蘆屋道満の子孫ですが呪術師をしています 作:妖精絶対許さんマン
真依ちゃんの対面に座って十分ぐらい過ぎた。真依ちゃんは挨拶以降、何も喋らずに俯いて着物の裾を強く握っている。かくいう俺も何を話せばいいのか分からずじまいで黙っている。
「ふぅ・・・・・・」
「・・・・・・っ!」
無意識に吐いてしまったため息に真依ちゃんが過剰に反応して着物の裾をさらに強く握って皺を増やす。
「真依ちゃん。初めに言っておくことがある。俺は真依ちゃん、君と結婚する気は無い」
意を決してはっきりと告げる。なあなあで済ませるより、はっきりとしておいた方が良い。たとえ、真依ちゃんのことを傷つけたとしてもだ。
「それは・・・・・・私が禪院家相伝の術式を持っていないからですか?」
「それは違う」
真依ちゃんの言葉を即座に否定する。
「真依ちゃんが術式を持っているから結婚する、持っていないから結婚しないって言う話じゃないんだ。俺はこの政略結婚に乗り気じゃないしそもそも反対なんだ」
呪術界の上層部及び老人連中、名家であればある程生まれてきた子供を術式の有無でしか判断しない。それが例え血の繋がった自分の子供であってもだ。
「それに・・・・・・真依ちゃんはまだ小学生だ。これから先、いろんな経験をするはずだ。それを大人の都合で奪わせはしない」
まずは帰ったらクソ親父と話をしよう。是が非でもこの政略結婚を破談させてやる。
「私には・・・・・・
––––––真依ちゃんは諦めたような、何かを悟っているような表情をしてそう言った。
「痛いのも辛いのも、苦しいのも嫌です。努力するのも嫌いです。努力をしても何も変わりませんから」
「それは––––––そこに隠れてる真希ちゃんも一緒か?」
ガタンッと真依ちゃんの後ろの棚から何かがぶつかる音がした。二人して見ているとゆっくりと戸が開いて、中から頭を押さえて涙目の真依ちゃんに似た女の子、真希ちゃんが出てきた。
「・・・・・・いつから気づいてたんだよ」
「この部屋に入った時から」
「最初からじゃねぇか!」
真希ちゃんの方は強気な性格か。・・・・・・真希ちゃんの眼は自分が置かれている状況に屈していない。『何がなんでも見返してやる』っていう気迫のようなものを感じる。
「よし、二人とも。動きやすい服に着替えておいで」
「えっ?ど、どうしてですか?」
そんなことは決まりきっている。子供がすることなんてただ一つ。
「決まってるだろ––––––遊びに行くんだよ!」
禪院家から動きやすい服に着替えた二人をこっそり連れ出した俺は禪院家近くの駐車場に止まっている蘆屋家の送迎車まで二人を連れて来た。
「ほらほら乗った乗った。時間は限られてるんだ。周れる所は片っ端から周るぞー!」
「ちょ、ちょっと待てよ!いきなり何すんだよ!?」
「み、道正様・・・・・・今からでも戻りませんか?いま戻れば誰にも気づかれないと思いますし」
「いや、もう気づかれてる。気づいて放置してるんだよ、あの爺は」
禪院直昆人は好きなだけ話せと言った。なら、好きなようにさせてもらう。今は十一時か・・・・・・昼飯食べてから、場所によっては一ヶ所ぐらいしか周れないかもな。
「柳木さん、ここから近くて昼飯食べれて遊べる場所とかない?」
「ショッピングモールなどは如何でしょう。大抵の店は揃っていますし、何より近いですので」
「よし、ならそこにしよう。柳木さん、運転お願いします」
「承りました」
長く蘆屋家、さらに言うなら長く俺の送迎や移動の際の車の運転を担当してくれてる柳木さんの案を採用して、未だに渋っている二人を無理矢理車に乗せてシートベルトを締める。・・・・・・側から見たら女児誘拐の現場と勘違いされるな。俺も助手席に乗り込んで、シートベルト締める。シートベルトを締めるのを確認した柳木さんが車を発進させる。
「おい!私らは行くとは一言も言ってねえぞ!!」
「そ、そうです!こんなことしたら、道正様の立場が!」
「さっきも言ったが子供が一々細かいことを気にするな。子供の仕事っていうのは笑って怒って泣いて遊ぶもんなんだよ!それは、子供全員が持ってる権利だ!何かあれば俺が責任を取るから今は楽しめ!」
隣の柳木さんが小さく笑っていた。
「道正様、道長様に似てきていらっしゃいますね」
「柳木さん。それ、褒めてます?」
「もちろんですとも」
祖父さんに似てるって言われてもあんまり嬉しく・・・・・・ないわけじゃないけど。正直、クソ親父より祖父さんの方が好きだったし。
「あの、道正様。道長様って言うのは・・・・・・?」
「蘆屋家先代当主、俺の祖父さんだよ。あと、真依ちゃん。様付けしなくていいから。道正でもいいし言いにくいならお兄さんでも良いぞ」
「なら、道正。あんたの祖父さんってどんな人なんだよ」
「お姉ちゃん!?」
さっそく真希ちゃんは俺を呼び捨てにして、真依ちゃんが驚いてる。
「御三家程の発言力は無いけど蘆屋家もそれなり長い歴史の家でさ。その歴史の中でも先祖の蘆屋道満に並ぶとすら言われて、若い頃は目についた呪霊を片っ端から払ってたそうだ」
「若かり頃の道長様はそれはもうお強かったです。私も何度も道長様と任務を共にしましたが、特級相当の呪霊ですら赤子の手を捻るように祓徐されたお方でしたから」
なんでも呪術界上層部からは特級呪術師の昇進の打診があったそうだがその話を蹴ったそうだ。祖父さんいわく『そんな肩書き一つで人が救えるならその肩書きを受け取ろう。だが、その肩書き一つに振り回されるなら断る』と言ってその話を断ったそうだ。
「道正・・・・・・さんのお祖父様は今も呪術師をされているんですか?」
「・・・・・・死んだよ、五年前に」
「あっ・・・・・・ご、ごめんなさい」
「真依ちゃんが謝ることじゃない。祖父さんが死んだのは・・・・・・蘆屋家の宿命みたいなものだからさ」
祖父さん––––––蘆屋道長は現当主蘆屋道宗との当主の座をかけて呪いあい、命を落とした。そして、クソ親父は蘆屋家の当主になった。
「少し暗い話になったな。ほら、見えて来た」
ショッピングモールが見えて来た。連れ出した以上、二人には思いっきり楽しんでもらおう。
・蘆屋道正②
実はお祖父ちゃん子。父親の道宗より祖父道長の方を尊敬している。呪術師として目指す姿はやっぱり祖父。
・蘆屋道長
道正の祖父にして祖先の蘆屋道満に並ぶとすら言われた傑物。若い頃は任務関係無しに呪霊を払いまくっていた。呪術界上層部から特級呪術師昇進の話がきたが蹴った。後々、この件で実子の道宗と揉めた。
・禪院真希
真依の姉。妹が心配で棚に隠れていた。口では文句を言いながら実は真依以上にショッピングモールに行くのを楽しみにしている。
・柳木さん
道正の送迎担当の男性。呪術師でもある。階級は準一級。既婚者で息子がいる。息子は道宗の側仕え。