(旧)アリナレコード〜光と闇の小夜曲〜   作:選ばれざるオタクⅡ

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あぁ?ストックなんてモンはハナから無ぇよ!




眠くなって寝落ちしてたので初投稿です


アリナ編その2

 

 

★☆★☆★☆

 

 

 

 着実に日が短くなり秋の始まりを告げる木枯らしが吹き荒れたその日、

 いつもどおりにパトロールをしていた私は新西区の路地裏にあった魔女の結界に入った

 おそらく砂場の魔女の結界、規模からしてそう強くはない使い魔だけの部類

 しかし、入り口付近に残った魔力の痕跡から、随分前からこの結界の中で戦っている魔法少女がいる事がわかった

 ここまで時間をかけているのならばそれは、まだ見ぬ魔法少女は新入りか火力に乏しい者の可能性が高い

 そして、かなりの確率でピンチに陥っているであろう

 そう判断して私はすぐに結界の中に飛び込んだ

 

 「ビンゴ」

 

 入り口付近の場所には結界内のほぼ全ての使い魔達が集結しており、一人の……いや、二人の魔法少女を追っていた

 そのうちのぐったりしておぶられている方には見覚えがあった

 「秋野かえで」

 ももこのチームの一人で確かに単独での戦闘には向いていない魔法少女だ

 レナやももこが近くにいないあたり、おおかた一人でいる時に結界に巻き込まれたりなんだりしたんでしょう

 しかし、もう一人の方は見覚えが無かった

 黒い軍服に身を包んだ所々に白が混じった緑色の髪の魔法少女

 かえでをおぶりながら走り、ときどき後ろに向けて緑と白のキューブからビームを放っているその姿からは並々ならぬ意思を感じ取る事が出来る

 が、観察していた僅かな時間でその軍服の少女に使い魔の攻撃があたり、転ばされてしまった

 使い魔の軍勢はその魔法少女達に追いつき、完全に包囲する

 

 慌てて広範囲殲滅魔法の準備を始めていると、逃げていた魔法少女の決死の咆哮が聞こえてきた

 

 アナタ達の相手はこのアリナ!!ただ一人なんですケドォッ!!

  邪魔な役者は…デリートするしか無いヨネッ!!

 

 そうして、彼女は片足が使えない状態にも関わらずたった一本の脚の支えと体の捻り、腕の力のみで気を失っている秋野さんを投げ飛ばし、使い魔の群れの外へ逃した

 それだけに留まらず、おそらく最期の魔力を振り絞って大技を発動させ、使い魔の注意を惹きつけた

 あぁ、他者の為に自分の命さえも投げ打つその姿は

 かつて仲間だった二人を連想させて……

 

「もう、誰も死なせない…ッ」

 

Absolute Rain「アブソリュート…レインッ!!!」

 

ドシュゥッ!!ドシュッドシュッ!!!!

ズドドドドドドドドドドドドッ

 

 

 彼女が作ってくれた時間のおかげで、自身が出来る最大の殲滅範囲、攻撃回数、精密狙撃を誇る必殺技(マギア)「アブソリュートレイン」を発動させる事ができた

 天から降り注ぐ無数の槍一つ一つが使い魔を貫いていき、確実に消滅させる

 

 数百もいた使い魔を残らず全滅させた事で結界は消え、元いた路地裏に投げ出される

 すこし離れたところには例の彼女がへたれ込んでおり、秋野さんも気を失ったままではあるが無事なようだ

 

 「あなたたち、あぶなかったわね」

 

 急いで彼女に駆け寄る

 あの一撃が最期の魔力だったのなら、早くグリーフシードを使ってあげないと、手遅れになる

 

 「大丈夫?立てる…かしら?」

 

 彼女の首元にある緑色のソウルジェムにグリーフシードを使って穢れを取りながら聞くと、彼女の瞳から様々な感情が涙となってこぼれ落ちてきた

 怖かっただろう、苦しかっただろう、

 大丈夫、アナタは立派だ

 黙って彼女を抱きしめる

 そういえば私が泣いた時はおばあちゃんがよくしてくれていたっけ

 なんとなく、今は亡き大切な人たちの事を思い出していたのは彼女の制服が栄総合学園の物だったからかもしれない

 

 

 

 

 

 

 そういえば、今さっき私達の横を通り過ぎた小さなキュウべぇは何だったのだろう?

