最強ノ一振り   作:AG_argentum

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意図的に三日後です。

よろしくおねがいします。


第二章  ブラックトリガー争奪戦 
本部トップ部隊


「ご苦労。無事の帰還なによりだ。ボーダーの最精鋭部隊たちよ」

 

 ボーダー最高指令である城戸が先ほど遠征より帰還してきた隊員たちに労わりの言葉を向ける。

 

 その中から一歩。No.2攻撃手(アタッカー)にしてA級三位隊長。風間蒼也が前に出て、机の上に四つのトリガーを広げた。

 

「城戸総司令。今回の遠征の成果です、お納めを」

 

「確かに。…………さて帰還早々で悪いが、諸君らに新しい任務がある。現在玉狛支部にある(ブラック)トリガーの確保だ」

 

 並べられたトリガーを一瞥するだけに留めた城戸は、眼前の精鋭たちに任務を与える。

 

(ブラック)トリガーか」

 

「おいおい、よりによって玉狛にかよ」

 

 城戸の言葉にNo.1攻撃手(アタッカー)に個人総合No.1。そしてA級一位隊長の太刀川慶が笑い、No.1狙撃手(スナイパー)でA級二位冬島隊所属の当間勇がめんどくさいことになっているとゲンナリした態度をとる。

 

「三輪隊、説明を」

 

「はい」

 

 城戸は側に控えていた三輪に事の顛末を説明するよう促し、今日までの詳細を語った。

 

 先日確認された、未登録のトリガー反応について調査中、三輪隊が近界民(ネイバー)を発見し、交戦に発展。

 当該近界民(ネイバー)は交戦中に(ブラック)トリガーを所持していることが確認され、その能力は”他のトリガーが持つ能力を学習し、模倣(コピー)するもの”だと予想される。

 

「その後、玉狛支部所属の迅隊員が戦闘に介入し一時停戦。近界民(ネイバー)は迅隊員の手引きにより玉狛に身を寄せ、そして現在に至ります」

 

「玉狛に(ブラック)トリガー持ちの近界民(ネイバー)か。まずいな。玉狛が(ブラック)トリガーを二つも所有するとなれば、組織内のパワーバランスが崩壊する」

 

 先ほどまで黙していた風間がことの問題性を端的に口にする。

 

「その通りだ、風間隊長。だが、それを許すわけにはいかない」

 

 城戸は顔にある縦に走った傷に指をあて、命令を言い渡した。

 

「なんとしても(ブラック)トリガーは我々が確保する」

 

「なるほどな。おい奈良坂、(ブラック)トリガーの行動パターン、分かってんのか?」

 

 太刀川が三輪隊の一人である奈良坂透に質問する。

 

(ブラック)トリガーは毎朝七時に玉狛にやってきて、夜の九時から十一時までには玉狛から自宅に帰っているようです。ただ気になることが一つ」

 

「ん? なんだ」

 

「現在、三輪隊(うち)の米谷と古寺で監視をしていますが、日中もカーテンを閉め切ったりしていて玉狛の中で何をやってるかまでは掴めてません。あくまで出入りの時間のみが分かっている状況です」

 

「なるほど。玉狛は本気でその(ブラック)トリガーを庇うつもりらしいな」

 

 太刀川は奈良坂の報告からそう結論付ける。

 玉狛の連中は本部の監視がつくことを予想し、可能な限り(ブラック)トリガーの情報を本部側に渡さないつもりらしい。

 

「なら、襲撃は今夜のほうがいいな」

 

「…………!?」

 

「今夜!?」

 

 太刀川が顎に生えた髭をいじりながら思いつきのように呟く。

 それを聞いた室内の一部は呆気と驚きをあらわにした。

 

「…………太刀川さん。いくらあんたでも相手を舐めないほうがいい」

 

 その一部の中で、最も早く立ち直った三輪隊隊長。三輪秀次が太刀川の提案に待ったをかける。

 

 三輪は、今この室内で唯一(ブラック)トリガーの能力とその強さを()の当たりにした人物であった。

 

 太刀川が強いということは知っている。だがそれでも、いくら今夜襲撃をかけるというのは驕りがすぎるのでないかと思えたし、遠征部隊である太刀川らはついさっき帰還したばかりで決してベストなコンディションであるはずがない。

