DESIGNED LIFE   作:坂ノ下

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第4話 フロントライン

 百合ヶ丘女学院の現理事長は元リリィでもある高松祇恵良(たかまつしえら)という女性だ。諸般の事情で体調を崩しがちなため、現在は弟の高松咬月(たかまつこうげつ)が代行を務めている。姉のみならず弟も第一世代リリィとして、かつてはヒュージとの戦闘に参加していた。

 ちなみに、リリィという名称は後付けのものだった。当初はマギに親和性が高いのが女性だけだと知られていなかったし、スモール級やミドル級など小粒な敵が大半だったので、咬月のような男性も矢面に立っていた。マギクリスタルコアを使いこなせる少女たちが主力となって、初めてリリィという名が生まれたのだった。

 その理事長代行に呼ばれ、鶴紗たちは理事長室の中に居た。

 横目で右を見やると、一柳隊隊長の梨璃の姿が。別に怒られるわけでも初めて会う相手でもないのに、彼女は見て分かるほどそわそわしている。原因は、梨璃の更に右に並んでいる少女だろう。

 

「おじーちゃん」

 

 開口一番、結梨から飛び出してきた言葉に梨璃はギョッとする。

 

「違うでしょ、結梨ちゃん。理事長代行先生、でしょう?」

「んー?」

 

 慌てて窘めるものの、当の結梨はよく分かってないようだった。

 鶴紗は鶴紗で「代行先生っていうのも変じゃないか」と思っていたが、余計に場がややこしくなるので黙っている。

 

(みな)忙しいのに呼び立てて、すまんのう」

 

 少女たちのやり取りを気にする様子もなく、執務机の席に座る和装で老齢の男性が語り掛ける。古風な口調で声も若干かすれていた。しかし眼鏡の奥の双眸は衰えておらず、気力の光を宿しているようだった。

 

「時に梨璃君。レギオンの活動は順調かね?」

「あ、はいっ! お姉……白井夢結様にも手伝って頂いて何とか順調です!」

「そうか、それは重畳。結梨君も、寮での共同生活には慣れたかな?」

「うん、楽しいよ」

 

 ここだけ見れば、孫娘との会話を楽しむどこにでもいる御隠居のようである。

 だが実際の高松咬月という人間は、世界屈指の名門ガーデンを率いる者として、政財界からも一目置かれる存在だ。ただの元リリィでも、ましてやただのお年寄りでもない。

 鶴紗の亡くなった父とはちょっとした知り合いだったらしい。まだ幼かったので、詳しいことは知らないが。

 

「鶴紗君。今更だが横浜での、技術実証隊での件はすまなかった」

「いえ、自分でも志願したことですから」

 

 技術実証隊とは近隣のリリィたちを集めて臨時に編成される実験部隊。スポンサーは各自治体であったり企業だったりするのだが、横浜で編成された際、複数の企業を間に介して鶴紗に声を掛けた組織があった。

 

 多国籍企業G.E.H.E.N.A.(ゲヘナ)――――

 

 鶴紗に強化を施し、結梨を生み出した張本人。元々は対ヒュージ研究機関だったが、数々の研究開発の功績によって今や世界を股に掛ける巨大企業へと伸し上がっていた。

 世間からはヒュージと戦う正義の集団と目されているゲヘナであるが、その実、裏では非人道的な実験に手を染めている。鶴紗への強化施術もまさにそうで、今こうして百合ヶ丘の生徒をやっているのは学院に()()されてのことであった。

 

「ゲヘナはともかく、もし防衛軍から出動要請があったら、受けようと思っています」

「……御父上のことかね?」

 

 代行の確認するような問いに、鶴紗は頷く。

 技術実証隊には、相手がゲヘナと知った上で参加した。防衛軍にて戦犯の烙印を押された父の汚名を僅かでも削ぐために。そしてもう一つ別の目的のために。

 しかし横浜の一件で、ゲヘナに協力しても自らの目的は達成できないと察した。それどころか目的以前に命を落としかねない。以前の自分ならともかく、今は死に急ぐつもりは失せていた。

 そこで鶴紗は防衛軍に目を付けた。各地区防衛隊からガーデンへと応援要請が入るのは、ままあることだから。

 とは言え鎌倉府防衛隊からの要請に応じることにも、問題はある。だが鶴紗はその問題は許容した。代行もここでその点を挙げることはしなかった。

 

