んでもって、遅らせばなのですがお気に入り登録者が1000人を突破しました。登録してくれたみなさん、本当にありがとうございます。
色々、言いたいことあるのですが長くなるしここには書きません。詳しくは活動報告に上げさせていただきます。
そして最後に。こっから4話、ワートリらしからぬ話が展開されます。
仕方ないんです。主人公の特徴柄。
よければ読んでいってくれたら幸いです。
それではよろしくどうぞ。
肺にあった心地よい紫煙を吐き出す。
だが、耳から聞こえてきた提案には、それを打ち消すのに十分な破壊力が備わっていた。
「正気か?迅」
【正気だよ、
顔の見えない通話越し。話し相手の声はいつも以上に軽々としている。
されど、表情はきっと。泣きそうになっているような、それでも渦中の人物に期待を寄せるような、ないまぜなものなのだろうと予想がついた。
いくつか、思考が巡廻する。
既に示された、提案を受けることによるリスク及びメリット。それに予防策。
利益と損失。その後の立ち回り。
大人が背負うべき多くのしがらみとを天秤に乗せていく。
「本当に、いいんだな?」
自身の中の天秤は既に傾いた。
それでも再度、確認をとる。
【うん。これが多分、最善の未来になると思う】
「…………」
言葉を聞いて、ぐっと、吐き出しかけたため息を抑えた。
最善の未来。
未だ成人すら果たしていない、まだ子供と言うべきあいつから聞くこの言葉。
この言葉を聞くたびに、全くと背負えない大人たる自分の無力さにいつも嫌気が差しかける。
だが、それは決して表にだしていいものではない。
「わかった」
子供ながらに背負おうとしている責任を大人が放り出して良いわけがない。
全くと背負えないながらもせめて、命令を下す責任は大人である自分が背負うべきだ。
「レイジに話を通す。そんで何かあった時の責任は俺が持つ。命令だ、迅。任務を遂行しろ」
【…………実力派エリート了解。支部長命令により、任務を遂行します! 】
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「くるす、たい焼きが食いたいぞ」
のどかな昼下がり。といっても来栖が今いる地下の訓練室には窓といったものが一切ないため感じることはできないが、ともかくそんな昼下がり。
来栖が一旦休憩と訓練室から出てくるや、膝下から聞こえてきた声に視線を落とした。
「急にどうした。陽太郎」
「みろ! くるす」
玉狛支部のお子さま、林藤陽太郎は持っている一枚のチラシを来栖に突き出した。膝を折った来栖はデカデカとチラシに書かれた文字を読み流していく。
「鯛餡吉日、新フレーバー登場キャンペーン?」
「そうだ」
「この新フレーバーを食いたいと?」
「そうだ!」
でかでかとレイアウトされたたい焼き。
なんとなく察した来栖の問いかけに陽太郎は大きく頷き、語気も強まる。
陽太郎の見せたチラシの店は、玉狛支部から歩いてちょうど良い距離にある鯛焼きの店だ。
安価な割に味はしっかりとしており、玉狛支部でも時々おやつとして出されている。
「くるす!このかみをもっていけば50えんもやすくなるんだぞ!」
満面の笑みでチラシの一部を指差す陽太郎は店の経営戦略と思われるクーポンにまんまと釣られている。
かなりの期待。目を輝かせる陽太郎の頭は既にたい焼きで一杯一杯のようだった。
「あー、でもな。陽太郎」
「む。どうしたくるす?」
陽太郎の期待に溢れた視線を受けながら、来栖が中途半端な顔をする。
買ってやりたいのは山々、と随分と甘いと来栖は自覚したが、色々問題があるのだからいまいち歯切れも悪くなった。
困り果てて、八の字に吊り下がった眉をなんとか戻しながらを来栖は「よし」と小さくつぶやいた。
