最強ノ一振り   作:AG_argentum

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詰め込みすぎた気はしてる

ー追記ー

いくつかの点を修正しました。

白神 紫音様、誤字脱字報告ありがとうございます



来栖響①

「それで、うさみ? 一体何するのよ」

 

「まあまあ落ち着いてこなみ。一先ず来栖さんにトリガーについて説明しないと」

 

 宇佐美に同行する形で地下のオペレータルームまで来栖と共についてきた小南がウズウズとした様子で宇佐美に問い詰めるが宇佐美がどうどうと宥めた。

 

 宇佐美はそれからデスクに置かれたトリガーを専用の電気ドライバーで開けると中から七つのチップがセットされている電子板が顔を覗かせた。

 

「取り敢えず来栖さんがよく使ってたパターンにしといたんだけど。叢雲(むらくも)がうちに置いてなかったんだよね」

 

「叢雲?」

 

「ヒビキが使ってたトリガーの名前よ。あれが玉狛(ウチ)に無いのは当然といえば当然よね。そもそも量産されてないみたいだし」

 

 残念、と言った具合に宇佐美が首を左右に振るが小南がそれをフォローする。

 

「そんなことより説明するんでしょ。あたしこうゆうの苦手だからあんたに任すわ」

 

「オッケー。それじゃあ来栖さん、トリガーについて解説するよー」

 

「お願いします」

 

 そこからの宇佐美は能弁に語り始めた。

 現在来栖のトリガーホルダーには(メイン)に"弧月"・"旋空"・"シールド"。(サブ)に"弧月"・"グラスホッパー"・”シールド"・"バッグワーム"がセットされており、一つ一つの特徴を詳しく説明がなされた。

 

 

「一通り説明も終わったし次は起動してみよっか。来栖さん、はいどうぞ」

 

 電気ドライバーで絞めなおされたトリガーをポンと宇佐美は来栖に手渡した。

 

「起動って言われても」

 

 右手にあるトリガーを一瞥する。別にスイッチが取り付けられたわけでもないトリガーをどのようにして起動させるのか来栖には皆目見当がつかなかった。

 

「別に変にかしこまる必要ないわよ。起動するって意思を明確に示せば勝手に起動するから」

 

 何も難しくはないといった具合に小南は白色のトリガーを取り出し

 

「トリガー起動(オン)

 

 小南の体がトリオンで構成された戦闘体へと換装される。

 

「あっ、小南先輩。髪型も変わってる」

 

「戦闘体は体の一部をいじったりすることも出来るからね」

 

「へ〜」

 

 つくづくオーバーテクノロジーの塊であるトリガーを再度来栖は見やった。

 

「ほら、手本は見せてあげたんだからあんたもさっさとやりなさいよ」

 

「わかりました」

 

 促されるままに来栖は先ほど小南が見せてくれたようにトリガーを突き出し、口を開けた。

 

「トリガー、起動」

 

 [トリガー起動開始]

 

 [起動者 実体走査(スキャン)]

 [戦闘体生成 ]

 [実体を戦闘体へ換装]

 [メイン武装展開]

 

 [トリガー起動完了 ]

 

 どこか無機質な機械音が直接来栖の体に伝う。

 そして声が完了したことを告げたとき、来栖の体はその姿を変えていた。

 

 黒を基調とし、ひざ元まで伸びたロングコート。左右両腰に添えられた長短二種の刀。

 ここまでなら今来栖の目の前にいる二人もよく似た装いの人物を知っている。

 現A級・個人ランク1位。太刀川慶とほぼそっくりと言っても過言ではない。しかし。

 

「来栖隊の、エンブレム」

 

「京介君のデータからサルベージしてきた。やっぱり来栖さんならこうじゃないと」

 

「あの、エンブレムってひょっとしてこれのことですか?」

 

 来栖は小南の視線の向けた先、纏われた黒コートの肩に取り付けられたマークを引っ張りながら指摘する。

 

 上部は“A”と“00”とが表されており、下部には十字に交差した刀とその交差点で砕かれているように描かれている鎖があり、さらにそこからX状に細い線が伸びているのを大きな円が覆っていた。

 

「そう、それが来栖隊のエンブレム。ボーダーの精鋭部隊だけが着けれる特別な証なんだよ」

 

 宇佐美はどこか懐かしむような声でそう言った。

 来栖は自らの過去の残滓を凝視する。それこそ穴が開きそうになるほどに。しかし。

 

「だめだ。全然思い出せない」

 