「ちょうど良い、などと言うわけではないが、鎌倉府防衛隊から応援要請があった。正確には地元のガーデンを通して百合ヶ丘にきたのじゃが。真鶴町(まなづるまち)南西にヒュージの大群が集結しつつあるそうじゃ」

 

 真鶴町といえば鎌倉府南西部に位置する港町だ。陥落指定地域である静岡から程近く、近海にヒュージネストを抱える湯河原(ゆがわら)に隣接した、まさに最前線の土地である。

 地元のガーデンだけでは手が足りないということは、本当に大規模な群れなのだろう。

 

史房(しのぶ)君、あとは頼む」

「はい」

 

 代行から引き継いで、執務机の端の方に控えていた三年生のリリィが口を開く。

 彼女は生徒会長、出江史房(いずえしのぶ)。特務を除いた百合ヶ丘の全レギオンを統括する『ブリュンヒルデ』の役職にある。

 

「外征レギオンに貴方たち一柳隊を選んだのは、真鶴付近に例の特型ヒュージ……ファルケが目撃されたからです。戦闘になればこれと会敵する可能性は高い。まずは現地の防衛軍駐屯地で待機し、要請に合わせて、あるいは必要と判断したら戦闘行動に入ってください。なお現地が最前線であることを考慮して、移動にはガンシップを使用してもらいます」

 

 梨璃は史房からの説明の後、詳細な資料を渡される。持ち帰って隊の皆と検討しなければならない。

 そしてこの後、鶴紗の予想通り、一柳隊は真鶴外征ミッションを受けることにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結梨ちゃん見て見て。お船がちっちゃいよ?」

「おぉ~」

 

 眼下に映る相模湾の光景に、梨璃と結梨が声を上げる。

 海岸線付近を四隻の船が一本棒となって進み、更にその左右を二隻の船が護るように並走していた。真鶴港を目指す輸送船団だろう。

 一柳隊は鎌倉の空を飛んでいた。学院保有の外征用航空機、ガンシップに乗り込んで。

 機体下部に円筒形の居住用ポッドを横に二つ並べたこの飛行機は、長期間の作戦行動も想定しているため、乗員・物資を満載しない限り快適な空の旅を過ごせるようになっている。簡易とは言え、お手洗いやシャワー室までついているのだ。

 

「梨璃、結梨。あまり飛行中の機内ではしゃがないの」

「ごめんなさい、お姉様。でも私、ガンシップって今日初めて乗ったんです! ほら、今までの外征って車とかで移動してたじゃないですか」

「移動先が危険じゃない時や小規模の作戦の時は、そうなるわね」

 

 百合ヶ丘から真鶴町まで、空路ならあっという間の距離だ。だが現在、一柳隊は着陸前に真鶴上空で待機――ガンシップは垂直離着陸機だった――している。機体が巨大なので受け入れる側にも用意が要るのだ。

 やがて、駐屯地の管制から許可が出たのか、機体がゆっくりと下降し始めた。それに連れて地上の様子もはっきりとしてくる。

 分厚いコンクリートの壁に四方を囲まれた土地。飾り気の無い直方体の兵舎や簡易の倉庫が立ち並び、駐車スペースには角ばった見た目の装甲車両や大型トラックが整然と列を成す。しっかりと舗装され開けた空間はヘリポートだ。耐熱処理が施されているはずなので、ガンシップも利用できるだろう。

 ここが静岡反攻に向けた防衛軍の拠点、真鶴駐屯地。敷地の端で濃緑のブルドーザーが動き回る光景から、この基地が建設途上にあることが分かる。

 その駐屯地の中に、ようやく百合ヶ丘のリリィたちが足を下ろす……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇー!? ガンシップ降りちゃいけないんですか!?」

 

 二つあるポッドの内、片方に集合した一柳隊の中で二水の驚きと不平が響いた。

 

「正確には、不用意に駐屯地内を歩き回らないで欲しい、とのことです。ここの業務隊から申し入れがありました」

「ううっ、皆さんすみません……」

 

 レギオンを代表して駐屯地側に報告を入れてきた夢結と梨璃が、その時のことを全員に話す。

 梨璃の顔はいかにも申し訳なさそうだ。別に責任を感じる必要なんてないのに、と鶴紗は思う。

 

「まだ敷地内で工事が続いているから、邪魔してほしくないんでしょう」

「更に言えば、基地の中で万が一にでも百合ヶ丘のリリィに何かあったら、責任問題になるというわけですわね」

 

