 

 さっきまで照れと嬉しさで真っ赤になっていた顔が一気に真っ青になり冷や汗がだらだらと吹き出てくる。

 これだと魔法少女としての全力で走っても到底間に合わない。魔法少女としてやっている以上どうしても夜ふかし気味になってしまう私は遅刻常習犯だ。

 他の部分でカバーはしているが、うっかり授業中に居眠りしてしまう事もあって教師からの心象は良くはないだろう。

 その割には皆気さくに話しかけてくれる先生ばかりだからキツく怒られた事はあまりないけれども、それでも内申点にどう響くかわからない。

 とりあえず学校に遅刻の連絡をしておかないと……

 私がスマホを取り出すと暁美さんが止めた。

 

 「いいえ、その必要は無いわ」

 

 暁美さんが窓を開く。

 暁美さんの髪がバサァと風で翻り、朝日の逆行も合わさって非常にカッコいい。

 そうだ。暁美さんの魔法は時間停止だった。遅刻を回避する為に使うなんて()()()()な使い方だけれど、この際なんでも良い。

 すると暁美さんは突然私を抱えて背中へとおぶらせた。アレ?時間停止は身体の一部分でも触れていればいいんじゃ・・・

 

 「しっかり掴まってなさいよ」

 

 それだけ呟くと暁美さんは時間を止めずに出発した。

 ―――窓の外へと

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 

 

「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛っ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛」

 

 死ぬ!魔法少女でも流石にこの速度は死んじゃう!!

 周りの景色が線にしか見えないのだけど!?こんな速さ新幹線ぐらいでしか体験した事ないわよ!?

 気を抜くと風圧で振り落とされてしまうのでさっきから暁美さんとは完全に密着状態だ。しかもおんぶだから胸を押し付けてる事になる。

 だが、そんな甘酸っぱいドキドキなんてこの超速度の前には塵に等しい。恐怖のドキドキで完全に上書きされる。

 吊り橋効果とは危機を共にすることで恐怖のドキドキを相手への恋心だと誤認してしまう現象の事だが、コレは完全にその逆。

 暁美さんへのキモチも全て恐怖へと変換されてしまう。

 あまりの恐怖に恥も外聞も投げ捨てて、変身しリボンをおんぶ紐のようにして暁美さんと私を括り付けている。

 それでも気を抜くと風圧で引き剥がされそうになるのだ。

 しばらくビルの上を飛んでいた私達だが、ついに暁美さんが地面に着地する。

 

 「どうやら間に合ったようね」

 

 ズザザザザと地面に摩擦熱で赤い跡を残して着地した先は校門と昇降口の間だった。

 私と同じで遅刻ギリギリの男子生徒達が走っているのが見える。

 が、ソレ以上に私は地獄のジェットコースターで満身創痍だった。

 未だにぐわんぐわんまわっている頭で周りを認識していると、とある事に気がつく。

 

 「あ…暁美さん?私、魔法少女衣装のままなんだけれど……」

 

 しかも暁美さんにリボンのおんぶ紐でガッチリ固定されている状態で、だ。

 そんな格好の私達が突然降ってきたのだ。騒然とするに違いないし、今後の学校生活に支障をきたすだろう。

 一瞬の内に脳内を駆け巡る最悪の未来

 いや、でも命があるなら最悪ではないが……それでも魔法少女としてではなく年頃の女の子としての生活はジ・エンドだ。

 

 「大丈夫よ。よく見なさい」

 

 私を降ろしながら(気づいた時点でリボンは解除している)暁美さんが言うので恐る恐る周りを見渡してみる。

 昇降口へと向かう生徒はたくさんいるにも関わらず、こちらを注視しているような生徒は誰一人いない。

 あんなに大きな音をたてて着地したというのに、全く気にも止められていない。

 何が起こっているのかわからず困惑していると、暁美さんがイタズラが成功したような顔でポケットからスマホほどの大きさの機械を取り出した。

 

