教室から出た僕と拓真は現在一通り、移動でよく使う教室や体育館等を回り終え、置いておいた鞄を取りがてら元の教室、2年A組へと戻ってきていた。
当然ながら既にクラスには誰も残っていない。
各々帰るなり部活なりにいったのだろう。
案内を受けている間も至るところで部員勧誘をしている上級者が目についたので間違いはない。
そして一息ついたところで拓真にこんなことを尋ねられた。
「ところで聖士。なんでさっき椎名さんの握手を拒否したんだ? 同じ男としてちょっと理解できねぇぞ?」
「ああー、あれね」
「なんだよ? そういや事情があるとか言ってたけど、あんな美少女の握手、断らないといけない事情とか思いつかねぇぞ」
そう問い詰めてくる拓真。
ここは正直に話しておくべきだろうか?
変に誤魔化すとせっかく友達ができたと思ったのに離れていってしまうかもしれない。
それに、僕はこの学園に決めた最大の理由は自分の体質を克服するためである。
早期に達成するためには、嫌な言い方だが事情を知っている協力者がいてくれた方が都合がいいだろう。
拓真はいい奴だ。
それは案内をしてくれていた時の様子でわかる。
きっと頼まなくても何かと手助けしてくれるだろう。
なんかちょっと僕、嫌な奴じゃないか?
まあそんなことで悩んでいても問題は解決しないので、僕は正直に打ち明けることにした。
「・・・マジか?」
「うん。マジ」
「お前、人生の半分は損してるぞ・・・」
「あはは、僕もそう思う」
正直に打ち明けるとなぜか場がしんみりしてしまった。
もともと教室には二人しかいないので仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「女性恐怖症ねぇ。オレ絶対耐えれる自信ねぇわ」
「いや、別に恐怖症ってわけじゃないよ。会話は普通にできるし、年相応には興味もあるし。ただそう言う下心を持った状態で女の子に触れると、一気に頭に血が上るというか」
「ふーん。つーことは、さっきの椎名さんに対してそういう感情があったわけだ?」
「うっ・・・まあそういうことになるね」
拓真はニヤっと笑い、横目で痛いところをついてくる。
「はっは。なんかちょっと安心したぜ。聖士が特殊な性癖持ってなくて」
おい! それはどういう意味だ? まさか同性愛者とか思っていたんじゃないだろうな?
拓真が大いに笑うのを眺めながらそんなことを考えていると、不意に拓真の携帯電話が鳴った。
「おっと悪い、ちょっと待っててくれ。――げっ!? もうこんな時間じゃねえか」
そう言って拓真は慌てて電話に出る。
どうやら部活の部長さんかららしい。
なんか、「すぐに行きます!」とか言ってる。
あと「部長に見捨てられたら生きていけません!」とか妙に重いことも言っている。
そうして電話を切った拓真は僕に一言。
「つーことで悪い。ほんとは部活案内もしてやりてぇとこだけど、おれ部室に行かなきゃいけねえんだ」
「ああ、気にしなくていいよ。ありがと。部活は1人で回ってみるから」
「そか、んじゃ最初はどこ行くつもりなんだ? 行く前に場所だけでも教えとくぜ」
んーと、どこにしようか?
やっぱり理助長先生に勧められた新聞部かな?
「えっと、新聞部かな」
「は?」
「え? だから新聞部」
「マジか! ならちょどいいや。着いてこい。おれが行くのも新聞部だ」
それはそれは、ナイスな偶然だな。
ということで現在僕たちはそこそこの速度で新聞部へと向かっている。
途中すれ違ったと思われる橘先生に、「こらぁ、廊下は走っちゃいけませんよ!」とか言われたけど、拓真は「悪い響子ちゃん。急がないと部長に見捨てられるんだ」というと「それじゃあ仕方ありませんね」とか言ってスルーされた。
正直担任を響子ちゃんと呼ぶ拓真もあれだが、それについて触れない橘先生にも疑問だ。
しかも、部長に見捨てられるとか意味不明な理由で許してくれるのもおかしい。
橘先生、少し甘いんじゃありません?