 

 

★☆★☆★☆

 

 

第二話「調整屋みたまちゃん」

 

 

 

 

 

 そんな出来事があったのがつい昨日のこと

 あの後、すぐにももこに連絡して未だに気絶したまんまの秋野さんを引き取ってもらい

 落ち着きを取り戻した彼女……「アリナ・グレイ」とお互いに自己紹介した

 まさか、彼女が()()天才芸術家「アリナ・グレイ」だったとは……

 炭化した生物で描かれた「死者蘇生シリーズ」

 あんなにも恐ろしく美しいもの生み出したのが、まさかこんな気弱で正義感の強い良い子だっただなんて……

 ()()()()()()()()()()()という先入観は捨てたほうが良いのかもしれないわね

 そんなグレイさんを彼女の家まで送り届けたら、もう遅かったからそのまま家に帰って眠りについたわけなのだけれども……………

 

 「おはようございます!!七海さん!!!」

 

 次の日の朝、

 何故か大荷物を抱えたグレイさんが玄関先に立っていた

 

 「あなたのパーフェクトボディをアートにしたいのでここに住ませてください!!」

 

 「えぇ……(困惑)」

 

 屈託の無い満面の笑みでそんな事をのたまうグレイさん

 その瞳には確かな芸術家としての狂気が見え隠れしている

 前言撤回

 やっぱり芸術家はよくわからないわ

 

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 取り敢えず、家の中に入れて話を聞いた所、なんとか纏める事が出来た

 既に、頭が痛い……こんなにも話が噛み合わない人は初めてよ……

 「えーと…要するに、グレイさんはここに住みたいって事ね?」

 「ハイ!」

 「それでご両親から許可と家賃は貰っていて、既にこっちに向かって引っ越しのトラックが来ていると」

 「ハイ!!」

 「そして、急に押しかけたからお詫びとして日々の家事は代行したいと」

 「ハイ!!!」

 「うん、そこまではわかるのよ。そこまではただの良い子なのよ。それで?」

 「七海さんを私のベストアートにしたいんです!!!!」

 「そこ!!そこが一番よくわからないわ!?」

 ツッコミと共に勢いのままグレイさんに指を突きつけてしまった

 「え?モデルの仕事依頼なの?

  そこらへんは事務所を通してもらえないと私()マネージャーさんに怒られるのだけれども……」

 「いえ!!私が求めてるのはモデルとしての七海さんじゃあ無くって魔法少女としての七海さんです!!」

 ……あぁ…まあ確かに、それじゃあ事務所に依頼するわけにはいかないわね

 「でも私なんかよりもよっぽどすごい魔法少女は沢山いるわよ…?」

 「昨日、私を助けてくれたのは七海さんです!あの時の必死な表情!降り注ぐ槍の雨から感じた体の芯を痺れさせるような魔力!一撃で使い魔を絶命させる火力!

  七海さんについていけば、私の『テーマ』を見つける手がかりになってくれるハズなんです!お願いします!!」

 そう言うとグレイさんは日本式懇願の最大級である「土下座」を披露した

 「ちょっ……土下座なんてやめなさい……やめなさいって……ぐっ……ちょっ………剥がせない!?……貴方こういう時だけ力強いわね!?

  ともかくやめてって……ぬ〜〜ッ………だぁっ………ハァ…ハァ……意地でも続けるつもりね……

  あ〜、もう!わかったわ!!みかづき荘入居を許可します!!」

 そう言った途端にグレイさんはガバっと顔を上げるとパァァという効果音が見える勢いで顔が晴れていき、

 「七海さ〜ん!!」

 飛びついてきた

 あぁ……なるほどね、こういう感じね……

 今はとんと姿をみかけなくなってしまったあの子と同じ雰囲気を感じながら、

 私は目の焦点を遠くにあわせながらこれからの騒がしくなるであろう日常を心配していた

 

 

☆★☆★☆★

 

 

 みかづき荘に入居の許可を貰って少しした頃、アリナは適当に理由をつけて近所のある公園までやってきていた

 指定の時間までは少しあるので公園のベンチに座ってぽけーっとしていると、

 まだ暑さが残る初秋だというのに茶色のロングコートにフードを被って、サングラス、マスクを装着した挙動不審のあからさまな不審者があらわれた

 その不審者はアリナを見つけると走ってきて

 「ごめーん、待った?」

 その怪しい格好からは想像がつかない底抜けに明るい女の子の声が発せられた

 「ちょ、声が大きい!

