最強ノ一振り   作:AG_argentum

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念のためですが、前々話「告白」から今話「「彼」の往く道 / 『彼』と歩んだ道」に時系列上繋がります。

前話「掲げる理想論」は主人公による回想みたいなものです。

よろしくお願いします。

追記) そろそろどうかなと思い、BBF みたいな設定集をあげてみました。 
よければよろしくお願いします。


「彼」の往く道 / 『彼』と歩んだ道

「もう誰も、悲しませない為に。その力を作る為に、俺は玉狛にいると決めたんだ」

 

「俺は近界(ネイバーフッド)にある国々で連合を創設する。平和を願う、”善意”を信じて」

 

「俺が、ここから始めてみせる。その第一歩が空閑を守り抜くことだ」

 

 来栖は握る弧月を強めて言った。

 

「今の俺は、記憶を取り戻す為だけじゃない」

 

「今から先にある未来を、理想を叶えるために。そして何より、この先にある未来を守るために」

 

 もう何も、取りこぼさないように。守る為に必要な剣を手放さないように。

 

「俺は、剣を握って。この戦場に立っている」

 

 それが、俺が今この戦場に立っている理由だ。

 

 今の来栖にある想い全てを風間に注ぐ。

 決意を込めた瞳で、来栖は風間を見つめた。

 

 それに相対した風間は、険しい表情で目を細める。

 

 理想論だ。青い、と付け加えてもいいほどに。

 できるはずがない。近界(ネイバーフッド)への遠征を経た風間の経験がそう囁く。

 

 脳を埋め尽くす、否定意見。

 言えばいい。言えるはずだ。すぐにでも言うべきである。

 

 ──ああ、しかしそれでも。

 

 風間は否定の言葉を紡げなかった。

 

 来栖の発言は根拠のない自信だ。

 無知であるが故に呟ける、儚く眩い理想論。

 現実は、醜く、汚れている世界が広がっている。

 

 しかし、風間は知っている。

 荒唐無稽。無理難題。その先にある称号。

 それに無謀にも手を伸ばし、そう呼ばれるまでに至った存在。

 圧倒的性能差を有する(ブラック)トリガーすらも打倒し、”最強”と呼ばれた例外が目の前にいることを。

 風間蒼也は知っていた。

 

 だからこそ。そんな根拠のないそれさえ。風間はこいつならば、と一瞬思えてしまったのだ。

 

 一瞬思えてしまえれば、もう止まらない。

 否定と脳内の領域をせめぎ合い、結果として否定は呟けずにいる。

 

「そうか」

 

 短くしか、呟けない。

 

「それがお前の目指す、今の理想。この戦場に立つ理由なのか」

 

 風間にとっての精一杯は理解を示すことだった。

 

「なら、わかっているな。来栖」

 

「ああ」

 

 もう、この戦場に問答は不要だった。

 

 風間にとっての迷い。

 来栖がなぜ玉狛についたか。なぜ近界民(ネイバー)のために戦うのかという疑問は、今の問答で消え失せた。

 

 無形だった構えが有形へと変化する。

 戦場にいる三人のモチベーションが研ぎ澄まされていく。

 

 来栖は先ほどまであった、正体を秘密にするという要素が無くなったことで幻視すら可能と思えるほどの闘気を身体から立ち上らせていく。

 

 風間はその正反対。気にすべきことはもはや無い。あとはもう、目の前の標的を仕留める為に氷点下に至るほどの冷静さを整えていく。

 部下である歌川も、それに遅れは取らない。

 

「俺の理想を叶える為に。この戦場から消えてくれ。風間!」

 

「それでも任務だ。邪魔をするな、来栖」

 

 互いが互いの熱を伝えるよう、三人の剣が交差を再開させた。

 

 

 ======

 

 

 ところ変わって警戒区域北東部。

 

【そっか、正体バレちゃったか。来栖さん】

 

 軽くも重くも無い、ゆりからの報告を淡々と受け止める迅。

 

【うん、でも今の所情報を知ってるのは風間隊だけだと思う。風間くん、優しいから】

 

【そうだね、太刀川さんの様子が変わった風には見えないし、意図的に風間さんとこで来栖さんのことは止めてるっぽいね】

 

【それで、迅君】

 

【うん】

 

 ゆりから切り出される話題。

 みなまで言わずともいい。迅は分かりきっているように答えを述べた。

 

【まだ、大丈夫。()()()()()には繋がらない】

 