 「コレは光学ステルス迷彩魔術結界って言ってね。

  まぁ、わかりやすく言えばキュウべぇみたいに魔法少女以外には見えなくなるものよ。

  私だけじゃなくて近くにいる指定した相手にも効果が及ぶから巴さんの魔法少女姿は誰にも見られてないし、ついでにビルの上を跳んで移動してたのも誰にも見られていない。

  そして、コレの効果範囲にいる間は何をしても見えない人達からは怪しまれない機能もついている。見えないだけじゃなくて()()()()()()()()()()()()()ってことよ」

 

 「……トンデモ技術すぎてまるで訳がわからないわね。

  むしろ固有魔法って言われた方がまだ納得できるのだけれども」

 

 「残念ながら、純粋な技術で作られた誰でも使える装置よ」

 

 動力も単三電池二本だしね。と呟く暁美さん。

 あまりの規格外さに舌を巻くどころか呆然とする。

 そんなものがあったら魔女を一方的にタコ殴りにする事が出来る。

 一般に流したら決して解決できない完全犯罪が成立してしまうだろうし、もし軍事転用なんてされた日には世界地図の書き換えなんてしょっちゅう起こるだろう。

 数年前に比べると急速に発展したと言われ、もはや近未来都市と言われている日本でもコレは余裕でオーバーテクノロジーだ。

 【悲報】たった一人の友達の技術が進みすぎている件について

 

 「さ、早く席に座らないと朝礼始まるわよ」

 

 なんでもないかのようにスタスタと歩いていってしまう暁美さん。

 色々聞きたいけれども、遅刻カウントは取られたくないので教室へと急いだ。

 

★☆★☆★☆


 

 

 

 

 「あれ?あの子……」

 

 お昼休み、私はいつもの屋上でさやかちゃんと仁美ちゃんと一緒にお弁当を食べていた時だった。

 向かい側の屋上でお弁当を食べている腰まで届く黒髪がキレイな少女が妙に気になってしまった。

 

 「うん?あの金髪ドリルの人?」

 

 隣のさやかちゃんが聞いてくる。

 向かい側は二年生の校舎だ。だからおそらくあの黄色い人は先輩なのだろう。

 一ヶ月後には私たちが通う校舎。だから、なんとなく見てしまったのかもしれない。

 

 「ううん、その隣の黒髪の人」

 

 「黒髪……?あそこには金髪の先輩しかいませんよ?」

 

 「え!?」

 

 慌ててもう一度見ると、確かにそこには黒髪の少女の姿は無く、金髪の先輩が虚空に向かって喋りながらお弁当を食べているだけ

 

 「なんだ〜?まどかは幽霊が見える霊能力者だったのか〜?」

 

 さやかちゃんが「あくりょーたいさーん」とか言いながらくすぐってくる。

 ちょ、ちょっとやめてよう!

 私達の話題もまた他愛のないモノに戻り、さやかちゃんのせいで私の頭の中からもあの黒髪の少女の事はすっかり消えてしまった。

 


 

☆★☆★☆★

 

 

 さて、世の中には中学でも給食の学校も中にはあるみたいだが、残念ながら見滝原中学はお弁当である。

 学食も無ければ購買も無い。忘れたらお昼は抜きなのである。

 正直言って、このお弁当というシステム、クッソ面倒くさい。

 つい言葉が汚くなってしまうほど面倒くさい。

 何が一番面倒くさいって適当なコンビニの菓子パンを食べていると周囲から浮いてしまう事だ。

 たしかに教室ではなく屋上や中庭等で食べることも出来るが、それだって誰かしらの目はある。

 ボッチという人種は2つあって、ボッチである事を全く気にせず我が道を行くタイプと、コミュニケーション能力不足で孤立してはいるものの目立ちたくない陰キャタイプ

 私は後者だ。というか、いじめられない為にはある程度周りに合わせないといけないのだ。

 女子の世界は同調と共感の世界。それが出来ない物は爪弾きにされていく。

 だからこそ、皆大して興味のない流行りの曲やファッションなんかを必死になって勉強して周りの話についていこうとする。

 それでも現代は様々な種類の趣味が発展したおかげでまだマシならしい。

 これはまだお母さんが生きていた頃に聞いた話なのだが、

 テレビぐらいしか娯楽が無かった一昔前なんて人気のテレビ番組を見ていないとまともに話しすらしてもらえず、何か用事がある日はビデオテープに録画して後で見なくてはならなかったとか。

