最強ノ一振り   作:AG_argentum

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躍動、そして

 結局のところ。正体がバレようと、理想を語ろうと、来栖の目標は変わらない。

 人数差・実力差、いずれにも変化は無く。

 目標にも変化は生じず、風間隊をこの場に留める時間稼ぎに徹し続ける事を目標とするのは当然の帰結といえた。

 

 しかし、正体がバレたことで戦闘に変化が生まれる。

 来栖の師匠は小南桐絵と烏丸京介。

 正体を悟らせないため、これまでは堅実な烏丸のスタイルに近い、防御寄りのスタンスで時間を稼いでおり、要所にて小南のような俊敏さと鋭い攻撃を繰り出すことで風間隊をこの場に留めていた。

 

 ここからは、その複合。加えて言えば、来栖なりのアレンジをさらに混ぜた戦闘スタイルをもって戦闘は展開される。

 そこに正体を隠すという心理的不純な要素は無く、最も現在の来栖が躍動する状態が整ったとも言える。

 

 そしてその変化を風間隊両名ははっきりと感じ取っていた。

 

 獣が如き、猪突猛進。

 これまでは風間隊の攻撃から戦闘が展開されていたという中で、初めて来栖からの攻撃アクションが繰り出される。

 

 グラスホッパーを生かした突貫。闇夜を切り裂く弾丸となった来栖は、歌川に迫ろうとしていた。

 

 来栖から見た歌川の表情に焦りはない。

 なんの小細工もない直線的な動作など、A級に属する者からすればむしろいいカモなのだろう。

 最小の動作でカウンターの準備を整えている。

 

 目の端に映る風間にしてもそうであった。

 歌川の最適解たるカウンターの予備動作に反応し、細かく位置を変え始めている。

 風間はその最適解に対して、自分()はどんなリアクションを返すか。数十手の予測を行い、いずれにも対応できるボジションを構築しているのだろう。

 

 衝突直前三歩手前。突貫から動作を変化させたのはこのタイミングだった。

 

 来栖の靴底が、コンクリートの地面をわずかに舐める。

 ジュッと焦げたような音を立てながら、来栖の体が戦闘機のバレルロールのように螺旋を描く。

 

 速度の低下は最小限。体勢の変化は一瞬前から絶大なものに変化する。

 

 体の回転により視界が天地を回る中で来栖は狙いすましたタイミングで弧月を振るう。

 そのタイミングは歌川の首筋に襲い掛かる一刀と化した。

 

「くっ⁉︎」

 

 歌川が苦悶の表情、うめき声をあげて凶刃を跳ね除ける。

 

 ──離さない。

 

 歌川の決死の跳ね除けに逆らい、なおも弧月が歌川に届く範囲に押留まる来栖。

 

 スコーピオンの強みはその軽さと形状変化による奇襲性。弱みとしては軽さからくる耐久性の脆弱さが挙げられる。

 弱みをつくのは戦闘の基本。

 間を置かず攻撃を浴びせ、脆い歌川のスコーピオンをへし折りにいく。

 

 二人のやりとりはワルツのように。

 一定の距離から付かず離れず、規則的な剣戟を繰り広げる。

 歌川がその規則性を崩そうと行動をすれば、それを咎めるように来栖が押えの一手を繰り広げる。

 

 三度の打ち合いをもって歌川のスコーピオンに罅が入る。

 あと一撃。叩き込めばスコーピオンは形を崩し、間違いなく歌川は致命的な隙を晒すだろう。

 

 来栖の予想通り、当然待ったをかけたのは風間だった。

 

 強引に。味方であるはずの歌川にぶつかるようにしてポジションを奪い、来栖の連撃が待つ鉄火場へその身を差し出した。

 

 来栖としてはやる事は変わらない。

 付かず離れずの状況を維持しつつ、武器の耐久性の有利で隙を作る。

 

 しかし相対したのは攻撃手(アタッカー)第二位。

 小南よりも成績で優っている風間にみるみるリズムの主導権は奪われ、攻防の割合は変化する。当然それは防御(押し込まれる)側にである。

 

 風間の攻撃を捌く、捌く、捌く。避け、防ぎ、払い除ける。

 

 純粋な来栖のスタイルをもってしても依然として戦力差は縮まらない。

 

 しかし、戦闘スタイルの制限の解除。

 玉狛で行う訓練にはない重圧(プレッシャー)

 風間・歌川という難敵。

 これらの要素が来栖の()()()()()()()()()()()

 

 ──こいつ、まさか! 