 緊迫した内容。それでもまだ安堵を示すように迅は穏やかに述べる。

 それこそ、この通信が戦場で行われていることを忘れさせそうになるほどにである。

 

 尤も。依然として迅の視界には敵対者である太刀川がいる。

 

 それでもなお、これほどまでに落ち着いてゆりと会話ができるのは太刀川側に由来するものであった。

 

 それは、距離。

 

 むざむざ。ましてや迅と距離を取ることを憚っていた太刀川が距離を意図的にとっている。

 距離にして30メートル。太刀川の扱う旋空の射程外であり、その範囲に迅を捉える為には一手距離を詰める必要があった。

 

 この距離を迅がわざわざ詰め寄るつもりはない。

 風刃はブレードという形状をした武器だが、その真価は中距離から仕掛けれる遠隔斬撃にある。

 そして太刀川の旋空が射程外である以上、今は迅が有利な状況であると言えた。

 

 今すぐにでも太刀川は距離を詰めに来るべきである。

 しかしそれをしない。

 

 その理由として迅が思い至ったのは──

 

 ──まじぃな。疲れがこんな時に来るかよ。

 

 極度の疲労。遠征から間を一切と置かず、この任務を開始したことで溜まっていた疲労が太刀川を停滞という状況に押し込んでいた。

 

 太刀川としてもこれは想定外の事態だった。

 

 今回の遠征は初めてというわけではなかった。

 数回の遠征を経ての今回であり、どれだけの疲労が一度の遠征で蓄積し、どれほど自身のパフォーマンスに影響をもたらすかを太刀川は把握しているつもりである。

 

 その経験則に則れば。疲労度を勘案して尚、今回の隠密任務は可能であると判断した。

 

 迅の襲来、玉狛隊員との、そして目的の(ブラック)トリガー使いとの戦闘。

 これらを既に予見していた太刀川は、成功できる見立てを持ったその上で任務を実行に移している。

 

 だがしかし、太刀川には誤算が二つ存在した。

 

 一つは偽物の来栖響の乱入。

 太刀川が思いもよらないこの人物の姿をした闖入者は太刀川の心理を悉くと乱し、疲労度を無視させてきた気力の門を破壊した。

 結果として溢れた疲労度が太刀川の体の芯を泥沼に落としていく。

 

 太刀川は思わず数時間前の即断を後悔し、自虐を口走りそうになった。

 

 加え、誤算の二つ目は疲労度がそもそもの想定を大きく上回っていたことである。

 今回の遠征はこれまで以上のものだった。

 今まで越えてきた死線の数々。それが生ぬるいものであったと思えるほどの激戦。

 

 死ぬかも知れなかった。

 そう心の底から吐けるほどに苛烈で、危険な任務を太刀川は今回の遠征でやり遂げている。

 

 そしてそれがもたらす疲労度というものは比例してこれまで以上のものとして太刀川のなかに蓄積していた。

 

 これらの要素が重なり合い、今現在太刀川は足を止めざるをえなかった。

 

 この状況が不味いことは重々と把握している。

 時間をかければかけるほど、戦況の悪化は避けれない。

 

 今でこそ誰もこの戦場から篩い落とされてはいないが、誰か一人が落とされれば戦局は一気に傾く。

 それほどまでに危ういバランスで成り立っているのだ。

 

 足を止めている場合ではない。

 今すぐ、前へ。迅を狩るために動く必要がある。

 

 だがどうする。

 

 ──距離を詰める。古寺の射撃と合わせて、攻撃の密度で迅の未来視の処理を上回る必要がある。

 

 ──今の疲労度でさっきまでの密度を繰り出せるか? さっきまでは疲労が怒りでトんでたからだ。冷静になったいまはもうだせねぇ。

 

 ──風間さんのほうはどうなってる。まだ終わってねぇのか? 

 

 ──仮に迅を倒した後はどうする。この状態じゃどこに混じろうと足を引っ張りかねない。

 

 めぐる思考。

 迅を倒すための算段。この戦場の状況。そして後に待つ玉狛での(ブラック)トリガー戦。

 

 正に泥沼化。太刀川の思考は巡りに巡り、前へ動くための足は見えない何かで縫い付けられているような錯覚を覚えた。

 

 ──あの偽物は誰だ。なんの意図で迅はここに連れてきた? 

 

 ──(ブラック)トリガーの能力は模倣(コピー)。今どこまで玉狛は学習させてる。

 

 ──人員。出水か当真のどっちかをこっちに来させるか? 