 その時代の魔法少女は大変だっただろう。パトロール後に録画を見て、宿題をして、そして勉強も待っているのだ。

 まともな睡眠時間を取れていた子はどれだけいるのだろうか?

 

 話がそれた

 

 ともかくこのお弁当というシステム、私は嫌いだった。

 だがしかし、暁美さんと友達になった今は違う。

 いや、正直悪いとは思っているのだが暁美さんが「一人分作るよりも二人分作る方が楽だから」と、私の分のお弁当まで作ってくれていたのだ。

 本当に暁美さんには感謝しかない。というかこちらが色々してもらってばかりで恩を返せている気がしない。

 いつか何かしら本格的にお礼をしなくては。

 ちなみにお弁当のメインは豚の生姜焼きである。 

 

 

 「は?一瞬とはいえこの距離で結界が突破された!?」

 

 

 そんな暁美さんのお弁当に舌鼓を打っていると、目の前で暁美さんが唐突にそんな事を喋りだした。

 暁美さんはお弁当を食べる手を止めて向こう側……一年生校舎の屋上を見ている。

 片方の手は箸を持っているのだが、もう片方の手は空間投影型ノートパソコンのキーボードに物凄い速さで何かを打ち込んでいる。

 ディスプレイにはよくわからない文字列のようなものが書き込まれている。プログラム言語というヤツだろうか。中学生でもその手のモノに詳しい人はいるが、あいにく私には管轄外だ。

 が、よく見てみたら文字列の中にはアルファベットでは無い何かが混じっている。魔女結界の中でよく見かける…というよりもソレ以外では見たことのない文字だ。

 となると、魔法関連のプログラムなのだろうか

 この時点でコレを理解出来るのは暁美さんだけだと言うことがわかった。

 私は空間に投影されているディスプレイの事は考えるのを止めて、さっきの呟きに対して質問する。

 

 「結界って、その見えなくなるヤツよね?ということは例の魔法少女候補?」

 

 「えぇ、指輪が確認出来ないからまだ契約前のハズなのだけれど……流石は因果律オバケ。やることなすことスケールが大きい」

 

 因果律…?確かキュウべぇが昔言っていたような…言ってなかったような……?よくわからない。

 

 「ふぅ〜ん?つまり、あの屋上にいる子が後の私の後輩なわけね」

 

 数十メートル離れてはいるが、ピンク色の髪の子と、青色の髪、そして緑色の髪の子が見えた。

 

 「ピンクの髪が『鹿目まどか』

  青の髪が『美樹さやか』

  緑の髪が『志筑仁美』

  魔法少女になるのはまどかとさやかよ。」

 

 「ほーん……そう。

  で?会いに行かないのかしら?」

 

 しかし、ここで暁美さんは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

 「それが、まぁ……

  いきなり見知らぬ人に声をかけられて魔法少女云々話されたら巴さんだったらどうする?」

 

 「まぁ……全力で逃げるわね。そんな不審者に話しかけられたら」

 

 確かに想像してみると明らかにマズイ情景が浮かんでくる。

 実際に魔法を見せる前に逃げ出されるだろうし、そもそも魔法少女というモノに対して悪いイメージを持ちかねない。

 いや、実際に魔法少女なんて良いモノでも何でも無いけれども、

 何もしなくても契約してしまうのなら、出来るだけ魔法少女として強くなってもらった方が良い。

 そのためには魔法少女に対しての先入観は出来るだけなくしたいし、仲良くしたい。

 