 

 変化を如実に感じ取ったのは相対する風間だった。

 来栖の腕がだらんと垂れ下がり、ただただ風間を()()()()

 

 風間のスコーピオンが一閃。

 最短距離をもって来栖の弧月が攻撃を防ぐ。

 

 続く、攻撃もまた同じく。

 風間の一方的な攻撃が繰り広げられ、それを来栖が阻む。

 

 猛攻に次ぐ猛攻。歌川と連携しながら来栖に反撃の隙すら与えない。

 そうだというのに──。

 

違うそうじゃない。切り上げ、フェイント。もう一人とのスイッチ

 

 回避の連続。完璧な防御。

 まるで攻撃の来る場所が事前にわかっているかのように先回りの動作をいくつか見せ始める。

 

 これほどまでの猛攻をもってしても来栖の体に傷はつかない。

 

 むしろ一手重ねるごとに──。

 

 ──この人の、見てから行動するまでの隙がなくなってきている!! 

 

 歌川は戦慄を覚える。

 確かに正体が判明してからの戦闘スタイルの変化は確かに目を見張るものであった。

 初撃の回転斬りには歌川も焦らされたし、それ以前の攻防でも鋭さはあった。

 

 だが、それでも風間相手に防戦気味だったはずだ。

 

 状況は依然として防戦気味である事は変わらない。

 

 が、対処するレベルが明らかに向上している。

 ”見て”、”判断”するまでに生まれる思考の時間が減り、軽量さで有利なはずのスコーピオンの動作(モーション)に弧月の来栖が肉薄しつつある。

 

 その事実が、このハイレベルな状況で生まれること。驚くほどの急成長。

 

 ──急成長? 本当にそうなのか? 

 

 あり得ざる来栖の対応力の向上を風間も実感しながら、自分に問いかける。

 

 実践の中での成長というものには風間にも覚えがある。

 だがここまでの急成長は()()()

 

【急ぐぞ、歌川】

 

【風間さん?】

 

【嫌な予感がする】

 

【嫌な予感……】

 

 理屈を好む風間が吐く、予感という根拠なき言葉。

 だがそれには歌川も異を唱えられない。

 

【多少の損害は度外視であいつを狩る。準備しろ、歌川。パターン3だ】

 

【──了解です、風間さん】

 

 歌川もまた、感覚的に理解する。

 

 ──このままいけば、負ける。

 

 依然として優位な状態。風間隊の敗北はあり得ない。

 その上で風間は長引けば起こりうる可能性を捉え、指示を出したのだと歌川は結論づけた。

 

 パターン3。

 この攻撃はあの太刀川さえ仕留め切った攻撃パターンの一つである。

 

 仕掛けるタイミングは、次の風間のフェイントモーションからだ。

 

 ======

 

 ──いい感じだ。

 

 風間・歌川の攻撃を今なお防ぎ続ける来栖はぼんやりと思い耽る。

 

 拮抗はしていない。一方的な来栖の防御状態が続く。

 

 どうしたって防御を続ける事はメンタル的に辛いことのはずなのに、それでもこの()()状態は来栖にとって心地よかった。

 

突き、枝刃(ブランチブレード)、脚狙い

 

 防御、回避、シールド。

 いずれも口にした通りに動く敵の行動に合わせた動作。

 

 予測がはまる。これまでの玉狛での訓練ではできなかった以上に素早く滑らかに。

 敵の繰り出す行動がわかり、対処する方法が湯水の如く湧き出てくる。

 浮かんだ方法に沿う動作に、正確すぎるくらい体がついてくる。

 

 それこそ、今までなんでこれができなかったと思えるほどに。

 今までの最適解が、それ以上の最適解へと塗り替えられていく。

 

 世界が変わる。

 

 感覚が、()()

 

 ──甦る? 

 

 今自分は何を思った? ”甦る”? 

