最強ノ一振り   作:AG_argentum

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ちょっとだけ復帰します


玉狛支部①

 あの後の結果だけを述べれば。

 

 修の説得により空閑はこちらに残り、向こうに連れ去られた雨取千佳の兄と友人を探すため部隊を結成することに決めた。

 

 ただ、少々来栖にとって意外だったのは、その隊長が経験豊富な空閑ではなく、修だったことであろうか。

 空閑に質問しても「そうするべきだと思ったから」と考えを変えるつもりはないらしい。

 

 兎にも角にも迅の予知通り、玉狛第二として彼らは発足する。

 

 そして遊真と千佳が玉狛に入隊する事を決めた翌日の朝。

 リビングに集められた修達は、ホワイトボードの前に立つ宇佐美が書いた図式に注目していた。

 

「ふむ。だいぶめんどくさいな」

 

 とりあえず、入隊から正隊員に。正隊員から遠征部隊に選ばれるためのランク戦(システム)を一通り説明された空閑はそう締めくくった。

 

「そんなにめんどくさいか?」

 

(ブラック)トリガーが使えたら蹴散らせたからね」

 

「それは反則だろ」

 

 残念がる空閑の発言に来栖は呆れを見せる。

 

「ランク戦では規定されたトリガーしか使えないからね。千佳ちゃんはどうしよっか? オペレーターか戦闘員かなんだけど……」

 

 戦闘経験豊富な空閑が絶対として戦闘員で確定。

 既に正隊員として活動をしている三雲もまた戦闘員で確定。

 

 後は未だ入隊もしておらず、戦闘経験も一切ない千佳が戦闘員かオペレーター(どちら)で戦っていくか。

 どうしたい? と宇佐美が雨取に質問した。

 

「そりゃ戦闘員でしょ。あんだけすごいトリオン持ってるんだから」

 

 千佳が宇佐美の質問に答えるより早く、空閑が提案する。

 

「そんなにあるのか? 雨取はトリオン」

 

「そりゃもう。見たらビビるよ」

 

 来栖の質問に答えながら空閑は身振りでアピールした。

 

「どうする、千佳ちゃん?」

 

 あくまで外野の意見であるそれを踏まえて、宇佐美が千佳に確認する。

 

「わたしも……自分で戦えるようになりたいです」

 

「そっか! なら戦闘員で決まりだね。次は、ポジションだけど……」

 

 千佳本人の意思を確認した宇佐美はいくつかの質問をした。

 質問には千佳が答えあぐねたものにも修が答えることで順調に進み、最終的に狙撃手(スナイパー)としてポジションが決まる。

 

 なら次はボーダーのトリガーについて説明を始めるね、と宇佐美がうきうきしはじめた時に勢いよく開かれたドアが遮る。

 修たちの視線が大きな物音をたてたドアに集中した。

 

「あたしの、どら焼きが無い!!」

 

 涙目になりながら、怒りを隠さず伝えるように小南が叫ぶ。

 

「誰が食べたの!?」

 

「小南先輩、今ちょっと静かに」

 

「いいから! 誰が食べたの!」

 

 ウガー! と歯を見せ唸りながら、来栖に詰め寄った小南が怒りそのままに襟元へ掴みかかる。

 

「だいたい! あんたがこの前買ってくるって言ってたのになんで買ってこなかったのよ、来栖!」

 

「ぐがっ! 首が! 首が絞まってる!」

 

 トリオン体ではないはずなのに小南が来栖の足をわずかに浮かす。

 現役女子高生とは思えない腕力が存在していた。

 

 来栖がどら焼きを買ってくるつもりだった日は、ちょうどイレギュラー(ゲート)に巻き込まれた日だ。

 怒りをぶつけるのならまずはトリオン兵に向けてほしいが、首が絞まってそんな言い訳すら許されない。

 

―――なんと食べ物の恨みは恐ろしいことか。

 

 このままでは来栖の顔が青くなっていく一方なので、慌てて宇佐美が両手を合わせた。

 

「ごめんごめん、こなみ! 昨日お客さんに出しちゃった。また今度アタシが買ってくるから、ね。来栖さんから手離してあげて!」

 

「はあ!?」

 

 宇佐美の説明により、小南がパッと来栖の襟元からパッと手を離す。

 わずかに浮いていた足が地面につき、酸素を求めた来栖が大きく息を吸い込んだ。

 

「あたしは! 今! 食べたいの!」

 

 怒りを訴えるようにその矛先を変えた小南が宇佐美の頬を横に引っ張る。

 

「騒がしいぞ。小南」

 

「いつものことじゃないっすか」

 

 騒ぎ立てる小南を気だるげに止めながら部屋に入ってくる烏丸とレイジ。

 