  全く……ま、アリナも今来たところだから、別に気にしなくていいワケ」

 コイツは自分から『正体を明かしたくない』とか言って、怪しい変装モドキをしているのに、わざわざ更に目立つ事をしないで欲しい

 ご近所さんで私の悪いウワサが流れないか心配で胃がキリキリしてきた

 「ほ!そうだった……それでそれで?どうだった?」

 まるで落ち着きの無い子供のように「ふんふん!」とこの不審者は聞いてくる

 「大成功。ま、情報は確かだったようだから、一応アナタの事は信用してあげるワケ

  まさか、本当に「忠犬のように慕って強引に押し切る」事で入居許可が出るとは……情報提供者たるアナタには感謝しか無いワケ

  何かお礼をしたいのだけれども…」

 そう言うと情報提供者は勢いよく立ち上がって物凄い勢いで首を振り腕を交差させる

 「いやいやいや!!別にそういうのは良いって!!これはただの私のお節介!!…それに、今の私じゃあ、やちよししょーは護れない…から……

 この人にもナニカ事情があるのだろう

 それも、本人にとってはかなり後ろめたいモノが

 「そ、別にアナタと七海さんの間で何があったかとかは興味無いし、詮索なんてしないから安心してヨネ」

 それじゃ、と公園を立ち去ろうとすると、ふいに不審者に腕を掴まれて引き止められた

 何かを言おうと逡巡しているようだったが、しばらくすると決心したのかフードを脱ぎ、サングラスとマスクを外した

 現れたのは活発そうな茶色の髪をサイドデールにまとめた少女、

 その橙の瞳に似合わない悲しげな笑みを浮かべてアリナの手を両手で握った

 「お願い……何かあったら…やちよししょーの事、守ってあげてね」

 

 まっすぐに目を合わせて伝えられたその言葉は重く、返事をする前にその少女は走って帰ってしまった

 彼女が立っていた地面には気づくか気づけないかというサイズの小さなシミが残されている

 

★☆★☆★☆

 

 

 「調整屋?」

 所変わって、みかづき荘

 今日は七海さんはモデルの仕事はお休みらしいので私が昼ごはんを作っている時だった

 「ええ、グリーフシードを代金にソウルジェムの調整を行ってくれたりいろいろな事をしてくれる魔法少女専門のお店よ

  最近の神浜はやけに魔女が多い…それに魔女の強さもどんどん強くなっている……

  神浜で生きていく為には絶対にお世話になるべき場所ね」

 どうやら、お昼を食べたらそこに行くらしい

 一体いつから神浜はそんな魔境都市になったんだか……

 ちょうど良い、あの子との約束を果たすために私は強くならなくてはならないのだから

 「それにしても、神浜で契約したのに今まで調整屋を知らないで生き残れているって…珍しいわね」

 

 あ、ちなみにお昼は冷蔵庫にロクな物が入っていなかったので(聞くと、今日買い物に行く予定らしい)

 必要なのは米と卵と刻んだウインナーに玉ねぎ、その他調味料だけで良い簡単なチャーハンを作った

 ()()()()()()()()()()()()()()

 七海さんには殊の外好評だった

 モデルをやっているって聞いたからもっとオシャレな物を食べてるイメージあったケドそれは間違いだったらしい

 曰く、コスパの良さと調理にかかる時間、そして一番大切な味、これら3つのバランスがこのチャーハンは丁度いいんだとか

 話を聞いているだけでも七海さんの食事に対する情熱が伝わってくる(それでその体型どうやって維持しているんだろ……)

 

 

☆★☆★☆★

 

 「あのー……本当にこんな所にあるんですか?どう見ても廃墟しか無いんですケド……」

 

 昼ごはんを食べた後、アリナ達は新西区の廃墟群を訪れていた

 話によるとここらへんにその調整屋があるらしいがどう見ても店が経営できるような場所では無い

 「調整屋の店長は特殊な魔法少女でね……

  魔法少女としての攻撃が使い魔や魔女に効かない上に、普通の魔法少女よりもソウルジェムの濁りが早いのよ

  ()()()()()()()()()()()()()()()、消費する魔力量は他と比べて大きいから

  人も魔女も寄り付かないこういった廃墟で店を開いてるらしいわ」

 と、そんな事を話しながら歩いていると、ある廃墟の前で七海さんが足を止めた

 「神浜ミレナ座…?」

 どうやらここがその調整屋らしい

 入り口の真横の掲示板みたいになっている場所には

 「調整屋みたまちゃん」とかわいらしい文字で書かれており、恐らく予約表…?のようなものも張り出されている

 今週は土曜日が休みらしい

 「この廃墟は元々そういう名前の映画館だったらしいわ

  さ、入るわよ」

 と、七海さんは先に入っていってしまった

 それに続いてアリナも入ろうとした時、突然

 

 そう、本当に突然、何の前触れも無く、

 別の廃墟から魔女の使い魔が飛び出してきた

 使い魔はアリナを見ると真っ先に襲ってきて……

 