まあ一緒になって走ってる僕が言えることではないけど。
そういえば、新聞部の部長さんは理事長先生の娘さんだったっけ。
橘先生がその辺を考慮してるなら仕方ないのか・・・。
そして五分ほど走っただろうか?
ようやく三年生校舎にある新聞部と書かれた教室に到着した。
そして拓真はその勢いのまま扉を開けて中へ入る。
一応僕も流れで後に続いた。
「遅いわよ佐藤拓真君。犬の分際で遅刻なんていい度胸ね。ああ、ごめんなさい、犬が時間を厳守できるわけないわね、私の失態だわ」
そう拓真に向けて強烈な言葉を発する女性。ってか犬って・・・。
拓真、きみは人の体質を笑っている場合じゃないだろう。
そしてそんな僕は彼女を見て驚いていた。
それも当然。なんせ、理事長先生にそっくりなのだ。
容姿もさることながら、特に似ているのがその悠然たるたたずまいと雰囲気。
さながら理事長先生をそっくりそのまま若くしてしまったかのような印象。
ああ・・・この人は危ない。
そんな感覚が脳裏をよぎる。
「ほ、本当にすみませんでした部長ぉ! 決して忘れていたわけじゃないんです! ちょっと油断したというか! なんでもします、なんでもしますからどうか許してくださいぃ! おれ、部長に捨てられたら生きていける気がしません!」
拓真は勢いよく土下座して許しを請う。
正直、遅刻でそこまでするのか? と思わないでもないが、今回ばかりは相手が相手だ。
はっきり言って僕は目の前の女性のことを何も知らない、が、これだけは言える。
絶対に口答えをしてはいけない相手。
さっきの感覚が、理事長先生と同じならば間違いないだろう。
「そんなことは私には関係ないわ。そもそも謝っている暇があるなら早々に指示しておいたことに取り掛かるのが懸命じゃないのかしら?」
部長さんがそう言うと、「わかりました!」と拓真は立ち上がり、教室を出て行こうとする。
おい、僕を忘れてるだろ・・・。
しかし、扉に手をかけたところで「ちょっと待ちなさい」と部長さんに止められ静止する。
「ところで拓真君、彼はあなたと一緒に来たようだけど、その説明はないのかしら?」
「あ・・・」
うん。絶対に頭から飛んでたね。別にいいけど・・・。
「初めまして、今日からこの学園に編入してきました暁聖士です。拓真とは同じクラスになったのでさっきまで学園の案内をしてもらっていたんです。ですからあまり責めないであげてください」
「おお~聖士ぃ~!! そうなんすよ部長!」
自己紹介ついでに拓真を庇ったらなぜか泣いて抱きつかれた。正直止めてほしい・・・。
「そう。でもそういう事情があるなら事前に連絡を入れるのが筋よね。ということは結局、拓真君に非があるということじゃないかしら?」
確かに。それを言われてしまったら反論はできない。
拓真も庇ってもらった嬉し泣きから一転、真っ青だ。まるでムンクだな。
しかし、この時点で僕は、拓真以上に大きな失態を犯していた。
僕には拓真を庇っている余裕など本来なかったのだ。
「まあいいわ。それより暁聖士君。あなたのことは母から聞いているわ」
「そうですか。そんな気がしてました」
これについてはなにもおかしなところはない。
そもそも新聞部を勧めたのが理事長先生で、その娘さんが部長なのだ。
話が事前に通っていても不思議はない。
ただ、ここからが問題だった。
部長さんは意味深的な笑みを浮かべ、僕にこう言った。
「ところで暁聖士君。初めましてというのは些かつれないんじゃないかしら? 私の記憶ではあなたと会うのはこれで二回目だと記憶しているのだけど?」
「・・・・・・え?」
今のは僕の聞き間違えだろうか?
