時間の間隔が分からなくなるような真っ白な天井と壁が視界に広がる。窓から差し込む朝日によって、鶴紗は自分が一般病棟の廊下で夜を明かしたことを思い出した。
背もたれもない簡素な長椅子がベッド代わり。少しズレたら冷たい床に真っ逆さま。幸いにして、鶴紗の寝相は良い方だった。
持ち込んだ覚えのない毛布が鶴紗の肩まで覆いかぶさっている。ガーデンの校医か、一柳隊の誰かの仕業か。
ともあれ鶴紗は毛布をどかして上体を起こす。
そこで初めて気が付いた。こちらを見ている丸い瞳に。
「梅様……」
「やっと起きた。何で患者の方が迎えに来てるんだって話だよなあ」
言葉とは裏腹に、梅は責めるような口調でもなく「アハハ」と笑う。纏っているのは飾り気の無い患者服ではなく、百合ヶ丘の標準制服。ただし黒のジャケットは羽織っておらず、ノースリーブのブラウスとスカートだけの姿だった。
鶴紗は寝ていた長椅子から立ち上がって梅に相対する。しかし彼女の目を直視できず、微妙に視線を外してしまう。何から話していいものか、舌が回らず言葉が出ない。
そんな鶴紗のすぐ横を、梅がゆっくりと通り過ぎていく。向かう先にあるのは上へと上がる階段だ。
「まだ朝ご飯には早いし、ちょっと風に当たりに行こうぜ~」
おどけた調子でそう言う梅に、鶴紗は一瞬だけ躊躇したものの、結局は黙って付いて行った。
三階建ての一般病棟の、奥行きが広く上りやすい階段を進む。
百合ヶ丘にはこの一般病棟の他に、特別病棟なるものが存在していた。そちらは様々な事情から他と離すべきだと判断された患者が療養する場所。こことは別の、規模こそ小さいが目立たない所に設けられている。
そんな特別病棟ならともかく、一般病棟の場合は誰かとすれ違う可能性が高かった。今は利用者が少ないとはいえ、皆無というわけでもないからだ。
しかし、幸いと言うべきか、二人は誰とも鉢合わせしなかった。
目的地の屋上に到着する間、鶴紗は自分よりも幾分か大きい梅の背中を黙って見つめ続けていた。言いたいことはあったはずなのに。梅に対する罪悪感やら何やらが、先程と同じように鶴紗を躊躇させてしまう。
「着いた。あーーーっ、気持ち良いなー」
梅がドアを開け放ち、大袈裟な声を上げる。いつの間にやら屋上に到着していた。
言われてみれば、確かに気持ちが良い。雨は夜の間に上がっており、代わりに心地好いそよ風が吹いている。未だ薄明かりといった時間帯だが、それはこの場所の風情を損なうどころか、より一層盛り立てた。
ドアを通り抜けてずんずんと先を行く梅を、鶴紗が間を空けて追い掛ける。
そうして二人は屋上の
開放的な空間に、たった二人だけ。たとえ逃げたくなっても逃げ場はない。目の前の先輩との決着を付けねばならない。
「鶴紗、ごめんな」
先に口を開いた梅から出たのは謝罪の言葉。
しかし鶴紗はそれをそのまま受け取れない。
「どうして、梅様が謝るんだ」
若干の怒気も含んだ声を絞り出す。謝罪など欲してはいなかったから。
「鶴紗のこと助けてやれなかったし、気の利いた言葉一つ掛けてやれなかった。梅はいつもそうなんだ。普段は調子良いこと言ってるのに、本当に肝心な時には何もできない」
「そんなことっ……!」
そんなことない――――
とは鶴紗も言い切れなかった。
しかし、そんな話を聞きたいわけではない。そのために病棟の屋上まで足を運んだわけではない。
話を転換させるため、鶴紗は自分から胸の内を明かす決意をする。さもなくば、梅とすれ違ったままだと思ったから。
「済んだことは、もういいんだ。ただ私はあのヒュージを倒したい。私の手で。そうしないと私は子供のまま、先に進めないんだ」