 中級閃熱魔法(ベギラマ)ァッ!!!」

 

 どこからか飛んできた一筋の熱線によってアリナの目と鼻の先で使い魔はあっという間に消し飛んだ

 「どうしたの!?」

 七海さんが調整屋の中から音を聞いて飛び出してきたみたいだが、もう全て終わったあとだった

 「いやぁ、ごめんごめん。うっかり一匹だけ逃しちゃってさ…ってあれ?昨日のアリナちゃん?」

 その廃墟からは()()()()()()()()()()()()()魔法少女姿のももこさんが出てきた

 「すみません…助けてもらっちゃって」

 「いいのいいの、元はと言えばアタシがチャッチャと倒せてれば良かった話なんだからさ」

 そうやってももこさんは笑っているが、アリナ的には自分も魔法少女なのに反応できずにただ見ているだけだったのは悔しい

 やっぱり経験の差なのだろうか?

 「ももこ、さっきの使い魔…魔力を感じなかったけれど……」

 七海さんが質問した事は、アリナも疑問に思っていた事だカラ、うんうんと頷きながらももこさんに視線を送ると

 「な〜んかね?元の魔女が珍しく隠密型っぽくてさ、中々に本体が見当たらないんだよ

  使い魔も結界外で普通に活動してるし、こんな人気無い所まで来るし、妙なんだよね」

 そんな答えが帰ってきた

 確かに魔女の性質からは逸脱している

 三人はふ〜むと首をかしげるが、

 「ま、ここで悩んでたってしかたがない、今日はアリナちゃんの調整に来たんだろ?奥で調整屋が待ってるよ」

 ももこさんに促されてアリナ達は調整屋の中に入っていった

 

★☆★☆★☆

 

 廃墟の中の映画館を進む中でアリナは前を行くももこさんにどうしても言いたいことがあった

 「あの〜そういえばさっきベギラマって聞こえたんですけど……もしかして、ドラクエ好きなんですか?

  その紅い本にも中級閃熱魔法って書いてありますし……あ、でも漢字表記のダイ大は魔法じゃなくて呪文表記だったのような……」

 それは、我らが日本が誇るRPGゲームに出てくる呪文であり、大抵の日本国民は一度はその名を聞いたことがあるであろうモノ

 アリナが指摘しているのはゲームを元にした漫画で漢字表現がなされたものの話だったのだが

 それに対して帰ってきた返事は意外なものだった

 「そっか…『魔術』についてもまだ知らないのか」

 ももこさんが驚いたように言う

 その『魔術』?はそこまで魔法少女にとって当たり前の事なのだろうか?

 少なくともキュウべぇからは聞いてない

 「その事についても調整屋で説明があると思うから、詳しくはそこで…ね?」

 ???ソウルジェムの調整に『魔術』…?

 全く繋がりが見えない

 一体何をやっている場所なんだ調整屋……

 

 

 「おっす、調整屋〜」

 アリナが調整屋について考えている間に目的地についたみたい

 ももこさんが気軽に呼びかけながら入った扉をくぐると、そこはこれまでの廃墟とは違い青を基調としたステンドグラスに照らされる不思議な空間が広がっていた

 至るところに摩訶不思議なオブジェが置いてありおそらく電池と磁石で動き続けている

 ……けど、多分魔力で動いてるんだろうなぁ…ありえない動きしてるもんなぁ…

 「あらぁ、ひさしぶりね、ももこ。最近来ないから寂しかったわ」

 「はっ、なーに言ってんだか

  最近じゃあ客も多くなって思い出す余裕なんて無いんだろ?」

 入り口から正面のソファには銀髪の少女が座っていて、こちらを見ると持っていた紅茶をテーブルに戻して嬉しそうにももこさんに駆け寄っていく

 どうやら彼女が例の調整屋らしい

 「あらぁ、そんなことないわよぉ〜?」

 拗ねるももこさんだったが、何も言われずともソファに座り調整屋のされるがままにほっぺをぐにぐにされているあたり

 まんざらじゃあ無いのだろう

 「それにしてもやちよさんもひさしぶりねぇ

  確か最後に会ったのはホオヅキ市に殴り込みに行った時かしらぁ?」

 ももこさんを弄り倒しながら調整屋が七海さんと世間話をしているが、正直アリナはテーブルの上に置かれている劇物の方が気になって仕方がなかった

 見た所、チーズケーキにケチャップがかけられ、イチゴのように梅干しが乗せられている

 自分が経営している店だからって営業時間内に呑気にお茶していても良いのだろうか?(錯乱)

