最強ノ一振り   作:AG_argentum

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数ヶ月前にいただいたコメントによってまた書こうと思い、昨日のコメントで連日投稿を決意する投稿者。
それが僕です。



玉狛支部②

「うーわ、マジか」

 

「…………」

 

 ひとまず場所を移し、訓練室。

 

 まずは修の実力を確かめようと、烏丸十本。来栖十本の模擬戦を行った後の来栖の一言目がそれだった。

 

 ぜーはー、と長椅子に横たわり荒い息を繰り返す修。

 

 疲弊が早すぎる。生身の影響を受けない戦闘体においては一応精神的疲労しか発生しないが、こうもすぐ息切れするとは来栖の予想を超えていた。

 

「三雲、おまえ弱いな」

 

 修を涼しげに見下ろしながら遠慮なく口にした烏丸。 

 その評価には来栖としても同意見だった。

 

 精神的体力がまだ付いていないことがまずその一つに挙げられるが、動きも決して良いとは言えない。

 これなら、ボーダーに来たばかりの自分でも勝てそうだと思ってしまうくらい修は弱かった。

 

「大丈夫修くん? ほい、水分」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 宇佐美がボトルを修に手渡すと、すぐさま修は口をつけた。

 

「どうしよっか」

 

「どうしましょうかね」

 

 来栖と烏丸が困り顔で見合い、頭を捻っていると使っていた訓練室とは別の扉が大きな駆動音を鳴らしながら開かれる。

 

 開かれた扉からはよたりよたりと、体を左右に揺らしながら歩いてくる小南。

 

「小南先輩。大丈夫?」

 

 奇妙な小南を見た来栖が心配になって声をかけた。

 

「そんな……。嘘でしょ」

 

「?」

 

 小南の言葉に首を捻った来栖は、下から小南の顔を覗き込んだ。

 冗談抜きで顔色が悪い。本当に大丈夫かと来栖は考えた。

 

「負けた。……あたしが、負けた?」

 

「!?」

 

 聞こえた小南の言葉に来栖は目を見開いてしまう。

 そして小南の出てきた扉から焦げた匂いと共に爆発したような髪型を作った空閑が出てくる。

 

「…………勝った」

 

「勝った、のか? 小南先輩に⁉︎」

 

 空閑の顔は勝ち誇ったもの。

 来栖は信じられないと言わんばかりに空閑と小南を交互に見た。

 

「か、勘違いすんじゃないわよヒビキ! 九対一! あたしの方が全然上なんだからね!」

 

 愕然とする来栖の言葉に、立ち直った小南が訂正を加える。

 訂正こそ加えられたが、それでも来栖の驚愕は治まらなかった。

 

「今のところはね」

 

 盛りに盛られた髪を押さえる様にして整える空閑は、得意げに言った。

 小南を見上げながら笑う空閑の表情はさながら挑戦を楽しむ子供の様。

 

「次は多分もっと勝つよ。こなみ()()

 

「調子に乗るんじゃないわよ()()。ほら次行くわよ次」

 

「うん。後で来栖さんもやろうね」

 

「あ、ああ」

 

 囃し立てる小南とそう言い残して行った空閑。二人がいなくなった待合室でいつの間にか体を起こしていた修は独りごちた。

 

「空閑でもなのか?」

 

 動揺。唖然。修の心情はそんなところだろう。

 息を呑む姿はそれを如実に表している。

 

 どうやら三雲の中では空閑は圧倒的な強さを持っているのだろう。

 それがまさかたったの一勝しかできていない。

 

 ボーダーの層の厚さ。それを修は目の当たりにした。

 

「…………どうする三雲。空閑(あいつ)はもう行ったぞ。まだ休憩するか」

 

「いえ、やります!」

 

「ふふっ、いいねその心意気」

 

 空閑の敗北にショックを受けているのではと若干心配した来栖だが、修の返事は存外力のこもったものだった。

 

「さて、俺らも準備しないとな。京介、今日は──」

 

「俺が教える、ですよね。わかってます。バイトもあるんで、今日はよろしくおねがいします」

 