「とりあえず、
諸々の問題を解決するためには、来栖の独力ではどうにもならない。買いに行くにしろ行かないにしろ判断を仰ぐ必要がある。
とりあえず来栖は、執務室で絶賛仕事中であろう林藤を尋ねることを決めた。
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「失礼します、来栖です」
「おう、いいぞ」
二、三回ほど執務室のドアをノックして、室内へと入る。
相変わらずと言うべきか。
初めて会った時同様、デスクで仕事をこなす林藤の口にはタバコが咥えられていた。
「どうした? 来栖」
「すいません。当日の連絡で悪いんですけど、市内への外出許可って貰えますか?」
言葉にしておいてなんだが、妙な気持ち悪さが生まれる。
聞く人によってはなぜそんなことを言うのかと思われそうだ、と他人事のように来栖は思いながら口を開いた。
「迅次第じゃあるが、おれの方は問題ないぞ」
「ありがとうございます」
咥えていたタバコを灰皿にねじ込みながら林藤が平然と許可を出し、来栖も感謝を告げた。
「悪いな、不便をかけて」
「まあ、仕方ないことだって割り切れてますから」
林藤が新しいタバコに火をつけながら、来栖に向けて申し訳なさそうな顔をする。
それに来栖は事情が事情だから気にしないでくれと手を横に振った。
「市内に何しに行くんだ?」
世間話のように林藤が来栖に話題を振る。
「陽太郎が鯛餡吉日の新作が食べたいって言うのでまずそこに買い物へ。あと、茶請けのどら焼きが切れていたのでそれも買いに行こうかと思ってます」
「そうか」
「あと」
「ん?」
ひとまず今組み上がっている予定を口にした来栖は、そこから少し俯いた。
「迅さん次第ですけど、少しだけ市内を見て回ろうかと思います」
ボソリとこぼしたような来栖の一言に林藤は変わらず「そうか」と返した。
「ま、気ぃつけて行ってこい。最近危なっかしいからな」
「何かあったんですか?」
危なっかしいと言う林藤の言葉に来栖が疑問を投げる。
林藤は一息紫煙を吐き出してから口を開いた。
「広報部が民衆のパニックを避けるためにまだ発表を控えてるが、最近警戒区域外でイレギュラーな
「ボーダーの誘導装置に何かあったんですか?」
怪訝な顔をした来栖の言葉に林藤が肩をすくめる。
この決定事項はその前提として、ボーダーが開発した
「一応システム上の
エンジニアとしての顔も持つ林藤がゲンナリとした様子でぼやく。
背もたれに体を預けた林藤は両手を頭の後ろに持っていきながら言葉を続ける。
「一応、トリガーは持ってとけ。むやみに市内で使われると困るけどな」
「一応、気をつけます」
======
「えーと、たい焼き買った。どら焼き買った。あと生活用品も買ったな」
来栖は買ったものの入った紙袋を肘に下げながら、指を一つずつ折って確認する。
ふと、その場で立ち止まり小さく息を吐いた。
「ちょっと歩き疲れたな」
疲労感を感じた来栖はその場で大きく伸びをする。
当然といえば当然のこと。
昼下がりから夕方までずっと三門市内をあっちこっちと歩いたのだ。
加え、数ヶ月まで昏睡状態で最低限のリハビリで日常生活に復帰した来栖には常人よりも余計に疲れやすくもある。
息切れを起こすまでとはならずとも、心臓はうるさかった。
「やっぱり、結構な部分が変わってるんだな」
しんみりと、見回った景色を思い出しながらつぶやく。
街のありとあらゆるところにある、
ここにはアレがあった。あそこではこんなことをした。
それを振り返りながら、今の自分にはない既視感を探していた。
病院の先生曰く。記憶喪失した人間が、記憶を取り戻すきっかけによくなるのは、既視感を見つけることらしい。
