最強ノ一振り   作:AG_argentum

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連投の最終です。ご注意を。


交差する運命

 まだかまだかと体がウズく。

 尋ね人は未だ来ない。

 

 ただ連れてくるという結果だけを伝えられていた来栖にはそれが何時なのかわからず、興奮を抑え切れずにいた。

 

「ただいま〜」

 

 ──来た。

 

 無理に抑えていた興奮が爆発し、その場で勢いよく立ち上がる。

 

 初めに支部の扉を抜けた迅と来栖の目があった。

 途端、迅が手で口元を覆いながら笑みを隠す。

 

「大丈夫ですか、来栖さん。顔、すごいことになってますよ」

 

「えっ?」

 

 言われたことの意味が読み解けず、とりあえず手で顔に触れる。

 ペタペタと触りながら、なるほどと迅の言わんとすることを理解した。

 

 口の端が吊り上がっていることを自覚する。

 興奮は一見立ち上がったことで発散されたかに思えたが、その実まだ残っていたらしい。

 

「ごめん、気をつける」

 

「え、あなたは……!」

 

「ほー。ここが」

 

「お、お邪魔します」

 

 来栖が謝るうちに、迅に連れられて来た人間らが玉狛に踏み入る。

 そのうちの一人と顔を合わせ、来栖は驚きの表情を浮かべた。

 

「三雲!?なんでお前が」

 

「来栖さん!お久しぶりです」

 

 顔を合わせた修も驚くが、すぐに喜んだように笑みを見せる。

 

 先日の大空襲にて世話になった彼がここにいることに来栖は改めて驚く。

 なぜ件の少年と三雲が一緒にいるのかと疑問符が浮かぶが、タイミング的に恐らく……。

 

「お前、ひょっとしてさっき居たのか?」

 

「さっき?」

 

「駅での戦闘の時だ」

 

「えっと、ホームにいました」

 

 なるほど。

 

 来栖の疑問が解ける。

 見かけない修がどうしてこの白髪の少年と一緒にいるかと思ったが、戦闘時から共に居たらしく。

 来栖からはホームの壁が死角になって見えていなかったらしい。

 

「オサム、知り合いか?」

 

「ああ。この人は──ー」

 

 白髪の少年が修に話しかける。

 

 修と話す少年を来栖はジッと観察した。

 

 酷く違和感を覚える少年だった。

 

 見るからに幼い。身長差で言えば来栖の肩に頭がくる程度。

 ただ、その見た目に反する戦闘経験の高さ。旧弓手町駅での戦いぶりを見れば、あまりにも乖離が過ぎた。

 

「よお、近界民(ネイバー)

 

 修が出会った時のことを細かく話していたが、ぶった斬るように声をかける。

 修の声が止まり、少年の雰囲気が変わる。

 

 さっきまでの穏やかさから一変。

 分かりやすく腰を落とし、目を細める。

 それが警戒だとは簡単に見てとれた。

 

 ──ーいけないな。

 

 自らの行動を振り返って、来栖は反省した。

 

 高い戦闘経験に目がいって、”もしも”が脳裏によぎってしまった。

 そのせいで、こちらも警戒心丸出しで声をかけてしまった。

 それは相手にも伝わり、必然として警戒という形を返された。

 

 自らの警戒心を必死に解く。

 目の前にいるのは分かり合えるかもしれない可能性だ。

 

 両手を上げて、何もする気はないと伝える。

 

「悪い、警戒させた。初めまして、俺の名前は来栖響。玉狛支部の人間だ。よかったらお前の名前、聞かせてくれないか」

 

「空閑、遊真。背は低いけど十五歳だよ」

 

「そうか。よろしくな、空閑」

 

「悪いな遊真。来栖さんにとってお前が初めて会う近界民(ネイバー)なんだ。少し警戒してるのは許してやってくれ」

 

「……ふむ、そうなのか」

 

 迅の注釈を得て、空閑の態度が少し元に戻る。

 

 チラとこちらを見る空閑の視線が少し痛い。

 警戒の色は薄まったが、それでも無くなってはいなかった。

 ファーストコンタクトとしては最悪に近いものだろう。

 

 なにやらかしてんだ、とわずかに後悔した。

 

「あれっ、え? もしかしてお客さん⁉︎あ、来栖さんと迅さんも帰って来てる!」

 

 聞こえて来た声に全員が上を見上げる。

 玉狛の二階に資料の詰まった箱を抱える宇佐美がいた。

 

「ただいま、宇佐美」

 

「お疲れ様です、宇佐美さん」

 

「うんうん、おかえり二人とも。お客さんちょっと待ってね! すぐにお菓子用意するから!」

 

 忙しなく動き出した宇佐美の姿をみて修たちは少し呆然としていた。

 

 そしてそれを見た来栖はクスッと小さく笑ってから呟く。

 