 まぁ、万事屋よりかはマシなんだろうけども

 「いや、みふゆが居なくなった日にもここに来たわ

  すぐに別の場所を探しに行ったけど」

 「あぁ…そういえば、そうだったわねぇ……一体何処に行ったのかしら……

  最近調整に来た子達の記憶でも見えなかったし」

 「まぁ、みふゆだって何年も魔法少女やってるんだからちょっとやそっとじゃあ死なないでしょうし

  それよりも今日はこの子の調整に来たのよ

  お願い出来るかしら?」

 っと、こっちに話が回ってきた

 冒涜的なナニカに気を取られて話は殆ど聞いてなかったケド

 「はじめまして、アリナ・グレイです」

 「どうもーはじめましてぇ

  「八雲みたま」って言うのよ?

  以後ご贔屓にしてちょうだいね」

 やはり最初は挨拶、古事記にもそう書いてある

 そこからは調整についての説明やらなんやらが行われた

 なんでも調整はソウルジェムの内部を弄るわけだから、必然的に人の記憶が見えるのだそう

 普段は意図して見ないようにしているけれど、逆に見ようとすればある程度深い深度まで読み取れるらしい

 アリナ的にもかなりインテラステッドな話題で集中して聞いていた

 また、調整の詳細な内容は説明してもらいつつ、七海さんとももこさんにも相談してもらいながら決めた

 調整はゲームのスキルポイント振りに近いらしく、最初に初期ステータスを見る感じで軽くソウルジェムに触れてもらう

 そこからわかった現在の状態から、どのように変化させるかを決める

 ソウルジェムには魔女と戦った数だけ魔法少女に残る経験値的な物が残っているらしく

 それぞれの要素が最も成長する場所に移動させるのが調整と呼ばれる技術の最たる例らしい

 調整によって強化できる要素は、

・筋力

・魔力

・防御力

・持久力

・素早さ

・マギア

 この6つになっている

 『筋力』は別にムキムキになるわけでは無く、魔法少女故の魔力による補正具合を上げるもの

 ようするに見た目変わらずパワーが上がるよって要素

 ももこさんや七海さんみたいな近距離パワー型の人なら重要らしいケド

 私の武器は遠距離だからいらない

 『魔力』は使用できる魔力の最大保有量を底上げする要素

 かなり重要だと思う

 多めに振っておいた

 『防御力』は割とそのまんま

 痛いのは嫌なので極振りとはいかないまでもそれなりに振っておく

 『持久力』や『素早さ』もそのまんま

 まぁ、七海さんが言うには平均値を下回らない程度には振っておいて損は無いらしい

 『マギア』はいわゆる必殺技の火力上げに相当する

 ようするに短時間に膨大な量の魔力を使う技を使う時に、その魔力を効率よく破壊エネルギーへと変換する要素らしい

 まぁなんやかんやでおもしろおかしく時間は流れ、

 ステ振りも決めていざ調整って所である事実が発覚した

 「それじゃあ服は脱いでそこの寝台に横になってねぇ」

 どうやら、ここはそういうお店でもあるらしい

 まぁ…みたまさんの纏う雰囲気からなんとなーく察していたので

 「わかりました〜」

 「あ、脱いだ服はそこのカゴの中に入れてねぇ」

 と、おとなしく従って仕切りの中で服を脱ぐ

 「ちょっ…」

 「…おい…調整屋……」

 七海さん達が何か言っているがそんなの関係ねぇ!といった具合にみたまさんが料金表のような物を持ってきて説明する

 「ウチはお手頃な30分コースから60分コース、長くて三時間コースまであってぇ、長いほど料金は高くなるんだけどぉ、

  初回は一律グリーフシード二個で大丈夫よぉ。どれにするぅ?」

 非常にニッコニコした笑顔でみたまさんが問いかけてくるので

 「じゃあせっかくなので三時間コースで」

アリナはとても良い笑顔で返事をした

 

 「しれっと最長コースを選択するなぁッ!!」

 ようやく場外からまともなツッコミが飛んできたなぁ……なんて思いながらみたまさんに飛びかかるももこさんを遠い目で眺める

 (まぁ、ももこさんはみたまさんに寝技で勝てるはずもなく、不意打ちのキスをモロに食らってオーバーヒートして退場した

  やちよさんの反応からしていつもの事なんだろうね)

 

 そんなこんなでかなりドタバタしたが、何も問題はなくアリナの調整は始まった

 

☆★☆★☆★

 

 

 「あ、アリナせんぱーい新しく描いた漫画みて欲しいの〜

 栄総合学園のとある教室、紅い夕陽が差し込むその場所でアリナは新しい作品の作成にいそしんでいる真っ最中……

 だったんだケド、どうにも上手く筆が乗らない

 そんな時に、向かい合った机の向こう側で何かを描いていたピンク色の髪をした小動物のような子がアリナにすり寄ってくる

 アリナは顔はしかめつつも、リフレッシュになるカラと何の文句も無くその漫画を受け取るとペラペラと流し読みしていき

 「ふーん……ま、可もなく不可もなく、ゴミだヨネ」

 率直に思ったことを口にする

 「がーんなの……でも前よりは評価良くなったの!!