玉狛支部で行う戦闘訓練もその一つだが、記憶を失った二年間の行動を追うことはそれだけで脳に刺激を与えてくれるらしい。
だがそうは言っても。
「いつになったら思い出せるんだろうな?」
いくら市内を巡っても、記憶に関しては箸にも棒にもかからない。
思い出すことが本当にできるのか、来栖の気持ちが沈んでいく。
「おっと」
マイナスになりかけた来栖のメンタルを襲うように強風が吹く。
来栖は風でめくり上がったパーカーのフードを顔を隠すように深く被り直した。
「危ない危ない」
まるで指名手配された犯人が、警察から身を隠すためにとったような行動。
思わず来栖はフードの中で苦笑いをした。
「全く、バレたら困るんだから。勘弁してくれよ」
意志のない風に向けて、ヒヤヒヤさせるなと文句を垂れる。
顔を矢面に晒したくないわけではない。
その事情とは来栖の現状と立場に起因する。
本来来栖は病院から退院する際、その身元をボーダーの本部に預けるはずであった。
しかしそれを急遽、迅の
その理由こそ来栖は迅から聞かされていないが、林藤が当時言ったように余程の理由。来栖本人にも話せないほどのものがあると来栖自身何と無くではあるが感じ取っている。
問題はここからだ。
来栖は本部に身を預けるはずであった。
その際、自身が昏睡から目覚めたことなどはボーダー上層部のごく一部にしか伝えていなかったらしい。
これによって現状、来栖について未だ昏睡状態であると認識している人間と、既に目覚め玉狛で過ごしていると認識している人間が組織内に生まれてしまった。
仮の話。例えばボーダー隊員からの報告により、来栖が既に目覚めていることが伝えていない上層部たちに伝わった場合。
高確率で来栖は本部に移送される。
それでは本末転倒。
迅があの日、強引な形で何らかの未来を回避した甲斐がなくなってしまう。
それを回避するために来栖が外出する際は迅による許可と、林藤の許可。加え、最低限の変装を来栖にさせていた。
一応、林藤たち側もここまで無理を強いては来栖側から何らかの反感がくるかと予想していたようだが、来栖がそれを割り切っているからさして問題になっていない。
そんなわけで来栖は最低限の変装として、市内では顔を隠すようにフードと、地毛である黒髪を隠す金髪のウィッグを被っていた。
これでいけるのか、と初めて外出した時は不安に思えたが、人はそもそも一個人にそこまで意識を裂かない。来栖はこれまで、身バレすることは結局なかった。
「そろそろ帰るか」
陽もかなり落ちきており、街を歩く人々にもちらほらスーツを身に纏ったサラリーマンらしき人物も増え始めている。
今日の夕飯当番は誰だったかな。
そんなことを気軽に考えていた来栖の思考は、わずかに聞こえた放電音を無視できなかった。
「えっ?」
一度なった放電音はさらに大きくバチバチと音を立て、夕空の一部に不自然な黒を生む。
脳の片隅にあった。最悪の事態が現実になろうとしていた。
【緊急警報。緊急警報。
けたたましく、不快に感じれるほどのサイレンが耳を打つ。
「なんだあれ。訓練室で見たことないぞ」
来栖は
侵略者は魚のようなヒレを揺らしながら悠々に空を泳いでいる。
群衆は一瞬、何が起こっているのかを受け入れられずにいたが、誰かが上げた悲鳴によってパニックに陥り、蜘蛛の子を散らすように走り始めてた。
「ちょ、あっ!」
未だ立ち止まったままの来栖と、懸命に走る見知らぬ市民の肩がぶつかり合う。
衝撃に耐えれなかった来栖は肩に下げた荷物の中身を地面にぶちまけた。
「あー、っくそ!」
呑気に地面に落ちたそれを拾おうかと、場違いなほど迷いかけたが、来栖も市民同様避難しようとする。
「えっ?」
ただそれに待ったをかけたのは、聞こえてきた音だった。
ヒュー。
高所から、質量を持ったものが、空気を裂きながら鳴らす騒音。
