最強ノ一振り   作:AG_argentum

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久しぶり!(クソデカ迷惑ボイス!!)

いやほんとにごめんなさい。
コメ欄で『年内には原作突入』みたいなこと言った人間誰だよ。俺だよ。

言い訳をさせて頂くならばですね。年末に体調崩したとか、ワートリ三期がやばすぎて何度も見直してる内に満足して書く気が起きなかったとかなんですよ。

とりあえず三期の感想。
ヤバない?まじで。何なんあれ。
カゲ&ゾエVS 鋼&来馬先輩の暗黒室内戦。めっちゃカッコいいですやん。
鋼から生えたエスクードを空閑がスコピで蹴るとこの音。あんな軽い感じの音なん。
チカオラ。もうギャグやん。奥寺のあの情けない声よ。

最終戦。
イコさん。あんたアニメであること存分に生かして笑いとりに来てますやん。(試合前)
ヒュースよく耐えれるな。
弓場さん。あんた走るシーンだけでこっちをときめかせるな。何だあの回し蹴りソバット。
二宮さん。実はあんたのあの追尾弾の軌道が二つに描き分けられてたことに俺は感動を覚えたよ。(製作陣の拘りすご!)
空閑。お前のSEの表現もやばいし、相棒のこと完全信じてますやん。
チカちゃん。撃ったね。ついに。これには犬飼ってない人もにっこりだ。
そんで修。やったなお前。勝ったなお前。隠し弾キッチリ刺さってるんだから冷や汗かくな。何だあの追尾弾の軌道。めっちゃ綺麗に打ち抜いてるやん。

はい感想終わり!

とりあえずどうぞ。期間だいぶ空いてるから、どんな話だっけ?って人もいるだろうけど前話の最後あたりだけ読み直していただければOKです!




特訓

 頬を伝った雫が一つ、ベットの上に落ちる。

 涙を流していると気づいた来栖は目元を雑に拭った。 

 

「おはようです、小南先輩」

 

 拭ったらそれっきり。目から涙は溢れてこない。

 来栖の涙は嘘のように止まっていて、胸に宿った想いは霧散していた。

 

「わざわざありがとうございます。今起きますね」

 

 来栖は起こしに来た小南にお礼を言っては、大きく天井に向かって両手を伸ばす。

 

 来栖は何もなかったようにベットから抜け出そうとする。

 それを先ほどまでドアの側にいたはずの小南が来栖の両肩を掴んで阻んだ。

 

「待って」

 

「わっ!?」

 

 しかしその小南の勢いが強かった為に雪崩れるように来栖をもといたベットに押し倒してしまう。

 ベットを背に、小南が来栖に覆い被さるような状況だった。

 

「あの、小南先輩?」

 

 急にどうしたのだ、と言いたげな来栖は小南に向かって口を開く。

 まつ毛の本数まで数えられそうな程近づけられた小南の顔のせいか来栖は血液が顔に集中し始めているのを感じた。

 

「本当に?」

 

「えっ?」

 

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

 

 そんな来栖の照れなど知らないと無視するように小南が語気を少し強めて呟いた。肩を押さえつけられた来栖の身がベットに少し沈みこむ。

 色白な小南の顔は来栖とは対照的に全くと朱に染まらず、肩を超えるほど伸ばされた明るい茶髪が来栖の顔の周りをカーテンのように囲んだ。

 

 嘘は許さない、と小南が真剣な目つきで来栖に主張する。

 

「体のことですか?」

 

「諸々よ」

 

「別に何ともないですよ?」

 

「嘘じゃないでしょうね」

 

「嘘なんかついてません」

 

 小南の矢つぎ早の言葉に来栖は答える。

 

「本当に? 胸の傷が痛いとかじゃなくて?」

 

「いや別にそんなことは」

 

「それとも脚の方?」

 

「大丈夫です。それよりも」

 

 今のこの体制の方が不味い。

 そう思った来栖は状況の打破に乗り出した。

 

「とりあえず退いてもらって」

 

 いいですか。

 そう来栖は続けようとした。しかしそれは思わぬ声によって遮られる。

 

「こなみー。来栖さんまだ起きないの? ご飯冷めちゃ……あ」

 

 来栖を起こしに行ったきり、なかなか戻ってこない小南を呼びに来た宇佐美がドアから顔を覗かせる。

 