「とりあえず席にかけておいてくれ。俺は宇佐美さんを手伝ってくる」

 

 ======

 

 そこからひとしきり出来事があって夜。

 

 来栖は地下の訓練室に空閑を引き連れて来ていた。訓練室のゲートを通り抜けると殺風景な空間に出る。

 

 空閑の立場を考えていざという時逃げ道のある屋上の方がいいのではないかと思ったが、既に本部による監視が入っているということから外から見えない地下室に移動することになった。

 一応後で迅も来る予定である。

 

「本当によかったのか? 玉狛に入んなくて」

 

 林藤の執務室での会話を振り返り、来栖が質問を投げかける。

 同席して聞いていた来栖からしても林藤の提案はそこそこ良いものだと思えたのだが。

 

「うん、悪いね来栖さん。でも決めたことだから」

 

「そうか。自分で決めたことなら、文句は言えないな」

 

「…………」

 

「…………」

 

 そこからしばらく静寂が続いた。

 どう接すれば良いのか、来栖には咄嗟に思いつけないでいる。

 

「そういえばさ……」

 

 そんな動きあぐねる来栖より先に、空閑が会話を切り出した。

 

「この前、オサムのこと助けてくれてありがとう」

 

「…………ああ。あれは、互いに助けて助けられただけだ。別に礼を言われることじゃ…………。待て、三雲から俺のこと聞いたのか?」

 

 なんのことかと一瞬眉を顰めたが、思い当たるのは一件だけなので答える。

 

 そして最後の質問には焦りが混じっていた。

 

 来栖の存在は機密事項。

 あの時の失念で何か重要なことが起きていたらそれはまずい。

 念を入れて林藤に大丈夫か確認していたが、やはり三雲から漏れてしまいかけているのでは!

 

 焦燥を浮かべる来栖だが、空閑は変わらない様子で質問に応じた。

 

「オサムからじゃないよ。俺の相棒から聞いた」

 

「相棒?」

 

「レプリカ」

 

 空閑が指にはめた黒の指輪に呼びかけると、その指輪から伸びるように物体が現れた。

 

「!?」

 

 物体はふわりと空閑のそばで浮かび上がり、そのまま宙に留まった。

 

{はじめましてクルス。私の名はレプリカ。ユーマのお目付役を担う多目的型トリオン兵だ}

 

「トリオン兵……!」

 

 初めて見るタイプだ、と来栖は思わず息を呑んだ。

 

{改めて私からも礼を言わせてもらいたい。あの時クルスがいなければ間違いなくオサムはバムスターによって食い殺されるところだった}

 

「だからあん時は、そもそも俺を三雲が助けようとしたからだろう?」

 

{それでもだ。ありがとう}

 

 会釈というべきなのだろうか。

 レプリカは、来栖に向けて前部を下に傾けた。

 

「んー、むず痒いな。そう言われると」

 

 頬を軽く赤に染めた来栖は照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「ねえ。来栖さんはさ、近界民(ネイバー)嫌いなの?」

 

「急にどうして……。いや、会った時があれだからか」

 

 あまりに唐突な空閑の物言いに来栖はたじろいかけたがすぐに持ち直した。

 

 やはりというか当然というか。

 あのファーストコンタクトは最低だったと再度自覚する。

 

 ──敵意ありありだったからな。そりゃ当然に聞かれるよな。

 

 自分でしでかしたこととはいえ、後悔は募る。

 

 迅に今後の目標を語って、手を取り合うと決めたのに。自分から手を振り払っては目も当てられない。

 

「とりあえずあの時のあれは悪かった。もう一度謝らせてくれ」

 

 ひとまず、これがどこまで空閑に響くかわからないが謝罪を入れる。

 無論これは形だけのものなんかではなく、本気のものだった。

 

 来栖は空閑にきっかり九十度腰を折る。

 

「んで、さっきの問いの答えるなら…………。好き、とはいえないな」

 

 そしてその後に来栖は空閑の疑問に答えた。

 来栖の視線はどこか遠慮がちに空閑に向けられる。

 

 嫌いではないが好きとは言い切れない。随分濁したものだった。

 

「なら、なんで玉狛に?」

 

 空閑の疑問はもっともで、来栖も聞かれるだろうと思っていた。

 

 遠慮がちだった視線を空閑に合わせる。

 随分日本人離れした赤い瞳と、白髪が十分すぎるくらい目に入った。

 

「長いけど、聞くか」

 

「うん」

 

「ふはっ、即答かよ」

 

 空閑の即答に来栖は小さく吹き出した。

 

「興味あるからさ。クルスさんがなんで玉狛にいるのか」

 

 来栖を見る空閑の視線は、どこか浮世離れしている。

 純粋な疑問をぶつけてくるようなまるで子供のような視線だった。

 