 来栖は諦めたようにつぶやいてしまう。

 

 確かに宇佐美に似たように懐かしい気持ちにもなった。見覚えがある気もする。

 しかしそこまでなのだ。これだ、と明確に思えない。過去の自分との確かな繋がりを持てないでいた。

 

「ん~、そっか。隊服を見たらもしかしたら、って思ったけど」

 

「すいません、不甲斐なくて」

 

「ああ、いや。別に責めてる訳じゃないから!」

 

 宇佐美が発言の意図を釈明する。

 もちろん、来栖もその発言が善意に寄るものだとは理解していた。

 しかしそれでも来栖は申し訳なさで胸がいっぱいになった。

 

「……。ねえ、ヒビキの準備も出来たことだしそろそろ訓練始めてもいい?」

 

 どんよりとした二人の間にある空気を払拭するように小南が口を開けた。

 

「そう、だね。うん! そうしよう」

 

 小南の言葉に釣られるよう、若干から元気にも見える宇佐美が手元のキーボードを操作する。たたき続けられたキーボードがタンッと子気味良い音を打ち終えられた後、再度宇佐美は口を開いた。

 

「こなみ。1番の訓練室用意できたよ」

 

「わかった。ヒビキついてきて」

 

「了解です。それじゃ行ってきますね、宇佐美さん。あと……」

 

 小南の後ろに続き、訓練室に入ろうとする来栖が顔を見せないよう宇佐美に背を向けながら言葉を続ける。

 

「さっきはすいませんでした」

 

 まるで捨て台詞のようにそう呟いて訓練室へ続くエレベーターへと姿を消していく。

 その背を見送り、自分以外がいなくなったオペレータールームで宇佐美はか細い声でつぶやいた。

 

「別に、謝らなくてもいいのに」

 

 =======

 

 

 

「で、何するんですか? 小南先輩」

 

 訪れた訓練室の広大な空間にひとしきり驚いた来栖は小南にそう問いかけた。

 

「なぜ地下にこれほどの空間が?」と来栖が聞けば「トリオンのおかげよ」とコナミが返し、もう来栖は何も言えず、トリオンに不可能はあるのか? などと考えてしまう程思考が麻痺していた。

 

「何って訓練室に来たんだから戦闘に決まってるでしょ」

 

 小南は何をいまさら、と説明するそぶりを一切見せない。

 そんな様子に来栖は挙手し、疑問を一つ投げかけた。

 

「あの、俺医者に激しい運動NGって言われてるんですけど戦えるんですかね」

 

 少なくとも来栖は戦えるとは思わなかった。あくまで来栖は日常生活に支障をきたさないと判断されて退院している。なので走ったり飛んだりは圧倒的NGの行為だった。

 

「何言ってんのあんた。換装してる時点でそんなの解決済みよ」

 

「はい?」

 

 小南の呆れたような言葉に来栖は首をかしげてしまう。

 

「あんた迅から何も聞いてないの?」

 

「聞いてませんけど?」

 

 どういうことだ? と来栖は小南に答えを求める。

 

「まあ、言うよりやって貰った方が早いわね。ヒビキ、取り敢えずあそこまで走ってきなさい」

 

 小南は訓練室の壁を指差す。

 

「えっと、ジョギング(ジョグ)で?」

 

「いいわよそれで。ただこっちに帰ってくる時は全力で走ってきて」

 

「了解です」

 

 ストレッチを軽くしてから指示されるままに来栖は壁の方へと緩いペースで走り始めた。

 

 地面を踏みこむ度に体に訪れる反発感に走っているという実感と久しぶりに走れた感動を覚えた。そして来栖が壁際についた頃にはその感動は違和感に変化する。

 

 走ったのちに訪れるであろう爽快感と疲労感。その内、後者が全くと来栖は感じれなかった。

 

 ひょっとして、と来栖は一つあたりをつける。

 

 訓練室の壁に左足を押し付けるようにクラウチングスタートの構えをとり、勢いよくその左足を蹴りだした。

 流れるように右足、左足とを交互に入れ替え、来栖は今まで体験したことがないほどの風を全身で受け止めた。

 

 なおも感じない疲労にどこまでも走れそうな全能感を覚え自然と笑みが零れる。

 

「停まって! 来栖さん!」

 

「え? あっ」

 

 いつの間にか通り過ぎていた小南からの警告に気を取られ、狭くなっていた来栖の視野が一気に広がった。

 

 壁だ。風の、ではなくトリオンで構築された硬質感溢れる純白の壁へと来栖は突っ込もうとしていた。

 

