その後簡単なHR、まぁ主に明日以降の日程などを確認の上、今日は解散となった。
すでに解散しているクラスがあるため、廊下は若干ざわついている。
さて、この後はどうしようか? 学園を見て回るのはもちろんとして、やはり理事長先生に勧められた新聞部を見学に行こうか?
初日から文化部が活動しているかはわからないが、一応新入部員の勧誘もあるわけだからやっていてもおかしくはないだろう。
そんな思考を巡らしていると、お隣さんとなった椎名さんから声を掛けられた。
「あの、暁さん。改めましてこれから一年、よろしくお願いしますね」
「あ、うん。こちらこそよろしく、椎名、さん?」
「はい。あ! 私のことはどうぞ呼びやすいように呼んでください。同級生ですし、特別畏まる必要はないと思いますから」
その椎名さんの言葉に、正直僕はありがたいと思った。
やはり、さん、や君、などをつけると他人行儀な印象が付いてしまいがちだ。
その印象は僕の体質にはあまり好ましくない。
「それは助かる。じゃあ僕は椎名って呼ばせてもらっていいかな?」
「はい! では私は聖士さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「え・・・?」
「あの、駄目でしょうか?」
なんだろうか? いきなりこんな美少女に下の名前で呼ばれ、男としてすごい嬉しい展開のはずだ。
実際、名前を呼ばれた瞬間、心臓がドクンッと跳ねた。
これはあれか? 美少女に突然名前を呼ばれ、思わず有らぬ勘違いをしてしまうという、単純な男子にありがちなあれではないだろうか?
いや、さすがにそれはないか。
椎名には当然そんな意志は皆無だろう。
なにせ相手が僕だ。
そもそもまだお互いのことを何も知らない。
これで椎名にそんな意図があったら僕は彼女を軽蔑してしまうだろう。
一目惚れなんてものはそうそうないのだ。
現にこれほどの美少女を目の当たりにしても、僕は一目惚れはしていない。
まあ存外一目惚れというのは後になって気付くパターンが多いらしいので断定はできないが、まずないだろう。
しかし、この場合身長差もあってか、椎名から上目遣いでお願いされているように見えてしまう。
これを狙ってやっているのなら椎名は意外と積極的なのかもしれないが、おそらく違うだろう。
多分椎名は皆に対してこういう性格なのだろう。
純粋で、優しい子。
そう思いたい。
ただまぁこれと言って断る理由もないので、僕は素直に受け入れた。
「よかった。やっぱり名前というのは呼び方一つで親密さが伝わってしまうというのが私の考えですので、断られたらどうしようって少し心配でした。せっかくお知り合いになれたわけですから、仲良く、そして楽しい学園生活を送りたいですからね。よろしくお願いします、聖士さん」
そう言って椎名は笑顔で握手を求めてくる。
うん。すごく可愛い。
そして今の言葉で椎名が人一倍優しい子であることも確信が持てた。
しかし椎名、握手はまずい・・・。
いや、もちろん嬉しい。
これほどの美少女の手を握る機会などそうそうありはしないのだから。
けど今の僕にとって握手という行為は非常にまずかった。
今の僕ははっきりと、椎名に対してそういった下心を少なからず持ってしまっている。
そんな状態の僕が、握手とはいえ直接椎名の肌に触れてしまえば、良くて鼻血、悪くて失神、最悪出血多量で病院直行である。
無論、自分がどうなろうと椎名の行為を受け取りたい気持ちはある。
だが、触れた瞬間失神する相手を見て椎名はどう思うだろうか?