父を、父の存在ごと取り込んだ特型ヒュージ。そいつが人を傷付けるのなら、リリィとして娘として討たなければならない。
代行に促され、一晩考えて出した答えがそれだった。
だが鶴紗の答えは一人だけでは実現できない。仲間の力が無ければ。
そして力以上に、鶴紗の決意を後押ししてくれる者を求めていた。
「でも、いざあいつを目の前にすると、また動けなくなるかもしれない。それが怖い」
鶴紗は淡々と語っているつもりだった。ちゃんと感情を抑えられているかは怪しいと、自分でも分かっていたが。
「だから梅様、もし私が動けなくなった時、傍で支えて。私の新しい家族になってよ」
その時、梅は半開きになった口をきつく締め直した。それからややあって、鶴紗の瞳を正面から受け止めながら再び口を開く。
「家族になれるかなんて、分からない。約束なんてできない。だけど傍で支える。それは絶対に、約束するからっ」
それは鶴紗が心の底から望んでいた解答とは違う。しかしながら、梅ならばそんな風に答えるだろうという予感があった。
いつもの梅に戻ったんだと、鶴紗は安堵する。だから彼女は決心した。もう一度あの特型に、置いてきた過去に向き合ってみようと。
鶴紗にとっては十分な後押しになったのだ。
「……分かった、それでいいよ梅様。あとは、皆次第だけど」
「説得、だな。よし、今日の放課後にでもやってみよう」
懸念の色を浮かべる鶴紗に対し、梅が力強く頷いた。
「大丈夫、きっと分かってくれる」
「はい」
「ただまあ、今は食堂だな。ここの病人食は勘弁だ」
梅の腹から音が鳴ったことで、鶴紗はようやくクスリと笑みを見せるのだった。
『今日のミーティングは訓練場に集まってください!』
携帯に送られてきた梨璃からのメールに従って、鶴紗は屋内訓練場にやって来た。
見上げるほど高い天井の、だだっ広い空間。その片隅に一柳隊のメンバー十人が揃う。
全員の到着が確認できた時点で、レギオン隊長の梨璃が勢い良く鶴紗に向き直った。
「鶴紗さん、もう一度静岡に行ってみませんか?」
真剣な表情で見つめながら、そう言ってくる。
しかしあまりに唐突なものだから、鶴紗は返答に戸惑ってしまった。
「梨璃、話の順序を考えなさい。鶴紗さんが困っているでしょう」
「あっ、私ってば。ごめんなさい」
夢結に窘められて、梨璃が仕切り直す。
「実は私たち、梅様が入院している間に話し合ったんです。鶴紗さんが特型を倒したいのなら、お手伝いしようって。梅様にも少し前に賛成して頂きました」
思いも寄らぬ話に、鶴紗は思わず口を開いてしまう。傍から見ると間抜けな顔をしているだろうと、自覚があった。
「ま、鶴紗さんの考えなど大体予想がつきますから。梨璃さんの優しさに免じて協力してあげますわ」
「こんなこと言ってますけど。鶴紗さんが病棟に泊まる許可取ったり、楓さん色々動き回ってたんですよ」
「お黙り、チビッ子!」
楓が「余計なことを」と言わんばかりに二水の口を押さえにかかる。
一方、梅は素知らぬ顔で鼻歌を歌っていた。
そんな仲間たちへ、鶴紗は素直に感謝の念を表す。
「ありがとう」
それはほとんど真顔だった。
下手に笑顔を作っても、ろくなことにならないと分かっていたので、無理はしなかった。
しかしそんな素っ気ない礼でも十分に伝わったようで、梅はニコニコと破顔する。楓は急に静かになって、鶴紗にそっぽを向く。
「楓さん! 鶴紗さんが喜んでくれて、良かったですね!」
「いえ、だから私は梨璃さんのためにやったのであって……」
「偉いぞー、楓ぇ」
「もう! 結梨さんまで、そんな……」
ツンと意地を張っていた楓だが、背伸びした結梨に頭をよしよしと撫でられて、次第に口元が緩んでいった。非常に分かりやすい。