 来栖は小南の髪の隙間からではあるが宇佐美と目がばっちりと合った。

 途端、来栖はさっきまで熱かった顔が急転換し青ざめていくのを感じる。

 

 不味い。

 来栖は何か弁明を、と口を開こうとするがそれは残念ながら叶わず。

 

「ご、ごゆっくり」

 

 宇佐美は顔を俯けながら、ぎこちなくその場からゆっくり姿を消していく。

 部屋から完全に見えなくなってからは物音を気にせず走るような騒音が来栖達の耳に届いた。

 

「ま、待って宇佐美さん! ちょっと小南先輩どいてマジで!」

 

 焦った来栖は身を捩らせ、小南の包囲網からの脱出を試みる。

 それでもなお、手にかけられた小南の拘束は解かれなかった。

 

「本当にね」

 

 まるでさっきの宇佐美の登場を気にも掛けず、小南は先程と同じように来栖に問を投げた。

 

「本当です。身体はどこも痛くありません」

 

「なら、なんで泣いてたのよ」

 

「変な夢見たんですよ。どんな内容かは思い出せないけど」

 

 正直に、来栖は現状を語った。

 どんな夢を見たのかは思い出せない。それでも、悪夢とは違う。何か悲しいものを見た気がする。

 

「…………」

 

 それに一応納得したのか、小南は来栖を押さえつけていた手をゆっくりと退ける。

 来栖は解放されたことに胸を撫で下ろした。

 

「扉の外で待っててあげるから、さっさと着替えなさい。朝ご飯できてるから」

 

「了解です。けどどうしましょう。さっきのやつ、明らかに変な勘違いされてますよ」

 

「大丈夫よ。あんたにされたって言うから」

 

「それ俺が大丈夫じゃないですよね!」

 

 何よりあれは小南がしたものだ。

 来栖がそう文句をつける前に小南がヒラヒラと手を振りながら部屋の外へと退場する。

 

 なんなんだ一体。

 来栖はこの後色々聞かれるであろうことをどうやって躱そうかとゆっくり考えながらその背を見送った。

 

 =======

 

「さて、全員食べ終わったところで本題に、と言いたいところなんだけど……。来栖さん、いいですか?」

 

「いいですよ、迅さん。さっさとお願いします」

 

 朝食を取り終えてから少し。

 来栖はややげんなりしながら迅の声に応えた。

 

 結局、今朝の騒動については朝食のさなかに宇佐美の好奇の目に耐え切れず、いい弁明も浮かばなかったのでありのままの出来事を話した。

 それで騒動は解決。かに思えたがそれを聞いた木崎らに小南と同じかそれ以上の圧で気遣われた。

 

 何度も大丈夫だと来栖は申したのだが、本当かと聞き直され、果てには病院へ行くかと思い切りの良すぎる行動に出ようとする者もいた。

 最終的には実力派エリート迅の大丈夫という鶴の一言で玉狛のメンバーは安心したのか騒動はお開きとなったのだが。

 

「おつかれだな。くるす」

 

「お願いしますって言っといてなんですけど迅さん。視えてたならもっと早く言ってくれても良かったじゃないですか?」

 

 陽太郎の一言に来栖はあいまいな笑みを浮かべてから苦言を漏らす。

 

 様々な人間の未来が視えるという迅のサイドエフェクトならば、そもそも今朝の騒動を起こさせないことだって可能であったはずだ。

 

「いや、この方がいい未来に繋がりそうだったんですよ」

 

「いい未来?」

 

 来栖は迅の一言を怪しんだ。

 

 そんな来栖を優しい目で一瞥した迅は気を取り直したかのように玉狛の面々に告げる。

 

「とりあえず、おれは昼から。レイジさんと京介は夕方から防衛任務だから小南。おまえが来栖さんに特訓つけてくれ」

 

「あたし!?」

 

 迅の言葉にソファで不貞腐れていた小南が驚いた声を上げる。

 

 何故不貞腐れているのかというのも今朝の出来事を来栖が暴露したせいで小南の大胆ともいえる行為もまた面々に知れ渡ってしまっていた。

 嫁入り前の子がそんなことしちゃダメ、と宇佐美をはじめ、お小言を貰った小南の機嫌は降下し、このような態度を取っている。

 

