最強ノ一振り   作:AG_argentum

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告白

 暗殺者二人が姿を消したまま標的を仕留めにいく。

 

 今度の攻撃は牽制からタイミングを連続させた挟撃。

 

 これにより敵は二つの攻撃をまずに対処しなければならず。それに加えてステルス状態からの攻撃は予備動作が一切見えないため、標的はこの攻撃の意図をステルス解除されてから瞬時に判断することを迫られる。

 

 標的はレーダーからタイミングを合わせた挟撃であるとまでは推測できても、その攻撃の意図が急所を狙ったものなのか、機動力の低下、戦闘力の低下、そもそもこれがハッタリかまでは推察できない。

 

 ステルスから仕掛ける挟撃は、普通に仕掛ける挟撃よりも遥かに対応難易度を跳ね上げていた。

 

 暗殺者らの狙いはまず腕と胴体。

 弧月を握る腕を刈り取れれば戦闘能力は低下するし、胴を獲れればトリオンを一気に削れる。

 

 降って湧いたように姿を見せた暗殺者は、その時点で無慈悲に敵へとスコーピオンを振り始める。

 

 標的は大して驚きを見せない。

 腕、そして胴体へと迫る凶器を視認しながらも、その表情は変化しなかった。

 

 標的が恐るべき反射速度で対応を開始する。

 

 避けきれないと判断し、致命傷となる胴への攻撃は回避し、腕への攻撃には弧月で防御をこなす。

 

 胴への攻撃が標的の体を僅かにえぐるが、その代わり腕には傷がつけれていない。

 

 牽制においては十分すぎる戦果。

 しかし暗殺者らは動きを止めない。敵の動きをさらに制限しにかかる。

 

 倒れるように標的の足元に移動。そこから、足先に生やしたスコーピオンで蹴るようにして標的の機動力()を奪いにいく。

 

 敵は当然のように集中したシールドで対応した。高い攻撃力を誇るスコーピオンを防ぐには集中シールドしか選択は無い。

 

 ──問題ない。これはあくまで釣り。本命は……。

 

 敵の視界が、細微な集中シールドを展開する為に下へ集中する。それこそが狙い。

 正確にシールドを張る為、標的は視界を下げざるを得なかった。

 

「──っ!」

 

 標的がわかりやすく舌を打つ。

 

 レーダーから向こうも察しをつけたのだろう。

 足元への攻撃はあくまで前置き。本命は上部後方からくる追撃だと。

 

 そもそも視界が確保しずらい180度後方。更には視界を下げてしまったことで全貌を把握しきれない上部からの追撃を繰り出しにかかる。

 

 ──崩せるか? 

 

 その疑問が確信に転ずるよりも早く、標的は速やかに対応した。

 

 腰にある弧月の鞘を握り、さらに上部後方へと突き出す。

 凄まじい勢いで飛び出た弧月の鞘はダメージこそ与えないが歌川の肩にめりこみ姿勢を一瞬崩した。

 

 それだけの時間が(一瞬)あれば、この敵は万全にまで立て直す。

 最小の動きで必要な視界を確保し、正確に歌川のアクションを完璧に防御してみせる。

 

 更にそれでは終わらない。

 

 今度はこちらとばかりに標的は攻勢にでた。

 

 ほぼ同時。自身と歌川に向け生半可ではない攻撃が繰り出される。

 まるで刹那に生まれた台風のような暴威だった。

 

【仕切り直すぞ、歌川】

 

【了解です、風間さん】

 

 体内通信で決定を伝える。

 

 挟撃を成功させ、標的を挟んでいるこの状況を仕切り直すのは迷ったが、まずこの状況では確実に殺せない。

 殺すのならば相応のリスクを要するだろう。

 

 この後に迅という大物を控えているのならば下手に傷は負えないと判断し一時的な離脱を選択する。

 離脱した後の追撃を避ける為にいくつか牽制打を打とうとするがそれより先に敵が動いた。

 

「旋空──」

 

 踏み込まれるグラスホッパー。

 分割せず一枚のみの加速装置は、飛び退くような姿勢で敵が自分たちと距離をとる。

 

「ちっ!」

 

「──弧月!」

 

 着地するよりも先に行われる抜刀。

 急加速で姿勢も定まらず流れながらの旋空だというのに、胴体を狙い澄ました正確な攻撃だった。

 

 重ねるようにして胴体を守った2つのスコーピオンが完全に砕ける。

 

