最強ノ一振り   作:AG_argentum

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実はこれ、前話からの続きものです。
本来なら前話と同時に投稿するべきだったのですが、投稿期間の空きがやばかったのであちらだけ先に投稿しました。

もう一つ。作者個人としても今回のは解釈違い、と言われてもそうかもな、としか言えない話です。
でも、きっと、こんな過去があったはずだ。
そう思いながら書きました。


小南桐絵①

 一陣の風が、あたしの横を通り過ぎた。

 

 過ぎ去った風はあたしの背後でその身を止めている。動く気配は全くと感じられなかった。

 

 何をしているのか。

 教えるまでも無く知っているはずだ。戦闘中、その場に留まるほど愚かな行動は無いと。

 

 訳の分からない行動に苛立ちは一層増した。

 

 振り向きながら弧月で薙ごうとする。

 攻撃というよりは牽制という意味合いで。とにかく距離をとらせたかった。

 

 けれども、それは叶わず。腕は意思に反するよう、一切反応しない。

 

 それと共に変化が訪れる。

 視界がぐらついて。ぐらついて、傾いて。傾いて、世界は上下に反転した。

 

 その変化を以って遅れながら理解する。

 彼の立ち止まった理由はなんて事はない。つまりはそういう事なのだと。

 

 反転した世界の視界の端で彼の横顔が垣間見える。

 その表情はあたしには初めて見るもので。どこか安堵しているようだった。

 

 無機質な電子の声が宣言する。

 

 {戦闘体活動限界}

 

 ああ、やはり。瞼に残る光景は幻ではなかった。

 

 なんて事はない。

 つまりあたしは。小南桐絵は。

 

 初めて来栖さんに一本取られたのだ。

 そう理解をしたと同時に今日初めての浮遊感に襲われた。

 

 =======

 

『上手いことやられたな』

 

 玉狛の基地への帰り道。

 復興が進み始めている街の様子をジープの窓越しに眺めていると林藤さんがあたしに話しかけてきた。

 

 何を言いたいのかはよくわかる。きっと今日最後の模擬戦の見ていたのだろう。

 

 あたしは言葉に反応する気が全く生まれず、ただただ横目に変わり果てた街を。いや、変わり果てさせてしまった街を眺め続けた。

 

『あいつは回避が得意ってことはこの一月でよくわかってたつもりだったが。流石にお前も予想外だったか? あの行動は』

 

 林藤さんの言葉にコクリと頷いて同意する。

 

『そうか。まあ、そうだよな』

 

 わたしが頷いたのを感じたのか林藤さんは重ねて同意する。

 

『急に武器を消すなんざ、普通考え付かねぇもんな』

 

 予想外の発端。模擬戦で突如と来栖さんが行った行為を口にする。

 瞼を閉じれば、あの模擬戦が鮮明に思い出せた。少なくとも、今日スッキリと眠りにはつけそうにない。

 

 事が起こったのは本日五十本目の模擬戦。

 それまでの四十九本はどれを取ろうとあたしの勝利だ。このまま完全勝利(ストレート)と思い込んでいた。

 

 が、五十本目が始まるや否や来栖さんは武器である弧月を両手に持とうとはしなかった。それどころか腰にすら身につけない。所謂丸腰状態だった。

 

 距離を詰めてあたしの身長に合わされた弧月で仕掛けようにもただ躱すだけ。

 弧月をどれだけ振ろうにも当たらない。当たらない。当てられない。

 風に吹かれて共に揺れる柳の葉みたいに来栖さんは避け続ける。

 

 あたしはずっと前から戦ってきたのだ。なのにたった1ヶ月の人間に躱されるはずはない。そんなことは無いはずだ。

 ましてや、負ける事なんてあり得ない。 

 

 そんな自信とは裏腹に迫りくる不安をかき消すように強く思う。

 その思いに応えるよう、強く弧月を振りぬいた。

 