「では、話が纏まったところで次の段階に移りましょう。あの特型への対抗手段です」
「そうじゃな。せっかく作ったこれ、存分に役立ててくれ」
和やかな空気の中、神琳とミリアムが話を進め始める。
ミリアムの両腕にはチャームケースが抱えられていた。鶴紗のものだ。静岡から帰還後、整備ついでに改造すると言ってミリアムが持っていったのである。
帰還直後の鶴紗はとてもそれどころではなかったので、恥ずかしながら失念しかけていたのだ。百由から提案されたティルフィング改造案の件を。
「私のティルフィング……ミリアムがやってくれたのか」
「いや、わしは百由様の手伝い程度じゃ。時間を掛ければわし一人でも、できないことはないかもしれんが。しかしそれでは時期を逸してしまうじゃろう」
「そっか」
「ともあれ、早速試してみるのじゃ。そのために
一見すると落ち着いた様子のミリアム。だが彼女の頭から伸びるツインテールの先っぽはピョコピョコと揺れている。自分と百由の作品を早く見て貰いたいのだろう。こちらはこちらで分かりやすかった。
広々とした訓練場の一角で、鶴紗は茶色のチャームケースを地面の上に下ろす。持ち主の身長に迫るサイズの直方体。それが鶴紗のマギ操作によって、まるで蕾が花開くように展開する。そうして中から一振りの大剣が姿を現した。
斬るというより叩き潰すという表現がいかにも似合いそうな、武骨で巨大な片刃の剣。鶴紗愛用の第三世代チャーム、ティルフィングだ。
見慣れたはずの機体だが、改造されただけあって細部には違いがある。刃の反対側、即ち峰の側に小さな半球状のパーツが追加されていた。それは切っ先部分と鍔の部分、二か所に取り付けられている。
「これが百由様の言ってたロケットモーターか」
「うむ。加えて言うなら、グリップパーツは重心を調整するために、より重く剛性の高いものに交換しておる。それと、モーターの細かな操作が必要なので、当然コアのOSも書き換え済みじゃ」
傍らに立つミリアムの解説を受けながら、鶴紗はブレイドモードのティルフィングをいつものように握ってみる。
鶴紗の両手両腕にズッシリと重量感が加わってきた。確かに以前よりも重量が増大しているようだ。
「モーターは変形後のバスターランチャーモードにも対応しておるぞ」
「……本当だ。でもまあ、流石にロケット噴射中の命中弾は期待できないか」
「そこは移動用や牽制用と割り切ってくれ」
何度か変形機構を試し、しかる後にブレイドモードへと戻す。改造のそもそもの狙いは、飛行型ヒュージを相手取った近接戦闘にあるからだ。
「このティルフィング
「スペック上、ね……」
「ピーキーな仕上がりになったからのう。それ故にこうして慣熟訓練をしようと言っておるのじゃ」
それもそうかと納得し、鶴紗はグリップを握る両手に更なる力を込める。そうして辺りを見回し、他の一柳隊のメンバーが鶴紗のずっと後方で見守っていることを確認した。
すると傍に立っていたミリアムもまた、後ろに幾らか下がっていく。
そこで鶴紗がようやくティルフィングにマギを込め始めた。両の掌からグリップ、グリップから刀身、そして刀身からロケットモーターへ。一瞬にしてマギが満ちる。
鶴紗は更にマギの操作によってモーターの点火を試みた。天井に向けて真っすぐに立てられた刀身の背に、青白い光が灯る。
次の瞬間、鶴紗の小さな体に圧力が掛かる。ティルフィングが半球状のロケットモーターから炎を吐き出し、持ち主ごと猛進し始めたのだ。地に足を付けたままで。
「くうっ、これはっ!」
歯を食い縛り、振り落とされないようグリップをますます強く握り込む。モーターの向きを操作して軌道を調整し、大きく旋回するように訓練場の中を翔ける。幾ら広大な空間とはいえ、放っておいたら壁に激突してしまうだろう。