そんなはずはない。これだけ印象深い女性と会っていれば忘れるわけがない。
いや、もし子供のころにあっているのであれば自信はないが、それを言ったら部長さんだって同じだろう。
僕みたいに特に目立ったところのない相手を覚えているだろうか?
「あの、人違いじゃないですか?」
ひとまず場を持たせるためにそう答える。
今思えばこの時、どうしてこんなことを言ってしまったのだろうかと、後になって後悔した。
はっきりと「すみません、覚えていません」といった方が幾分かましだった筈だ。
これでは「あなたの記憶が間違っているのでは?」と言っているのと同じだ。
「そう、覚えていないの・・・。仕方ないわよね、十年以上前だもの。あの時は荷物持ち、助かったわ。聖士、くん?」
そう笑顔で問いかけてくる部長さん。
ただ僕にはその笑顔が非常に恐ろしく見えた。
そして同時に僕の中の忘れ去られた記憶が蘇る。
「ま、まさか・・・砂夜(さや)ちゃん?」
「なにぃぃ!? 聖士お前部長と知り合いだったのか!? 一体どういう関係だ! 部長は渡さねえぞ!」
「あなたのものになった覚えはないわ、拓真君。それより犬は少し黙っていて頂戴。聖士君、思い出してくれたようで何よりだわ。ところであなたは母から新聞部を勧められていたはずだけど、入るのかしら? もちろん入るわよね」
部長、もとい神楽坂砂夜先輩の言葉に拓真も僕も即答するのだった。
「あ、はい・・・」
十年ほど前だろうか? 確か理事長先生と会ったのは。
つまりその時に一緒に砂夜先輩とも会っているのだ。
しかも会っただけではなく、本人から街を案内して欲しいと言われ一緒に出掛けたのだ。
ただ案内をするはずがいつの間にか荷物持ちをさせらていた。
今思えば町案内は口実で、ただ荷物持ちをさせたかっただけでは? と、今の砂夜先輩を疑ってしまう。
その時砂夜先輩は小学二年生。
でも、その時は髪は今の様な長いストレートではなく、ショートだった記憶がある。
女の子なんて髪型一つで印象がガラッと変わってしまう。
ましてその記憶が十年前ともなると覚えているの無理だと言いたい。
「それじゃあさっそく仕事を頼もうかしら? 拓真君、あなたの仕事を彼にやってもらうからあなたは別のことをお願い」
「え? 今からですか?」
「何か問題でもあるのかしら? あなたはもう、うちの部員でしょう? なら部活見学は必要ないわよね?」
「はい、なにも問題ありません!」
「そう。いい返事ね」
なぜだろう? 逆らえる気がしない。
これはあれか? 理事長先生に対して誓ったあれが、本能的に娘である砂夜先輩にも適用されてしまったのだろうか? いやそうだろう。それしかありえない。
まあいいか。どのみち最終的には新聞部へ入る予定だったわけだし。
「それで、僕は何をすればいいんでしょうか?」
「取材よ。そうね、ちょっと待ってもらえるかしら。もうじきカメラマンが来るわ。まあ正式にはカメラウーマンかしら」
カメラウーマン? つまり女性?
というかそんな本格的にやるんだ。
とか思っていると、早速後方の扉が開き、外から女性が入ってくる。
ただその女性、正しくは女子生徒。
ところどころ制服をはだけさせているため色々と危うい。
何やらすでに疲れた様子で膝に片手をついているため、第二ボタンまで開けられたシャツの隙間から胸の谷間が覗いている。
直感が告げている。
この人、砂夜先輩とは逆の意味で危険だ。
「おまたせ~。望月エレナさん参上よぉ~」
そう言ってもう1人の危険人物は部室へと入ってきた・・・。
お疲れ様です。
えっと、砂夜様うまくかけているでしょうか? わかりやすくするため若干イメージよりもSっ気を強くしております。
そしてあの人も出てしまいましたね。
本当は次回の予定だったんですがこの形が一番いいと思ったので。
さて、次回はさらに2人出てきますよ~
それでは感想等お待ちしております、さようなら。