 そしてそれと同時に突風が横を通り過ぎ、順手で振り抜くよりもわずかに動作が少なくなる逆手で振り抜かれた弧月が戦闘体の急所である首を刈り取った。

 まるで暗殺者がたった一瞬のすれ違いの間に手際よく仕留めるようだった。

 

 こう言ってはなんだが鮮やかに首を刎ねられた。その事実が余計にあたしの胸をざわつかせる。

 

来栖(あいつ)が怖いのか?』

 

 隣からの一言があたしを戦闘の記憶から現実の世界に引き戻す。

 

 びくり、と訳も分からず肩を揺らしてしまった。

 返す言葉がうまく思いつかなくて、ただただどうしてそう思ったのか? と目で林道さんに訴える。

 

『お前との戦闘中を見ててよ。そうなんじゃねえかって思ったからだ。後は』

 

 そこで一拍。言葉を切るように、林道さんは吸っていた煙草の煙を窓の外に吐き出した。

 

『俺があいつと訓練するときにそう思うから、だな』

 

 驚きだ。この人がそんな事を言うことにもだし、この人からすれば年下の来栖さんを怖がっているという事実に目が丸くなる。

 

『……怖いの、来栖さんが?』

 

『怖いな。あいつの戦い方も、その先に目指す姿も。鬼気迫るあいつの姿が俺にはどうも、()()()()と重なって仕方がねぇ』

 

 唐突に出てきたその名前に今度は目を見開いてしまった。

 

『来栖さんがあの城戸さんに似てるってこと?』

 

『ああ。来栖がボーダーに入るにあたって少しあいつのこれまでを調べたんだがな。あいつはよく、笑う奴だったそうだ』

 

『……そう、なんだ』

 

 だった。と過去形になったその事実にあたしは胸が痛くなる。

 あたしが知るあの人の顔はあの雨の中で見た。あの泣きじゃくった顔とボーダーに入ってからの怖い顔だけだ。

 

『あの人も、城戸さんも昔はよく笑う人だった。それが今じゃなりふり構わず組織を大きくすることに心血を注いでる。全く笑わなくなってよ』

 

 知っている。1年前。アリステラでのあの戦いがあってから城戸さんは怖い顔になって、あたしたちと違う道を選んだ。

 

『来栖もだ。あいつはただ強くなることだけ考えて突っ走ってやがる。俺にはそれが城戸さんとダブって見えて怖いんだわ』

 

『……』

 

 ひとしきり、林道さんの話を聞いて納得する。

 確かに、林道さんの言ったことと同じような理由でもあたしはあの人を怖がっている。

 

 だけど。だけどあたしが本当にあの人の事が怖いのは()()()()()()()()()

 

 ちらり、と横で運転を続ける林道さんの横顔を見る。

 

 あたしが来栖さんを怖がっている理由。それの答えははっきりとわかっている。言葉にする事はきっとできるだろう。

 でもそれをこの人に告げていいのかと、ずっと、どうしようもないくらいに迷ってしまっている。

 だってこの答えはきっと、林道さんを困らせるはずなんだから。この人も、同じものを抱えているはずだから。

 

 だというのに。

 

『小南。遠慮すんなよ』

 

『え?』

 

『おまえはまだガキなんだから、大人に気なんか使うな。言いたくないなら別にそれでも良いが、俺なんざに気を使ってるんならさっさと口に出しとけ。その方が、きっとラクだからよ』

 

 ポンと、林道さんはあたしの頭の上に手を乗せる。

 

 乗せられた手は随分と無骨なくせに温かみがあった。

 なんでそんな事を言うのだろう。言ったってきっと林道さんを困らせるだけなのに。

 

『ねえ、林道さん』

 

 それがわかっているはずなのにあたしは我慢できずに口にしてしまう。

 それと同時に熱いものが頬を伝った。

 

『あたしは来栖さんに……。どう、思われてるのかな?』

 

 それが涙と分かるまでに、時間はほぼ必要なかった。

 

 ========

 

 ──あなたが悪いんじゃない。守れなかったあたしが悪いのだ。それなのに──

 

 




次回、作者の心が変わらなければ原作手前の話を投稿です。
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