「時間が勿体ない。本部に行くぞ。京介、宇佐美、陽太郎」

 

「はーい」

 

「うっす」

 

「うむ」

 

 レイジが一言、そう周囲に告げると烏丸と宇佐美がその背に続くようこの場を後にしようとした。

 

「え、まって! うさみあんたも行くの!? オペならここでもできるでしょ」

 

 宇佐美も居なくなることが予想外だったのか。小南は驚きを露わにする。

 

「ごめんね、こなみ。今日中に本部に出さなきゃいけない報告書とかがあってさ。あっ! 訓練室の設定はしてあるから心配ないよ」

 

 一瞬振り向いて両手を合わせ、申し訳なさそうにする宇佐美は必要なことだけ言い残し姿を消していった。

 

 部屋に残されたのは迅、小南、来栖。そして何故か陽太郎だけだった。

 

「……。迅、あんたの今日の防衛任務変わってあげてもいいわよ」

 

 小南はまるで苦虫を嚙み潰したかのような苦悶の表情で迅に提案する。

 それを迅は風に揺れる柳のように受け流した。

 

「別にいいよ」

 

「変わってあげるって言ってあげてんのよ!」

 

 勢いよく立ち上がった小南が迅に提案(脅迫)する。

 

「頑張れよー。あっ、来栖さんちょっと」

 

 そんな小南の怒鳴り声を無視して迅は逃げるように階段を降りようとしたが、その手前で来栖を手招きした。

 

「何ですか迅さん」

 

今朝の事なんですけど。許してやってくださいね。あいつなりになんですけど来栖さんの事心配してるんで

 

 迅はそう耳打ちすると本当に逃げるように階段を下りて行った。

 その一言に来栖は呆気に取られてしまう。

 

 迅の後ろ姿を見送った来栖は残された小南を見つめるとありありと不機嫌である、ということがその顔から伝わってきた。

 

 さてどう切り出そうか、と来栖は迷ったが思いもよらない援護によってきっかけは作られる。

 

「どうしたこなみ、くるす。くんれんしつにいくんじゃないのか?」

 

 本部について行くはずであろう陽太郎が不思議そうに聞いてきた。

 

「「……」」

 

 その一言に二人とも黙ってしまう。

 沈黙はそう長くは続かなかった。

 

「はぁ、わかったわよ」

 

 小南はまるで怒りを吐き出すように大きくため息をついてからバツが悪そうに来栖の方へ歩み寄ってきた。

 

「あの小南先輩」

 

「行くわよ、訓練室。あと」

 

 小南はそっぽを向いて。

 

「今朝、悪かったわね。話ちゃんと聞かなくて」

 

 悪びれながら来栖に謝罪する。

 

 その様子がどことなく来栖には面白く思えてしまって、知らずのうちに口の端が吊り上がってしまう。

 それに気づいた来栖を見上げながら、睨みつける。

 

「な、なに笑ってるのよ!」

 

 小南が来栖に指摘して、やっと笑みを浮かべてると来栖は自覚した。

 

「いや、その。なんていうか」

 

 迅の一言を思い出す。

 

「なるほどなって思っただけです」

 

 これが彼女の、小南桐絵なりの心配の仕方なのだ。

 出会ってまだ少ししか過ごしていないが彼女の優しさを来栖は垣間見た気がした。

 

「? どういうことよ」

 

「そういうことですよ。それよりも小南先輩はどんな特訓つけてくれるんですか。俺楽しみなんっすよ」

 

「ふ、ふーん⁉︎ そう、楽しみにしてたの。なら安心しなさい! あんたのことビシバシ鍛えてあげるから!」

 

 さっきまでの事が嘘みたいに小南はテンションを上げ、意気揚々と訓練室へと向かっていった。

 

 その変わり様に来栖は少し呆れてしまった。

 

「陽太郎。さっきはありがとう」

 

 取り残された来栖は小南との仲を取り持ってくれた陽太郎に感謝を述べる。

 陽太朗が居なければ、気まずい沈黙は今尚続いていただろう。

 

「フッ、きにするなくるす。おれはデキルおとこだからな」

 

 陽太郎は当然の事をしたまでだ、と手で来栖を制するがその顔はドヤ顔である。出来るオトコというのを隠せずにいた。

 