「あんがと。宇佐美さん、俺のトリガーにレイガストのチップお願いします。それから、三雲に()()()()()入れてもらって良いですか?」

 

「わかった、あれだね」

 

 来栖の要求に二つ返事で宇佐美が返す。

 

「つーわけでだ。三雲、トリガー出して」

 

「え、はい」

 

 来栖に言われるがまま、トリガーを宇佐美に手渡した修はこれから何をしようとしているか検討がつかず、首を傾げた。

 

 作業する二人を見ながら修は烏丸に尋ねた。

 

「あの、烏丸先輩。来栖さんは一体何を? それに裏技って」

 

「……何をしようとしているかははっきりわからないが裏技ならよく知ってる」

 

 烏丸はそこまで口にしてからあえて途中で言葉を切った。

 その表情は穏やかで、懐かしいものを見るかのようだった。

 

「レイガストはあれを使えば一気に化けるぞ」

 

 ======

 

「ひとまず! 体力の向上は当然ながら、お前には課題が二つある」

 

 訓練室に入るや否や来栖は修の方へ向き直り、指を二つ立てた。

 

「一つは”戦うイメージを思い浮かべること”。もう一つは、”予測能力の向上”だ」

 

「えっと。それはつまり?」

 

「順序立てて説明していく」

 

 修は戸惑うが、来栖が指を一つ折って説明を始めた。

 

「”戦うイメージを思い浮かべること”っていうのは簡単に言えば、どうやって敵を倒すかもっとイメージしろってこと。例えば、機動力を活かして相手を撹乱する、とか。強力な一撃を狙う、とか。我慢してカウンターを決める、とか。三雲にははっきり言ってそういう方針みたいなのがまだない」

 

「そう、ですね」

 

 修の声から悔しさが滲み出る。

 確かに来栖のいう通り、自分にはそういったものがないように思えた。

 

「まずはそれを決めること。それも一つにとらわれず、柔軟にだ」

 

「一つだけじゃなく、柔軟にですか? それだとかえって中途半端に身につけることになるんじゃ」

 

「──ほお」

 

 修の言葉に来栖が感嘆する。

 

 自分の考えに反論したことを生意気に思ったとかそういうのはない。

 

 三雲修は、ただ相手の考えを享受するだけのつもりではなく。

 しっかりと自ら考え、より強くなろうとする姿勢がある。

 

 そのことはとても来栖に好印象を与えた。

 

「確かにそれはあってる。一つに集中すれば、当然そのイメージは伸びる。でも、もし敵が鍛えたそのイメージの使い手で、格上だったら? その時に備えて、柔軟に手広くだ」

 

「なるほど」

 

「さらに言えば、多くのイメージを伸ばしていけば、その中で得る気づきが別のイメージで使えることもある。そういったことを増やすためにも、まずは手広く鍛えていこう」

 

「はい、わかりました!」

 

「うん。それじゃ次の説明だ」

 

 再び指を一本立てた来栖は説明に取り掛かる前に修から距離を取った。

 

「二つ目は”予測能力の向上”だって言ったよな。三雲、レイガスト出しといて」

 

「はい」

 

 言われるがままに修はレイガストを構築する。

 

 それを確認してから、来栖は再度しゃべり始めた。

 

「これは言葉通りだ。例えば…………」

 

 ある程度まで距離を取った来栖は立ち止まり、弧月を腰に生成してから抜刀の構えを取る。

 その構えのまま、来栖は修へ問いかけた。

 

「次、どうお前に仕掛けると思う?」

 

「来栖さんがさっきの訓練中使ってた、伸びる斬撃を仕掛けてくると思います」

 

「ああ、旋空弧月だな」

 

 トリガー知識もまだまだだな、と認識を深めた来栖が修の発言を補足する。

 

「んじゃ、答え合わせだ。レイガストでしっかり防いでみろよ」

 

 その言葉を皮切りに来栖の纏う気配が変わる。

 来栖から目が離せない。

 修は抜かれるであろう弧月を注視し、レイガストを構えた。

 

 そして──。

 

「正解は、突撃してからの抜刀だ」

 

