(旧)アリナレコード〜光と闇の小夜曲〜   作:選ばれざるオタクⅡ

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 少し、冷静になった今でも信じられない。

 私は、あの時……

 鉄臭い血の匂いが充満する路地裏で、
 彼女と初めて出会ったあの時

 鮮血に染まり、半身を失い、地に倒れ伏す彼女を見て、

 私は

 あろうことか、私は





「―――綺麗…ね。」


 彼女に見惚れていた。


その2「魔法少女専用救命支援要請:コード887」

 スプラッタな死体なんて物は魔法少女を七年もやっている以上見慣れている。

 特に驚く事も、もはや何かを感じる事も無い、至って普遍的な光景………の筈だ。

 

 だが、

 彼女の紅く染まった淡緑の髪は、

 地面にこぼれ落ちた小腸のカケラと思わしき内臓は、

 未だトクトクと流れ出ている血液は、

 苦しげに歪んだ顔は、

 

 私の、それまでの常識……いや、人生を破壊する程の美しさを放っていた。

 

 

 

 

 

「モッキュ!!モッキュップイ!!!」

 

「………………ハッ」

 

 どれぐらいの時間放心していたのだろう。

 ふと、何かの騒ぎ声で我に返る。

 足元を見ると、そこには久しく見ていなかったクソ害獣(インキュベーター)の姿が

 気分を害されたので遠慮なく貫いてやろうと思ったが、違和感を覚えて槍を止めた。

 よく見なくとも、この害獣(インキュベーター)、明らかに小さいのだ。

 それに害獣(インキュベーター)特有の、死んだ魚の目(というと魚に失礼だが、それほど感情が読み取れない目)では無く、ハイライトがガッツリ入ったキラキラした眼を持っている。

 それ故か、表情というものもいくらか読み取り事が出来る。中々に愛嬌のある見た目と言えるだろう。ヤツの顔がチラつかなければ……

 そんな、言わば『小さなキュウべぇ』とでも言うべき生命体は、必死に彼女の方を指差して私の脚を揺さぶって謎の鳴き声を発している。

 

「ッ!……コレって」

 

 促されるままに彼女へと近づくと、血溜まりの中に黒く濁った翡翠色の宝石が浮かんでいる事に気がついた。

 紛れもない。ソウルジェムだ。

 つまり彼女は魔法少女であり、

 ソウルジェムが無事な以上、まだ死んでいない。

 

「でも、穢れがかなり酷いわね…」

 

 このままではいつドッペルが発動されるかわからない。

 魔女結界内ならばいいものの、こんな路地裏で発動されたら周辺被害は全く予想がつかない。

 また、気絶時のドッペルという物は総じて暴走するので、自らのソウルジェムを壊してしまうという痛ましい事故が起こる可能性もある。

 急いでグリーフシードを使って魔力を供給する。

 それと同時にコネクトの容量で彼女に魔力をいくらか譲渡し、回復力を高める。

 傷口から流れでていた血液の勢いが増す。どうやら魔力の大部分は血液の方に回されていて思うように回復出来ていないようだ。

 とりあえずの応急処置として彼女の魔法少女衣装を少々失敬して(元々ズタボロだったか大丈夫でしょう)傷口を無理やり塞ぐ。上から魔力で包んで圧迫止血をすればマシにはなるだろう。

 

 …が、コレはあくまでも応急処置

 私からの魔力供給が無くなれば再び傷口が開いてしまう。

 燃費も悪いのであまり長くは持たない。

 焦るキモチを沈めながら、懐からスマホを取り出してロックを解除しようとするが、血で滑ってうまく認識してくれない。

 仕方がないので魔力を流してロックを解除

 そのまま通話アプリを開き、テンキーに入力をする。

 

 8・8・7

 

 魔力を流しながら発信ボタンを押し、しっかりと送信された事を確認するとスマホを戻す。

 通常の119番とは違って、オペレーターと会話しなくても良い。

 番号さえ入れてしまえばコチラの座標が送られる。後は待つだけだ。

 神浜内なら二分もしない内に……

 

「おまたせ!!魔法少女救命隊、千歳ゆまだよ!!!」

 