 「まだ私はこの学校に入学したわけじゃないから今接触するわけにはいかないし、

  編入するのは一ヶ月後だし、

  町中で偶然を装って知り合って……というのは仲良くなるのに時間がかかるし、

  結局魔女、もしくは使い魔に襲われている所を助けるのが一番手っ取り早いのよね

  キュウべぇは今ここにいないし」

 

 考えてみると、今の状況でその鹿目まどかと美樹さやかという子に魔法少女の事を説明するのは至難の技だ。

 キュウべぇは契約を急ぎすぎるきらいがある。できるだけキュウべぇに会うより先に出会いたい。

 だが、以前の見滝原ならいざ知らず、最近の見滝原には魔女が少ない。

 そう簡単に魔女に襲われてくれるなんて楽観的に考える事は出来ないだろう。

 そもそも私はボッチだからコミュニケーションは得意では無い。

 

 「やっぱりパトロールしてきて手頃な使い魔なりなんなりを捕まえるしかないのかしら……」

 

 「それしか無いのよね……」

 

 暁美さんと一緒に頭を抱え込む。生姜焼きは美味しいのだが、問題の方は現状解決できそうも無かった。

 

 

 

 弁当を食べ終えると暁美さんは投影型ノートパソコンを消して立ち上がる。

 

 「まぁ、今すぐに取れる手段無い以上どうしようもないわ。

  一旦まどか達の事は置いておいて先に最後の魔法少女候補……百江なぎさの方を片付けましょうか」

 

 そう言うと暁美さんは階段の方へと歩いていく。

 百江なぎさ……暁美さんの話だと見滝原中学の生徒ではなく、小学5年生だという。

 彼女の場合はそのまま放って置くと大変な事になるらしい。

 何がどう大変なのかははぐらかされてしまったが、暁美さんが焦るほどなのだ。

 途轍もなく厄介なのだろう。

 

 「でも、その百江さんって子は小学生なのでしょう?どうやって接触するつもり?

  それこそ鹿目さんや美樹さんよりもよっぽど接触しづらいと思うのだけれど……」

 

 私の疑問に、暁美さんは立ち止まると身体の向きを変えず、器用に頭だけを後ろに倒してこちらを振り返る*6

 

 「えぇ、だから早乙女先生に会いに行くわよ。」

 

 「………え、なんでそこでウチの担任が?」

 

 暁美さんは「まぁ来ればわかるわ」と言い、階段を降りていってしまう。

 首を傾げながらも私は暁美さんについていった。

 まぁ暁美さんがついてこいって言ってるのだからついていく以外無いのだけれども

 

 

*1
裏切りの事では無い。眠っている最中に身体を動かすこと

*2
まだ3月だが布団は三枚重ね。下から順に肌触りの良いタオルケット、中ぐらいの厚さの夏用の布団、そして冬用の分厚い掛け布団である。見滝原は群馬県らしいので標高が高い分気温も低いと思われるため

*3
中二病以外は

*4
魔女化の事

*5
いや、マミさんの家は十分にオシャレな部屋だと思うけど…

*6
シャフ度






 暁美ほむら(本体)
・この裏で織莉子達と一緒にスマブラとかしたり、調整とかしてる。
・明日、VS第一の魔女戦で南極に飛ぶ


 暁美ほむら2号(仮)
・今回もかなりキャラがブレブレになってしまった。
・RTA風地の文だった部分は実は脳内の記録ログだった事が判明
 斜めにしてみたけど見づらかったらまたRTA風方式にします。
・マミさんの胃袋をガッチリ掴んだ嫁適正120%の分体
 (なお、本体も料理出来る)
・ステルス迷彩手に入ったので思考がかなり脳筋に偏ってしまった。
 MGSでもそうじゃない?
 ステルス迷彩使ってるとプレイが雑になる。
・まどかとさやかとのFirst Impression(ふぁーすといんぷれっしょん)は自ら用意した使い魔に襲わせて助けるというマッチポンプ方式でいくらしい。


