最強ノ一振り   作:AG_argentum

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感謝感激です!

と言うわけで、皆さんおまちかね?の太刀川と主人公の再会その1です。

よろしくおねがいしま〜す!


それぞれの思い

 期待と、不安。それが半々ある、といったところだろうか。

 

 来栖は、指定された8階建のビルの屋上から下を見下ろしていた。

 

 【…………だめだな】

 

 通信越しに聞こえてくる迅の声。

 顔はやはり見えないがなんとなく。来栖は迅が泣きそうな顔をしているのではないかと思えた。

 もしかすれば自分以上に胸中複雑なのかもしれない。

 

 それでも。

 それでも、迅が提案し。来栖が決断したことだ。

 

 これから迅は、来栖は。最善の為に戦う。

 

 【できれば、もっといい形にしたかったけど。太刀川さんたちには()()()()()()()()()()()()()

 

 事前に伝えられていた合図だ。

 

()()さん。ターゲットのマークお願いします」

 

【わかった。無理だと思ったらすぐ離脱だよ、来栖くん】

 

「了解です」

 

 顔を知らない、未だ思い出せずにいる今回の支援者の忠告に返事を返し、屋上から飛び降りた。

 重力に引っ張られ、地面へと徐々に近づいていく。

 

 着込んでいた外套。レーダー探知を打ち消すバッグワームが空気で一瞬膨らみ、落下による風圧で肌へと纏わりつく。

 

 重なって見えていた人影がまだらになっていく。そうなるにつれ、はっきりと標的(ターゲット)がだれか視認できるようになった。

 

「上から、来るよ!」

 

 事前に標的として設定されていた、できれば早めに倒したいという敵の一人が叫ぶ。

 直上からの奇襲。完全に迅へと意識が向いていたと思ったが随分気付くのが早い。

 

 さすがはA級。

 

 ──イメージを切り替える。

 

 元のイメージは完全な奇襲から、混乱に乗じて短時間の乱戦を狙うつもりであったが、もはやそれは叶わない。

 一撃離脱。もしくは今すぐの離脱をイメージする。

 

 ──判断を、早くしろ。

 

 一撃入れるかどうか、マークされた三人の動作に注目する。

 警戒、警戒、散漫。

 

 バッグワームを消し、トリガーを切り替える。

 

「グラスホッパー」

 

 落ちていく中で空を蹴るように、グラスホッパーを踏み込む。

 と、同時に弧月の鯉口を切った。

 

 意識が散漫している敵の首に向け、弧月を振り抜く。

 

「──!」

 

「しまっ!?」

 

「奈良坂! くっ!」

 

 言葉にならない息を吐くと共に弧月が完全に首を裂き切る。

 来栖はすぐさま離脱を試みたが、それより先に銃口が向けられた。

 

 銃口、敵の視線、表情。それに敵だけが密集したこの状況。

 

 発火炎(マズルフラッシュ)と共に吐き出される弾丸。

 だが小南の攻撃の苛烈さに比べればその場で避けることなど容易いことだ。

 体を左右に少しだけ揺らし、紙一重で躱しきる。

 

 二、三発照準を合わせられ続けていたが一瞬。向けられた銃口の動きが鈍る。

 それを見逃すことなく来栖は、敵の密集地帯から離脱した。

 

「挟まれたか」

 

「くそっ! 誰だ!?」

 

 こんな声だった、と思い起こせた声と、覚えのない声が静寂の警戒区域に響く。

 

 雲の間から差してきた月の光がゆっくりと自分の顔を照らした。

 

 覚えのない声の主と目が合うと、顔を大きく歪め、悲痛に叫ばれる。

 

「なんっで? なんであなたがここにいるんだ!? 来栖さん!!」

 

「…………」

 

 無言を貫く。

 それが来栖にできる精一杯の行為だった。

 

 三輪の表情は見ているだけで、来栖の心を抉る。

 

 彼はきっと、昔の自分を知っているのだろう。

 城戸派であった自分が玉狛側に立っていることを信じられないのだろう。

 ゆえに、なぜそこにと彼は問うた。

 

 【だめだよ、来栖くん】

 

 【わかってます】

 

 忠告が入り、それに応える。

 

 唇を強く結んだ。

 口を少しでも開けば、些細なことから今の自分がどういう状況なのかバレる可能性がある。

 

 できればこの戦闘の最後まで。少なくとも、途中までは記憶喪失であること(この事情)を隠し通したい。

 