来栖が見上げた途端、今度は爆発と言えるような空気が爆ぜる音がした。
目の前にビルの瓦礫が落ちてくる。
さっきまで小綺麗だったビルは一瞬にして跡形も無くなっていた。
ガラガラと、倒壊の影響が周囲に連鎖される。
落ちてきたコンクリートが地面にぶち当たり、衝撃で粉塵が舞った。
舞った粉塵が火の元になった。
火は、炎に変わり黒煙を空に昇らせる。
鼻に焼け焦げたような嫌な匂いがつく。
聞こえてくる悲鳴。
新たに生じた危機から生き延びようとする市民の決死の逃走は、爆撃もの影響も相舞って地面が揺らされているような錯覚を覚える。
「や、ばい。逃げ、ない、と」
来栖が呟くが、どうしても足と声が震える。
走り去る市民は、誰もそんな来栖に構っていられず、足を止めない。
足の震えが伝播していき息を荒くする。
体が勝手に震える。
聞こえてくる全てに吐き気を覚える。
肌に感じる全てに、恐怖が宿る。
これまで感じたことのないに、頭痛がする。
身に覚えのない経験のはずなのに、記憶にないはずなのに。
この経験を、この恐怖を、「来栖響」は知っている。
「は。うゔぉえ」
崩れるように膝を地面につける。
うずくまったまま来栖は地面に嘔吐した。
「ゔぉ、は。は、あぁ」
吐き出すものがなくなって、口の中に胃液の強い酸が広がった。
周りを見渡しても、その場には来栖しか残っていなかった。人の気配も一切ない。あるのは、崩れてしまったビルの残骸だけ。
遠くに聞こえる爆撃音。音のする方角の空には尚、トリオン兵が存在している。
だが、空気を裂く騒音は聞こえない。
同時に強い頭痛が治まり始めた。
「ああ、っ」
それに安心感と安らぎを覚えてしまった来栖は、自然と意識を落とした。
======
緊張が続く状況の中、それでも周囲にいる市民から安堵の声と歓声が漏れる。
ボーダー
「急いで
救助された市民は口々に修へ感謝を告げるが、状況は好転しきっていない。
告げられた感謝に生返事を返しながら、周囲の人間へ避難を促す。
中学生の身である修が、大の大人もいるこの状況で率先と避難の指示を出すことはある種異常な事態であったが、肩に飾られたボーダーのエンブレムがそれを容易にした。
「誰か、他に逃げ遅れた人をご存じではありませんか!?」
一応、ここ一帯の救助は済んだかと修は判断し、次の場所へ移ることを思案する。
大声での修の問いかけに、一人市民が声を返した。
「そういえば、商店街に男の子が! 多分怪我したんだと思う!」
「!? わかりました。すぐ向かいます!」
市民から得た情報に修はすぐ行動を起こす。
決して足の速い方ではない修ではあったが、それでもトリガーによって変わった肉体はあっという間に人の気配がない場所まで辿り着いた。
「レプリカ。多分ここら辺だと思うんだがどうだ?」
「3ブロック先に反応がある。取り残された市民とはこれのことだろう」
小さい。それこそ豆粒サイズの黒い物体が、修の首襟から抜け出して顔のそばに浮かぶ。
今この場にはいないが、先日修のいる学校に転校してきた一風変わった転校生。その正体は
その子機が修の問いかけにすぐさま答えた。
「あれか!」
言われた通りの場所に向かうと、道の真ん中に横たわった男性を発見する。
岩のように散乱する周囲の瓦礫を避けながら、修は男性のそばに駆け寄った。
目立った外傷は見当たらない。ただ地面には恐らく男性がしたであろう嘔吐物が残っていた。
男性の顔はフードに隠されよく見えなく、強いていうならこぼれ出た髪の毛から彼が金の髪色であることがわかる。
「大丈夫ですか!? ボーダーです!」
「…………」
肩を揺らすなどして男性の反応を伺うが、気を失っているのか男性の反応が返ってこない。
どうするべきか?