「陽太郎。レイジさんをあまり待たせたら申し訳ない。お前も早く行けよ」

 

「うむ、それとだ。くるす」

 

 雷神丸に乗り込みながら陽太郎は来栖を呼ぶ。

 なんだ? と来栖が腰ほどの高さにいる陽太郎を見下ろした。

 

「こなみはつよいぞ」

 

 陽太郎は先程のドヤ顔に負けないくらいに、口元に大きな弧を描いて呟いた。

 

 =======

 

 {9−0 小南リード}

 

 アナウンスが淡々と事実を伝えてくるのと同時に損傷していた部分が再構築される。 

 

 小南が来栖に提案した特訓方法は至ってシンプル。

 戦って、戦って、戦いまくる。その後で、反省してまた戦うの繰り返し。

 

 その提案に来栖は異を唱えるような真似はせず、形式はボーダー内ではスタンダードとされる一セット十本で執り行われることとなった。

 

 そして小南と来栖による一セット目は最後の一本を迎えようとしていた。

 

 ──彼女は強い。

 

 様子見とばかりに待ち構えていれば、その可憐さからは明らかにかけ離れた、野生的で目にも止まらないスピードに来栖は瞬く間に仕留められた。

 そらならばと詰め寄った二本目も一太刀振るうと同時に首を刎ねられた。

 そこから結局、抵抗の手段をいくら講じようとも、それを上回る剣技()()で小南は来栖を圧倒した。

 

 よくある時代劇の殺陣みたいに剣を重ねる()()()()になんてものにはなりもせず。一方的な蹂躙が繰り広げられた。

 来栖が振るった弧月は小南に掠る事すら出来ず、逆に小南が両手に握りしめた小型の斧。双月を振るえば確実に来栖へ致命的なダメージを与えてくる。

 

 つまりは結果、内容は共々散々なもの。来栖は小南に文字通り手も足もでなかった。

 

 {十本目 開始}

 

 無機質なアナウンスの声が戦闘を行える環境は既に整ったことを伝える。

 

 だというのに来栖は正面にいる小南に対し間合いを詰めることは出来なかった。

 

 別に戦闘を放棄したわけでは無い。

 その理由はとても単純で、どうすれば勝てるかがわからなかったから。

 

 これまでの九本。来栖は暗中模索で小南に挑み続けた。そして、その全てが悉く通用しなかった。

 

 勝ち筋が見えない。

 多くの要因を孕みながらもその言葉に帰結する現状は見えない鎖となって来栖の脚をその場に縛り付けており、それを断つ武器を来栖は持ち得ていなかった。

 

 

 そもそも今の自分に勝ち筋(それ)があるのかと来栖は疑ってしまう。

 けれどもそんな状況で。

 

ほんと、どうやって勝とうかな

 

 自らの可能性を疑いながらも、知らずの内、想いが口から漏れ出る。

 せめて一矢、なんてものではない。この一本を勝ち取りたい、と。

 

 手に持つ弧月を力強く握り締める。

 それは来栖の勝利への渇望をそのままに体現していた。

 

 その思いが烏滸がましいものだと来栖は自覚している。

 四年、いやそれ以上ネイバーと闘ってきた小南に昨日初めて剣を握ったような自分がそのような思いを抱いている事は小南に対する侮辱にも思えた。

 

 しかしそれでも結果を求めてしまう。勝利を求めてしまう。

 

 どうしようもないくらいに来栖は負けず嫌いだった。

 それこそ、一縷の望みが。勝利に至る光が見えたならば短慮と言えるほどに飛びつくくらいには。

 

「何、あんた。あたしに勝つつもりだったの?」

 

 目の前の小南が僅かに睨みを利かせる。

 

「聞こえました?」

 

「聞こえるわよ、この距離よ」

 

 聞かれたことに若干の恥ずかしさを覚えた来栖は小南から目を逸らしたくなった。

 しかし今は仮にも戦闘中。来栖は何とか羞恥を堪えて小南を直視し続けた。

 

「言っとくけど、あたしは迅より前からボーダにいるの。昨日トリガー使ったばっかのあんたが勝てる訳ないでしょうが」

 

 小南の言葉に来栖は少し驚いた表情を浮かべる。

 

 てっきり迅は誰よりも先輩としてボーダーに所属していたものだと思っていたからだ。

 