そうして何周かしたところで鶴紗は減速を掛ける。足元から巻き起こる埃が煙の如く舞い上がり、足裏が地面と激しく摩擦し下半身を更なる圧力が襲う。百合ヶ丘製の靴でなければボロ雑巾と化していたに違いない。
やがて元の位置に帰還した鶴紗はチャームの切っ先を下げ、ミリアムの方へ向き直る。
「加減してこれって、本当にピーキーだな」
「出力と軌道を変えれば短時間だが空戦も可能じゃぞ。まあ、そのぐらいできんとあの特型に食らいつけんのじゃが」
「だったら、早く慣れないと」
「そうしてくれ。そのティルフィングATは単なる推進ユニットではない。使いこなせれば高度な三次元戦闘を実現できる、全く別種のチャームじゃわい。わしも百由様がここまでやるとは思わなんだ」
そう言われると、鶴紗も身が引き締まる。
あくまでも百由は百由自身のために、この作品の性能を追及したのかもしれない。アーセナルとは大なり小なり、そういうものなのだろう。
しかし、百由が鶴紗の相談に乗ってチャームを改造してくれたのは紛れもない事実。その点は本当に感謝の念しかなかった。
「鶴紗さん」
ミリアムと話し込む鶴紗の所に、チャームを抱えた夢結と結梨が歩いてきた。
「操作に慣れてきたら、戦闘訓練には私と結梨が付き合うわ」
「おー、任せろ鶴紗」
「高速戦闘の訓練は、本来なら縮地を使う梅が適任なのだけど」
そこで、夢結の後ろの方から当人が声を上げる。
「梅はまだ病み上がりだからなー。訓練は見学だゾ」
「貴方、いつも見学しているようなものでしょう」
「いつものは見学じゃなくてサボり」
「自分で言うのね……」
先輩二人のそんなやり取りから視線をずらす。
別の場所では、楓と神琳が真剣な顔を突き合わせていた。時折身振り手振りを交え、何やら議論しているようだ。漏れ聞こえてくる言葉によると、どうやって生徒会に再びの外征を認めさせるか論じ合っているらしい。
確かに、代行の言う通りであった。「仲間を頼れ」というのは正しい選択だった。
もっとも、ここに辿り着くまでが一苦労。回り道もしたし、壁にぶつかったりもした。
しかしいずれにせよ、仲間たちに報いるために今の鶴紗にできるのは、特型を打倒し得る牙を磨くことである。
真鶴・湯河原境界線。
人類とヒュージの勢力圏を分かつこの地は普段は小康を保っている。だが、今日この時ばかりは激しい戦闘が繰り広げられていた。
飛び交う砲声に、甲高い剣戟の音が丘陵地帯に響く。戦場のあちこちに散乱するのは大小様々な灰色の金属片だった。特筆すべきは、ヒュージの残骸が膨大な割に、力尽きた人やチャームの姿が見られない点だろうか。
今、一体のヒュージが小高い丘の斜面を下ろうとしていた。全高が十メートル、卵形の胴体を持つそれはまるで何かに追い立てられるかのように、三本の脚を盛んに動かし丘の麓を目指す。
ところが、道半ばで不意にヒュージの行き足が止まる。進路を変えようというのか、左方向へ旋回を図ろうとするが、その巨体は急には曲がれない。
一瞬の隙を突き、ヒュージの胴体中心に向けて光の奔流が伸びる。それは卵形の体を守るビームコートを押し潰し、灰色の装甲を貫いて、この巨大な生命体の息の根を止めてしまう。
少しの間、惰性で進み続けた後、ヒュージの残骸は丘の中腹辺りで爆散するのだった。
「ラージ級の沈黙を確認。周囲に敵影なし」
丘から遠く離れた廃ビルの最上階、ひび割れた窓ガラスの隙間からチャームの銃身が突き出ている。先程の攻撃はそこから放たれたものだった。