少なくとも僕なら不快に思うだろう。
椎名が優しい子であるのはすでに明白で、それでも優しく接してくれることも十分にあり得る、が僕としても初日からそんな失態を犯したくはない。
というわけで椎名には本当に申し訳ないが、ここは断るのが得策だろう。
「や、そのごめん椎名。握手は勘弁して――!?」
「勘弁してほしい」そう言おうとして突如後方から声が上がった。
「うほほぉい、マジかよ転校生!? 学園一の美少女と名高い椎名さんの握手を断るとか、お前、男子生徒全員を敵に回すつもりかよ!?」
そういうのは確か僕の斜め前の席の男子。
しかし、彼の言はもっともだろう。
けど僕にもいろいろと事情があるわけで・・・。
「いえ拓真さん、いいんです。今のは私が悪いんです。聖士さんの意志を無視して少し、踏み込み過ぎてしまったと思いますから。だから聖士さん、ごめんなさい」
「いや、椎名が謝る必要はないよ。別に椎名と握手するのが嫌だったわけじゃないから。ちょっと個人的に握手できない事情ができちゃっただけだからさ。この場合謝るのは僕のほう。ごめん椎名」
そう言って僕は頭を下げる。
「い、いえ、そんな。私は全然気にしていませんからッ!」
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。思った通り椎名が優しい子でよかった」
そういうとなぜか椎名は、「あうぅ」とか変な声を出して俯いてしまった。
「あら、意外と口が上手いのね、転校生君は。でもあまりそういう発言を大っぴらにするのはお勧めしないわ」
再び新たな人物の声が上がる。
今度は女子生徒だ。
赤茶けた髪を二つ、三つ編みにしたいかにも優等生然とした女性。
髪を染めている時点で優等生かどうかは本来怪しいところだが、はっきりいってこの学園、黒髪の子の方が少ないんじゃないだろうか、というほどなのであまり関係ないかもしれない。
さすがは自由な校風を謳う学園だ。
「えっと・・・」
彼女の言っている意味がいまいち理解できず、且つ名前も知らないので言葉に詰まる。
「ああ、ごめんなさい。紹介が遅れたわね。私は八束由紀恵(やつかゆきえ)。橘先生に聞いたのだけど暁君はこの後、学園内を見学するのでしょう? 本当は私が案内をしてあげたいのだけれど、この後少し用があって、代わりに彼にお願いしたわ」
「佐藤拓真(さとうたくま)だ。よろしくな、聖士」
うん。正直非常にありがたい申し出なのだけど、なぜそんなことをしてくれるのだろうか?
この学園は優しい子しかいないのか?
「よろしく。ところでそれはすごく助かるんだけど、どうしてそこまで?」
「ああ、八束は学級委員なんだよ」
「正式にはまだなのだけど、私、去年も学級委員をやっていたのよ。その関係で早々に橘先生に今年もやってほしいとお願いされてしまって、特に断る理由もないからたぶんそうなるわね」
「そういうこと、んで責任感の強い八束は編入初日で困っているだろうクラスメイトをほおっておけないわけだ。だが八束にはこの後外せない用事があるってことで、学園に詳しいおれに声がかかったわけだな」
責任感ね。納得。
「なるほど、すごいね八束さんは」
「八束でいいわ。暁君もそちらの方がいいのでしょう? それに私は当然のことをしただけ」
どうやらさっきの椎名とのやり取りを聞いていたようだ。
「助かる。まぁ八束にとっては普通のことかもしれないけど、なかなか自発的にそこまでしてくれる子って少ないと思うよ? まして自分の都合が悪いならなおさらね。代役まで立ててくれる八束はやっぱりすごいよ」
「そ、そう? ありがたく受け取っておくわね! そ、それじゃ佐藤君、あとはよろしく!」
そういうと、八束は足早に教室を出て行く。
何かまずいことでも言っただろうか?
「聖士、お前何ものだよ?」
「は? なにが?」
「マジか、天然かよ・・・」
「だから何が?」
拓真言葉の意味がいまいち理解できない。
「いや、いいや。とりあえず行こうぜ。おれも時間に余裕があるわけじゃないしな」
「そうなのか? 悪いね、それじゃよろしく頼むよ、拓真。じゃあ椎名、また明日。帰るなら気を付けて帰ってね。なんかボーっとしてるみたいだから」
僕は椎名に一言そういうと、拓真と共に教室をあとにする。
しかし椎名大丈夫かな? 体調でも悪かったのかな?
そういえば少し顔が赤かった気がするけど・・・。
まあ最後に、「また明日」とも返してくれたし大丈夫だろう。
お疲れ様です。
ふむ、なにやら序盤はクール属性の子ばかりになってしまう予感。
なんせこの後あのお姉さままで決まっているわけですからね。
さてどうしたものか。ただスイートとポップもどの子を真っ先に登場させておくか非常に迷う。
それでは皆さん次話お会いしましょうさようなら。