 どのように過去の来栖が、今他者に認識されているかは知らないが、相手に記憶喪失であることを知られれば間違いなく心理的な余裕が生まれる。

 二年ボーダーに在籍した過去と、たった三ヶ月程度の今とでは与える警戒度はかなり違うだろう。

 

「答えてくれ! 来栖さん!」

 

「…………」

 

 いっそう悲痛に。三輪が叫ぶ。

 疑念と、失望。そんな思いの込められた視線だったが、それでも来栖は口を開かなかった。

 

「なん、っ!?」

「ふざけるなよ、迅。なんのつもりだ」

 

 無視できない激情だった。癇癪の声を上げようとした三輪が、言葉を詰まらせるほどの。

 

 三輪の声に被さった。低く、怒りのこもった声。

 来栖の身に纏う隊服とほぼ同じ、黒コートを羽織る太刀川がこれでもかと迅に唸る。

 

 まるで起爆直前の爆弾。

 今にも弾けそうな怒りが静かに迅へ向けられる。

 

 敵として対峙する迅が感情を削ぎ落としたような声で言う。

 

「これがおれの本気だよ」

 

「これがか! 決して有りえない! いるはずのない人間を使ったこの状況がか!」

 

 爆弾は、爆ぜた。

 太刀川は眉間に皺を寄せ、三輪以上の憤怒を吐き出す。

 

「ふざけるなよ迅! よりによっておまえが! おまえが!」

 

「待て、太刀川!」

 

 見るからに冷静さを欠いた太刀川が、迅に斬りかかろうと一歩踏み出す。

 

 それを止めたのは最年長の風間だった。

 飛び出そうとする太刀川の腕を強引に引き止める。

 

「止めるな、風間さん!」

 

「嵐山、一旦仕切り直そう」

 

 間違いなく、トップチームは隙を晒していた。

 それでも迅は追撃ではなく退却を選択する。

 

 【来栖さん、一旦引きます。炸裂弾(メテオラ)のタイミングに合わせてください】

 

 【わかった】

 

 嵐山のアサルトライフルから炸裂弾(メテオラ)が吐き出され、その場にいた全員が散開を強いられる。

 炸裂による煙が晴れる頃には、迅、嵐山、そして来栖が一個体となって移動を始めていた。

 

「上等だ、迅! お前のふざけた本気。覆し切ってやるよ!」

 

 もう、攻撃できる距離にはいない迅に向け、太刀川は聞こえるように叫んだ。

 

 ======

 

「もう一人助っ人を呼ぶとは聞いていたが。迅、まさかとは思うけど」

 

 本部トップ部隊から少し離れた場所で身を寄せ合う、忍田派・玉狛同盟部隊の5名。

 これから作戦会議を、という前に嵐山が一言挟む。

 怒りこそないが、それでも疑問の声。

 

 嵐山もまた太刀川と同じように、来栖がここに居るはずがないことを知っている数少ないメンバーだ。

 

 新たに加わった来栖らしき人物を見ながら、それでも疑いの目をむけてしまう。

 

 真っ先に考えられるのは、トリオン体の外見の操作。これを使えば、誰であろうと他人になりすますことができる。

 太刀川も真っ先にこの可能性を疑ったのだろう。

 

 この戦いが未来の命運を分けることは重々承知していたが、それでもその手は非道が過ぎる。

 場合によっては非難すら辞さないつもりだった。

 

「………」

 

 その目が疑いの目であることを雰囲気で察知こそしていたが、来栖はさてどうすれば疑いが晴れるものかと考えた。

 しかし。

 

「本物だよ。本物の来栖さんだ」

 

 迅は、穏やかに告げる。

 その表情は決して説得しようとする作られたものではなく、自然と生まれたものだと長年の付き合いから嵐山は即座に理解できた。

 

「そうか。なら、お久しぶりです。来栖さん」

 

 疑いの目から一転。嵐山は好青年という言葉を体現するかの如く、来栖に笑みを向けた。

 

「あの、嵐山さん」

 

「ん、どうした。木虎?」

 

 嵐山と迅の会話が終わるのを待っていたのは嵐山隊の木虎藍だった。

 彼女は彼女として、嵐山とは別の疑問を抱えており、それを吐露した。

 

「誰ですかこの人? ボーダーで見たことないのですが」

 

 先ほど、降って湧いてきてはいきなり奈良坂の首を刎ねた男性。

 

 実力はそこそこあるのはわかったが、全くと彼のことを木虎は知らなかった。

 

 予想されているのは、あの太刀川と関わりが深い人物であること。

 あとは着ている隊服が太刀川隊のものに酷似していることだろう。

 

「ああ、この人は来栖響さん。太刀川隊の元隊長だ」

 

「太刀川隊の()隊長?」

 

 妙な表現だ。

 元隊員では無く、元隊長。

 木虎の師である烏丸は太刀川隊の隊員であった過去があるが、それとは違うということか? 

