(旧)アリナレコード〜光と闇の小夜曲〜   作:選ばれざるオタクⅡ

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うーん
実はかなり濃厚なほむマミが5000文字程あったんだけれど、展開の都合上泣く泣くカットしました……
仕方ないね。脱線しちゃうもんね。

あ、ちなみに最近お絵描きしていて投稿遅れました。
こちら、一応成果の一部になります。

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他にも色々描いたけど、まだ小説に出てないキャラはコッチには出さないと思います。
気になる人は作者Twitterまで
https://mobile.twitter.com/jyougamessatu


ほむら編その12 『分体達と因果の渦』

3月11日(金)〜12:50〜

 コンコン

 ガラッ

 

 「失礼します。早乙女先生はいらっしゃいますでしょうか?」

 

 昼休み

 それは学生たちが思いっきり羽根を伸ばす天国のような時間

 ………なのだが、私達教員にとっては残念ながら勤務時間の真っ只中

 授業の用意や次の行事の為の準備、保護者へと配るプリントの作成に宿題の丸付け、その他諸々、etc.……

 膨大な量のやるべきことが積み重なっている以上、のんびりお昼を食べている余裕どころか、休憩する時間なんて毛ほども無いのが現状……

 学期末であることも重なって、私『早乙女(さおとめ)和子(かずこ)』は喧嘩別れしたかつての男の事なんて考える暇も無くなるほどに忙しかったのだ。

 さて、そんな修羅場に身を置いている私に、珍しく来客が来た。

 職員室の入り口を見ると、制服に身を包んだ黒髪の美少女が一人、コチラに向かって歩いてきているのが見える。

 のだが、その顔に()()()()()()()()

 これは由々しき事態である。

 新入生が入って間もない4〜5月ならばまぁ、わからんでもない。

 だがしかし、今は3月。

 平成21年度ももうすぐ終わろうとしているこの時期、たとえ自らが担当している学年以外の生徒だったとしても見覚えはある。

 この学校に通っている生徒かどうかぐらいはわかるハズなのだ。

 だが、この少女はまったくもって見覚えが無い。

 

 「お久しぶりです。……私の事、覚えていますか?」

 

 目の前まで来た少女は一礼と共に胸に片手を当て、首を少し傾けて問いかけてくる。

 その一連の動作はまるで映画かなにかの1場面かのように洗練されており、女である私でも少しドキリとしてしまう。

 それと同時に全く答えがわからないので内心は冷や汗ダラッダラであり心臓バックバクだ。

 彼女の第一印象は『2つの意味で心臓に悪い少女』で固定された。

 と、そんな事はどうでもいいわね。

 この場面でなんにも答えられなかったら流石に気まずい……なんとかしなくては

 しかし、必死に脳内検索を試みるも該当する記憶は無し。

 

 「あ、そういえばこの姿では会ってませんでしたね」

 

 正直「お手上げ〜」といって両手をバンザイしたい気分になってきた所で、目の前の美少女は慌てて懐から赤いメガネを取り出す。

 「うっかりしてました…」と言いながらメガネをかけると、文学少女へと姿を変えた。

 (メガネ一つでここまで雰囲気が変わるモノなの……?)

 と、少し驚きながらも出されたヒントに従って再度脳内検索を試みた所……

 たった一件。既に殆ど記憶の底に投げ捨てられており鮮明な所は何一つ無くなっているような、憶えているとすら言えないようなぼんやりとした記憶だが、

 たしかに一件。この眼の前の少女と似たような雰囲気の人物に会った記憶が発見された。

 本当にこの子なのかどうか確証は無いけれど……コレ以外に手が無い以上、賭けるしかない。

 

 「え〜っと……もしかして、数年前、病院で会っていたかしら?」

 

 私がいつも参加しているチャリティイベントで訪れた病院

 その談話スペースの窓際の席に一人で座って夕日に照らされながら本を読んでいた子。

 見た所一人ぼっちだったからと、声をかけたような……

 その時の子はもっと根暗な子といったイメージで、今の目の前にいる彼女のような超然とした雰囲気は無かった筈だけれども…

 確かに同じ赤いメガネをしていたような気がするような…しないような……

 

 「えぇ、そうです。……覚えてて、くれたんですね。」

 

 少女がメガネの奥で瞳を僅かに揺れ動かす。

 どうやら、賭けには勝ったようね。

 でも、その反応……まるで「憶えている事に驚いた」って感じね……

 コレ、素直に忘れましたって言っても良かったのかしら?

