赤銅の対魔忍   作:ignorance

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第三話

骸佐「篠塚だと…?」

 

骸佐は昔に聞いたことがあった。

数ある対魔忍の中で、どこにも属さない異色の存在としてすべての派閥から嫌われているけれど、誰よりも信用をおける一族の名前は確かに“篠塚”だった。

しかしそれは数十年前から姿どころか存在自体が存在していなかったはずである。

……伊達や酔狂で名乗れる名前じゃねぇはずだが?

可能性の話であれば、派閥のなくなった今の対魔忍の状況なら形だけで属することができる。

その中で抑止力として存在するために敢えて名前を変えているというのならおかしな話ではない。

ならば、目の前の男が本物かどうかを確かめることなど容易いことである。

…全力で相対すればいい!

大太刀を再び構え、恐怖に勝る好奇心を全面に曝け出して骸佐は思う。

……誰よりも何よりも強い……!

 

 

千鳥は、名乗った後からの骸佐の態度を改めて評価していた。

今までは癇癪を起こしている餓鬼が馬鹿みたいに暴れている程度にしか捉えていなかった。だが、刃を構え直した男は、

…目標を定めたか。

先程までの無鉄砲さよりも、冷静に目の前の事に真剣に相対しようとしている。

だからこそ、正面から叩きつぶす理由になる。

ハナから叩く事に変わりはない。だが餓鬼と見ていた男が覚悟を決めたというのなら話は別だ。

…還付なきまで徹底的に!!

先程までの体術だけの戦闘である程度の戦闘力は理解できている。

ならば、自分らしく畳み掛ける戦い方に切り替える。

ニヤリと笑って両足を交差させて地面に鋭く爪先を立てて半身になる。

 

千鳥「こっからは素早く行くぜ、遅れるなよ」

 

 

遅れるな、とよく言ったものだ。

これから始まるのが一方的な戦闘だというのに、この男はまだ教育者としての意識が抜けていない。

おかしな話、と言うまでもない。今までの訓練が体たらくに感じるほどの前線における戦い方のレクチャーを実戦経験方式で行おうとするのだ。

…とんでもねぇバカだ…!

骸佐は思う。バカだと思った男は剣戟にすら意識を持たしていない。こっちの間合いの中に入り、殴りこんでくる。追い打ちをかけたら即座に間合いから離脱する。

単純だが、難解なことを当然のように行ってくる。それも斬撃を下手に回避するよりも先に前に出るように突っ込んでくる。それだけならまだしも斬撃に対処してくる。避けたように見せて斬撃に合わせて両腕の装甲をぶつけて刀身を弾く。がら空きのボディに重い一撃を叩き込み、衝撃の弾を撃ち込んでくる。そして、その衝撃を利用して離れていく。

 

骸佐「………っ!」

 

一撃離脱を容易くやってのける。それもこちらの体力を削るやり方で、だ。

普通、自らの間合いにいれたのならできる限り相手に隙を見せないように連撃を叩き込む。それが結果として高打点となる。

それを切り捨て、打点は低いが確実に入る一撃を叩き込む。そしてその一撃を何度も同じ場所に当てることで打点を稼ぐ。

…対人戦で最もやられたくねぇ戦い方だ……!

同じ場所を何度も叩かれることで、そこに意識が集中する。それで不意に別のところを叩く。そしてまた意識が逸れたところでもとの位置に戻す。集中を削ぐことで相手の行動を単純化させる。

そして、先に自分が動くことでこちらの動きを制限させるところが、

(たち)の悪い野郎だ…!

骸佐は跳ぶ。直線的な立ち会いでは不利を悟り、宙を舞うように飛び、確実に一撃を、されど相手の間合いから外れるように身体を捻る。

 

千鳥は含み笑いを隠しながら迎撃した。

しかし単に腕を上げるのでは既に宙にいる骸佐を捉えることはできない。

だが、千鳥は気にしない。

それどころか右足を大きく後ろに振り上げると、

 

千鳥「おや、こんなところにバナナの皮が」

 

勢いよく蹴り上げた。

だが、実際にはバナナの皮なんてものはこの戦場に存在するはずはなく、たとえあったとしてもなんの効果もない。しかしそれが喩えだとしたら話は別である。

大きく蹴り上げたことで千鳥は転んだのだ。単に蹴り上げるのではなく勢いをつけたからこそ出来る芸当である。無論、足が上がるということは流動的に頭は下がるということになる。それを利用して千鳥は骸佐を射線上に無理矢理入れ込んだ。

 

骸佐「なっ!?」

 

無慈悲にも両腕の砲門から放たれた衝撃波は骸佐を捕らえ、墜落させた。

 

 

一瞬の出来事だった。衝撃が骸佐の身体を大きく吹き飛ばし、地面へと叩きつけられた。

骸佐が立ち上がるよりも先に骸佐に影が落ちた。

 

骸佐「……!!」

 

顔を上げた先には砲門を向けた千鳥が立っていた。

 

千鳥「惜しかったな。だが、時間切れらしい」

 

骸佐「時間切れだと…?ふざけるな!俺はまだ…!」

 

千鳥「いいや、終わりだ。ちょうど現当主(ふうま小太郎)が来た」

 

千鳥の視線の先には二人の生徒を連れたふうまの現当主がこちらを見ていた。


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