 修の首筋に弧月が当てられている。その距離はもはや薄皮一枚程度。

 来栖のいた位置には、踏み込んだ際にできたクレーターが残され、修は微動だにできていない。

 

「言っとくがお前の答えを聞いてから答えを変えた訳じゃないぞ。俺ははじめからこうするつもりだった」

 

 首筋に当てられていた弧月が離れ、鞘に納められる。

 そして来栖は答え合わせだ、と言わんばかりのしたり顔で自分が残したクレーターまで歩き始めた。

 

「まず絶対として、この距離から俺が旋空を起動することはありえない」

 

「ありえない、ですか」

 

 断言とも取れる否定に修は眉を顰めた。

 

「そ、ありえないんだ。だってこの距離は、お前と()()()()()()()()()()。この距離は”旋空”にとって近すぎる」

 

「近い?」

 

 ”旋空”のメカニズムを知らない修は来栖の言葉に疑問が湧いた。

 

 そして来栖は”旋空”の説明を修に始める。

 

「旋空は発動するとブレードの部分が伸びてそれを振り回す攻撃なんだが、伸びた刀身の部位によって威力に差が出るようになってる。根元から先端にかけて威力が増えていくようになっていて、威力を最大限発揮しようとしたら距離の調整が重要になるんだ。そして旋空の一般的な距離感は()()()()()()10メートル(この距離)で旋空を振っても、お前にあたるのは刀身の中頃になるから威力としては十分じゃない」

 

ま、時間を調節すればできなくはないが。と来栖が言葉をこぼし、修は伏せ目がちに話し始める。

 

「もし僕が旋空のそのメカニズムを知っていたら、答えはきっと……」

 

「違ってただろうな」

 

 続けるつもりであっただろう修の言葉を来栖が述べる。

 来栖は自身のトリガーに搭載した”レイガスト”を起動し見せびらかすように手に取った。

 

「レイガストはまず、重い。だから相手より先に動くことは常に求められる。そのためには相手の動きを”見て”、早く”判断”して、”行動”しないといけない。だからお前にはこの課題のクリアは必須なんだよ」

 

「…………」

 

 わかりやすく修が肩を落とした。

 嘆息を来栖が漏らすが、励ますように肩を叩く。

 

「どっちにしろ、今言った二つは経験が何より重要だ。経験を積めばさっきの場面だって、複数の対応ができるようになる。だからそうしょげるな」

 

「ですが……」

 

 焦燥を感じさせる修の声に来栖は仕方ない、と思った。

 

「三雲。さっき宇佐美さんが入れてくれた”オプショントリガー”をレイガストと併用してみろ」

 

「え? はい、わかりました」

 

 言われるがままに修はトリガースロットから今までなかったトリガーを選択し、使用する。

 そして明らかな変化を感じ取った。

 

「レイガストが、軽くなっていく?」

 

 両手で持つレイガストがその重みを失せさせていく。

 

 どうなっているのだ、と修が来栖を見た。

 普段の重さではない。振り易くなったレイガストに違和感を修は覚えそうだった。

 

 そして来栖は説明を始めた。

 

「昔、レイガストはその重さをどうにかする為のトリガーが開発されてたそうだ。そんで今お前が使っているのは宇佐美さんが自己流で再現したもの。そのレイガストの軽さは今大体弧月と一緒だ」

 

 宇佐美曰く。

 元々レイガストは一時期強力だった弾丸トリガーを扱う射手(シューター)に対抗する為に作られたブレードトリガーであり、ある攻撃手(アタッカー)がわざわざエンジニアに転向してまで作り上げた武器らしい。

 

 そしてそのエンジニアがレイガストを改良するべくして作り上げたのが、レイガストの能力はそのままに重量だけを軽くするトリガー。

 今修が扱っているレイガストはそのトリガーが適応されたものだ。

 

「これって十分すごいんじゃ? でもこんなトリガー本部には置いてないですよ」

 

「まあ、何でもトリオンの消費がヤバいらしい」

 

 これも宇佐美曰くではあるが。

 確かにそのエンジニアはシステムの完成にまで漕ぎ着けこそしたが、それ以外がおざなりであってしまったそうで。

 