修は未だ空に存在する爆撃型トリオン兵という脅威を再確認し、反応が乏しい男性に視線を向けた。
いずれにせよ、身動きの取れない彼をこのままここに放置することはできない。
「すいません」
修は男性を横抱きにして立ち上がった。
「オサム! まずいぞ!?」
「えっ!?」
剣呑な警告がレプリカから修に伝えられる。
レプリカの言葉の意図を修は飲み込めないでいたが、次の瞬間。修もレプリカの警告の意味をすぐに悟った。
「
修の目と鼻の先。
異世界の出入り口は周囲の瓦礫を取り込みながら球状に広がっていく。
先の見えない漆黒の門は、広がるのみに留まらず、奥からトリオン兵が這い出てくた。
「逃げろ、オサム!」
端的に、レプリカが修に向けて最適解を提示する。
それに言葉を返す暇もなく、修もトリオン兵に背を向け逃亡を試みた。
敵トリオン兵は捕獲を主な目的とするバムスター。
戦闘力そのものは大して高くはない。
高くはないが…………。
「くっ、うう!」
修は尚背を向け、逃げの一手を打つ。
修は敵の撃破より、この抱き抱える男性の保護を優先した。
目立った攻撃方法を持たないながらもバムスターは街路を踏み荒らし、時に修すら踏み潰そうとしながら迫りゆく。
反撃を一切しない、敵にもならない存在は、バムスターにとってまさに格好の餌であった。
散乱する瓦礫の間を縫うように逃げる修。
それを無視し、直線で距離を詰めるバムスター。
更に修の走る姿勢は決して全力で走れるものではない。
どうしたって、距離が詰められるのは時間の問題だった。
改めて、敵の撃破を目指す。といった考えが修の脳裏によぎる。
だがそれは不可能だと、すぐに切って捨てた。
武器を作るためのトリオン不足。
昼過ぎにもあった別のイレギュラー
「どうすれば、んなっ!!?」
悩み思考する修。
それは
バムスターは、これから食らおうとする餌を抱きかかえていた修を巨大な頭部で払い除ける。
衝撃で吹き飛んだ修は男性と共に地面を転がった。
「ぐううっ!」
「ん、んんっ」
くぐもった声が修のそばから聞こえる。
「もしかして、気が! しっかししてください、
修が目がゆっくりと開き始めた男性に向けて必死に呼びかける。
男性は非常事態であることを受け入れきれていないのか、呆然としていたが目の中の瞳。そこにトリオン兵が映されると盛大に表情を固めた。
「トリオン兵。バムスター、か」
「えっ?」
それはまさに一瞬の出来事だった。
流れるような動作で男性が胸元からあるものを取り出す。
それは修にとっても見慣れたもので、この男性がそれを所持していることに唖然としてしまった。
「トリガー
声と共に、男性の服装が変わる。
黒のコートと腰に備わった二本の刀。
見ただけでわかる、戦う事を目的とした装備。
男性の目が鋭くなる。修のことなど眼中に無いよう、ただ目の前に映る脅威だけを見ていた。
そして、これもまた一瞬。
男性が腰の刀に手をかけたと同時に、男性の体が残像を残すよう修の視界から消えた。
間髪入れず、地面を大きく揺らす衝撃。
──何が起こった?