 ──あいつとほぼ同じトリガー構成。グラスホッパーで一気に距離を稼がれるのは痛手だな。

 

 武器を失った以上、完全に仕切り直しだ。

 開かれた距離から更に後退し安全圏でスコーピオンを生成する。

 

 幸いにして、敵も突っ込んでくるつもりはないらしい。

 胴体から漏れるトリオンを留めようと手でを抑えている。

 

【こんな実力者、ボーダーに居たでしょうか?】

 

【…………】

 

 わずかな小休止。

 次の連携の段取りを決める前に歌川が疑問を呈した。

 

 言いたいことはわかる。 

 歌川の疑問に風間は口を(ひら)けない。

 

 目の前にいる人間の正体を風間はとらえきれずにいた。

 

 ──こいつは、誰だ? 

 

 風間はこの戦闘が始まってすぐ、目の前の偽物が強者たる何者かであると確信していた。

 

 ビル降下から奈良坂に仕掛けられた奇襲の手際の良さ。

 敵のど真ん中に留まりながらもうまく立ち回り、三輪の一瞬の戸惑いを見逃さず離脱する冷静さ。

 

 何より特筆すべきだと風間が評価するのは──

 

 ──目だ。こいつは目が特に良い。

 

 まだ洗練されたとは一歩言えない荒削りな剣技ながら、歌川と自分の猛攻を凌ぎ切っているのはあの目が秘訣だと風間は考察する。

 

 風間と歌川が繰り出す連携には当然ながらいくつか連携を構成するための要素が存在する。

 ありていにいえばタイミングとスピード。そして連携そのものの方向性を合わせる必要があるという事だ。

 

 仮に風間がどれだけ早く攻撃を繰り出そうと、それに歌川が追従できずタイミングが合わなければそれを連携とはいえない。むしろ風間の攻撃をかき乱す障害となってしまう。

 仮に合わせる事を意識しすぎて、スピード感が無くなればそもそも攻撃としての質が落ちてしまう。

 仮に攻撃に含まれる意味の方向性が合わなければ、連携そのものが続かず成立しない。

 

 例えるならばオーケストラ。一人がアップテンポすぎれば曲は崩壊し、適切以下のスピードであれば、曲として成立しない。またチグハグな方向性はそれはもうオーケストラではなく、混線としたただの騒音に成り下がる。

 それ故にアタッカー同士の連携はシビアと言わしめられ、またそれを極めた風間隊はA級に属している。

 

 そして連携で一番重要なのは相互の距離感である。

 風間・歌川は敵を中心として距離を測りつつ、その時に最適な選択を繰り出す。

 

 仮に両者の距離が敵から近ければ、移動距離が少ない分、密度の濃い攻撃が繰り出せる。またもし一方が遠ざれば、もう一方が足止めをしながら援護を待つことが可能になる。

 それが繰り返すことができれば、理論上敵は二人の連携から抜け出せない。

 

 繰り出す連携のスピード及びタイミングは風間・歌川の両名が敵にどれだけ近いかで変化し、方向性はこれまでの時間の積み重ねが風間・歌川の意図を一瞬に把握させる。

 

 その上で、敵の目が良いと判断したのは風間たちが連携可能な相互の距離を瞬く間に把握したという点を鑑みてだった。

 この敵は、連携を崩す上で歌川もしくは風間のどちらかを自身から引き離すこと。

 連携不可能な距離にどちらかを追いやることで連携そのものを阻止し、局所的に一対一の状況。短時間に入れ替わり続けているような戦場を作り出し続けている。

 一方が足止めに専念して、片方が連携に加わるより早く距離を取らせることで悉く連携を潰している。

  

 成立しきったといえる連携は片手で数えれるほど。

 通常の相手ならば、風間隊はこの倍の連携を成立させ、既に敵を仕留めきっている。

 

 並みの実力では果たせない結果。

 ポイント8000点以上(マスターランク)は当然に超えているとして、更にその中でも上澄み。ランクにしてみれば一桁台付近の人間であろう。

 

 ただわかるのはここまで。

 風間はその先に踏み込み切れない。

 

 しかしながら。風間としては、今すぐにでもその正体を暴きたかった。

 

 来栖響の姿を誰かが纏っていることに怒りが尽きなかった。

 あれほど太刀川に冷静になれと咎めながら、風間もまた冷静さを完全に取り戻しきれていない。

 最低限の冷静さを風間が持ち合わせれているのは、ある種太刀川の激怒を傍で感じ取ったからだった。

 

