アサギ「来たわね。予定よりも早い到着だけど想定内だわ」
アサギは敢えてのうのうとした態度で骸佐を煽った。彼自身から目的を聞き出すためであったが大体の予想はついていた。
骸佐「あんたを殺しに来た。井河アサギ」
骸佐がはニヤリと笑って言うが、アサギは声を上げず笑った。その程度の実力で?と言葉を重ね、骸佐の左後方にあるタオルケットの塊が動き出すのを待っていた。
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骸佐は内心苛立っていた。
不意をついた襲撃は失敗し、その上油断ともとれる様子でこちらを馬鹿にしてきた。
確かに実力は勝てるはずはないが、それを覆す策は用意してきた。なおかつそれを相手が知るはずはない。初撃を確実に直撃できるのであれば確実に殺れる、その算段である。
その油断が命取り、確実に仕留める距離まで近づいて大太刀に手をかけた。
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骸佐「!」
刀はアサギの首をあと数ミリのところで止まっていた。
それと同時に先程までいなかったはずの気配が骸佐の背後にあった。
骸佐「まさ…!」
骸佐が言い切るよりも先に体は後方へと引かれ、そのまま部屋から外へと投げ出された。
アサギ「おはよう、千鳥。よく眠れたかしら?」
アサギは何事もないように言うが、千鳥はどこか不機嫌であった。
千鳥「よく寝れた。今は気分がいいからよく殺せそうだ」
右手を開いたり閉じたりする千鳥にアサギは静止させようとするが、諦めた。だからこそ、
アサギ「確実に生かして連れてきなさい」
と、忠告ではなく命令を言い放った。
千鳥「…分かった」
そう言い残すと千鳥は外へと放り出された骸佐を追って外へと移動した。
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なんだ!?
骸佐は空中へ投げ出された時点でさえ、理解が追いついていなかった。
いきなり現れた殺意の塊に近いナニカに投げ飛ばされ、うまく着地はできたが投げ飛ばされた場所を睨むことしか出来なかった。
骸佐「何者かは知らんが邪魔をするなら殺すだけだ」
意識を保ち、戦闘体勢を構え直し出てきた相手を殺す算段を立て始めた。
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千鳥「馬鹿は来るか」
地面に着地し、数十メートル先の骸佐が構えたことにより千鳥もまた戦闘体勢に入った。黒のジャージを脱ぎ捨て、赤銅色のスーツと
腰部右側面の装甲を拳で2回打ち、軽快な金属音が鳴り響き、千鳥は構えた。
一瞬の間が開くやいなや、千鳥は骸佐へと駆け出した。
無鉄砲な突撃。少しずつ距離は縮まり、十数メートルの位置まで近づいていたが千鳥は一向に止まる気配を見せなかった。
骸佐「馬鹿か!」
少しずつ詰まる距離に骸佐は吠えた。武器を持たない千鳥に対して刃渡り1メートル超の大太刀を持つ骸佐では骸佐が有利であった。
だが、千鳥は約2メートルの地点で両膝を折り畳むように跳躍し、骸佐の顔に向かって両足を鋭く突き出した。
骸佐「!!」
判断が遅れ、太刀を振るうよりも先にドロップキックをモロに受けた。
千鳥「…馬鹿か。優先事項は攻撃より防御だろう」
ドロップキックから立ち上がり、砂煙に対して構える。
千鳥「それに無防備に構えるやつがあるか。俺が教えたこと何も学んでないのか?」
途端、砂煙の中から骸佐が刀を突き出し、突撃してきた。
骸佐「あんたかァ!千鳥ィィィ!」
千鳥「激昂は良くないな。視野が狭ばるぞ」
骸佐の手首を掴み、ヘッドバットを決め、怯んだ隙に大きく投げ飛ばした。
千鳥「さて、骸佐よ。死ぬ覚悟はできてるか?」
骸佐「死ぬ覚悟だと…!?ふざけんじゃねえ!俺はアンタを殺してアイツを殺す!」
千鳥「…そうか。じゃあ、ここから先は殺す気でかかってこい。俺も殺す気でいく」
千鳥の両腕の簡易装甲が滑り落ちる。
千鳥「桐生!『アレ』の腕だけ飛ばせ!!」
瞬間、千鳥が吠える。骸佐も立て直し、もう一度構え直す。
骸佐「アレってのがアンタの奥の手ってやつか?」
千鳥「奥の手…?フフッ、そんなんじゃねぇよ。もっと簡単で分かりやすいものだ。そう、通常装備ってやつ」
そう言い放った千鳥の後方から飛来する物体は千鳥が上げた両腕に装着され、灰色から臙脂色へと変化する。
千鳥「空砲装填、最大火力。20が限界か、十分だな」
両腕を突き出すように構え、2門の砲口が骸佐に向けられる。見た目だけの間合いは先程と変わらないが千鳥が呟いた言葉が事実なら確実に間合いは千鳥が優勢となった。
骸佐「面白ェ!!本気のアンタとやれるンならそれも悪くねェ!!」
千鳥「本気ねぇ。フル装備じゃねえけど死なない程度に殺していいって言われてるからな」
深く息を吐く千鳥。溜息に近いソレは先程まで感じるはずのなかったドス黒い気配が五感を通して、空間が揺れるような感覚を味わわせていた。
千鳥「よく覚えておけ。今までは井河の対魔忍として接してきたが、これからは『赤銅の対魔忍』篠塚千鳥として相手してやる」
赤銅メモ(オリジナル設定等)
峰麻(篠塚)千鳥
千鳥はここ数十年間、養母の峰麻碧の苗字である峰麻を名乗っているためアサギを含めた数名程度しか篠塚の苗字を知らない。
簡易装甲
千鳥が四肢、腰部に装着している日常用の装備。
あくまで簡易的なものなので実質的な攻撃力はないが、実体剣や弾丸を弾くことは可能。