一瞬も一瞬。
修は短すぎる時間に起こった膨大な情報を処理しきれないままに、衝撃の震源地とも言えるような方向に目を向ける。
「なっ!?」
目に見えた光景に、修は我慢できず口を開いた。
修の目に入ったのは、消えたはずの男性とさっきまで修達を襲ってきていたトリオン兵。
ただ襲ってきていたはずのトリオン兵が。あれほど脅威だったはずのトリオン兵が見るも無惨な、文字通りガラクタに姿を変容されていたことに修は驚きの声をあげる。
ガラクタのそばから
そして、それを背にしながら、男性が刀を鞘にしまう動作を終わらせていた。
その動作を見て、やっと。修の中で情報の処理が完結する。
男性が、斬ったのだ。
ほんの、一秒とも思えないあの時間。男性は飛び出し、トリオン兵をあの刀でガラクタに変えた。
沈黙したままの残骸と、刀を鞘に収める動作こそがその証明。
生気の抜けた、どこか眠たげな表情。目元に光が宿らないまま、男性が振り向き修に声をかける。
「そこのメガネ、怪我してない?」
男性のセリフが、ある人物二人を修の中に想起させる。
『よう、無事か? メガネくん』
『よう、平気か? メガネくん』
脳裏に浮かんが二人の姿に修は目の前の男性を重ねたが、それどころじゃないと慌てて首を振った。
「は、はい。あの」
「じゃあ俺、帰るから。後、任せる」
「え? でも、まだ!」
空に新型のトリオン兵がいる。
修がそう言いかけたが、それを一際大きい爆音が阻んだ。
爆音のした方角に男性ともども視線を送る。
空に見慣れないキノコ雲が上がり、薄く虹がかかる。
「オサム、ユーマとキトラがイルガーの処理した。ひとまず合流をしよう」
首元に潜んだちびレプリカが修にだけ聞こえるように結果を伝える。
その言葉に、修は安堵をこぼした。
「よかった」
「何がよかったんだ?」
「!?」
「おい、引き止めたのはそっちだろ。何驚いてんだ?」
男性が、トリガーを解除し元の服装に戻り終えてから、修の反応に首を傾げる。
「いえ、その…………」
修が男性を引き止めたのは、新型トリオン兵が未だ破壊されていなかったからだ。
それが空閑によって破壊されたと聞いて修の言葉が詰まる。
「お前、ボーダーの隊員?」
喉に言葉が詰まったままの修に助け舟を出すように、男性が口火を切る。
「え、あ、はい」
訓練生、という言葉がその前につくが、修は男性に答える。
男性は修の答えに「そっか」と短く呟いては、何かを思い出すように頭を捻った。
「…………頭、回ってないな。見られたら、なんか、頼まないといけないはずなんだけど」
「あの」
「ん?」
「さっきはありがとうございました」
言葉をはっきり口にし、修が90度腰を折る。
修がトリオン兵を撃破してくれたことに感謝を伝えるが男性の態度はあっけらかんとした。
「ああ、いいよ。気にしないで。多分、お前のおかげで生きてたわけだし」
「えっ?」
「いや、運んでくれてたんだろ。バムスターに追われてる間さ。意識はまあ、なんとなくでだけどあの時もあったから覚えてる」
男性はトリオン兵の撃破を気にした様子はなく、その前の修が男性に行っていた救助活動への感謝を返した。
「だから、ありがと」
「そんな、ぼくは当たり前の事をしただけで」
「なら俺も、ボーダーの人間として当たり前の事をしただけだ」
男性はそう言い残し、踵を返す。
そのまま修は見送りかけたが、すんでのところで叫んだ。
「あの、よければ名前を!」
男性は首だけ捻って、修の質問に答える。
「来栖響。そっちは?」
「三雲、修です」
「三雲ね。覚えた」
男性が改めて歩き始める。
「それじゃ」と小さく手を振って、男性の背中がどんどん小さくなっていった。
「よし」
男性の姿が見えなくなって、小さく修がつぶやく。
「レプリカ、案内してくれ。空閑と合流する」
「了解した。案内しよう」
======
「あ、やばい。名前、言っちゃった」
修と別れてから少し。
河岸を歩いている最中、ふと思い出したかのように来栖が独りごちた。