 今回は一分半でワゴン車が来た。

 いつも思うが暇なのだろうか?彼女達も学生のハズだけれども……

 まぁ、実際887番を使う時は一分一秒を急ぐ時だし、いつも非情に助かってるから文句は無い。

 ワゴン車の中から白衣を着て元気いっぱいに出てきたのは幼い緑髪の魔法少女「千歳ゆま」

 固有魔法「治癒」を使いこなす見滝原の魔法少女だ。

 運転席にはいつもどおりポッキーをかじってる「佐倉杏子」が座っており、助手席には不機嫌な顔でこっちを睨んでくる「百江なぎさ」もいる。

 

「早速で悪いけれど、この娘の手当をお願いできるかしら?」

 

 とにかく急がなくては私の魔力も枯渇してしまう。

 自分のソウルジェムも回復させながら、私は千歳さんが彼女を見れるように横にどいた。

 

「え!?」

 

 すると、千歳さんが驚きの声をあげた。

 今まで見たことの無い反応に思わず千歳さんを見ると、目をこれでもかと見開いて驚嘆のキモチを露わにしていた。

 ………一体どういう事だろう?

 この程度の光景は今まで散々見てきたハズなのだけれど………

 気づけば車の中で待っていた佐倉さんと百江さんも降りてきて同じく驚愕の表情を浮かべている。

 

「ちょ、ちょっとごめんね!」

 

 そして、離れた位置でひそひそと三人で話し始めてしまう。

 とりあえず治療を先にお願いしたい。魔力を供給し続けるのってかなり辛いのだ。

 

 

「あ……アレって、アリナ先輩!?…だ、だよね?なんでこんな所で死にかけてるの!?なんでやちよさんと出会ってるの!?!?ホント、何してんのあの人!?!?!?!?」

「んな事アタシが知るかよ!?この時期にあのアリナ先輩がやられるようなイベントは無いんだが……」

「どうせいつものほむらのせいなのです。バタフライエフェクトとかいうヤツなのです。いい加減にしてほしいのです……」

「あ、そういえば今って9月だったよな?」

「9月って言ったら……まさかアリナ先輩が?いや、ありえねーだろ、なのです。」

「でも、環いろはがあんな事になってるからなぁ……ありえねぇ話では無いと思う。…………と、とりあえずまずは治療して、それから話を聞こう。情報が無いと何にも判断出来ないからな。」

「一応なぎさはほむら達に連絡してくるのです。ソレが本当なら、第一章が始まってるのです。」

「じゃあ、そういう事で」

 

 

 いやしかし、こんな事は初めてだ。

 いつもの千歳さん達は何も言わずにすぐに治してくれるのだけれども……

 ちょっと聞き耳を立ててみたが、上手く聞き取れない。おそらく認識阻害の魔法でも使っているのだろう。

 たしか佐倉さんの固有魔法が幻覚だった気がするし、おそらくソレの応用だろう。

 

 こう…見滝原の魔法少女はどうにも秘密主義がすぎるのよね。

 そのクセこちらに対して好意を持って接してくるのだから、本当によくわからない。

 一体彼女達は何が目的なのやら……

 

「ゴメンね!ちょっと今後のこと話してて……それじゃいくよ〜」

 

 長かった話し合いもどうやら終わったようで、千歳さんがこちらにトテトテとやってきた。

 手には彼女の固有武器である大きめのハンマーが握られていて、大きく振りかぶられる。

 

「え〜い!!」

 

 と、そんな間の抜けた掛け声と共に、ハンマーは大きな円弧を描いて足元に叩き込まれた。

 ともすれば幼い子供がごっこ遊びでもしているかの如きほのぼのした見た目だが、

 そんなモノは関係ないとばかりにひび割れる地面、正円状に広がったそのヒビは魔法陣となり淡い緑色の光を発して回復陣が形成される。

 すると、彼女の怪我が逆再生されるように治っていく。

 こぼれ落ちた臓器は宙を浮かんで元の位置に戻り、新たな皮膚が生成され、血溜まりは一滴も残さず吸い上げられる。

 腕も脚も生えていき、鼓動が刻まれ、肌に生気が戻った。

 

「ふぅ……」

 

 そこまで確認して、彼女への魔力の供給を止める。

 これで彼女がこの場でドッペルを発動する事は無くなった。

 とは言いつつもこのままここで寝かせておくわけにはいかないでしょう。

 ので、彼女を抱き起こす。

 彼女のソウルジェムを少しばかり失敬して変身を解除してあげると、栄総合学園の制服が現れた。

 栄……そうね、かなえと同じ学校ね。

 

「あ゛ぁ゛〜…………えっと、やちよさん?一応聞くけどその娘はどうするつもり?」

 

 と、顔を手を当て天を仰ぎながら千歳さんが聞いてきた。

 少し鼻血を出している?