 ま、まぁ。憶えてた方が高感度高いだろうし合ってたみたいだからヨシ!!

 

 その後、彼女は数分程度話をして帰っていった。

 曰く、彼女は「暁美ほむら」といい、去年のハロウィンのイベントで私と話していたらしい。

 その時期はちょうど前の彼氏と付き合い始めた頃だ……

 どうりで記憶が曖昧なワケね。その頃の思い出は親友の詢子と一緒にお酒の力で一括削除しちゃったんだもの。

 暁美さんは心臓の病気で入院していたが、最近ようやく退院出来たらしく

 来年度からこの見滝原中学に編入してくるらしい。

 暁美さんによると、当時の私はポロッと名前と見滝原中学で教師をやっている事を漏らしていたらしく、挨拶に来たんだとか……

 誰とも知らない、たった一回会っただけの私の顔を覚えてるなんて……今どき珍しい律儀な子ね。

 きっと暁美さんみたいな子は将来、礼儀正しい大人になって、速攻でいい人を見つけて、結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を築くんだろうなぁ……

 っと、いけないいけない。うっかり心の闇が吹き出てたわ。

 

 そういえば、学校の方が忙しくて私は参加出来ないのだけれども、ホワイトデーにも同じようなイベントがあるのよね……

 暁美さん、あの様子だとイベントの方にもかなり興味あるみたいだったし、来年度の編入までは暇らしいから誘ってみようかしら?

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 「コレで百江なぎさと接触出来るようになったわ。」

 

 職員室から帰ってきた暁美さんが例のステルス結界を貼りながら何でも無いように言う。

 けれども、聞き耳を立てていた私からすれば訳がわからない。ので、

 

 「ごめんなさい。順序立てて説明してもらえるかしら?」

 

 わからない事はハッキリ「わからない」という。

 暁美さんはしょっちゅう説明無しに突拍子も無い事をやるけれど、聞かれたら必ず答える。

 それも細かい魔術式等、私が全く理解出来ない部分はある程度省略してわかりやすく説明してくれる。

 今朝からずっと暁美さんの規格外すぎる行動に振り回されてきて気づいた、暁美さんと仲良く過ごすコツだ。

 

 「早乙女先生はボランティアで主に孤児院や病院等で子供達に向けたイベントを開催する団体に所属してるの。

  この世界の私も入院している時期に先生に会っていたらしいから、ありがたく利用させてもらったわ。

  で、その団体と接触する理由なのだけれども。

  明々後日の3/14……つまりホワイトデーに百江なぎさの母親が入院している病院でイベントを開かれる。

  このタイミングで早乙女先生と接触していれば、そのイベントに先生の代理として出席する事が出来るわ。

  つまり、病院に母親のお見舞いに来た百江なぎさに接触する正当な理由が出来る……という事よ。

  そこからは、何回も会いに行って信頼度を稼いで、単なる『年上の友達』という言葉では説明出来ない間柄になれば……

  キュウべぇに勧誘される前に魔法少女の事を知れるようになるわ。そうすれば……うん。

  多分。きっと。おそらく。」

 

 ほらね?聞けばちゃんと答えてくれるのよ。

 それにしても、まさかウチの担任と既に知り合いだったとは……いや、向こうは憶えてなかったみたいだけれども

 多分、いつもので一緒に忘れちゃったのね。

 

 「……でも、それって結局運任せじゃないかしら?

  そのなぎさちゃんがお見舞いに来てくれないと会えないじゃない。」

 

 「だから、何日も病院に張り込むのよ。

  下見に来たとかなんとか言えば、一応正当な理由になるわ。

  一般人の目はコレで誤魔化せばいいしね。」

 

 そういって暁美さんは手元の機械…光学ステルス迷彩魔術結界の発生装置を真上に放り投げてクルクルと回してはキャッチを繰り返している。

 それだけなのだが、何故か一つしかないハズの装置が何個もあるように見える。残像が出来るようなスピードでは無いのに。

 暁美さんのわけのわからない技術は置いておいて、実はまだ納得できない部分がある。

 

 「そもそも、なんで病院で彼女に会う必要があるのかしら?