 

 ──いやだめだ。あの二人がいんねぇとあっちが崩れ『太刀川』

 

「あ?」

 

 呆然としながら、太刀川は声を上げた。

 迅が、もしくは国近が自分に声をかけたわけではない。

 

 聞き馴染みのある声。そしてしばらく聞いてない声が聞こえた気がしたのだ。

 幻聴だ。だが、その一声は一瞬で太刀川の脳を過去へと誘った。

 

 =====

 

『どうすれば俺に追いつけるか、だと?』

 

『それをわざわざ本人に聞くあたりおまえは…………』

 

『いや、悪く言ったわけじゃない。その姿勢はいいものだと思う』

 

『…………俺から言えるのは、そうだな』

 

『無駄を省け。もっと、な』

 

『省けてねぇよ。余計なこと考えすぎだ』

 

『もっと相手と向き合え。そうすればその戦いに必要なものだけが残ってくれる』

 

『そりゃあ、俺が指揮をほとんど取れない以上、お前に負担がかかってる事はよくわかってる。だけどさ、お前が本気で戦わないといけない時ぐらいは俺がしっかり背負ってみせるさ』

 

『なにせ俺は、お前らの隊長だからな』

 

『………本気で戦わないといけない時に、今手の届かない場所の事まで考えてどうする』

 

『今その時その場所でできる事、全部搾り出して最善手を繰り出し続けろ』

 

『他のことなんか気にすんなよ』

 

『信じろ、ここにはさ………』

 

 =======

 

 瞬く間だった。

 過ぎ去った過去。その一幕。

 何気ない彼との会話。

 

 無理に忘れ去っていた記憶が、ふと蘇る。

 

 ──ああ、そういえばこんなこと言ってたな。

 

 深く、体に染み付いていた考え。それこそ人が無意識で呼吸をするほどに染み付いた考えを有意識に浮上させる。

 

 何で今、思い出したかなんていう必要がなかった。

 

 ──偽物を見てから。俺はあんたをまた追いかけようとしている。

 

 ──あんなにも、嫌いになったはずなのに。あんなにも、怒っていたくせに。

 

 ──それでもあんたを、結局憎めずにいる。

 

 ふっ、と太刀川が微笑を浮かべ、肩の力を抜く。

 

 ”無駄を省け。相手と向き合え”

 

 反芻し、再確認する。

 

 ”今できること、最善手を繰り出し続けろ”

 

 足を止めていた疲労が、軽くなった気がした。

 

 ゆっくりと、敵をその視界に捉え直す。

 

 停滞を望んだ脳を無理やり絞って回転させる。

 ──今できる全力を果たすために。

 

 偽物、嵐山隊、その後に控える玉狛、(ブラック)トリガーのことはもう気にしない。

 ──今そこには手が届かないから。

 

 相手は迅悠一。副作用(サイドエフェクト)未来視を持ち、弧月より大幅に高性能な風刃を有する俺のライバル。

 ──相手に向き合え。この戦いに勝つために。

 

 剣の技量そのものはこちらが上。

 あちらの有利点は予知による行動の先回り。数手先を読むこの有利点をかき消すに最も有効な手は攻撃の密度を上げること。これにより未来を読むことへ意識を割かせ、現実が疎かになってしまうのが迅の敗北パターンである。

 

 しかし肝心の密度を出すことはこちらの疲労により不可能だ。

 ──無駄を省け。必要なものが残ってくれる。

 

 ならばどうするか。答えは簡単だ。

 密度が出せないのなら質でかき消せ。

 密度の高い連撃で崩していた迅を、ここからは質の高い一撃で崩す。

 単純だが、それしかない。

 ──最善手を繰り出し続けろ。

 

 後のことなんて考えんな。今の全力を絞り出せ。

 ここから先。迅を倒した後の事はその時考えればいい。例えそこに自分はいないことになろうとも。

 

 信じろ。ボーダー(ここ)には──

 

「頼れる奴らがいる」

 

 思い出してつぶやいたその言葉が、太刀川に自信を与えた。

 

【古寺、距離詰めて攻撃に密度出せ。俺に当てても文句は言わねぇ。仕留めるつもりで打ちまくれ】

 

【でも、太刀川さっ!】

 

ブツり、と通信越しに騒ぐ古寺の声を通信を切って蚊帳の外にする。

 

「いくぜ、迅。第二ラウンドだ」

 

空いた距離を詰めるべく、太刀川が迅へと肉薄を開始した。

 

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