 おそらくいつもの発作だろう。

 

「とりあえず調整屋に運ぶわ。さっきソウルジェムに触れた感じだと未調整みたいだったから」

「わかった。じゃあ送っていく?」

「お願いできるかしら?」

「うん、大丈夫だよ!!……………………ふむふむ……やちアリか……割とマイナーだし、お互い別に相手がいるけれど……だからこそ、”良い”なコレ……

 

 なにか小声でごにょごにょ口走っていたけれど、まぁ……深くは突っ込まない。

 見滝原の魔法少女は時々こうなるけど、正直放って置くのが一番だ。

 

「そういう訳だから、調整屋まで頼めるかしら?」

 

「一体いつからウチはタクシーになったんだか……ま、いいさ。了解。」

 

 うまい棒を頬張った佐倉さんに許可を取ったので、私は恍惚とした表情でぐへぐへ笑っている千歳さんを無視してワゴン車に乗り込んだ。

 

「ほら、ゆまもさっさと来るのです!」

 

「んにゅ、わかった。」

 

 百江さんが千歳さんを回収してきて助手席に座った*1事を確認するとアクセルが踏み込まれ、魔法少女5人を乗せたワゴン車は発進した。

 余談だが、コード887を送信した時には一分半で着たが、それは彼女達の拠点にあるワープ装置のおかげらしく帰りは普通に走って帰らなくてはならない。

 いつでもどこでもワープ出来るなんてドラえもん地味た事は出来ないようだ。(でも彼女達が言うには、そのドラえもんのような固有魔法を使う魔法少女が神浜にいるらしい。)

 一分半という時間は彼女達が連絡を受けてこのワゴン車で出発する準備が整うまでの時間なんだとか……

 

 平日の夜間なので主要な道路はどこも通勤ラッシュで一杯だけれど、渋滞に捕まる前に佐倉さんは横道や抜け道を通って新西区へと法定速度ギリギリで飛ばす。

 佐倉さんは確かまだ14歳だったハズだけれど、免許証どころか戸籍丸ごと幻覚魔法で偽造している。

 私も一応普通免許は持っているけれど……ペーパードライバーだからここまでの運転は出来ないわ。

 そもそもモデル業と大学と魔法少女の三足の草鞋スタイルでやってる以上、ドライブする時間なんて取れないのよね。

 

 

 車内に沈黙が流れる。

 が、別に重苦しい感じは全く無く

 ただ単に『必要がないから話さない』だけ

 

 

 ……それにしてもこの娘、私以上に顔が良いわね。

 モデルとかやったらあっという間に私の人気を追い抜きそうな逸材だわ。

 

 そんなバカな事を考えながら、シートを倒して寝かせている彼女の髪を撫でる。

 先程まではあんなにも綺麗に血に染まっていた髪。

 そう思うと、何故だろう。

 胸の奥がこう……変な気分になる。

 

 その時、車が急カーブで左へと傾く。

 シートベルトをしていなかった(シートを倒しているから出来ない)私は体勢を崩し、彼女の髪の毛の中に顔から突っ込んでしまう。

 

「………ふへ」

 

 彼女の髪からは、微かなシャンプーの香りとそれを塗りつぶす汗と皮脂、そして乾いた血の匂いがした。

 思わず頬が緩み、変な声が出てしまう。

 まったく、私がこんな感情を抱くなんて……本当に不思議な人だ。

 

 

 

 

 

「カヒュッ…」「ピャッ…」「アッ…」

 

 前の三人が一斉に発作を起こし、危うく交通事故になる所だった。

 

☆★☆★☆★

 

 

「アリナ先輩!」

 

 誰かが、アリナを呼んでいる。

 

「アリナせんぱーい!!」

 

 誰かはわからない。けれど、この小動物みたいな雰囲気は、どこか懐かしくて…

 

「わぷっ……えへへ、アリナ先輩〜」

 