 

 何が? 戦闘力だ。もっと具体化すれば予測が格段に早まり、連携を防ぐための引き離すことはおろか、連携にすら完璧に対処できている。

 

 どこから甦ってる? 

 決まってる、そんなもの──。

 

 ──過去の記憶からだ。

 

 防御から一点。振り払うように風間へと弧月を振るう。

 

 あと少し。動き出しが速ければ落とせてた。

 今日初めての手応え。致命傷を与えるに足る攻撃を繰り出す。

 

「……はは。ははは」

 

 戦闘中だというのに笑みをこぼす。

 頭によぎった考えが、感情を掻き乱す。

 口元を抑えようと、隠せないほどに弧を描く。

 

「ははは、ははははは! 

 

 距離を取った風間らが眉を寄せるが気にしない。

 どうでもいいと切り捨てる。

 

 ”甦る”。

 つまりそれは、”思い出している”! 

 

 歓喜する。

 自分の記憶が完全に思い出される未来を想像してしまう。

 途切れてしまった記憶が甦り、空白の記憶が埋まる。

 

 そして記憶が戻れば。

 

 ──この戦いも、未来の侵攻も。もう誰も、悲しませないで済む未来が作れる。

 

 それだけの力が記憶を取り戻した先にある確信がある。

『そうだ、俺を求めろ。来栖響』

 どうすればいい? どうすれば、思い出せる? 

『簡単だ。その魂を闘争に委ねろ。そうすれば』

 この感覚、戦いの中にある心地よいこの感覚に全てを委ねれば、思い出せる気がする。

 

 ──斬り合おう、風間。そうすれば、きっと……! その先に! 

 

 一歩前に、踏み込む。

 この戦いの果てを見るために。先にある可能性を掴むために。記憶を、思い出すために! 

 

 

──その程度の思いで、この枷は外させない。

 

 

「うぁがっっ!?」

 

 頭が、強烈な痛みに襲われ、堪らず叫ぶ。

 まるで万力に絞められるような激しい痛み。

 胸元の傷が、再び開いてしまいそうな激しい脈動。

 一瞬それに耐えかねて、目すら塞いでしまった。

 

「しまっ!」

 

 向き合う敵がいるのに、その前で隙を晒す。

 それがどんな結果を生むかなど、誰だって想像ができる。

 

 痛みはすぐに引いた。

 

 しかし風間はもう疾走し始め、距離を詰めてきている。

 詰められた距離を開けるために、すかさずバックステップで離れようとするが、人体の構造は後ろより前に進む方が速くなるようできている。

 抵抗は虚しく距離は詰め切られ、こちらの準備不足な状態で激突する。

 

 ──なんでこんなタイミングで‼

 

 間の悪すぎる痛みに悪態をつくが、敵からはお構いなしの攻撃がひっきりなしにやってくる。

 

 ──回転切り、下からモールクロー、ポジションチェン、じゃない!? 

 

 先ほどまでならこのタイミングで入れ替わっていたはずだ。

 予想が食い違い、未だ風間が追撃を仕掛けてくる。

 

 頭によぎる可能性。すぐさま思いついたのは──

 

 ──攻撃パターンの変更!! 

 

 もう一人の(歌川)の動きに目を、いない⁉

 

 ──いつの間にか死角に移動して、ご丁寧にレーダーから消えてる! やられた! 

 

 恐らくだが、先ほどの頭痛のタイミングでここから離脱され、更にはバックワームまで羽織られてる。

 

 そこから考えられるのは、足止めからの離脱もしくは奇襲! 

 

「…………」

 

 なんとか思考をまとめた来栖を、無言で見やる風間の赤い瞳。

 言葉はなくとも剣をもってこちらに語りかけてくる。

 

 ──どうした? なにか考えことか? 

 

 顔色一つ変えずにこちらを挑発する風間に青筋を立てる。

 

 風間の攻撃には無駄が無く、初動の体勢が災いし、その予測・対応には余裕が作れない。

 その上、見えない歌川の行動を想定するため脳が過剰に回る。

 

 ──周りは倒壊がさほどない、保存状態の良い住宅地。あり得るのは狭い家屋の隙間からの奇襲。けど! 