 

 しっかり休息をとり、じっくり作戦を練るべきだ。それが三輪としての提案でもあった。

 

 だが決して間違いではないそれを太刀川は一蹴する。

 

「三輪、相手は能力を学習するして模倣(コピー)するトリガーなんだろ。そんで今玉狛で何しているかわからないときた。今頃、その近界民(ネイバー)はボーダーのトリガーを学習してるかもしれないぜ。時間をかけるわけにはいかない」

 

「…………!」

 

「それに監視させてる米谷と古寺に悪いだろ。サクッと終わらせようぜ。それでどうです? 城戸指令」

 

 太刀川から真向かいに位置する城戸に向け、判断を仰ぐ。

 表情の変化を一切見せない城戸は冷たい声で太刀川らに言い渡した。

 

「いいだろう、部隊はおまえが指揮しろ太刀川」

 

「りょーかい」

 

 軽々しく太刀川は城戸へと言葉を返す。

 それを見た三輪は、苦虫を噛み潰した表情を見せた。

 

「本会議はこれにて終了だ。太刀川、風間両隊長は残りたまえ。他隊員は退出しろ」

 

「行こう、秀次」

 

 城戸がそう言い渡し、三輪は隣の奈良坂に促され退出を始める。

 

 三輪は立ち去る前に残された太刀川を見て、さらに視線を鋭くした。

 別にさっき自身の意見を否定されたからという子供じみた理由ではなく。さっきの軽い態度もそうだが、太刀川のその態度には何処か既視感じみた嫌悪があったからだ。

 その既視感の正体こそ、三輪はいまだに掴めていないがそれでも。

 

 三輪秀次は太刀川慶のことが苦手であった。

 

 ======

 

「改めて、遠征ご苦労であった」

 

 城戸は、会議室に残した二人の隊員に向け言い渡す。

 

「城戸総司令。こちらが()()()()()()()になります」

 

 風間が、机にあった四つのトリガーから大きく離す形で一つのトリガーを置く。

 

鬼怒田(きぬた)開発室長。早急の解析を」

 

「言われるまでも無いわい」

 

 城戸に命令される恰幅のいい男性。

 ボーダー本部にて技術者(エンジニア)を束ねる開発部門トップの鬼怒田本吉が立ち上がり、置かれたばかりのトリガーを懐に入れる。

 

「退室しても構わんな?」

 

 (はや)るように会議室唯一の出口の前に立った鬼怒田は城戸に対し申し出、それに城戸は無言で頷いた。

 鬼怒田が退出した扉が閉まると共に、城戸は口を開く。

 

「危険な任務。よくぞ誰も死なせずに帰ってきてくれた」

 

「まあ、そーゆうのは今船酔いでダウンしてる冬島さんに言ってあげてくださいよ。あの人いなかったらマジで誰か死んでたかもしれない」

 

 さっきまでの軽薄さを取り除いたように真剣な面持ちの太刀川がつぶやく。

 

 簡単に”死んでいたかもしれない”と太刀川は言うがそれは比喩でもなんでもなく、現実として起こっていたかもしれないことだった。

 

「それに、しなくてもいい任務をやりたいって言ってんのは俺たちの方だ。わざわざそんなこと言わなくてもいいでしょう」

 

「…………だとしてもだ。そのリスクを負わせたのは我々が弱かったからである」

 

「その弱かったのには俺も含まれるでしょうが」

 

「太刀川。よせ」

 

 熱のこもった太刀川の一言を風間が咎めた。

 風間と太刀川の視線が噛み合うが、息を大きく吐いた太刀川がプイと視線を逸らす。

 

「分かってるよ、風間さん」

 

「ならいい」

 

「それよか城戸さん。帰ってきていきなりなんだけど、()()()()見舞いの許可、出してくんないです? 俺と出水と国近の分で」

 

 さっきまでが嘘のように軽口を吐く太刀川。

 上司である城戸に向けての態度がなっていないと風間は注意しようとも思ったが、口を挟む前に城戸が手で風間を制した。

 

「早急に手配しよう。しかしながら」

 

「わかってますよ。今夜の任務はきっちりこなす」

 