 ヤバイ! と来栖は考えるまでもなく足先に力を込める。しかし走りながらの姿勢のまま、爪先でいきなり勢いを止めに行ったのが間違いだった。

 

 人外的な身体能力を得るトリオン体であってもそれこそトリオン体が生み出した圧倒的加速を瞬く間にその場に踏みとどまらせる事は叶わなかった。

 爪先の接地感が一気に消え、束の間の浮遊感を味わう。見える世界はゆっくりと上下反転しながらも小南の焦る顔が見えてしまった。

 

 来栖の体は前につんのめる程度では収まりきらず、体を半回転させ背中を壁で強打させた。

 

「ぐふぇ」

 

 肺の空気が無理矢理押し出され、カエルが潰れた様な声を出してしまう。そしてそのままズルズルと足を天井に向けたまま来栖の体は壁に添うようにずり落ちた。

 

「来栖さん!」

 

 狼狽とした様子で小南は来栖のもとへと駆け寄りその安否を確認する。

 頭を軽く打ち付けるように地面にたどり着いた来栖は問題ない、とへにゃりと笑って見せその顔に小南は安堵する。

 

「もう、心配させんじゃないわよ」

 

「いやほんとごめん」

 

【とまあこんな具合に戦闘体だと身体能力が大幅に向上するんだよ。大丈夫? 来栖さん】

 

 どこからともなく天の声、ならぬ宇佐美の声が訓練室に流される。

 

「ひょっとしてこの状態(戦闘体)だと痛みも緩和されるんですか?」

 

 打ち付けた背中からは激突した勢いからは想像を下回る痛みが感じられる。生身の時にせいぜい軽く転んだ程度の痛みだ。

 

【そうだよ。戦闘体だと痛覚の設定とかが出来て、なんだったらゼロにすることだってできるんだから】

 

 宇佐美の言葉にもはや来栖は驚かなかった。

 

【それじゃあ、そろそろ特訓はじめよっか。訓練用のトリオン兵を出すよ】

 

「まってうさみ。悪いんだけどモールモッド出して、プレーン体よ」

 

【ええ!? でも】

 

「いいから」

 

【も~。わかったよ}

 

 渋々といった具合に宇佐美は返答し、数秒後には来栖たちのいる訓練場にプログラムで構成されたトリオン兵が現れた。

 

 以前来栖が病院の屋上で見たトリオン兵とは明らかに違う。思わず来栖は目を細めた。

 

 それに加え来栖は胸のざわつきを覚えた。モールモッドと呼ばれるらしきトリオン兵を見れば見るほどその感覚は強まる。 

 

【来栖さん、用意はいい? 】

 

 スピーカー越しに宇佐美から声が確認の声がかけられる。

 その声にざわつきは蜘蛛の子を散らすように消え失せた。

 

 先ほどのざわつきは何だったのかと思いつつも自分のもつ武器を確認していく。

 

 先程のダッシュでこのトリオン体()のトップスピードの感覚はある程度掴んだ。細かい加・減速は未だ無理だろうがこのダッシュは十分武器なはず。

 

()のほうも十分に冴えている。

 

 武器となる剣、右腰にセットされた弧月を左手で抜き放ち、落とさない程度に軽く握る。左腰にセットされた短い弧月は抜かないでおいた。来栖はそもそも両利きではなく左利きであり、剣を振るうという今の自分に馴染みの無い行為が右手では十全に出来るとは思わなかったためである。

 また構えは取らないでいた。剣の素人である今の自分に決まった型は張りぼて同然。そう判断したからである。

 

 ───だから。

 

 トンットンットンッ、と来栖は軽く、水滴が落ちるようにリズミカルに飛び跳ね始める。これが今の来栖が知る、一番速く動く為の型。いや、状態だった。 

 

 視線は一点、40メートル先にいるトリオン兵。

 より多くの情報を得るために来栖の眼は見開かれ、敵を捉える。奴より先に動く為。奴より先に此の手にある刃を払う為。

 

 来栖の思考は、ただ敵を切ることだけに()()する。

 

【訓練、開始! 】

 

 宇佐美の合図と同時に来栖の脚が地面に接す。

 瞬間、来栖は全体重を右脚の五指に乗せ地面を掴み、弾けるように一歩踏み出した。トリオン体によって向上した脚力が来栖を一陣の風へと変貌させ、敵との間合いを一気に潰す。

 