 その誰かは、真正面からアリナに抱きついてきた。

 普通なら誰とも知らない人に抱きつかれるなんて嬉しくもなんともないハズなのに

 

 アリナが今感じているのは安心感

 まるで、今まで足りなかったピースが元通りに戻ったような

 そんな満ち足りたような満足感が胸の中に溢れて、思わず抱き返したくなる。

 

 しかし、この身体は動かない。

 別に縛られているワケでは無い。

 まるで、神経そのものが接続されていないかのような

 そんな手応えの無さに私は困惑する。

 

 そうこうしている内に彼女が離れていく。

 

 待って

 

 いかないで

 

 でも、どんなにココロが動いても、身体が動かない。

 

 それなりに離れた所で彼女が立ち止まる。

 くるりと回ってコチラに振り向いた。

 その顔はやはり見覚えが無い。

 

 と、いうか黒く塗りつぶされて誰だかがわからない。

 だが、その顔を見て、ひどく安らぐ自分がいるのだ。

 もう何がなんだか…アリナ自身の事がわからない。

 

 彼女が一歩、後ろへ下がる。

 

 それだけで、アリナの背筋は冷水をぶっかけられたように冷たくなった。

 彼女の後ろには崖

 そのまま下がったら彼女は無事ではすまない、と全身が警鐘を打ち鳴らす。

 

 何故そんな事を知っているかはわからない。

 でもアリナは確信していた。

 そこから飛び降りたら、もう戻ってこれない。

 

 駄目だ

 

 引き返せ

 

 そんな事を叫ぶ。

 でも、声は出てこない。

 空気すら出てこない。

 息が出来ない事に気がつくと、急激に苦しくなってき。

 

 でも、そんな事は関係ない。

 目の前の彼女を止めなければ。

 

 動け、動け、

 

 どうして動けないワケ!?

 

 あの子はまだ手が届く範囲にいるのに

 

 まだ、間に合うのに

 

 何故この身体は動かない

 

 何故、動かないんだ。アリナ・グレイ

 

「さようならなの!アリナ先輩」

 

 彼女は、そう笑うと

 

 下へ、下へと

 

 アリナの届かない所まで(手のひらから)落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 アリナは、あの子を見殺しにしたのだ。

 

 

★☆★☆★☆

 

 

「………………」

 

 気がついたら、アリナの視界にはやたらと青い光で満たされた部屋が広がっていた。

 身体を起こすと自分が寝台の上に寝かされていたのが分かる。

 イマイチ自分が置かれている状況がわからない。

 いまだ本調子とはいかない頭で記憶を掘り起こす。

 

「……あぁ、そうだ。確か…結界に入って……誰とも知らない魔法少女助けて………そして」

 

 脚を見ながらつぶやく。

 

「アリナは死んだハズなんですケド…?」

 

 そこには確かに自分の脚がある。

 決して死んでなんかいない。

 

 だが、あの時、確かにアリナは死んだハズだ。

 身体が冷たくなっていく感覚は今でもハッキリと憶えている。

 半身を失って、あんなにも血を失ったのに、何故アリナは五体満足で生きているワケ?

 

 わからない事が多すぎる。

 多いが……とりあえずこの状況ならばやるべきことがある。

 アリナは再び寝台に横になり、かけられていたタオルを被って消えるように呟いた。

 

 

「知らない天井だ…」

 

*1
千歳さんは百江さんの膝の上に乗せられている。片時も離れるつもりは無いらしい。




少し短いですが、今回はここまでで……



 七海やちよ
・言われずもがな、神浜西の首領(ドン)
・アリナ先輩の九相図を見てしまい何かが壊れた。
・今後、どんどん原作から離れていくキャラのうちの一人


 千歳ゆま
・勇者であり、魔王でもある存在
・正直、ここで紹介する事はあんまりない。
・真相はアナザーストーリーの方で語られると思います


 百江なぎさ
・「ゆまがどこの馬の骨とも知らない魔法少女に誑かされたら一大事なのです!なぎさも一緒に行くのです!!」


 佐倉杏子
・「いや、流石にお前らが運転したら職質されるだろ。アタシが運転するからな。」


 魔法少女専用救命支援要請:コード887(ゆま)
・名前の由来はもちろんテンキーでの入力から


 アリナ・グレイ
・起きた
・なんか夢みた気がする
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