 夢結に付け加える形で楓がそんなことを言う。

 実際、リリィにとって()()があるとは普通なら思えないが。精神衛生的な保険だろうと鶴紗は受け取っておいた。

 

「勿論、街の方に行くのもナシですよねえ」

「待機中ですから」

 

 すっかり肩を落とした二水に、神琳がやんわりと引導を渡す。折角よその町に来たのだから、覗いてみたいという気持ちは好奇心旺盛な二水でなくとも理解はできる。鶴紗としてはあまり興味が無かったが。

 

「でしたら、良い機会ですわ」

 

 そう言って唐突に椅子から立ち上がった楓がポッドの中をゆっくりと歩き出した。

 何をしているのかと思いきや、よく見ると搭乗口のドアや窓の施錠を確認しているのが分かる。その後、楓は皆のちょうど中心辺りで立ち止まった。

 

「ちゃんと知っておくべきでしょう。鎌倉の防衛隊のことを。鶴紗さんなら思い当たる節があるのではなくて?」

「……流石はグランギニョルの御令嬢だな」

 

 鶴紗は諦めたように溜め息を吐いた。もっとも、いつか話す時が来るんじゃないかと思ってはいた。

 

「鎌倉府防衛隊司令部はゲヘナの息が掛かってる」

 

 鶴紗の言葉によって、梨璃の肩がビクッと震える。次の瞬間には傍らに座る結梨の手を握っていた。

 不安で硬くなった梨璃の顔に、罪悪感を覚える鶴紗。

 

「あのっ、良かったんでしょうか? 結梨ちゃんをここに連れてきて」

「今回の応援要請はわたくしたち一柳隊を名指ししたものではありませんわ。何かの罠という可能性は限りなく低いでしょう」

「それにゲヘナと通じてるのはあくまで司令部。前線の部隊は事情なんて知らないと思う。だから学院も私たちを派遣したんだろう」

 

 楓と鶴紗が相次いで否定したおかげか、梨璃の纏っている空気が柔らかくなっていく。

 

「梨璃、梨ぃ璃?」

「うっ、ううん、何でもないよ結梨ちゃん」

「梨璃、悲しい匂いがしてた」

「そんなことないよー」

 

 感情の変化が分かりやすい梨璃だが、それを一番敏感に感じ取っていたのはやはり結梨だろう。その鋭敏な感覚も、百由たちが依然として解明できない結梨の特質の一つであった。

 鶴紗が先程かけた言葉は無論、慰めなどではない。実際、ここで結梨をどうこうしようとは考えていないだろう。

 それよりも理事長室で代行が気に掛けていたのは、どちらかといえば鶴紗の方だった。気に掛けられる心当たりがあった。横浜の件が終わった後、自分から代行に相談したのだから。

 

「まあ、今回はともかく。今後は注意しましょう、というお話ですわ。それと、何事もこうして話し合うのは大切なことですから」

 

 楓の言葉が鶴紗の胸に突き刺さる。

 一瞬、本当は全て知っているんじゃないかと錯覚する。だがそれはあくまでも錯覚。後ろめたさによって生み出された錯覚に違いない。

 だがここで、一柳隊で話すには、鶴紗の抱えているものはあまりにも私情が過ぎた。

 

「さて、皆思うところもあるでしょうけど、このガンシップ周辺で待機してちょうだい。何か必要な物がある場合、可能なら駐屯地から融通してもらえるはずよ」

 

 夢結が話を区切るかのようにそう言うと、楓や鶴紗に集まっていた注目が薄れていく。

 そうして各々、限られた空間で待機中の時間潰しを探し始めた。

 

「ところでお姉様、政府の人たちは百由様や理事長代行先生が説得してくださったんですよね? それでも防衛隊に気を付けないといけないんですか?」

「そうね。防衛隊は防衛軍の部隊単位なのだけど……。二水さん、お願いします」

「はい、夢結様。えっとですね、まず陸上防衛軍の組織体系についてなんですが。防衛大臣を頂点に統合幕僚監部、その下に各方面軍と大臣直轄の陸上総軍、更に方面軍の下には各地区の防衛隊が存在するんです。鎌倉府防衛隊はこの防衛隊になりますね。防衛隊の規模は地区によって様々で、鎌倉の場合は一個旅団を基幹としています」