 話を戻す。風間は敵の正体を突き止めたい。

 その為になけなしの冷静さをつぎ込んで、思考を巡らせ始めた。

 

 まず大前提として。

 病院にいるはずの来栖響がここに出張れるはずがない。

 風間が最後に見舞いに行った、遠征直前の時点でまだ昏睡状態だったのだ。

 

 必然として、目の前の敵は偽物。

 一部の隊員が戦闘体の容姿を変えているように、何者かが来栖響の容姿を丸々被りこの戦いに参加している。

 

 ──それにしては迅の奴め。わざわざ目の良さ(特徴)までそろえてくるとは。手の込んだ真似をしてくれる。

 

 悪態をつくが、偽物の正体を絞る為の条件はかなりそろっているはずだ。

 

 トリガー構成は弧月二刀流にグラスホッパー。

 戦闘スタイルは時間稼ぎの為か防御寄りであるが、受け太刀よりも回避を優先し、こちらが隙を見せれば容赦ない鋭い攻撃を仕掛けてくるスタンス。

 

 何より、この争奪戦において玉狛、忍田派に付く人物。

 

 該当者は()()ゼロと言っていい。

 これらの要素に重なる人物を、()()()排除した可能性の隊員を除き風間は知らない。

 

 ならば、風間の知らない人物と言えば。 

 すぐに思いつけたのは、この争奪戦の中心人物といえる野良近界民(ネイバー)の存在だ。

 報告からその野良近界民(ネイバー)は三輪隊をたったの一人で無力化するほどの実力者。それほどの実力者ならこの戦いについてこれることにも納得がいく。

 

 しかしそれでも、違和感が付きまとう。

 仮にそうだとするならば、わざわざボーダーのノーマルトリガーなど使わず、自身の(ブラック)トリガーを使えばいい。わざわざ防戦に徹する必要は無くなり、むしろ積極的な攻勢に出れるだろう。

 

 もう一つの可能性としては、あえて排除していた可能性の隊員。玉狛の小南と烏丸の二人。この二人が現状、偽物の動きに近く思えた。

 機動力の節々から小南の気配が。剣の扱いから烏丸の気配がそれぞれ漂う。

 二人が玉狛の隊員である事も考えれば、偽物の候補としては間違いなく合致していた。

 

 それでもあえて。風間は該当者から二人を排除した。

 

 この二人はあり得ない。

 武装の観点。小南がわざわざ高性能な双月を使わず、烏丸が使い慣れていない二刀流を使っていることから該当者から外すことも理屈的には可能であるが、それ以上に理由が風間に該当者からの排除を促した。

 

 ──あの二人がこんな暴挙を許すはずがない。

 

 来栖の姿を借り、あまつさえ太刀川たちの前に立つ。どれだけこの争奪戦が玉狛にとって重要な意味を持つかは知らないが二人が絶対に、そんなことをするはずがない。

 

 例え派閥が違えども、風間はそこだけは信じていた。

 

 ──ならば……。

 

【風間さん!】

 

【三上か?】

 

 新たな可能性を模索しようとする。それを強制的に打ち切るよう、オペレーターの三上が回線を開く。

 

 このタイミングでの無線連絡。

 何故か風間は胸がざわついた気がした。

 

 そのざわつきは、三上の次の一言で最高潮に高まっていく。

 

【三門総合病院から返答がありました!】

 

 三門総合病院。来栖の入院している病院の名だ。

 

 ざわつきが、止まらない。

 三上の声は落ち着きが無く、余計に風間を焦らせた。

 

【どんな、返答が?】

 

 努めて冷静に。それでもわずかに震えた声を隠せず風間は続きを促した。

 

【病院で入院中の来栖さんですが、──】

 

【…………ああ、そうか。わかった】

 

 三上の発言は、風間の心を真っ白にした。

 

【太刀川隊には?】

 

【まだ伝えていません】

 

【それでいい。この作戦が終わるまでは伝えるな】

 

 真っ白になってしまった心の中で、何とか風間は振り絞って通信を終える。

 

 改めて、目の前の敵を見据える。

 こちらが仕掛けてこないのならばむこうとしては好都合。位置を細かく動かしているが距離は詰めてこない。

 

 目に宿る戦意は高く、澄んで見える。

 

 ──()()そんな目をしていたな。お前は。

 