 アリナはそうやって冷たくあしらっているのに、小動物みたいな子はアリナの些細な言い方の変化にきゃっきゃと喜んでいる

 まるで、アリナの心を見透かされているみたい

 そんな様子にちょっと苛ついたアリナは小動物みたいな子の机の上から飲みかけのイチゴ牛乳を勝手にとり

 ちゅーズゾゾゾ

 と残りを飲み干し、空の箱を小動物みたいな子に投げ渡す

 「あ〜んひどいの!飲みたいんならちゃんと先輩の分も買ってきてあげるのに…

 

 「飲まれたくなかったらさっさとアリナを満足させる作品を書いてよねフールガール

 

★☆★☆★☆

 

 

 「……ッ!!……ハァ…ハァ……」

 

 目が覚めたアリナは咄嗟に周囲を確認する

 そこは紛れもなくさっきまでいた調整屋で、隣ではみたまさんが真剣な顔で、奥では七海さんとももこさんが突然跳ね起きたアリナにびっくりしている

 「…ゆ、夢……いや、そんなハズは…でも、…アレ?」

 ついさっきまで見ていたのは間違いなく過去の記憶だと思う

 根拠は無いが、感覚がそう訴えている

 だけど、アリナには後輩なんて居ない

 それにアリナがあんなに他人を冷たくあしらうなんて事も、人の物を勝手に飲むなんて事もするはずが無い

 してたら、絶対に覚えている

 だから、あんな光景は存在しないハズなのに…

 「あ、あのね…アリナちゃん……非常に言いづらいんだけどね……」

 錯乱していた私は、そうやって言い淀んだみたまさんに掴みかかってしまった

 「…ッ!!何が見えたんですか!?この記憶は何なんですか!?教えて下さい!!この……ッ…この胸の痛みは一体…何なんですか!?!?」

 ボロボロと溢れ出た涙が寝台を濡らしていく

 みたまさんは震える私の腕をゆっくりと外していくと、深呼吸の後にこう告げた

 

 

 

 「落ち着いて聞いてね……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 そう、

 

 

 告げられた瞬間、

 

 

 

 

 アリナの体に衝撃が走った

 いや、比喩表現では無く、本当に衝撃を感じた

 よく漫画やアニメなんかで青白い雷光に撃たれる表現がされるが、それに近い

 というか、殆ど電流だコレ

 原理はよくわからないが、この雷のような衝撃のせいで顔の筋肉が引きつり、驚愕の表情のまま固定される

 恐らく傍から見たら目は白目だけになっているのではなかろうか(たぶんなっている)

 そして、その衝撃によって何かがアンロックされたような音が頭に鳴り響いたと思ったら、全身の力が抜けてへなへなと寝台に座り込む

 えぇ……明らかアリナの脳にナニカ仕込まれてるじゃん

 「アリナの記憶が……おかしい…?そんなハズは……だって昨日の晩ごはんだって正確に思い出せるのに」

 とりあえず咄嗟に出た言葉はうろたえながらの否定だったが、

 「じゃあ、アリナちゃんはいつ、何を願って魔法少女になったのかしら?アナタの固有魔法はどんなモノなのかしら?」

 「ッ………」

 みたまさんの指摘に反論できずにうつむいてしまう

 アリナは今、始めて自分の記憶が殆どない事を実感し、危機感を感じていた

 両親や通っている学校での授業の話等の基本情報は覚えている

 しかし、ソレ意外が何も無い

 これまで創ってきた作品やとってきた賞は思い出せるのに

 それはまるで他人の功績のように無味乾燥としていて、アリナが生きてきた証が何一つ心の中に残っていない

 

 果たして本当にアリナ()は、()()()()()()()なの?