 先ほどの様なミスはしない。二、三歩目で更に加速させた躰を続く四歩目で勢いを殺しに掛かる。

 膝を曲げながら地面に靴のラバーソールを横滑りする様に押しつけ、地面の摩擦で減速・停止を試みた。

 

 ───ズレた。

 

 そんな感想と共に来栖は未だ完全に制御しきれていない自らの身体操作能力の無さに苛立ちを覚え、内心舌打ちした。

 

 停止した敵との間合いは来栖が目指した距離から39センチ遠い場所。

 その距離、2メートル89センチ。

 

 半歩ばかり踏み出せば詰めれる距離だがその時間が惜しい。

 仕方ない、と割り切り眼前の敵を改めて注視した。

 

 トリオン兵の巨体が来栖の視界を埋め尽くし、その不気味さの象徴たる黄色い三つ目が妖しく来栖を見下ろした。

 

 カマキリの鎌を蜘蛛がその身に宿した様なトリオン兵、モールモッドは自らの領域に侵入した獲物を刈り取ろうと反りのある前足を振り上げた。

 

 しかし、遅過ぎる。

 

 振り下ろす気が目に見える。そんなわかりやすい動作を待っていてたまるか、と来栖は左足を軸にしてその場で半回転。トリオン兵を背にし、一気に正面から側面へと移動する。

 

 ガシィ、と硬質な音が来栖の耳に届く。

 先ほどまで自身がいた場所にはモールモッドの振り下ろされた爪が突き刺さっていた。抉られた地面がその威力と残虐さを物語っている。

 

 しかし来栖はお構いなく、脇目も振らずその場で跳躍しモールモッドのガラ空きの背中を確認する。

 

 ───獲った! 

 

 もはやモールモッドの刃が自身に届くことはないと決めつけた来栖は緩く握り込んでいた弧月を力強く握り直し斬撃を放つ為の体勢を空中でとり始める。あとはこの手に持つ弧月が敵へと振るえるまで落下を待てば良い事だ。

 しかし来栖は忘れていた。確信を得た時こそ人は最も油断するという事を。

 

「!?」

 

 まるで来栖の確信を嘲笑うかのようにモールモッドの背から格納されていたらしき刃を伴う節足が新たに展開される。

 そしてそれは空中という逃げ場なき場にいる来栖に襲いかかろうとしていた。

 

 来栖は驚きと共に自らの軽率さを呪い、また揺るがないであろうこの先に待つ自らの未来を察知する。

 

 それは敗北。手に持つ弧月は敵の体に届く事なく、この体はなす術無くあの鋭い刃に切り裂かれる。

 

 そう、諦めかけた時だった。

 

『何負けかけてんだよ、バカが』

 

 まるでその思考(諦める)に至った自身をなじるように。声が来栖の内から響いた。

 

 その声と同時に、来栖は体験した事のない感覚に襲われる。

 背をまるで押すようなその感覚は来栖の胴に襲いかかろうとしていたモールモッドの刃を所々掠める程度に留めさせ、自由落下していたスピードを僅かに早めた。

 

 結果、来栖はモールモッドの背に着地する。

 一連の出来事に来栖は呆気に取られながらも瞬時に判断する。今こそが真の好機であると。

 

「はぁぁああ!」

 

 らしくもなく声を上げながら来栖は弧月を振り上げ、モールモッドの体を横断するように振り下ろす。

 モールモッドの装甲は豆腐のように容易く断ち切られ機械的な断面を覗かせた。

 

「はぁはぁはぁ。はぁ〜」

 

 来栖は周りを見渡し、モールモッドの爪がどさりと力を失ったのを確認してからモールモッドの片割れの背に倒れこむようにへたり込んだ。

 

「まあまあの結果ね」

 

 遠くから見守っていた小南が来栖に近寄り声をかける。

 

【イヤイヤ、モールモッド相手に20秒だよ。それに初めてなら充分すぎるくらいだよ】

 

「あの、小南先輩」

 

「何、ヒビキ?」

 

「さっきの戦闘なんですけど。俺、飛んだ後何しました?」

 

 宇佐美の労りの声を余所に来栖は小南へ疑問を投げかけた。

 モールモッドの側面に移動し、跳躍したところまでは憶えている。

 しかしその後。あの背から飛び出た凶刃。悪く言えば油断がもたらした隙をどのようにして突破したのかわからないでいた。

 

「何ってグラスホッパー使ったんでしょ?」

 

 小南からあっさりと答えらしきものが提示される。

 

 グラスホッパー。

 来栖の(サブ)にセットされているトリガーの一つだった。

 