「それにあんたの今の戦い方じゃ絶対に無理だから」

 

 あっさりと断言された小南の一言に、来栖は目を見開いてしまった。

 まるで雷に撃たれたみたいな衝撃が来栖を襲う。

 

 何故、と来栖が口を開く前に小南が続ける。

 

「今のあんたは、全くの素人。剣であたしに勝てるわけないでしょ。あんたは、あたしと()()()()()()()を間違ってる」

 

 その一言に、来栖はハッとさせられる。

 なんでそんな簡単なことに気づけなかったのだろう。 

 

「小南先輩」

 

「なによ」

 

「アドバイス、ありがとうございます。それと申し訳ないんですけど」

 

 小南の言葉が来栖の脚を縛り付けていた不可視の鎖を切断する。

 そしてその言葉は。

 

「最後の一本(これ)。勝たせてもらいます」

 

 間違いなく、来栖を"最強"に近づける言葉だった。

 

「生意気」

 

 =======

 

 馬鹿げている。

 

 もし誰かがこの戦闘を目にしたならば間違いなくその一言が飛び出るだろう。

 少なくとも彼を知らない者ならばそう言う筈だ、と小南は思った。

 

 小南が流れる様に双月を振るう。それは苛烈であらゆる方向から降り注ぐ流星のようだった。

 しかし目の前の相手は紙一重でそれを回避してみせた。

 

 小南に刹那の隙が生まれる。

 当然だがいかに小南といえど、攻撃を放てばは隙は絶対に生まれるもの。

 本来ならば相手の行動に対する対応、回避や防御といった選択肢を頭の中によぎらせるべきである。がしかしそれを小南はあえてせず、更なる攻撃を浴びせるという選択を下した。

 

 薙いで、突いて、振り上げ、振り下ろす。

 

 しかし相手は一向に回避を続けている。

 と言うよりかは。そもそも彼にはその選択肢しか()()()()()

 

 何せ目の前の相手、来栖は()()()()()()()

 来栖のメイン武器である弧月はその腰に収まってはいない。文字通りの丸腰状態。防御もましてや攻撃も出来ない体勢だ。

 

 小南の体感時間にしておおよそ2分。

 この一方的な戦闘にて、小南は未だに致命的なダメージを来栖に与えれないでいた。

 

 小南はボーダーの攻撃手(アタッカー)において、トップクラスに位置する人間だ。個人ランク戦にて一万ポイントを超えている猛者である。その猛者たる小南が、これだけの猛攻をもってしても倒せない。

 本来ならば、そのプライドを原因にして小南は苛立つはずだった。

 

 しかしそれとは逆と言えるほどに、小南の表情からは笑みが零れている。

 こみ上げてきた小南の感情は、勝負が成り立っていることへの嬉しさ。そして在りし日の懐かしさだった。

 

 先ほど前の九本までは戦闘とは名ばかりの一方的な蹂躙だった。

 

 それがこの十本目においては戦闘として成り立っている。

 そして勝負が成り立っているのには理由は当然存在した。

 

 それは小南が口にしたように来栖が勝負するところを変えてきたのだ。

 

 言わずもがなであるが。人間にはどの分野においても短所と長所が存在する。

 

 身近なものでいえば勉強という分野。計算が得意で暗記が苦手。その逆もまた人間には存在する。

 そしてそれは戦闘という分野にも当然として存在し、来栖響という人間にも長所と短所が存在した。

 

 記憶喪失(現在)の来栖の短所・弱点。それは戦闘経験の少なさと、剣術の圧倒的技量不足である。

 

 その逆として。来栖の長所は昨日のモールモッド戦で発揮された回避力。

 小南の双月を紙一重で回避することを可能にする空間把握に優れた眼力。それを実現させる敏捷性(アジリティ)俊敏性(クイックネス)

 そしてサイドエフェクト、集中力強化。

 ランクこそ強化五感(C)にあたるものであるが、この才があるからこそ、無茶な回避は実現させられている。

 

 そして九本目までの来栖は短所の一つである剣術の圧倒的技量不足で小南に挑み続けていた。

 だから当然として来栖が小南に勝てるわけないのだ。

 

 そんな当然のことに気づかないのか、と小南は言いたいところだったがぐっと堪える。

 

