最強ノ一振り   作:AG_argentum

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ワートリ本編には関係が全くありません。
ただ主人公の個性を発揮させるために書きました。
専門的な用語は使わないようにしましたが何かあればお手数ですが感想の方にてご連絡下さい

また、この話を読んで「あれ、今までのあのフリなんだ?」って思われるかもしれませんが次の話“最強の片鱗”で解説しますのでそちらもよろしくお願いします。




背番号18

『来栖、まだいけそうか?』

 

 暑い日差しが肌を焦がす今日、クーリングブレイク制度*1のお陰で一時ながらテントの陰で冷たい水とスポドリを腹が膨れない程度に飲んでいた俺に監督が話しかけてきた。

 

『今日はペース配分意識したんで最後までいけそうっす』

 

 飲み終えた俺は口元を拭ってから監督の質問に答える。

 

 1年生の夏、初めて経験するサッカー大会の1回戦はいよいよ終盤に差し掛かろうとしていた。

 

『とか言って次のプレーあたりでバテかけるのが来栖なんだよな』

 

『そうそう。これまでの試合でもペース配分考えず飛ばすからすぐガスっ欠になってさ』

 

 俺と同じように冷たい水を盛大に飲み干していく三年の先輩方がからかうように俺をこづく。

 そんな先輩の言葉にぐうの音も出ない俺は何とも言えない表情になってしまった。

 

『多分大丈夫ですよ。今日の来栖、いつもと違って要所でしか走ってないですし』

 

『それだといつも無駄な走りが多いみたいな感じですね』

 

『多いんだよ。ディフェンス下手くその癖にわざわざ戻ってきやがって。前で張っとけっていつも言ってんだろ』

 

 苦言を呈したのは俺の後ろでいつもディフェンスに奔走してくれている二年の先輩だった。

 

 だって申し訳ないじゃないか。奪われたボールを奪い返しに行かずただ待ち続けるなんて。

 

 そんな顔が明け透けに見えたのだろう。呆れるように先輩は言葉を続けた。

 

『お前の武器はその突破力だろうが。苦手なことに体力裂いて自滅とか笑いもんだぞ』

 

 ピィィィとフィールドから審判の甲高い笛の音が聞こえてきた。どうやらもう時間らしい。

 

よし! 残りの時間も集中してくぞ! 

 

『『『おう! 』』』

 

 三年のキャプテンの檄に負けじと声をチーム一同が声を上げる。

 

 さて俺も行こうか、とテントから一歩踏み出したあたりで後ろからのばされた手によってベンチへと引き戻された。

 

 来栖、と呼ばれる声に振り向いてみれば先ほどの二年の先輩が真剣な目でこちらを見ていた。

 

『先輩命令だ、残り20分で1点獲ってこい』

 

『あと20分でですか?』

 

『まだ20分ある、だ。大体おまえ今日2アシストしてるけどどっちもシュートいけただろうが』

 

 確かに。先輩の言う通り今のスコア。2-0は俺のアシストによるものだ。

 

 一応弁解しておくとシュートを狙わなかったのには訳があって、下手に撃ちに行くとスイッチが入って体力の配分が出来なくなるだろうからだった。

 

 無論、先輩も自分の悪癖は理解しておりそのうえで言っている。

 

『残り20分で2点獲ったら帰りはプロテインバー奢ってやる。その代わり……』

 

『ノーゴールだったら奢れ、でしょ。いつも思うんですけど横暴ですよね先輩のコレ』

 

『バッカお前。できると思ってるから言ってんだよ。それでどうする? のるか、この賭け』

 

 自身のプレーに左右されるものを賭けと呼んでいいのだろうか。ただまあ。

 

『わかりました。のりますよ』

 

 まだ入って半年も経っていない俺の事をそこまで買ってくれているのだ。ここで反るのは失礼というもの。それになんだかんだいってこの先輩は優しくノーゴールでも一度も奢らされたことは無い。

 

『よしよく言った! そんじゃ行くぞ』

 