「しかもトリガー使ったし!」
自身の存在をくれぐれも秘密にしなければいけないというのに、それを無自覚に破っていた事実にやらかした、とその場で頭を抱え込む。
いや、仕方なかったのだ。
いつの間にか、気を失っていて、起きたら目の前に見慣れた敵がいたのだ。脊髄反射と言ってもいい。胸元のトリガーを引っ張り出して、剣を抜かざる得なかった。
それでも、名前を名乗ったことは完全に失念なのだが。
「とりあえず、ボスと迅さんに連絡しないと」
なんて、言い訳を胸中に埋め尽くしながら、こうなった時の手順を冷静に実行に掛かる。
とりあえず、手持ちのスマホを操作し電話をかけようとした。
「あ」
来栖が持っていたスマホがするりと手を滑り、嫌な音が下から響く。
「ああ〜、やらかした」
画面が割れていないだろうか。
そんな事を思いながら、地面に落ちたスマホに手を伸ばす。
「あれ?」
視界に映る、地面に伸ばされた自分の手。
その様子が不自然で、首を傾げた。
「なんで、震えてるんだ?」
盛大には震えていない。
それでも、微かに、揺れ続ける自らの手。
「なんだ? これ」
不気味にも感じる、無自覚の現象に疑問が浮かぶ。
「止まんない。なんでだ?」
手が震える理由がわからない。止まらない理由もわからない。
「なんで、止まらないんだ?」
来栖の声に、焦りが浮かぶ。
「なんで、止まってくんないんだよ」
結局来栖が林藤に報告をしたのは、それから数分してからのことだった。
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切り終わり、山積みになった残骸の上に着地する。
視えていた通りの未来。掛かってきた電話をノータイムで耳に当てた。
「はいはいこちら実力派エリート迅」
【俺だ、迅。今大丈夫か? 】
「大丈夫、ちょうど今片付いた」
遠くから未だ爆音が聞こえるが、じきにあちらも終わるだろう。
「それで、どうだった? レイジさん」
【…………言われた通り、手は出さないで終われた。一瞬、肝が冷えたがな】
「怪我、してないよね」
【身体はな。だが…………】
通話越しのレイジの声が止まる。言おうか言わないか。迷っているという感じだ。
わかっている。
言いたいことがあるのは当然で、こんな事を提案した自分には憤りだって感じているだろう。
【あいつもバカじゃない。お前の
「わかってる。だからしばらくは玉狛に顔を出すつもりはないから」
来栖は、ボーダー関連の事情には疎いが、決して頭が悪いわけじゃない。
レイジの言うよう、今回の件になんらかの作為があることに気づくだろう。
「改めて。ありがとねレイジさん。変な役目、押し付けた」
電話越しながら精一杯の感謝を口にする。
それにレイジは深く息を吐いてから淡々と今回の依頼を口にし始めた。
【来栖の身の安全を確保するために、周囲で警護をしろ。ただし、
再度レイジは深い息を重々しげに吐いた。
画面の向こうには苦虫を噛み潰したかのようなレイジの顔があるのだろうと迅にはすぐに想像できた。
【おまえは、来栖がイレギュラー
「…………その通りだよ」
【ただ、お前と林藤さんが考えなく来栖の身を危険に晒したとは思えない。…………迅。どういった意図で、今回の件は差し向けた? 納得のいく解答を寄越せ】
義憤が静かに沸く。
やはり、聞かずにはいられなかったらしい。
理由を口にしようとするが、再度、自分の人でなしっぷりに嫌気が差す。
これで何度目だろうか。大切な人をこうして傷つけて。切り捨ててまで、不確かな
「オレは別に来栖さんを認めていないわけじゃないよ。それでも必要だと思ったんだ。いつか来る出会いを、最悪のものにしないために。それにいつか来る戦いに、本気で向かってもらうために」
電話越しに伝える。
これこそが、運命を動かすに必要な一歩だったのだと。
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──未来を、動かせ。最善のために──