  やってる事は道端で理由をこじつけて話しかけるのとそう変わらないわよね。

  ……つまり、病院じゃないといけない理由がある

  そういう事、なのかしら?」

 

 こんな回りくどい事をしなくとも、暁美さんの時間停止を使えば『学校帰りのなぎさちゃんのカバンから何かを抜き取って、落とし物として渡す』程度のこじつけは出来るのだ。

 少なくとも、今まで暁美さんに説明された情報だけでは、コレを使わない理由が無い。

 つまり、まだ暁美さんが私に話していない事があるわけで……

 それはおそらく私が知ったらショックを受けるような、辛い事なのだろう。

 だって、暁美さんが隠す理由なんて、それぐらいしか思いつかない。

 まだ出会って2日しか経っていないけれども、暁美さんはそういう人だと断言出来る。

 ほら、その証拠に暁美さんの表情が僅かに陰っている。

 

 気がついたら教室の前まで来ていた。入り口で立ち止まっていても邪魔なだけなので入って自分の席*1に座る。

 暁美さんも私の隣の空いている窓枠に腰を掛けた。*2

 よく観察してみると、少し唇を噛み締めているのがわかる。私の為にここまで悩んでくれているなんて……

 窓から入ってくるそよ風で髪がなびくのも合わせて非情に絵になる。なんなんだこの人は…

 と、まぁそういうのは置いといて。

 どうやら暁美さんはしらばっくれるつもりだ。その態度から、相当に重い話なのだろうと予想出来る。

 

 「暁美さん。確かにアナタは優しい。

  多分何も言わないのは私の事を考えての判断なのよね?」

 

 暁美さんが外に向けていた視線をこちらに移す。

 それは雲ひとつ無い青空を背負った事によって逆光も合わさりより鋭く感じられる。

 

 「私を気遣ってくれるのはすごく嬉しい。

  ……でも、それって不公平じゃないかしら?

  アナタの過去を一緒に背負うって、昨日約束したじゃない。

  一緒にワルプルギスを討伐するって約束したじゃない。

  今の私は、どんな真実でも、受け止める覚悟は出来ているわ。」

 

 ココロをぶちまける。

 思った事。考えた事。感じたこと。決めたこと。

 それら全てを覚悟という器に入れて暁美さんにぶつける。

 教室の中だけれども、関係無い。

 不自然になる動作は全部結界が隠蔽してくれているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 「………百江なぎさ。彼女は、母親から虐待を受けている。」

 

 

 

 数秒か、はたまた数分か。

 長い沈黙の後に暁美さんは口を開いた。

 

★☆★☆★☆

 

 曰く、彼女の母親は元アイドルでテレビにも出るほどの人気だった。

 そして、とある浜辺で彼女の父親となる人物と出会い、愛を育んだ上結婚する。

 その結果、百江なぎさが生まれた。

 『なぎさ』という名前は出会いの場所である波打ち際から命名。

 

 しかし、なぎさを産んだ後に彼女の母親は病気になり芸能界を引退。

 次第に彼女の父親は母親を相手にしなくなり、離婚はしていないが一切会うことは無くなってしまった。

 さらに、母親はネットにてアンチに苦しまされる。

 現役の頃は膨大な数のファンによってなんとか気にしないでいて済んでいたが、引退により彼女にファンの声が届く事は無く……

 やがて周りの全てが敵に見えるほど精神の擦り減った母親は、全ての原因はなぎさが生まれてきたせいだとし、なぎさに当たり散らすようになる。

 だが、なぎさは自分を責めた。

 

 

 「なぎさが悪いのです。」

 「お母さんは何も悪くないのです。」

 

 

 父親はいつまでも帰ってこない。

 母親が大好きなチーズを買っていっても、元の関係に戻るハズも無く、

 悪循環を繰り返して……

 