 喜びと哀愁。ないまぜになった感情は、どうやったって切り分けれそうにない。

 それでも風間は口を開かずにはいられなかった。

 

「そういうことだったんだな」

 

 涙が流れ落ちてしまいそうだった。

 風間はぽつりと。にわか雨の降り始めのように言葉を言い放った。

 

 

 ======

 

「そういうことだったんだな」

 

 無音の警戒区域でのつぶやきは、多少の距離があろうともよく聞こえた。

 

 風間の言葉に来栖は何のことだ、と目を細めた。

 

 

()()。いつ、目が覚めてたんだ」

 

「……!」

 

 風間が何を納得したのかは、その言葉で理解できた。

 

 ──なんで!? ばれたのか? 

 

 風間がこれまで仮定してきた、自身の正体。

 つまりは他人が成りすましているということは見当違いであり。本物の来栖響がこの戦場に立っていることに気づかれたのかと一瞬焦る。

 

 だが。

 

「…………」

 

 あえて無言を貫くこと。沈黙を守り通す。

 カマをかけた可能性。それは無きにしも非ずであり、風間の口から続きが出ることを待つことにした。

 

 風間(むこう)もそれを察したのだろう。

 根拠を語り始める。

 

「三門総合病院に問い合わせたぞ」

 

「っ!」

 

 息を呑んでしまった。

 その音が静寂たる警戒区域に不和をもたらす。

 それは向こうにとって紛れもない証拠となり、同時にこちらとしては失態である。

 

「…………やはりか」

 

【すいません、ゆりさん】

 

【わかってる、仕方ないよ。もう、気にせず喋って大丈夫】

 

 第一にゆりに謝罪する。

 もっと上手くやれれば時間を稼げたかもしれない。

 少なくとも相手に確信を持たせたのは自分の言動だ。

 

 ゆりとしても病院にまで問い合わされたら隠し通せないとわかっていたのだろう。

 落胆したようには聞こえない。

 

「三ヶ月前だよ」

 

「…………っ」

 

 風間に話しかけた一言目に不思議な気分を覚える。

 

 記憶の中ではそこまで期間を置いたはずではないのだが体がそう思わせたのだろうか。

 まるで数年ぶりに会う友人に話しかけるような違和感と戦闘状況には似つかわしくない照れが混じった気がした。

 

「そう、か。記憶の方はどうなんだ?」

 

「ああ。それも、知ってるのか」

 

 気になった。もしくは気にかけてくれたか。

 どちらにせよ、真っ先に出てきそうな疑問が記憶に関すること(それ)だった。

 立場が逆ならば来栖もその質問を投げていただろう。

 

「無くしたまま。まだ何も思い出せてない」

 

 簡潔に答える。

 それに風間が辛そうに眉を狭めた。

 

「そうか、なら次の質問だ。なぜそちらに。玉狛についている?」

 

 ついでこれもまた当然の疑問。風間は寄せた眉を戻さず、言葉を続けた。

 

「お前の過去を。四年前の出来事(今のお前が憶えていないこと)を知らないわけじゃないだろ。迅が、伝えたはずだ」

 

「ああ。知ってる」

 

 両親が近界民(ネイバー)によって殺されたこと。妹が連れ去られたこと。

 自分がボーダーに入隊し、玉狛とは敵対する派閥に所属していたこと。

 

「なら何故、今おまえがここにいる!?」

 

 風間が来栖に問う。

 この戦場に立つということは、その近界民(ネイバー)を守るということなのだから。

 

 まるで自分のことのように、風間が怒声を上げた。

 

 来栖は目を離せなくなる。

 敵がもう一人いるのに。風間に意識を集中させざるを得なかかった。

 それほどの圧。記憶にある風間の冷静沈着さからかけ離れた様子が来栖の視線を釘付けにした。

 

「それは…………」

 

 息が詰まった。

 答えに迷ったわけではない。

 

 風間の問いかけに、真摯に応えたかった。嘘偽りなく。

 ただ、どうしても緊張が一瞬勝ってしまったのだ。

 この答えが、風間にしっかり伝わってくれるかどうか。

 

 不安を退け、息を整える。

 

「これは俺の決意だ。もう誰も、悲しませない為に。その力を作る為に、俺は玉狛にいると決めたんだ」

 

 思い出すのは、迅と空閑との会話。

 

 自分の決意を語ったあの日のことだった。

 

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