 恐らくだが来栖の副作用(サイドエフェクト)のせいだろう。

 過去の来栖から聞いた話だが、使い方を誤ると一気に視野狭窄へと陥ってしまう。危うい副作用(サイドエフェクト)だと口にしていた。

 

 こういうことがあるのだから、本人に自覚させるべきなのになぜ迅は来栖に話していないのか。

 小南は迅に文句を言おうと固く決意した。

 

 そう考えると、自発的に止まってくれた十本目開始時は助かった。そのおかげでアドバイスができ、こうして戦闘は成り立っている。

 

 つまるところ、来栖は戦闘の形式を戦闘経験の少なさと、剣術の圧倒的技量不足(弱点要素)で戦わなければならない斬り合いから、回避・集中力(強力な要素)で戦う先日のような回避からの奇襲戦に切り替えていた。

 

「っ!」

 

 小南の双月が来栖の身を掠める。

 

 今のを避けるのか。

 決めにいった筈の斬撃は来栖を仕留めるに至らないが、裂いた来栖の戦闘体から煙の様にトリオンが漏れ出ていく。

 

 ならば更に追撃を、と小南が双月を浴びせようとしたがあり得ないスピードで来栖が追撃できる距離から後方へ遠ざかった。

 

 その理由を小南はすぐさま理解する。

 独特の跳弾音と来栖の手元に浮かび上がっている水色の球体。

 

「グラスホッパー、ね」

 

 小南は来栖の用いたトリガーを呟いた。

 

 高速かつ立体的機動を可能にするジャンプ台トリガー、グラスホッパー。

 それを一枚展開した来栖は小南の攻撃から一瞬にして離脱してのけた。

 

 面白い、と小南は思う。

 来栖の回避力にグラスホッパーが加われば攻撃を当てるのはほぼ不可能。まさに至難の技となる。もっとも使いこなせれば、というのが前提ではあるが。

 

 勝負は確かに成り立っている。しかしそれでも小南が優位であるという点は変わりなかった。

 今の来栖はあくまで蹂躙から戦闘にへとしただけだ。

 

 現状には勝利へと続く道はない。小南に損害をもたらす武器を身に着けていないのだ。今のままでは来栖は小南を倒せない。

 

 だが故に、その道が開かれるのは来栖が弧月を手にした瞬間である。

 

「さあ、来なさいよ。ヒビキ」

 

 小南が双月を持ちながら手招きするように来栖を挑発する。

 それに触発されるように来栖は全力で小南に向かって駆けだした。

 

 ======

 

 動けている。

 

 来栖は小南の決めにいった斬撃を回避し、グラスホッパーで離脱してからの小休止でそんなことを考えた。

 

 来栖は回避という一択。防御と攻撃という大別すれば戦闘における行動選択のこれらを切り捨てて、それのみに()()していた。

 回避することだけに集中すれば、思考が晴れ渡った空のように澄んでいき、小南の攻撃を避ける為の道筋を弾き出す。

 

 掠める時は基本来栖の体がその思考に追いついていない時だけだ。

 

 問題は攻撃。小南と同じ認識を来栖もまた抱いていた。

 

 息を小さく吐き捨て、状況を来栖は確認する。

 

 戦闘は何とか成り立っている。尤もそれは小南がこちらへと攻め入ってくれているからだ。もしあちらが待ちの、つまりは防御重視の選択を採ったならば一気に状況は瓦解するだろう。

 

 これまでの回避は、おおよそ成功。小南の六撃目までなら躱しきり、七撃目で怪しくなる。八撃目がこちらを襲う前になんとか距離を取っているからわからないが、もしその時点に小南の攻撃可能な距離に身を置いていたならば勝敗は決するだろう。

 

 また、斬り合いは行えない。その瞬間、戦闘は蹂躙へと名を変え、抵抗する間もなく自らの戦闘体は分断される。

 切り結び合うような状況になれば来栖は絶対に負けるし、それを凌いで回避に移ろうにもその前に小南は確実に自分を仕留めるだろう。

 

 つまり求められる攻撃は一撃、一振りで小南に致命傷を与えるもの。小南に次を与えない攻撃だ。

 二撃目に仕留める剣では小南は倒せない。それはこれまでの九本で実証済みだ。

 次を与える事。それはつまり蹂躙を、来栖響の敗北を意味する。

 