 

 頭がごちゃごちゃして上手く考えられない

 多分今アリナの目はグルグルと渦を巻いていると思う

 

 「グレイさん……辛いと思うけどね?私はこうしてアナタの問題を知ってしまった以上、

  そしてみかづき荘の住民として一緒に生きていく以上、この問題を解決しなくてはならないわ

  だから、そうやって一人で考え込まないようにしなさい」

 

 しばらく無言で受け止めようのない現実に途方に暮れていると、七海さんがうつむく私を下から覗き込んでそんな事を言ってくれた

 

 「七海さん……でも、そんな……」

 「アタシも手伝うよ。どうにも、目の前で困ってる人には手を出したくなっちまう性だからね」

 

 隣に座って背中をバシンッと叩くのはももこさん

 

 「ももこさんまで……」

 「だぁいじょうぶよぉ?私達はこういうのは慣れてるの

  それにぃ……調整屋さんは女の子の笑顔を守るのが仕事だから」

 

 そして、さっきまでと変わらない笑顔で、なおかつ真剣さは今まで以上に、アリナの手を取るみたまさんは決意をあらわにしてくれた

 

 「みたまさん……」

 

 ここにいる人達は皆、アリナの力になってくれるらしい

 こんな弱くて、自分の事もわからない、まだ出会ったばかりなのに、

 そんなアリナの為に頑張ってくれるらしい

 私の為に時間を使わせるのは悪いとは思いつつも

 自分の事のように心配し、真剣に考えてくれる皆の姿には、

 なんだかここに来れて良かった、という思いがこみ上げてくる

 

 「みなさん…ッ…本当にありがとうございます!!」

 だから、この土下座はアリナの精一杯の感謝の気持ちだ

 七海さん達が慌てて起き上がらせようとしてくるが、感謝ぐらい自由にさせてくれ

 

 

 

 ………やちよさんもももこさんも一人ずつならなんとか耐えられたケド、流石に二人相手には勝てなかったよ…

 

 

☆★☆★☆★

 

 騒動が一段落した後に、さっそく作戦会議を開く

 と、言っても会議なんて言ってるのはやけに張り切っているももこさんだけで

 七海さんとみたまさんは何処から出してきたのか大量のお菓子やらケーキやら紅茶やらジュースやらをテーブルの上に広げて

 漂う雰囲気は完全に放課後の友達の家だ

 アレ?さっきまでのシリアスは何処に行った!?

 「どうおかしいかって言うとね、本当になんにも無いの

  ポッカリと穴が開いてるみたいだわぁ

  それに、ソウルジェムを調整してみた感覚からすると、どうにもアリナちゃんかなり強い魔法少女みたいなのよねぇ

  それに、一年以上前の記憶のアリナちゃんは今のアリナちゃんからは想像もつかない程の人間だったわぁ」

 まずはみたまさんが調整で得られた情報を共有する

 「って事はまたホオヅキ市の時みたいな認識改竄系の魔法少女かしら?」

 七海さんがうんざりした様子で聞いているが……()()ってなんだ()()って

 アリナ的にはその話も聞きたいけど、確実に脱線する上に長そうなので我慢する

 「うーん……それがそうでも無いみたいなのよねぇ…」

 「どういう事?」

 「『暗示』にしろ『幻惑』にしろ、記憶が消してある部分は何か別の記憶に置き換わってたり、そもそもわからないように細工されてあるのよぉ

  でも、アリナちゃんのは本当に何もない『ポッカリと穴が開いてる』の。不自然すぎる程キレイにね」

 みたまさんの説明を聞きながらももこさんが大学ノートにメモしていく

 え?ちょっと待って?

 さっきの記憶の中の謎の後輩よりも絵がヒドイんだけど?

 何それ、ミミズの写生?

 「なるほどな、つまり今のアリナちゃんが弱いのは認識改竄による直接的なモノでは無く、何かしらの原因で記憶が失われた副作用って事か」

 それでもちゃんと理解して仮設を建ててるところを見ると、やっぱり魔法少女として先輩なんだなぁ…としみじみ思う

 他の部分での好感度は全員軒並み下がっていっているケド

 「ちょっと待って、ももこ。それだと記憶が無くなる一年以上前のアリナと今のアリナが違う事に説明がつかないわ

  何かあって変わったならまだしも、()()()()()()変わったなんておかしいでしょ?」

 「うーん……だとすると何が考えられるかなぁ〜」

 結局何も思いつかず、いたずらにお菓子と飲み物が減っていく

 七海さん?アナタお昼にあんなに食べておいてまだ食べるんですか?

 晩ごはん入るの?