 来栖の言った通り、トリオンの消費が激しくとても実戦に耐えれるものでは無かったので、最終的に試作トリガーとして採用されることすら見送られてしまったのだとか。造られたそのシステムは別の形で再利用されることになったという。

 

 そして他にもそのエンジニアの腹回りがふくよかになったりとか、ワーカホリックになってしまったのだとかなんだとか。

 

 閑話休題。そんなことはいったん横に置いといて。

 

「ただ仮想訓練ルームならそのトリガーのデメリット、膨大なトリオンの消費を気にする必要はない」

 

 仮想訓練ルームはトリガーとコンピューターを繋ぎ、擬似的に戦闘を再現することが可能である。

 そして、コンピューターに繋いだことにより個人が本来持っていないほどのトリオン能力を再現することも可能であり、トリオン切れは絶対に起こらない。

 

「そのトリガーを使って、実際に俺と戦いながら課題をこなしていく。まずは()()()レイガストを使う俺に勝つのが目標だな」

 

「来栖さんに勝つ、ですか?」

 

「そ。武器の重さ上、確実に俺の戦闘動作(モーション)は遅くなる。俺はその差を、より早く判断することで縮めていき、お前は俺が判断(そう)するよりも早く行動すれば勝てるって理屈だ。この方法でさっきの課題をこなしていく」

 

 なるほど、と理解はするが不安な顔を浮かべる修。

 その脳裏には来栖に初めて会った時を思い出していた。

 

 あの、まるで消えたかのように一瞬でモールモッドを倒した来栖。

 それに武器の性能を底上げと本来の武装ではないレイガストのハンデをもらったとして勝てるのか。

 

 そしてさっきの模擬戦でこっぴどくやられたのを思い出して修はさらに表情を曇らせた。

 

「当然、武器の性能を良くしたからっていきなり勝つのは無理だ」

 

 そんな修を見かねた来栖が、強い口調でそう告げた。

 

 どれだけ道具を良くしようと、それを扱うのは所詮人。

 道具で実力の差を詰めようと、追い越すには人の成長が不可欠である。

 

「だから、成功と失敗を繰り返せ。小さな成功でも、大きな失敗でも良い。そこからイメージと予測を進化させていけば自ずとお前は強くなる」

 

「…………」

 

 強くなれる、と来栖は言ったが修の表情はまだ暗がっていた。

 

「はぁ」と大きく息を吐いた来栖が語気を強める。

 

「なるんだろ。A級に」

 

「っ!」

 

 三雲修にとっての目標。改めてそれを提示した。

 

 来栖に勝つのはその過程にあるもののはずだ。

 不安になるなと、修に言い聞かせた。

 

「俺に勝てないようじゃA級になるなんて夢のまた夢だぜ。どうする三雲?」

 

 やるかどうか。暗に投げた問いと共に来栖は修の顔を見た。

 

「やります。来栖さんに勝ちます。勝って、そして…………」

 

 修はさっきまでの不安さをどこか吹き飛ばしたように目の色が変わる。

 そこから先の言葉は聞かなくとも分かった。

 

「ああ、早速始めようぜ。三雲」

 

 修の威勢の良い返事を聞き、距離をとる。

 

 {仮想戦闘。十本勝負、開始}

 

 二振のレイガストが向かい合う。

 向かい合ったそれぞれは次の瞬間、力強く衝突しあった。

 ======

 

 ところ大きく変わって、ボーダー本部。

 

 ボーダー最高司令官、城戸正宗は黙々と業務をこなしていた。

 

 【城戸総司令。遠征部隊より通信が入っております。メノエイデスを無事出立。人的被害は無し。およそ六八時間後に本部基地に到着の予定。()()()()()()()()()()()()。以上です】

 

「…………。御苦労。引き続き、警戒を怠らないよう。以上だ」

 

 短く言葉を切って、通信を終了させる。

 

 城戸は業務の手を止め、街を見渡せる大窓から警戒区域に視線を落とす。

 

「あと、三日か…………」

 

 




遠征組が3日後帰還なので3日後投稿します。
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