「さあ、来なさいよ。ヒビキ」

 

 小南が来栖を挑発する。

 

 勝負は一瞬。

 タイミングを見誤ってはならない。

 

 来栖は小南へと距離を詰め、再び回避のみを開始する。

 

 視認し、判断し、実行する。

 

 この眼が見せる、小南の双月の間合いを読み切って。

 脳裏によぎる、覚えの無い経験則に従って。

 途轍もない身体能力を備える戦闘体で舞い踊る。

 

 そして、絶好の機会は訪れた。

 ほんの僅か、ほぼ差は無いと言えるがそれでも僅かに小南の攻撃が遅れたのを。

 

 来栖はその身を翻し、体で隠しながら弧月を右腰に生成する。

 

 そして回避運動に紛れ込ませるように、来栖は右手で逆手に持った弧月を鞘から振り抜いた。

 

 狙うは首。

 来栖の弧月は一直線に小南の喉笛を目掛け軌跡を描いた。

 

 来栖の視界が鈍化する。来栖の瞳に飛び入ったものは二つ。

 

 緩やかに動いていく自らが振るった弧月。

 そしてそれを冷ややかに見つめる小南だった。

 

「そうくると思ってたわ」

 

「っ!」

 

 来栖が小南の言葉に驚愕すると共に視界が加速。

 

 意図的に釣られた。来栖が悟る頃には、下から突風が突き上がった。

 突風の正体は小南の双月。風を起こす程の斬撃は弧月を持った来栖の右腕の肘を的確に切断した。

 来栖は回避の際とは比べ物にならないくらい肘の断面から吹き出るトリオンを目の当たりにする。

 

 そしてその次の瞬間。

 目の前の小南が来栖に終わりを告げるべく、来栖に向けて双月を振り下ろした。

 

 =======

 

「顔に出すぎ」

 

「はい」

 

 一旦訓練室からオペレータールームに戻った来栖と小南は反省会を行っていた。

 来栖は肩を落としながら小南からの総評に耳を傾ける。

 

「攻撃する気が見え見え。大体あそこであたしが攻撃を緩める必要なんて無いんだから。もっと疑いなさい」

 

「はい」

 

 小南の指摘が加わる度、来栖の頭は深く垂れ下がっていく。

 完全に迂闊だったと来栖は反省する。

 小南の言う事は尤もだった。

 

「あとせめて弧月は抜いときなさい。カウンターする気っていうのが丸わかりよ」

 

「はい、です」

 

 小南からの容赦ないダメ出しの連発に来栖は耐えれなくなりつつある。

 そもそも、どうやって戦えばいいのか。それを提示したのは小南であり、来栖がどんなフィニッシュを決めにくるかは当然ながら理解していたのだ。

 

「ただ」

 

 そこで小南の声色が少しばかり変わり、言葉を続けた。

 

「回避に関しては悪くなかったわよ」

 

 照れているのか、今朝みたいにそっぽを向いて呟いた。

 さながら来栖に飴を与えるようだ。

 

「で! も! あんたはもっと剣での戦い方を知りなさい! 今のあんたなんてちょっと避けるのが上手い雑魚と一緒よ!」

 

 なかなか手厳しい評価を小南は来栖に告げる。

 その言葉に来栖は思わず苦笑いを浮かべた。

 

「だから今日、とりまるが帰ってきたらじっくり教えて貰いなさい。良いわね」

 

「了解です」

 

「はぁ、にしても」

 

「小南先輩?」

 

 反省を締めくくったと思えば、小南はうつむきがちにため息をついた。

 物憂げで、はっきり言って小南には似合わないような表情。

 

 そこに来栖はなぜか朝の小南を想起してしまった。

 

「何でもないわ。休憩終わり。もう十本いくわよ」

 

 顔を上げた小南の目は来栖を捉える。先ほどの表情は消え去って、来栖の知る顔になっていた。

 

 余計なことを聞くべきではないか。

 そう判断した来栖は、明るい声で小南に言葉を返す。

 

「オッケーです! 今度は一本取りますよ!」

 

「言うじゃない。今度もあたしがストレートよ」

 

 互いに互いを挑発するような発言をする。自然と笑みをこぼしながら、二人は再度訓練室へと入っていった。

 

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