 そこに現れたのがキュウべぇ

 なぎさに契約を迫るものの、なぎさは悩み…

 母親の病気を治す願いをすれば母親は元に戻り、自分を愛してくれると考えて決断する。

 しかし、その事を母親に相談したら……

 

・・・

 「なぎさはお母さんの子供で、本当に良かったのです…」

 

 「…やめてよ!そんなこと言わないでよ!」

 「あたし、あなたを産んでよかったって言わなきゃいけないの?」

 「よかったフリをしなきゃいけないの?」

 「あなたまで私を責めるの?」

 

 「なぎさは…ただ…ただ……」

・・・

 

 「あなた、なんでもできるの?

  なんだってしてくれるの?」

 

 「それなら、私の代わりにみんな殺して

  みんなみんな殺してよ」

 

 「わたしのこと笑った奴も

  わたしのこと知らない奴も」

 

 「みんな殺して!!」

 

 「病気なんてどうだっていい!」

 

 「もうどうだっていい!」

 

 「そんなことより

  あいつも!あいつも!!」

 

 「あいつらも一緒に殺してよ!!」

 

 「治ったってかわりゃしない!!」

 

 「あなたが産まれたから!

  あなたが産まれちゃったから!!」

 

 「もうとっくに手遅れなの!!」

 

 「だからこれ以上

  私を責めないでよ!!!」

 

 

・・・・・・

 

 なぎさは、最終的に母親に後悔させる為、なぎさを愛さなかった事を後悔させる為に

 『お母さんにとってこの世で一番おいしいチーズケーキ』

 をキュウべぇに願う。

 そのチーズケーキを手に病室に駆け込んだ所……

 

 『夢遊の亡霊』と呼ばれる世の中の悪人を殺して廻っている魔法少女に『娘を虐待している悪人』と判断され、殺害されていた。

 

★☆★☆★☆

 

 「これが百江なぎさが本来辿る歴史……『百江なぎさは願いを叶えた』

  つまり、私達はなぎさに事前に魔法少女の事を教えるわけでは無く、この問題を解決しないといけないの。」

 

 「……え、えぇ。うん。なる…ほど……?大体わかったわ。……うん。

  覚悟していたんだもの。大丈夫。

  ………でもね」

 

 

 「抜き打ちテストの最中に説明される覚悟はしてなかったわ…」

 

 真っ白な答案用紙に涙のシミが広がっていく。

 果たしてコレはなぎさの運命の悲惨さに対しての涙なのか

 それとも、全く埋めることの出来なかったテストの結果に対しての涙なのか…

 

 だが、まだ試験の時間は残っている。

 せめて最初の問題ぐらいは……

キーンコーンカーンコーン 「はい、試験やめ!後ろの席の人回収してきて〜」

 

 隣の席の人達が一斉に席を立つ中、私の耳には持っていたシャーペン手から転がっていく音しか聞こえなかった。

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 「…すみませんでした」

 

 六時間目、英語

 つまり担任の早乙女先生の担当授業だ。

 そして、私の目の前には日本の伝統芸能土下座(DO☆GE☆ZA)を炸裂させている暁美さんがいる。

 その姿は土下座時の勢い故に土下座の範疇を超え、見事な三点倒立になっている。

 手のひらと額を地面に擦りつけた状態のまま身体はピシッと天高くそびえ立っているのだ。

 首の骨とか、どうなっているんだろう?明らかに魔法少女の肉体強化を無駄に使っている。

 無駄のない洗練された無駄な肉体強化……

 スカートが大変な事になっているが、相変わらずステルス結界で周囲の人には見えていないのでセーフ。

 眼福です。ありがとうございました。

 これだけでもご飯3杯はいけそうなのに、普通に暁美さんの料理が美味しいのは反則だと思います。

 ……実のところ、本当は暁美さんが苦しんでいる姿は見たくないのだけれども、

 「私にも非があったから」って言っても、どうしてもって暁美さんが譲らないから……仕方なくやってもらっているのだ。

 土下座三点倒立

 早乙女先生は、昼休みに真面目な話をしていた暁美さんが教室内で土下座三点倒立をやっているなんて知ったらどんな表情をするのだろう?