「風間隊長、君はどうする?」

 

「…………あいつの見舞いは太刀川たちの後で構いません」

 

「そうか。不便をかける」

 

 城戸は風間に向けて、ではなく両者に向けて謝罪の言葉を告げた。

 それに対し、太刀川は腕を頭の裏に回し、仕方ないと城戸をフォローする。

 

「あん人、今海外での調査とスカウトってことになってるんでしょ。上層部(城戸さんら)を通さないで俺らが好き勝手に見舞いに行ったら、誰にどんな形で漏れるかわかんないんだし不便は我慢しますよ」

 

「…………」

 

「…………」

 

 太刀川の言葉に風間も城戸も無言を貫く。

 

「まあ、そういうわけで()()()()()()()()(ブラック)トリガーの件が片付いてからだ。よろしく頼みますよ、城戸指令」

 

「ああ」

 

「さっ、風間さん。要件も終わったし、夜の作戦たてに行こうぜ」

 

「襲撃地点の選定が先だ。失礼します、城戸指令」

 

 太刀川が退出し、一礼する風間も後を追っていく。

 

 それを見送った城戸は静かに目を閉じ、背もたれに大きく体を預けた。

 

 ──不便をかける。

 

 改めて、太刀川らへ口にした言葉を反芻する。

 

「まま、ならないものだな」

 

 今も病室で眠っている、一人の青年を思い浮かべながら城戸は短く口にした。

 

 

 =======

 

 

 星空が雲で見え隠れする夜。

 

 無人と化した警戒区域を八つの影が疾走していた。

 

「おいおい三輪。もっとゆっくり走ってくれよ。疲れちまうだろ」

 

 八つの影の先頭をいく三輪を太刀川がにやけたツラで小言を吐く。

 

 時間をかけるわけにはいかない、と言っていた太刀川が吐いた一言を三輪は鬱陶しく思えたが、指揮を任されているのは太刀川だ。三輪は若干ではあるが速度を落とす。

 

「止まれ!」

 

 へらへらと、軽薄な面構えをしていた太刀川の表情が鋭いものに変貌し、制止の声を発する。

 太刀川の一言で影らは一斉に減速し、立ち止まった。

 

「久しぶりだね、太刀川さん」

 

 雲から覗いた月明かりと、僅かに生きたままの街灯が太刀川たちの前に立つ人物を映し出す。

 

 玉狛支部所属。S級隊員迅悠一。

 今まさに太刀川たちが襲撃をしようとしていた支部に所属する人間がそこにいた。

 

「そう来るか。迅」

 

「みんなお揃いでどちらまで?」

 

「はっ。こんな所で所で待ち構えていたってことはわかってるんだろ」

 

 薄く笑みを受かべる太刀川と迅。

 なんの為かという問答は両者にとって不要であった。

 

 先に口を開いたのは迅。

 

「悪いけど、遊真はもうボーダーの隊員で、玉狛(うち)の可愛い後輩だ。ちょっかいは出させないよ」

 

 迅が腰に下げた黒色に染められた柄を引き抜く。

 

 露出される翠玉の刃。

 それこそが迅悠一の武器。(ブラック)トリガー”風刃”。

 

 臨戦体勢を整えた迅に、辺りの空気が一気に引き締められる。

 

「あくまで抵抗を選ぶつもりか、迅。他の部隊ならばともかく俺たちを相手に一人で勝つつもりか?」

 

「まさか。風間さん、俺はそこまで自惚れていないよ」

 

「何?」

 

 風間が迅の意味深な態度に眉を顰めたが、レーダーに写る新たなトリオン反応に太刀川たちが反応する。

 

 ダンッ、と廃屋の屋根から鳴らされる無数の着地音。

 その内の赤の一つが宣言する。

 

「嵐山隊、現着した! 忍田本部長の命によりこれより玉狛支部に加勢する!」

 

 赤を基調にした隊服を身に纏うA級五位、嵐山隊。

 隊長である嵐山准を一番に、続くよう時枝充、木虎藍が屋根から地上に降り立つ。

 

「なるほど、嵐山隊。忍田本部長派と手を組んだわけか」

 

 風間が、迅の隣に降り立つ嵐山を見て目を細める。

 