 

 そういった疑問が顔に出ていたようで、迅が木虎に補足する。

 

「来栖さんが隊長やってた来栖隊は、今の太刀川隊の前身にあたるんだ。その来栖さんが抜けて今の太刀川隊になったんだよ」

 

「初めから太刀川隊じゃなかったってことですか!?」

 

「そういうこと」

 

 意外だ、という驚いた顔を木虎は浮かべる。

 あの太刀川が誰かの部下として動いてることが想像できない。

 

「でも、なんでボーダーに居なかったんですか?」

 

「それはな。元々、海外の調査任務で出向いていたんだがまあ色々あってな。そこら辺は後でにしよう」

 

 迅が言葉を濁し、作戦を立てようと切り出した。

 

 

 ======

 

 

「くそっ!」

 

「落ち着け、太刀川」

 

 先ほどまで激情をあらわにしていた太刀川が、風間に抑えられていた腕を激しく振り解く。

 風間が太刀川を宥めようとするが、かえってそれは反発を呼んだ。

 

「冷静でいられるのかよ! 風間さんは!」

 

「…………」

 

 風間に怒りをぶつける太刀川。

 それに対して風間はすぐに返せなかった。

 

「これから、この部隊の指揮は俺が執る。少なくとも今のおまえよりは冷静だ」

 

「風間さん!」

 

「頭を一旦冷やせ。太刀川」

 

 指揮権を託されていたのは太刀川であるが、強引にそれを風間が奪う。

 誰がどう見ても、太刀川は冷静ではない。

 激情を持つことは咎めれずとも、それを表出すようであれば勝てる戦いにも勝てない。部隊の指揮を担うものは尚のことだ。

 

「構わないな」と太刀川を除く全員に確認をとれば、了承のみが返された。

 

 【三上。三門総合病院に問い合わせて、来栖について聞き出せ】

 

 【来栖さんが入院していることはそもそも極秘扱いです。深夜なので誰も担当者がいない可能性もありますが…】

 

 【上層部を通して、なんとしても聞き出させろ。可能な限り早くだ】

 

 指揮権を握った風間はまず、そこから確認に入った。

 

 体内通信で、オペレーターの三上にまず命令を下し、作戦立案に取り掛かる。

 

 当初の作戦立案の時点で玉狛からの妨害は予想していたが、ここまで予想外にことが悪く運ぶとは思ってもいなかった。

 優秀な狙撃手(スナイパー)奈良坂、そしていまこの状況で最もいてほしい強化聴覚を副作用(サイドエフェクト)に持つ菊地原の喪失は紛れもなく大幅な作戦変更を余儀なくする。

 

 ひとまず作戦の基本方針としては数的有利を活かした分断。

 ここで肝となるのは誰にどれだけ人数を割くか。

 

 特に迅と、暫定来栖。この二人にどれだけ人数を割くか。割く数を誤れば、戦局は一気に向こうに傾く。

 風間は難しい判断を迫られていた。

 

「迅は俺がやる」

 

「太刀川」

 

 その中で太刀川が風間に意見する。

 さっきまであった荒々しさを努めて鎮めようとしている。

 

「誰かが迅の足を止めなきゃなんねぇ。そうだろ、風間さん」

 

 太刀川の意見は至極真っ当だった。

 少なくとも戦闘に求められる最低限の冷静さは取り戻している。

 

「足止めに専念しろ。お前が落とされては作戦そのものが失敗に終わる。古寺、お前が太刀川のサポートに付け。いいな」

 

「「了解」」

 

【古寺、いざとなったら強引にでも太刀川を下がらせろ。責任はオレが持つ】

 

【わ、分かりました!】

 

「嵐山隊には米谷、三輪、出水、当真で当たれ。いけるな、出水」

 

 あえて風間は出水の名を呼ぶ。

 彼もまた、太刀川と同様に激情を秘めているかもしれない人物だ。

 扱いも慎重になる。

 

「いけますよ、風間さん」

 

 クールを装っているが、その声は少し硬い。

 ただ、太刀川よりはまだマシだろう。

 