 私でさえ先生が入ってきた時、状況のシュールさに少し笑ってしまったのだ。先生の腹筋が耐えきれるか心配になる。

 さて、私は暁美さんのパンツを思う存分堪能させて貰っているわけだが、実は授業の方も疎かになってはいない。

 しっかりと、左目で暁美さんを見ながら右目で黒板を見てノートに書き写している。

 先生の自らの失恋談を交えた授業トークも、的確に必要な部分のみを取捨選択してノートにメモしていく。

 長年、妄想しながら授業を受けてきた事による授業ノートの半自動化があるからこそ出来る芸当だ。

 やろうとすれば、うつらうつらと眠りながら授業ノートをとる事だって可能だろう。

 

 まぁ、そんなこんなで真面目に授業を受けず煩悩の真っ只中に居た私は、

 情けない事に校庭で巻き起こっている()()()()()()()()に対して、なにも察知する事が出来なかった。

 

★☆★☆★☆

 

 「パス!!」

 「まどかちゃん!」

 「おっとと……うん!わかった!」

 

 六時間目、私達一年生は今年度で最後の体育、最後のサッカーを楽しんでいる。

 正直、最近まで私は運動は得意では無かったのだけれど……

 

 実は私の身体、昨日からナニカがおかしい。

 どれだけ走っても疲れないし、夜ふかししちゃったのにいつもの時間には何事もなく起きれたし

 身体のどこにも不調はない。

 そして何より、自分の中にもう一人、()()()がいるような…いないような…そんな感じがする。

 でも、コレは()()じゃない。………と思う。人ではない()()()

 

 だから、ちょうどコートの半分の位置でボールを受け取った時、

 よくわかんないけれど、なんかイケる気がしてしまったのでした。

 

 「えいッ!!」

 

 ボールを上空に蹴り上げる。

 ちょっと前まではこんな芸当、出来るはずも無かった。

 どうやら昨日から体力だけではなく、何故か技術も進化している。

 

 そして、私は()()()

 

 思いっきり、足に力を込めて、天高く舞い上がったボールを見て、『あそこまで飛ぶぞ!』と心の中で思って、ジャンプする。

 通常、普通の人間が跳び上がれる高さは、良くて数十センチ、鍛えていても5メートル以上は飛べないだろう。

 けれど、私の身体は上空にまで打ち上げられたボールのすぐそばまで飛び上がっていた。

 ちょうど、3階の教室の窓が隣に見える。

 あとから考えてみれば大体10メートルぐらい飛んでいた事になる。

 

 そして、蹴り上げたボールに追いつくとどこからか薄ピンク色の羽根が身体から舞い上がる。

 よくわからないけど、ココロの奥から湧き上がる衝動に突き動かされるままに動く。

 空中だが、右足は地面に立つ時のようにまっすぐに、右足の延長線上になるように、ピンと左腕を伸ばす。

 右腕はまっすぐとゴールの方を指差して標準を定め、左足は思いっきり後ろに()()()()

 普通なら空中での姿勢制御なんてこんなにうまくいく筈もなく、私は落下を初めているハズなのだが、

 周囲に舞い散るこの羽根のおかげなのか、何故か滞空する事が出来ている。

 心なしか、背中から翼が生えている…?

 実際には生えてないんだけれども、羽根が集まってそんな形を形成している。

 そんなこんなで自らの現状を客観視してる間に、左足が限界まで引き絞られた。

 衝動に明け渡した身体は、その()()()()()()()()()()()溜め込んだパワーを開放する。

 当然、左足はボールのど真ん中に命中し、一直線にゴールへと射出された。

 

 と、思ったらボールの軌道上にピンク色の魔法陣が出現する。

 その魔法陣のど真ん中を通ったボールは、魔法陣から出てきた何十何百ものピンク色のエネルギー弾と一緒にゴールを目指す。

 驚きで目を見開いたさやかちゃん(ゴールキーパー)の顔がピンク色の光で照らされたのを見て、私はようやく気がついた。

 

 あ、コレやばい。人が死ぬやつだ。

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 いやいやいやいや、

 えぇ〜……?