「ここで問題なのが、防衛隊が方面軍直轄部隊に比べて高い裁量と独立性を有している点よ。例えばガーデンへの応援要請などは、上級司令部に対して事後報告すれば事足りる。ガーデンと同じく、ヒュージとの矢面に立ってるからやむを得ないのだけど。ともかく、その独立性がゲヘナに付け入られる要因となっているのでしょう」

「へぇ~、そうだったんですか。ありがとうございます、お姉様。二水ちゃんも詳しいねえ」

「詳しいって……。梨璃さん、これ一緒に講義で習いましたよね?」

「えっ、そうだった? えへへっ」

「『えへへっ』じゃないわ梨璃。百合ヶ丘に戻ったら私が復習をつけてあげるから、覚悟しておきなさい」

「はぁい、お姉様」

「梨璃さん何でちょっと嬉しそうなんです?」

 

 鶴紗は一連のやり取りを見て、取りあえず梨璃は大丈夫そうだと安堵する。

 

「わしは隣のポッドでチャームの整備でもするかのう。時間があると分かったら、工房から色々持ってきたのじゃが」

 

 そうぼやきながらミリアムが搭乗口から外に出た。彼女もまた百由と同様、工廠科に属するアーセナルだ。居住ポッドにはある程度の整備道具も積んであるが、アーセナルにとっては物足りないのだろう。

 特にやるべきことも見つからない鶴紗は無造作に辺りを見渡す。

 ポッド一つにつき、完全武装したリリィを八人収容可能。ミリアムが抜けて九人となり、それでも多少は手狭だが、雑談や読書程度なら不自由しない。

 ふと、鶴紗は本の山から何とはなしに目に付いた雑誌を手に取る。それはティーン向けの女性誌だった。いつもの彼女が読むような代物ではない。けれども戯れに、ページを捲って流し見してみる。

 そこには恋愛のイロハについて、極々初歩的で一般論的な文章が載っていた。

 

『まず初めに重要なのは、相手を褒めること。男女問わず、自分のことを見て褒めてくれる人間には好意を抱く。反対に自分語りや自慢ばかりの人間には、誰しも抵抗感を覚えるもの』

 

 本当にありふれた、手垢のついた意見。

 しかし普段この手の本を読まない鶴紗は心の内で「なるほど」と唸る。

 

(確かにそうだ。梨璃は雨嘉のストラップを褒めて仲良くなったらしい。楓も自慢は多いけど、それ以上に他人(ひと)のこと褒めてる……気がする)

 

 人に好かれやすい、信頼されやすい人物を身近な例で挙げてみる。楓とは反りが合わないものの、その点については鶴紗も認めるところであった。

 

(褒める、ねえ……)

 

 雑誌は開いたままで、鶴紗の視線が移動する。

 談笑する二人。夢結と、梅。そんな二人を鶴紗が見つめる。

 夢結は、普段梨璃が惚気てくる通りだと思う。百人いたら百人が認める美人。鶴紗も異論は無い。もっとも、「お姉様の裸を見てるとドキドキする」などというのは要らない情報だったが。

 もう一方の梅はと言うと、夢結ほどの目の覚めるような美人でこそないが、人懐っこくて愛嬌がある。年上だが、可愛い。

 

 笑顔が可愛い。

 仕草が可愛い。

 声が可愛い。

 包容力が可愛い。

 雑なようで料理が得意なところが可愛い。

 

(……先輩たち見比べて、何やってんだ私は)

 

 おかしい。こんなことを考えるなんて。

 以前ならこれ程までに他人に執着するなんて思いも寄らなかった。一柳隊に入る前は。

 そんな風に悶えていたものだから、鶴紗はすぐ横に迫る影に気付くのが遅れてしまった。

 

「鶴紗さん」

「神琳、居たのか」

「鶴紗さんが、そのような本をご覧になるなんて」

 

 手元の雑誌のことだ。迂闊だった。

 神琳の色違いの両目が爛々と輝いている気がした。

 

「これは喜ばしいと同時に、由々しき事態でもあります。雨嘉さん」

「何? 神琳」

「家族会議を開きましょう。わたくしたちの鶴紗さんの一大事です」

「うん……うん?」

 

 話を飲み込めていない雨嘉が、いつもは表情の乏しい顔にありありとクエスチョンマークを浮かべている。無理もない。鶴紗でさえ、ろくに飲み込めていないのだから。

 

親面(おやづら)止めろ」

「その雑誌、ファッション特集を組んでいるでしょう。それもなかなか攻めた内容の」

「そう言えばそんなページもあったな。って話を聞け」

「鶴紗さん。ずばり貴方、恋をしてますね?」

「鯉は食べたことないな」

 