 意識を完全に来栖へ向けている。

 それはどこか、来栖の心を奮い立たせた。

 

 ──分かり合えるだろうか。俺はこいつと。

 

 不安を抱えながら、舌を動かす。

 

「そっか。なら迅さんが来るまで話そうか。あの人のことだから話終わるまで来そうにないけどさ」

 

 ======

 ======

 

「そっか。それが来栖さんが玉狛にいる理由か」

 

「秘密にしといてくれよ。まだこれ迅さんにしか話してないんだ」

 

「わかった約束する」

 

「頼んだ」

 

 来栖はこれまでの会話の括りとして、そう約束した。

 

「迅さん、まだ来ないね」

 

「そんなことないさ。多分すぐ来る」

 

「うぃ〜す。お疲れ様です、来栖さん。遊真も、待たせたな」

 

「ほら来た」

 

 来栖の宣言通り、迅が狙ったように現れる。

 その両手には湯気立つマグカップが握られていた。

 

 来栖と空閑は迅から差し出されたマグカップを受け取り口をつけた。

 

「ん、甘いな!」

 

「ココアだな。初めてか?」

 

 一口飲んで目を丸くする様子の空閑。

 それを横目に見た来栖が説明を加えた。

 

「うん。()()()にも甘いものはあったけど、飲み物としてははじめてだ」

 

「そうか」と来栖が相槌を打ってココアを飲み進めていく。

 

 温かいココアが喉を伝って、体全体を温めた。

 リラックスした心が来栖の口を滑らかにする。

 

「なあ。遊真、よかったらお前の話も聞かせてくれよ。今までのお前と親父さんの話」

 

「そうだね。来栖さんの話だけ聞くのは不公平な気がするし。迅さんも聞く?」

 

「ああ、聞かせてくれ。おまえのこれまでを」

 

 そういって静かに空閑の独白は始まった。

 

 ======

 

 空閑の独白が終わる頃、既にココアは飲み干され、マグカップの底が見えていた。

 

 話を聞けば、壮絶だったという感想しか出てこなかった。

 

 戦争の折、瀕死となった空閑を助けるべく(ブラック)トリガーとなり、身を朽ちさせれ死んだ空閑優吾。

 指に嵌められた黒の指輪は空閑の父そのものであり、形見でもあった。

 

 空閑がこちらに来た理由も聞かされた。(ブラック)トリガーとなってしまった彼の父の蘇生。

 そしてそれがボーダーでは不可能なことを空閑と来栖は理解してしまっている。

 

「遊真、おまえこれからどうするんだ?」

 

 来栖が閉口したままであるなか、迅が空閑に話しかける。

 それは今後の進退を聞くものであった。

 

「俺は、向こうに帰るよ。来栖さんの話はすごかったけど、こっちだと肩身が狭いからさ。久々に楽しかった」

 

 白い歯を見せながら空閑が笑顔をみせる。

 

 その姿には彼が危険な存在であるとは微塵も来栖に感じさせなかった。

 

「…………そうか。これからもきっと楽しいことはたくさんあるさ。おまえの人生には」

 

 迅が空閑の持っていたマグカップを受け取り、訓練室を後にしていく。

 その後を追う前に来栖は一言空閑に告げた。

 

「よかったらさ。向こうのこと、後で俺に色々教えてくれよ」

 

「いいけど、後ででいいの?」

 

「別に今でもいいと思うけど」と空閑は続けるが、来栖は首を振って遠慮した。

 

「お前に用事があるやつが来てるからな。あいつの後でで俺は良い」

 

「オサム?」

 

 来栖が出入り口を指差すと、修がそこに立っていた。

 来栖は修の横をすり抜け際に声をかける。

 

「頑張れよ」

 

「はい」

 

 訓練室を隔離する扉が閉じ、オペレータールームに入ると迅が自分を待っていた。

 

 少し間をおいて、来栖と迅が一緒に歩き出す。目的地は林藤の執務室だった。

 

「あの二人と雨取ちゃんがチームを組むことになるんだよね」

 

「そうですね。彼らが()()()()だ」

 

「でも、その前に」

 

 来栖の視線が鋭くなる。

 迅も温和な雰囲気がなくなり、冷ややかなものに様変わりしていた。

 

「ええ、今確定しました。間違いなく遊真の(ブラック)トリガーによって本部との軋轢は悪化する。ビルで言った通りです」

 

「本部の、城戸派による襲撃」

 

 あらかじめ教えられていた未来について来栖ははっきり口にする。

 

「来栖さん、改めて聞きますが……」

 

「大丈夫。もう決めた」

 

 迅は気まずそうに足を止めたが、来栖が迷わず意志をはっきりさせる。

 

「戦うよ。本部の人たちと。たとえそれが俺の元部下であろうとも」

 

「空閑は俺と手を取り合ってくれる人間だ」

 

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