 巴マミ
・2号にすっかりベッタベタのベテラン魔法少女()
 口先八丁に騙され、自分を助ける為にほむらが魔法少女になったと思い込んだまま。
・2号…及び他の暁美ほむらがちょっと変な行動していても『何か事情があるんだろう』と勝手に納得して深く追求しないタイプの人
・Twitterランドをかなり満喫していた模様
 え?コレでこの前あんなにSUN値削れてたんですか?嘘でしょ?
 本人は画面越しの関係では満足出来なかった模様
・ほむらが来てからまどか程では無いにしろ因果律が流れ込んでいるので
 たとえシャルロッテが相手でも初手のティロ・フィナーレで化けの皮を貫通して中の本体にまでダメージ通して一撃で倒す。
 マミったなんて言わせない。
 百江なぎさも魔女になんてさせない。
・でも、魔女化の事は知らない。
 うまく2号にごまかされている


 鹿目まどか
・魔法少女でも無いのに一瞬とは言え、暁美印の一般人用ステルス迷彩を見破ったヤベー奴
・流石は因果律オバケ
・昨日ほむらがこの世界にきてからトンデモナイ量の因果律が流れ込んだせいで不思議なモノが見えるようになった。
・一般人の状態でもごく普通の魔女ぐらいなら素手でも拳に因果律が集まって勝手に超強化されるので一撃で粉砕する。
 エヴァシリーズの魔女だと……どうだろ
 マトリエルぐらいならなんとかなる説


 美樹さやか
・まどか程では無いにしろそれなりの因果律が流れ込んできたおかげで一般的なベテランレベルの強さの魔法少女を大きく上回る程の素質を持った。
・もし原作のバット装備したら魔法で強化されていない状態でも使い魔は殴り倒せるし、マミさんの強化が入ったバッドなら魔女も嬲り殺せる。
 なんだこの一般人


 志筑仁美
・原作では魔法少女になる程因果律を持っていなかったが、鹿目まどかの友人として数々の時間軸でほむらと関わったせいで多少の因果律が流れ込んでしまい
 魔法少女になれるレベルになってしまった。
 魔法少女になるかどうかは本人とインキュベーター次第
 まぁ、たとえなったとしても因果律は黒羽根とどっこいどっこいなので大勢に影響するような事は無い。


簡易的(ガバガバ)保有因果律の表
原作保有因果量アリナレコード保有因果量
一般魔法少女(黒羽根レベルの平均)100100(変化なし)
鹿目まどか250→10000計測不可
美樹さやか250580
巴マミ350670
佐倉杏子300630
暁美ほむら80(一周目)計測不可
百江なぎさ400650
志筑仁美3595
美国織莉子400630
呉キリカ360610
千歳ゆま400650
優木沙々100210
環いろは150→370600→???
七海やちよ350600
アリナ・グレイ370???


 なお、この表はあくまでもイメージであって明確な戦闘力というわけではありません。
 というか、何故かほぼ関わっていないはずの神浜組も見滝原組と同じぐらい上がっていたりとツッコミどころありすぎて笑っちゃうんですよね
 ゆまなぎの二人がやけに原作の方で因果律が高いのは、
・二人共似たような環境で
・かつ、ゆまの方は織莉子がまどかの代わりにインキュベーターに教える程の因果律を持っている事が判明している部分から、まぁコレぐらいは必要だろうと推測して設定しました。
 マミさん以上の因果律って無理があるんじゃ?と思われるかもしれませんが、
 そもそも魔法少女の強さは因果律だけじゃなく、戦いの技術や判断能力なども関係してくるので、まだ幼いゆまなぎが魔法少女としてアレぐらいで戦う為には因果律のゴリ押しが必要と考えました。
 それに無印おりマギのゆまちゃは完全に勇者だったからね
 あれが出来て因果律少ないとかありえないでしょう。



 味噌汁の描写で「味噌の」って打った時、変換で「御園」が一発で出てきて、アリナ編が進まない現状に痺れを切らしたかりんちゃから催促が来たみたいになりました。
 反省してます。

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