 宇佐美の説明では高速機動を可能とするジャンプ台を生成する、主にスピードを主軸に置く隊員に好まれ、空中での移動を可能にするトリガー。

 

 そして、来栖が一切使うつもりの無かったトリガーである。

 

 理由としてはグラスホッパーの使用感がそもそも未知数であった事。

 加えて宇佐美の説明ではグラスホッパーの発揮する弾性は独特であり、かなり慣れを要すると言われたからである。

 

 そんなものに手を出すつもりは毛頭、来栖には無かった。

 

 しかし、小南の言葉と。何より結果が雄弁に語る。

 あの局面を乗り切れるのはグラスホッパーただ一つである、と。

 

 思わず来栖は歯ぎしりをしてしまう。

 

「宇佐美さん、聞こえてますよね」

 

【聞こえてるよ。どうしたの来栖さん? 】

 

「今のトリオン兵、もう一体出して下さい。リベンジマッチします」

 

【ええっ⁉︎来栖さん勝ったんだよ? 】

 

「いいからお願いします!」

 

 奥底から湧いた感情のなすままに来栖は吐き捨てた。

 

 湧いた感情は怒り。自らがもたらした油断と、諦めるという思考に至った弱気な自分に怒り(それ)は向けられた。

 

「あー、こうなったら多分止まらないわよ。うさみ、さっさと出して上げたら?」

 

【なら折角だしアタシのやしゃまるシリーズのお披露目を! 】

 

「止めときなさい」

 

 スピーカーから宇佐美の残念そうな声が漏れる中、先ほどと同じ位置にモールモッドが出現する。

 

「ねえヒビキ。あんたどうせ長くここに籠るんでしょ。あたし一通り説明したんだから外にいていい?」

 

「どうぞ」

 

「そっ。ならあとは頑張りなさい」

 

 二体目のモールモッドに来栖が挑みに行くと同時に小南はオペレータールームへと向かう扉へと歩を進め始める。

 

「これでも、思い出さないのね」

 

 大きな悔恨を、小さなその声に乗せて。

 

 ======

 ======

 

 

 雨が降っている。

 

 いつ止むのかわからないほどの雨が降り続けている。

 

『あっ』

 

 あたしがモールモッドの核に弧月を突き刺したと同時にその爪が引き裂こうとした男性が声を上げた。

 

 モールモッドの上に降り立ったアタシは彼を見下ろし、目が合った。

 

 ──また、間に合わなかった

 

 彼の側には恐らく彼の両親らしき人が二人横たわっていた。

 その二人の胸元には雨で薄くなりながらもはっきりと分かる赤がある。

 

 何度こんな光景を今日だけで見たのだろう。

 少なくとも5回。そこから先は数えるのが嫌になって今だけでも忘れようと考える事にした。

 

『あっ、あの!』

 

 彼があたしに声を震わせながらも叫んだ。

 

『俺の、俺の妹知りませんか⁉︎美雨(みう)っていうんです!』

 

ーーああ、またこれか

 

 今日、何度もこれと似た台詞を投げ掛けられた。

 

 息子を知らないか、両親を探して欲しい、この子を助けてくれ。

 

 何も、ただ敵を切るしか出来ないあたしは心に鞭を撃つ。

 

 弧月の切っ先をある方向へ向けて口を開けた。

 それを見て彼の顔は希望が見えた様な顔に変わる。

 

 ごめんなさい。これからあたしは、貴方を裏切る。

 

『あっちは安全だからさっさと逃げて』

 

『そんっ、待って!』

 

 ごめんなさい。

 

『忍田さん、あたしは次どこに行けばいい?』

 

 [小南か! すまない。ならポイントB-3に向かってくれ、砲撃型が街の破壊を開始した。急いでくれ! ]

 

『了解よ』

 

 耳に当てたインカムから次の命令を受け取り、彼の声から逃げる様あたしは次のポイントへと移動を開始する。

 

『待って! 頼む! 待ってくれ!』

 

 ごめんなさい。ごめんなさい。貴方の大切な人を(たす)けれなくてごめんなさい。

 

 あたしはもう彼と目を合わせるのが怖くなって、その場から全力で駆け出した。

 

 雨は、まだ止まない。

 

 ======

 

 ──たとえ何を言われる事になろうとも、あたしは貴方に思い出して貰いたい。貴方の声を聴くことを、貴方が目覚めるのを心待ちにした人がいると知っているから。たとえ思い出したその先に今度は赦しが無かろうとも──

 

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