「暫定来栖には俺と歌川であたる。あいつが本物にせよ偽物にせよ、連携で確実に仕留める」

 

「了解です、風間さん」

 

「よし、散開しろ」

 

 風間の合図でそれぞれが一斉に分かれる。

 残されたのは風間の部下である歌川だけだった。

 

「あの、風間さん」

 

 その歌川が、遠慮がちに声をかけてくる。

 風間は足を止めてしまった。

 

「なんだ歌川」

 

「大丈夫、ですか。風間さんの方こそ」

 

「……」

 

 部下の声に風間は何も答えない。

 矢次早に部下は風間へと訴えた。

 

「風間さんだって来栖さんと親しかったはず。何も思っていない訳ではないはずです」

 

 歌川の指摘は的を射ていた。

 風間も、太刀川のようにではないが心中穏やかではない。

 

「あの暫定にはオレ一人で」

 

「いや、だめだ」

 

 歌川の提案。気遣いともとれるそれをすぐさま風間は切り捨てた。

 

「少なくとも奈良坂への一撃。三輪への対応を見る限り攻撃手(アタッカー)でも上澄みの実力者だ。おまえが落とされては結局俺か太刀川で当たらなければならない。ここは確実にいく」

 

「ですが」

 

「心配するな」

 

 

「任務に私情は持ち込まない」

 

 ======

 

 風間の合図で、散開がなされた後。

 

 太刀川は単独で迅の足止めに向かっていた。

 

 迅の居場所は判明している。

 

 (ブラック)トリガー風刃には探知を無効化する機能や装備は存在せず、常にその身をレーダーに晒している。

 後は後衛の小寺が遠距離を確認できる狙撃トリガーのスコープで確認すれば、特定は容易。

 

 接敵まであと八分とかからないだろう。

 

 その太刀川に通信が入る。

 

【太刀川さん…………】

 

 酷く気弱な声だった。

 オペレーター国近の通信に太刀川が動かしていた足を止める。

 

「なんだ、国近」

 

【誰なのかな、あれ?】

 

 泣きそうな声だった。今にも、涙をこぼしそうな声だった。

 

 無理もないとは思う。

 国近も、今はここにいない出水も、あの姿を見て平然としていれるわけがない。

 

 自分だって激情に狂った。怒りのままに、無策で迅に突っ込みかけた。

 あの場にもし風間がいなければ間違いなく自分は単騎で挑みかかっただろう。

 

 自分達にとって来栖響が現れたという現実はそれほどまでに衝撃を与えている。

 

 ただそれでも。素直に現実を受け入れることはできなかった。

 

 この緊迫とした、(ブラック)トリガーの争奪戦。

 そこに現れたというにはタイミングが良すぎる。

 

 もう一年以上、昏睡であったというのに。疑ってしまうのは当然であった。

 

 迅としてはなんとしても勝たないといけないのだろう。

 使える手はなんであろうと使うかもしれない。

 その手段として来栖の姿を使ったのならば、その効果は覿面だ。

 間違いなく太刀川隊と風間や三輪は動揺している。

 

 だがそうだとしても。動揺を誘うことが狙いであったとしても。

 

 明らかに迅は超えてはいけないラインを踏み越えている。

 まるで来栖の尊厳を踏み躙るかのような行為だ。

 

 それを迅が。よりによって来栖に恩があるはずの迅がそれをやったことに腑が煮えくりかえる。

 

「さあな」

 

 そっけない態度で国近に返す。

 

 これ以上感情を抑えようとしなければ冷静さは確実に吹き飛びそうだった。

 ここに自分を抑えてくれる風間がいない以上、自分で感情をコントロールするしかない。

 

「今は作戦に集中しろ。終わってから、迅のやつを問い詰めるなり、あの人の見舞いに行くなりすりゃあいい」

 

 【うん。わかった】

 

 ズビ、と鼻を啜る音が鳴る。

 

 真冬の風が熱くなった感情を冷静にしていき、視界に敵の姿を収める。

 

「やろうか、太刀川さん」

 

「ああ」

 

 風刃の鍔から伸びる光の帯。

 それは風刃の残弾だ。

 さっき菊地原に一本使用し残りは十本。

 

 ──こいつは何がなんでも殺し切る。いつだろうと、どんな場面であろうとも。

 

 太刀川の脳内でスイッチが入る。

 

 戦闘の合図として、二振の弧月が同時に空を裂いた。

 

「旋空弧月」

 





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