 アリナお残しは許さないカラ(まぁ、昼にあんなに語った七海さんならそんな事はありえないんだろうけどね)

 

 

 

 「グレイさん、今思い出せる一番前の記憶って何かしら?」

 

 そんな状態の会議を打ち破ったのがマドレーヌを口にくわえながらポテチの袋をあけようとしている七海さんだった

 せめてちゃんと食べ終わってから開けましょうよ…

 

 「…昨日使い魔の結界に入る前は……確か…学校に……?

  アレ?昨日は土曜日だから学校は無いハズ…?

  てことはここは勝手に補完されたモノだと思うから……

  あぁ、確か路地裏でキュウべぇの幼体を見つけた所から記憶が鮮明ですね……キュウべぇの幼体?」

 「ちょっと待って、確かその小さなキュウベエ、私も昨日の結界から出てすぐに見かけたわ!」

 そこからは一気に会議が加速し、どうやら怪しいのは小さなキュウべぇだという結論に至った

 

 

 

 

 

 そうと決まれば七海さん達の行動は早い

 片っ端から魔法少女の知り合いを当たってくれて、アリナの記憶の為になんと十数人もの魔法少女の皆さんが手伝ってくれる事になった

 

 さぁ、首を洗って待ってなさいよ小さなキュウべぇ!神浜ローラー大作戦で必ず見つけ出してアリナの記憶を取り戻してやるカラ!!

 

☆★☆★☆★




最後駆け足になっちゃって申し訳ない

八雲みたま
・レズ風俗店長
・原作から超強化された人No.1
・記憶の閲覧が完璧に出来るし、調整もステータス的な数値化されてる
・いやーなんでこんな事になってるんでしょうねー()
・ちなみに原作でみたまさんがリヴィアさんに調整を教えてもらったのが原作開始半年前ぐらいらしいよ!()
・調整の超強化に加えてまだ『魔術』なんてトンデモ技術を後ろに控えているらしい
・だから使い魔とか魔女とも戦える(けど絶望的に燃費が悪いのでやっぱり調整屋は神浜ミレナ座です)
・実は調整屋にはトンデモナイ同居人がいたりする
 今後出す予定
 きっと皆驚く

十咎ももこ
・チャージゴリラ
・ベギラマ女
・ノンケからレズに進化した人
・勝手に絵が下手とかいう新たな属性を付与された
・ももみたは語感的にももみただけれども、ももこは受けでみたまさんが攻め

七海やちよ
・大食い属性←New!!(原作より若干誇張されてる)
・みたまさんとの会話でさらっとホオヅキ市に殴り込みに行っている事がわかる
 お?(ほむら編の)フラグか?
・午前中のアリナ先輩に犬のしっぽを幻視したらしい

アリナ・グレイ
・かなり地の文が安定しない
・一応、まだ目上の人や初対面の人に対して原作みたいな態度を取ることはできないので、アリナ先輩らしさが殆どなくなってしまう
 が、今回の記憶を一部取り戻した事でリミッターが一つ外れた
 途中から地の文が毒舌になってきてるのはそのせい
 それでもまだ表には出せない
・なんとかモキュを出すことであと一話で本編第一章が終えられそう

謎の後輩
・今回で名前が出るって聞いてたのに全然そんな事無かったの!!
・さっさと私の出番が来るまで話を進めるの〜!!

不審者
・どこかの最強魔法少女さん
・ふんふん!
・何故か原作以上にダメージを受けてる(ほぼ再起不能レベル)
・チームみかづき荘には入らない
・あっ…(マギウス堕ちする未来が)見える見える


今回の神浜ローラー大作戦参加者

かもれトライアングル
・十咎ももこ
・水波レナ
・秋野かえで
(ちゃんとあの後起きたらしい
 アリナ先輩にめっちゃお礼を言ってた)

ななか組
・常盤ななか
・志伸あきら
・純美雨
・夏目かこ
(ちなみに組長の能力にはアリナ先輩引っかかっていない)

アザレア組
・静海このは
・遊佐葉月
・三栗あやめ

団地組
・相野みと
・伊吹れいら
・桑水せいか

みゃーこ先輩と愉快な仲間たち
・都ひなの
・木崎衣美里
・竜城明日香
・美凪ささら
・綾野梨花
・五十鈴れん

個人での参戦
・和泉十七夜(みたまさん経由)
・春名このみ(かえでちゃん経由)

コレにアリナ先輩本人とやちよさん、みたまさんを加えて
総勢23人!!
十数人とかってレベルじゃあ無いだろコレ……
メンツから見て、既に
アレ*1とか
アレ*2とか
アレ*3
とかが成功している事がわかる
なお、この影響で第八章あたりが短縮される

*1
そしてアザレアの花咲く

*2
バイバイ、また明日

*3
散花愁章


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