通信の後、銃身はすぐに部屋の中へ引っ込んだ。そこにはセミロングの黒髪を二つ結びに下げたリリィが片膝立ちになり、腕の中にアステリオンを抱えていた。
「了解、ご苦労様。
廃ビルからの通信に答えたのは、地上に陣取るリリィの一団、その中心。薄紫のロングヘアを靡かせ、左手にアステリオンを、右手に手斧を模したチャームを持つ二刀流のリリィである。彼女はこのレギオンの司令塔だった。
「はぁ~っ、とんだ肩透かしですわ」
「何よ、
桃色髪をした長身のリリィが大袈裟な溜め息を吐きつつ肩をすくませた。
すると司令塔のリリィはその態度を嗜めるかのように、亜羅椰と呼ばれた桃色髪をジト目で見やる。
華麗な容姿とは裏腹に、司令塔は雄々しい戦士としての一面も持っていた。それは彼女が二振りのチャームで戦う点からも明らかだろう。
「だって
アックスモードのアステリオンを肩に担いだ亜羅椰が不敵に笑む。整った容貌とモデル顔負けのスタイルを備えた彼女の仕草はとても絵になっていた。
「まあ甲斐があるかどうかは置いといて。ギガント級の行方は気になるね」
依奈の後ろから近付いてきた金髪のリリィ、天葉が話に加わってくる。
「
「ちょっと待ってください…………あった、ギガント級の目撃情報。南下して伊豆半島へ移動中のようですね」
天葉が後ろの方に振り返り、工廠科の制服を纏った小柄なリリィに尋ねる。
そうすると彼女、弥宙は腕の中に抱えたタブレット端末を操作しながら答えた。
「伊豆半島って、もしかして熱海?」
「いや、違います依奈様。海上を通って熱海より南に向かっています。スモール級やミドル級の群れを引き連れて」
「そう、なら良いけど……。でも妙な動きね」
「はい。まるで戦闘を避けて戦力を温存しているような」
依奈と弥宙が首を傾げて疑問点を話し合う。
ギガント級が襲来すれば、陥落指定地域でありながら人の街が残る熱海市は甚大な被害を被るだろう。しかし今回、そんな事態は避けられた。結果だけ見れば喜ぶべきなのだが、あまりに不可解。手放しで安堵してはいられない。
「熱海より南って言ったら、この前一柳隊が外征に向かったのもその辺りだね」
天葉のその言葉に一同沈黙する。無表情になったり、困り顔で眉を下げたり、反応は様々だ。
一柳隊が先の外征に失敗した事実は、噂レベルではあるが、彼女たちにも知られていた。そして彼女たちと一柳隊はレギオン同盟こそ結んでいないものの、そこそこの交流がある。何かしら思うところがあるのだろう。
「私たちに尻拭いが回ってくる可能性があるでしょうか?」
「さあ、どうだろう。ガーデンとしては、主攻は湯河原方面だからねえ」
弥宙の問いに、判断がつきかねる様子の天葉。彼女は強豪レギオンの主将だが、生徒会には属していないため、確たることは言えなかったのだ。
「あら~残念。私、お尻を拭くのは得意ですのに」
「あんたの場合、拭くだけじゃ済まないでしょうが」
亜羅椰の後ろから、緑髪ロングで目つきの鋭いリリィが突っ込みを入れる。戦場の確認……すなわち残敵の有無を確かめ、まだ息のあるヒュージに止めを刺す。その仕事を終えて戻ってきたのだ。
「依奈様、残敵の掃討完了しました」
「はーい。ご苦労様ね、壱」
そんなやり取りの横では、いつの間にか傍に来ていた樟美が天葉の左腕に抱き付いていた。
その一方、茶髪に立派なアホ毛の持ち主、月詩はそわそわとした様子できょろきょろと辺りを見回している。シュッツエンゲルのお姉様が合流してくるのを待っているのだ。
やがて九人全員が揃ったところで、司令塔の依奈から指揮権を返上された天葉が口を開く。
「それじゃあアールヴヘイム、ガンシップとのランデブーポイントに帰投します」
その宣言により、九人は戦場跡を去っていく。
ほぐれない