 こうして今、玉狛支部に常駐する隊員たちが全員ここに集まった。

 

 やあやあと食べ物の恨みは恐ろしく、未だ続く小南の駄々を横目にひとまず来栖が入ってきた男衆の紹介を修らに始める。

 

「取りあえず、そうだな。このもさもさしたイケメンが烏丸京介、十六歳」

 

「どうも、もさもさしたイケメンです」

 

 来栖が初めに指さして烏丸が無表情な顔の横に星を浮かべながら会釈する。

 

「んで、落ち着いた筋肉を誇る木崎レイジさん、二十一歳」

 

「それ人間か? 来栖」

 

「人間ですよ」

 

 レイジのツッコミをさらっと流して次の人物の紹介を来栖は始める。

 

「んで、今騒いでるのが、嘘をすぐに鵜呑みにするかわいい騙されガールの小南桐絵先輩、十七歳」

 

「んんっ! か、かわいいってなによ来栖。やめてよねっ、そういうお世辞。お世辞じゃないのかもしれないけど!」

 

 聞き耳を立てていた小南が、来栖の紹介に頬を赤く染める。

 照れ隠しとばかりに力なく来栖の肩を叩き始めた。

 

「それで最後になるけども、俺が記憶喪失の玉狛の居候、来栖響。書類上は二十一だけど今は十七歳でいいのかな。後何人か支部の隊員はいるそうなんだけど、今は県外に出向いているらしい」

 

 なかなか濃い紹介を連続で聞き終えた修達はひとまず照れてしまった小南が落ち着くのを待つことにした。

 

「さて、落ち着いたことだし本題に入ろっか」

 

 終始無言ながら話を切り出すタイミングを見計らっていた迅が全員の視線を集める。

 

「こっちの新人三人はワケあってA級を目指してる。そこで三人にはそれぞれの指導をしてもらいたい」

 

「はぁ!? そんな勝手なこと言わないで! 大体──」

 

「小南、これは支部長(ボス)の命令だ」

 

支部長(ボス)の……!?」

 

 迅の出した名前に小南は少したじろいだ。

 流石の小南も直属の上司からの命令とあっては逆らうわけにはいかない。

 

「わかったわよ。でも、こいつはあたしがもらうから」

 

 それでも納得しかねていない表情のままの小南がせめてと空閑を肩から引き寄せる。

 

「見た感じ、あんたが一番強そうだから。あたし、弱い奴は嫌いなの」

 

「ほほう、お目が高い」

 

 空閑は自分を引き寄せた小南を見上げ、白い歯を剥き出しに笑う。

 

狙撃手(スナイパー)の経験があるのはレイジさんしかいないから千佳ちゃんはレイジさんだね」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく」

 

 手早く二組が決まり、残ってしまった修と烏丸の目がゆっくりと合った。

 

「となると、俺は必然的に……」

 

「……よろしくお願いします」

 

 最後まで余った修は冷や汗を浮かべながら烏丸に挨拶した。

 

「迅さん、来栖さんはどうするんスか?」

 

 烏丸の質問に待ってましたと迅が笑みを浮かべる。

 

「来栖さんにはメガネくんと遊真をみてもらうつもりだよ」

 

「二人もか? 負担が来栖だけ大きいと思うが」

 

 迅の提案にレイジが苦言を漏らすが、問題ないと笑った。

 

「一応そこら辺はうまくやれると思うし、メガネくんにはレイガストの使い方を教えてあげるだけで十分だよ。良い一環になるでしょ」

 

「レイガストをか」

 

「なるほど、そういうことならまあ」

 

 鳥丸とレイジが納得を表情をし、迅の提案を受け入れる。

 

 ただ、当の来栖はといえば。

 

「え、レイガスト?弧月じゃなくて?ちょっと迅さん?」

 

 顔を引き攣らせ、納得とはほど遠い顔をした。

 

「大丈夫、大丈夫。来栖さんなら教えれるはずですから」

 

「ええ〜?」

 

 来栖の顰めっ面には自信なんてものが宿っておらず、教わることになる修もつられて不安になってきた。

 

 ただそれに構うことなく、迅はおもむろに口を開いてその場を締め括りにかかる。

 

「よーし、それじゃあ三人とも師匠の指導をよく聞いて腕を磨くように!」

 

 師匠と弟子。それぞれが顔を見合わせてから、小南と遊真。続くようにレイジと千佳が部屋を出ていく。

 

「いくぞ、三雲」

 

「は、はい。烏丸先輩」

 

 そして最後まで残された烏丸と修が部屋を後にする。

 

「レイガスト。レイガストかぁ」

 

 そんな後ろを来栖が付いて行った。

 

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