 バシッと背中を叩かれその勢いで俺はフィールドに駆け出し、ハーフウェイラインを少し超えたサイド際についたところで深く目を閉じ試合再開の笛を待つ。

 

 試合再開は自陣深くスローインから。

 

 良いだろう、そこまで言ってくれるのなら残り20分でと言わず1プレーでまずは決めてやる。

 

 審判が全員がポジションに着いたことを確認したのだろう。再開の笛が鳴り響く。

 

 目を見開いて周りを見渡せば実感する。今日も目は冴えている、と。

 

 

 =======

 

 

『来栖!』 『18番来るぞ!』

 

 先輩からのロングフィードと相手監督の叫びが同時にフィールドに轟く。

 

 やってこい。そんなメッセージを込められたボールは相手ゴールに背を向けながらも俺の胸元に収まった。

 

 トンッ、と背中から圧迫感と存在感を感じる。

 相手ディフェンダーがもう何もさせないとばかりに体を密着させたきていた。

 

 鬱陶しいと思いながらも足元でボールをコントロールする。

 

 後ろのサポートを待つか? 

 

 一瞬だけボールから完全に目を切ってフィールドを見渡す。 

 やはり自陣からの急なカウンター。さらには体力が残り少ないということもあり前線、中盤ともに上がってくるのが遅い。

 

 ただそれは相手にも言える事であり、最終ラインのCB(センターバック)二人と俺についているこのSB(サイドバック)以外の計七人は俺の今いるポジションの後ろだ。

 

 後ろを待っている暇は無い。待てば待つ程相手の体制は整えられ、自分のゴールは遠のいていく。

 

 見切りをつけた俺はボールをわざと自陣の方へと少し進める。

 それに追従するよう相手ディフェンスもついてきているが……

 

(70センチ。これだけあれば!)

 

 相手と自分との間に生まれたわずかなスペース。俺は横目でそれを確認してから右のインサイドでボールに触れながらラインを背にする様に体を九十度回頭させていく。

 

 ディフェンスの目には焦って前を向こうとしているのだと思われたのだろう。足を出す様にボールを奪いに来る。

 

 しかし、一歩遠い。

 

 俺は右のアウトフロントを用いてボールを弾く。

 

『あっ』

 

 相手ディフェンダーがやられたことを自覚したのは自身の頭上をボールが通り過ぎかけた時だった。

 繰り出したテクニックの名はシャペウ。相手の頭上を綺麗に超えたボールは誰もいない広大なスペースで小さく跳ねた。

 

 相手は背後にあるボールを追いかけようとするが俺の方が速い。当然と言えば当然であちらはこれから反転からダッシュの2アクション。対してこちらはシャペウの動作で反転をほぼ済ませておりダッシュを既に開始していた。

 

 難なくボールを確保した俺はコーナーに向けてではなく中に切り込むようにドリブルを開始する。

 

 このままGKと一対一に持っていければ一番良いシチュエーションではあるがそうは問屋が卸してくれない。

 

 残っていた相手のCBの一人が少しでも俺の侵攻を止めようと目の前に立ちはだかる。

 

 ここでも尚時間はかけていられない。

 先程の理由に加え、今俺の後ろには一度抜いたSBが挟み込もうと画策しているだろうからだ。

 

 減速は不可。その上で突破する。

 

 右。左とボールを小刻みにリズム良くタッチしていく。その度に目の前のディフェンダーは重心の揺れ動きに耐えようと歯を食いしばりながら俺を睨み付ける。

 

 そして俺とディフェンダーとの距離が4メートルに入った瞬間、勝負の時は訪れた。

 

 仕掛けたのはこちら側。右のアウトフロントでゴールから遠ざかる、それも先ほどよりも僅かに大きなタッチを行う。

 

 相手ディフェンダーから極上の好機に見えたのだろう。足元から離れたボール。試合終盤に差し掛かる中、酸欠になり気味な思考はその好機に体を飛び付かせた。

 

 そんなアクションに俺はほくそ笑んでしまう。

 忘れてないか? 確信した時こそ人は最も油断するんたぞ、と。

 

 ボールと俺との距離は1メートル30センチ。

 あんたの脚では俺より先にそのボールには触れない!