 ちょっと待ってよ。

 確かに試合前に「まどかのへなちょこシュートなんてアタシが全部受け止めてやるもんね!」とは言ったけれども

 

 コレは予想してなかったわ。

 

 というか、え?なにこれ??

 どんだけ飛んでるの?その羽根は何さ?途中で出てきた魔法陣は何?

 

 今アタシに襲いかかってるエネルギー弾は何なのさ??????

 

 と、まぁ一通り狼狽してみた訳なんですけれども……

 な〜んか時間が進むのが遅くなってるのよね

 いわゆる走馬灯?

 アドレナリンがどばーって出て思考が加速するってアレなのかな?

 いや〜困っちゃうな〜

 美少女さやかちゃん!中1でまさかの臨死体験!!なんてね

 

 ってか、よく考えなくともヤバくね?

 つまりはコレ当たったらアタシ死ぬって事じゃん。

 それなのになんでアタシは冷静なのさ。

 自分で自分がわからんね。

 

 まぁ、でも、な〜んか。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 なんとなく、腕を振るう。

 すると、虚空からいくつもの刀…?サーベル…?サーベルの方が近いかな?

 サーベルが出現して足元に突き刺さった。

 うん。

 コレ、初めて持つ筈なのに、すごいしっくりくる。

 次の瞬間、アタシは握ったサーベルをエネルギー弾に向かって投げた。

 ロクに狙ってないんだけれども、アタシの手を離れたサーベルは勝手にホーミングしてエネルギー弾を確実につぶしていく。

 でも、それは外側に広がっていこうとしていた物だけだ。

 アタシに当たりそうなモノは依然としてこちらに向かって突き進んでいる。

 おそらく、次の瞬間にはアタシはコレに当たって消し炭になっている事だろう。

 だが、勿論そんなのは嫌なので抵抗させてもらう。

 両の手に再びサーベルを出現させ、今度はガッチリと握り込むと……

 まるでマシンガンの掃射の如きエネルギー弾の弾幕を一発も残さず斬り裂く。

 いやぁ…やっぱり弾丸をサーベルで斬るのってカッコいいよね!

 某斬鉄剣の人しかり、某電撃文庫最弱主人公とか言われてるハーレム剣士だったり。

 そして、最後の最後に、まどかが直接蹴ったボールがやってきた。

 コレだけ明らかにエネルギーの密度が違う。

 勿論アタシは最大限、ありったけの力を込めて2刀を交差させて受ける。

 が、それでも押し込まれる。

 グラウンドの上で踏ん張っている足が徐々にゴールの中へと押しやられていく。

 

 「クッ……負けて…たまるかぁぁぁぁああああ!!!!!!」

 

 腹の底から声を出して、更に力を加えてボールに叩き込む。

 すると、アタシの2刀に加えて、さらにもう2刀、とんでもない大きさのサーベルがアタシと同じように交差させてボールとの押し出し勝負に助太刀してきた。

 見ると背後から甲冑を着た化け物がアタシを包み込むように現れており、そのサーベルを叩き込んでいる。

 正直、この謎のバケモンに対しての恐怖は無い訳ではない。

 でも、こいつはアタシと一緒にこのボールをゴールに入れまいと頑張ってくれている。

 それに、何故か、理屈では無くココロで理解出来てしまった。

 こいつはアタシだ。

 よくわからないし、何がなんだかさっぱりだが、多分スタンド的なアレなのだろう。

 と勝手に納得しておく。

 ともかく、こいつはアタシで、味方だ。

 なら、二人の美樹さやかで力を合わせるとしましょうか

 

 

 「うおぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 URYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 「よくやったわ、さやか。後は私に任せなさい。」

 

 気がついたら、アタシは名前も知らない黒髪のキレイな人に片手でお姫様抱っこされてた。

 その人は残った手でボールを抑えていて、ボールが回転しているせいでギュイィィィィンというとんでもない音が辺りに響いている。

 ところが、その人は顔色一つ変えずに、一旦アタシを下ろすと、大ぶりなフォームでボールをぶん殴った。

 

 

 その一撃は、巻き起こった風圧だけで校舎の窓ガラスが全て割れ、上空の雲が全て掻き消え、ボールを遥か彼方、地平線の向こう側までぶっ飛ばした。

 