 ボーダーにある三つの派閥。

 その”忍田派”と”玉狛派”が手を組んだ事実は、この任務の重要性と緊急性を跳ね上げた。

 

 ただ、そんな状況になったにも関わらず。

 

「で、迅。それで俺たちに勝てるのか?」

 

 太刀川の表情は余裕を保ったままだった。

 

「お前と嵐山隊。確かに勝ちの目はあるだろうけどいいとこ五分だろ? お前らしくないな」

 

「らしくない、ね」

 

 太刀川の言葉を否定しない迅。

 自分達が居てなおその勝率は五割しかないと言われた、嵐山隊の木虎は大袈裟に眉を吊り上げた。

 

 それに気を留めず、太刀川は迅へ言葉を紡ぐ。

 

()()のお前なら勝ちの目をもっと上げてくるはずだ。半々なんてらしくない。まだ、なにかあんだろ」

 

 それは太刀川から迅への信頼であった。

 

 迅悠一は、最善の結果を目指す。

 その最善の為なら、人の心も捨て去るほどに。

 

 迅悠一は、最悪の結果を遠ざける。

 失う辛さと、悲しみを知っているから。

 

 だからこそ。太刀川は迅に続きを、勝率をより上げる要素を要求した。

 半々の可能性で済ませるはずがない。迅悠一は持ちうる力全てで勝ちにくる。最善の未来に手を伸ばすはずの人間だと。

 

 それとも、お前のその近界民(ネイバー)への想いは本気にもならない程度なのか。

 その程度ならそれでいい。任務がただただ楽になるだけだ。

 

 だが、本気であるのなら──。

 

「…………だめだな」

 

 太刀川が期待を寄せるなか。迅の表情から笑みが消え、今にも泣き出しそうな顔をする。

 

「できれば、もっといい形にしたかったけど。太刀川さんたちには()()()()()()()()()()()()()

 

「上から、来るよ!」

 

 風間隊、菊地原の切羽詰まった一言に全員の意識が上を向く。

 

 風を裂き、黒雲に紛れるよう落ちてくる黒の影。

 独特の跳弾音と共に迫ってきた影は、太刀川たちが防御・回避を遂行する前に黄金の剣を振り抜いた。

 

「────!」

 

「しまっ!?」

 

 影が振り抜いた剣は三輪隊狙撃手(スナイパー)。奈良坂の首を切り落とす。

 

 それと同時に()()()()()()()()()()

 斬撃は先ほど警戒を叫んだ菊地原の首も斬り飛ばした。

 

【【戦闘体、活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)】】

 

「奈良坂! くっ!」

 

 最も奈良坂に近かった三輪はいきなりの出来事に動揺したまま影に向かってハンドガンの引き金を引いた。

 黒い影に向け数発銃弾が放たれるが味方が密集するこの場所では取り回しづらい。

 一瞬、射線が味方の風間と重なり、トリガーを引く指先が鈍る。

 

 その隙を見逃さず、影は一気に敵で密集したこの空間から距離を取った。

 

「挟まれたか」

 

 風間は小さくつぶやいたが、その顔に焦りを滲ませる。

 一瞬にして、状況が動いた。

 

 風間の前に迅と嵐山隊。迅の持つ風刃は根元に光の帯を靡かせている。

 そして風間に背を合わせるようにいる三輪の前に降り立った影が、固まったままの本部トップ部隊を挟み込んでいた。

 

 その影も、奈良坂を一瞬で屠ったことから只者ではないことを理解させられる。

 

「くそっ! 誰だ!?」

 

 雲の影で顔の見えない敵に向け、三輪が叫ぶ。

 

「悪いね、太刀川隊。それに風間さん。この戦い負けるわけにはいかないんだ。だから…………」

 

 雲が夜空を流れ、月明かりが影を照らしていく。

 敵の顔を確認した三輪は目を見開き、口元を震わせた。

 

「なんっ、で?」

 

 三輪が信じられない、と辛うじて疑問の声を上げる。

 

「後でいくらでも責めてくれ」

「なんであなたがここにいるんだ!? 来栖さん!!」

 

 迅の贖罪の言葉と、三輪の叫びが重なった。

 

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