 話がどんどん変な方へと向かっていく。

 もはや逃走は叶わない。郭神琳という人物は穏やかな物腰から想像できぬほど、時々かなり強引になる。

 逃げられないのならば、せめてできるだけ被害を低減させようと鶴紗は試みた。

 

「是非とも応援させてください。わたくしとて恋愛事に長じてはいませんが」

「嘘つけ、絶対手慣れてるぞ」

「そうですね……。いきなり服装を弄るのは敷居が高いでしょうから、まず手始めに髪型を変えてみるのはいかがでしょう」

 

 ここに来て、鶴紗は神琳の企みを理解した。「こいつは私の髪を玩具にする気だな」と。

 

「普段のポニーテールも素敵ですが、お下げ髪もきっと似合いますよ」

「断固、断る」

「まあまあ、ここはわたくしにお任せください。決して悪いようにはしませんから」

 

 強い。神琳の押しが。

 

「助けて雨嘉」

「鶴紗、品評会のコスプレの時、助けてくれなかったよね?」

「うっ」

「それどころか神琳に加勢してたよね?」

「ぐむむっ」

 

 万事休す。

 哀れ、両脇から挟み撃ちにされた鶴紗は美容院のマネキンヘッドと化してしまう。

 

「折角の綺麗な髪なんですから、もっとお手入れしませんと」

「あ、神琳。それが終わったら次はサイドテールにするから」

 

 神琳と雨嘉の間に挟まり、諦め、うな垂れる。

 そんな鶴紗の前に、この大惨事の切っ掛けと呼べなくもない者がやって来る。

 

「おー、いいなあ。ツインテも頼むゾ」

「……梅様のせいだ」

「何でだ?」

「梅様が悪いんだ」

 

 結局、神琳たちが満足するまで解放してもらえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鶴紗たちの真鶴到着から日付が一つ変わり、まだ空の上に星の光が見え隠れする明け方の時間帯。

 真鶴駐屯地は警報や車両のエンジン音によって緊迫に包まれていた。

 それは一柳隊周辺、ガンシップでも同様だった。

 

「何で! どうして私だけ留守番なのっ!」

 

 ガンシップのポッド内、気色ばんで抗議する結梨。その相手はレギオンの隊長、梨璃だ。

 

「結梨ちゃんはこの中で待機して、もし何かあったらガンシップを守ってね」

「私も皆と一緒に戦う!」

「結梨ちゃん、戦闘では私の言うこと聞くって約束したでしょ? お願いだから、今回はここに居て?」

「いやっ、私も行くよっ!」

「お願い、お願いだから……」

 

 無論、梨璃も常に結梨を戦いから遠ざけているわけではなかった。それではレギオンにいる意味がない。

 しかし重大な戦闘には可能な限り加わらないよう取り計らっていた。本来なら、そのような局面にこそ結梨の力が求められるのだが。

 今までにも夢結や楓が、結梨の扱いについて考え直してみてはどうかと提案したことはあった。だが普段は隊長としての権威も権力も振りかざさない梨璃でも、この件だけは絶対に譲ろうとしないのだ。

 梨璃の思うところは、鶴紗にも理解できる。戦闘やレアスキルの使用自体は百由からお墨付きをもらっていた。と同時に、「複数レアスキルの同時使用は何が起こるか分からない」と警告されてもいた。

 事前に注意していても、いざ実戦になると絶対というものは保証できない。ふとした拍子に同時使用してしまうかもしれない。だからこそ梨璃は恐れ、留めようとする。

 どちらが正しい選択なのか、鶴紗には判断がつかなかった。

 

「ほら、あとで機体チェックするから結梨さんに手伝って欲しいなー。お礼にクッキーあげるから。ねっ?」

「うーっ……やる!」

 

 ガンシップ整備のため外征に同行していたアーセナルの上級生にも諭されて。そして何よりも梨璃の泣き出しそうな懇願に、結梨は不満顔ながらも()()()に同意した。

 心配していた他のメンバーも、ひとまず胸を撫で下ろして出撃の準備に取り掛かる。

 そんな中、楓が結梨たちに物言いたげな視線を送っていた。しかし結局は何も言わず、皆と同じくチャームを確認し始める。

 もうまもなく、一柳隊は最前線へと赴くことになる。

 

 

 

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