 

 「ま、先人に従ってここは『Plus Ultra、更に向こう側へ』……とでも、言っておきましょうかね」

 

 

 コレが、まどかとアタシの、正義のヒーローとの出会いだった。

*1
窓際の一番後ろの席。アニメや漫画等で大体主人公が座っている席だ。

*2
午前中もこの窓枠に暁美さんは座って授業を見ていた。おそらく放課後ぐらいの時間になるといい感じに夕日が窓から入ってきて最高にカッコいいと思う。




 暁美ほむら(本体)
・まさか、まどか達が生身で魔法使ってるなんて夢にも思っていない。
 ただいま美国家で絶賛お昼寝厨


 暁美ほむら2号(仮)
・久しぶりの出番……なのに、個人視点が無かった。悲しい。


 早乙女和子
・英語教師
 原作ではまどかの担任をしているが、今現在ではマミさんの担任をしている。
 ヴァレなぎMSSにて、ヴァレンタインに病院の子供にチョコを配るボランティアに参加している事が明かされる
 →今作ではそのほかにも様々なイベントに参加している設定になった。
 しかし、その仕事の多忙さから欠席するイベントも割と多い。
 というか、平日のイベントは無理
 男運が毛ほども無い。
 どうしても辛くなった時、鹿目詢子(まどかママ)と飲みに行くのは原作通り


 百江なぎさ
・ドチャクソ重い過去を背負って、今日もなぎさは笑うのです。
 『百江なぎさは願いを叶えた』から引用ばっかりになっちゃったけど、自分の拙い文章力ではあのお母さんの壊れ具合はうまく再現出来なかった。
 セリフだけであんな表現出来るマギレコさんマジ半端ねぇッス。
 アーカイブでのストーリーイッキ見がしやすくなったので、これを機にアナタも『百江なぎさは願いを叶えた』を再視聴してみてはいかがでしょう?
 夢遊の亡霊とか忘れている人が大半だと思う。


 なぎさ母
・本名募集中!!
 千歳眞子(ゆま母)とは違って、こっちはあんまり悪くない。
 というか被害者というか……
 だって、ただでさえ修羅場ばかりの芸能界で必死に生き抜いてきたっていうのに、結婚相手との幸せな家庭が築けると思った矢先に病気になって
 旦那はお見舞いに来ないで実質別居状態
 働けないから、自己を肯定する材料が何もなく過去の栄光にすがるしか出来ない
 そして、ネットでは散々に叩かれ……

 そりゃヒステリーになって、その態度がまたアンチに叩かれての悪循環になるに決まってますわ。
 魔法少女だったらソウルジェム濁って魔女化するレベルですよこんなん……
 正常な判断が出来なくても仕方ないね。
 精神論じゃ何も解決しませんよ


 なぎさ父
・本名募集中!
 つまり、全部コイツが悪いんだな。
 ぶっ殺します。



 巴マミ
・いや、そりゃこんなエピソードテスト中に聞かされてみろって
 出来るわけないから
 今回は完全に2号が悪い


 鹿目まどか
・やっちゃった
 文句なしの因果律バケモン
 今回は最後の体育という事も相まってテンション上がっちゃったらなんか出てきた。
 これで死者とか出てたら過失致死とかになるのかな?
 でも2号が助けてくれたのでヨシ!!
 ちなみに一般人の状態で出せる全力の1割程度しか出していない。



 美樹さやか
・やっちゃった
 勿論まどかとは比べ物にならないのだけども、
 そこら編の一般人とも比べ物にならない程度の因果律
 まさかのオクタヴィア顕現からの自己認定しちゃったけど、魔女=魔法少女にはまだなっていないし、オクタヴィアの事も本編で言ってた通りスタンドみたいなもんだと思ってる。
 というかそもそもこのオクタヴィア自体、魔女化したわけじゃないしね。ドッペルみたいなちょっと違うような存在。あんまり気にしない方が良い。
 あと、初手でほむら=正義のヒーローになったのは何気に原作加速ポイント
 RTAが捗るんじゃ〜

 本体「え、なにそれ知らない。」

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