 

 相手の足より先に俺の左の足裏(ソール)がボールに触れる。

 

 見るものによっては俺が無理に足を伸ばしたかのような体勢に見られるだろう。しかし問題ない。このテクニック、ルーレット の始動はそこにある事が切っ掛けなのだから。

 

 足裏で止めたボールを体の方へ引き戻し、ボールを軸に、体で相手を押させつけながら右の足裏で進行方向を九十度変更させ、そのまま相手ディフェンダーを置き去りにする。

 

 結果として起こったのはGKとの一対一。もう一人のCBもカバーに入ろうと走ってきているのが音でわかるがそれよりも先にキーパーとの一対一が成立する。

 

 ペナルティーエリアに俺が入った瞬間、相手キーパーは手を大きく広げるようにしてこちらへと距離を詰めてくる。

 相手との距離を詰める事で必然的にシュートコースは狭まり、それと同時にゴールの可能性は低下する。

 

 臆する事なくキーパーは距離を更に詰めた。これ以上の失点を許す事が守護神としては我慢ならなかったからだ。

 

 俺はシュートを打たなかった。キーパーが詰め寄る。それによりコースが狭まる。しかし同時に、距離を詰めるに比例するあるコースがその決定率を向上させる。

 

 俺は待った。そのコースが完全に光り輝くのを。

 

 何よりも信じたから。平凡なキック力。平凡なシュートコントロール。この場面で活かせない能力に頼るのではなく、()()()()()()()()()()()()()を信じた。

 

 キーパーがその距離を縮める。残り6メートル。ここだ! と俺は右足を踏み込んだ。

 

 ふわり、とボールが宙に舞う。左の爪先、足を滑り込ませるように蹴り上げたボールは嘲笑うかのようにキーパーの頭上を越えようとする。

 

 キーパーも、わかっていたのだろう。距離を詰める事によって生まれるリスク。シュートを打たない俺。そこから俺がチップキックによるゴールを狙っているのだろうと。

 

 その場で止まったキーパーは背面飛びのような姿勢でボールに触れようと試みる。

 

 しかし残念ながら。

 

『あんたの指じゃ6センチ届かない』

 

 指先に掠らせることも許さずボールは無情にもゴールラインをコロコロと転がりそして超え切る。

 

 昂る感情のまま、俺は左手を突き上げた。

 

 やはりFWはこの瞬間を求めてしまう。相手を突き崩し、ゴールをきめ、チームを勝利へと近づける。この時をFWとしての勝利と言わず何と言うのだろうか。

 

『ナイスゴールだ! 来栖』

 

『ウス! ありがとございます。ただもうあと1点、狙いにいきましょう!』

 

 一番近くにいた三年のCFの先輩が駆け寄ってきて、ハイタッチを行う。

 

『欲張りだな、お前。最後まで体力切らすなよ』

 

『勿論っす』

 

 あまり駄弁り過ぎると遅延行為としてカードを出されかねない。俺と先輩は早々にハーフウェイラインまで戻り、ポジションにつく。

 

 ディフェンスからのリスタートである為引き気味のポジションをとった俺に二年の先輩が近づいてきて話しかけてきた。

 

『おい来栖』

 

『あっ、先輩。ナイスアシストです』

 

『あれアシストつくのか? まあ、ナイスゴールだ。あと一点取って俺に奢らせてみろよ』

 

『なんならあと二点取ってきましょうか』

 

『言うじゃん。出来たらバーだけじゃなくてドリンクの方もつけてやる。だから残り時間集中してくぞ』

 

『ウス!』

 

 そう短く会話してポジションにつき直せば審判から試合再開の笛が吹かれた。

 

 そして熱い試合は幕を閉じ、六頴館(ろくえいかん)高校サッカー部は夏の大会一回戦を5-0で突破する事になる。

 

*1
ユース世代を対象に熱中症対策として採られる制度の一つ。3分程時間が取られ、またベンチで休む事が許可される




『お前あの短時間でハットトリックするかフツー?』

『モグモグ、美味いですね。最近のプロテインって』


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