 

 いつ来るか? 風間の攻撃を受け流す中で常にその選択肢が付きまとう。

 じりじりと精神が削れていくのを感じる。

 

 ──対策、常に片手は奇襲に対応できるようフリーに! だけど、それじゃあ完全に風間に対応しきれない! 

 

 風間の攻撃が身体を掠め、隅々に傷が細かく入り始める。

 視界にうっすら入る漏れ出たトリオンが来栖の焦燥を一層掻き立てた。

 

「どこにいるんだよ、相方は⁉」

 

「お前に教える義理は、無い」

 

 憎たらしいくらい冷静な表情をする風間に向けて、堪らず来栖が叫ぶ。

 

 ──攻げ、いやフェイントモーション! 

 

 風間はフェイントから、一転。距離を取りながらステルスを起動する(姿を消す)

 

 ──逃すものか。

 

 見えはしないが眼前にいるはずの風間に来栖が追撃を繰り出そうとするよりも速く──。

 

ドゴゥウ!!!! ドウゥン!! 

 

「んな⁉」

 

──あたり一帯の民家が一斉に爆発した。

 

 響く爆音。攻撃を中断した来栖は自身を包むようにシールドを展開しながら、その正体を一瞬で来栖は看破する。

 

──炸裂弾(メテオラ)! トリガーにあったのか⁉

 

 これまで使ってこなかったトリガーをここで使ってくることに目をむかされる。

 

 いやそれよりも。

 周囲を取り巻く白煙。

 いまだに連続する爆発。飛び散ってくる瓦礫に破片。

 

 ──視界封じに聴覚封じ。それに風間もレーダーから消えてる。これが目的か!! 

 

 完全に五感からの情報が遮断されてしまっている。

 この状態ならば、どこからでも奇襲が成立するだろう。

 

 ──とにかくこの煙幕から抜けないと……しまった!! 

 

 完全に判断を誤ったと自覚する。

 急いでこちらもバックワームを起動したが……。

 

「遅いぞ」

 

「く、ぁ」

 

 煙幕を弾丸のように切り裂きながら風間が来栖の横を抜ける。

 通りすがりに風間が切りつけ、来栖の右腕を吹き飛ばしながら再び煙に消えていく。

 

 情けない声を上げた来栖に、風間の抜けた名残の風穴を見ている暇はない。

 

 背後から同じくバックワームを羽織る歌川がスコーピオンで来栖の腹部を裂く。

 

 ──ここに貼り付けるつもりか!! 

 

 息つく暇も、足を動かす暇もない。

 いくらバックワームでレーダーから消えようと、同じ場所にいては敵に見えているも同然だ。

 

【警告。トリオン漏出甚大】

 

 システムアナウンスが告げる状態に焦りが加速する。

 

 この場に留まろうと状況は好転しない。

 ならいっそのことトリガーを切り替え、一気にこの煙幕から抜ける! 

 

 選択を下した来栖はグラスホッパーを踏み込み、白煙を一気に離脱する。

 

「やはりな」

 

な」

 

 なんで? 早すぎる。

 

 抜けた先に待ち構えていた風間に困惑し、か細く声が漏れ出た。

 

 バックワームは起動したまま。レーダーには来栖の姿が映らない。

 このタイミングで来栖が白煙から抜けることなど理解できるはずもない。

 いや抜けるタイミングがわかったとしても、待ち構えているのはおかしすぎる。

 

 まるで自分がここに抜けてくるのを予見してるかのような。そんな嫌な感覚が一気に背中を駆け抜けた。

 

 危機感が、脳内に警報を鳴らす。

 突き抜けた白煙。自分の後ろに未だ立ち込めるそこにいくつかの穴が空いた。

 

 穴から飛来するしたのは──

 

 ──トリオンキューブ!! 

 

 それもシールドを広げさせるために弾速重視で細かく分割されたアステロイドが来栖を襲う。

 身に染みついた思考。脊髄反射ともいえる習慣が、一切の間を置かず来栖にシールドを展開させた。

 

【「ここで決めるぞ」】

 

 聞こえてきたそれは果たして現実か。そう通信しているであろうという妄想か。

 もはや見ずとも理解し得た。

 

 前方の風間。後方からのトリオン弾。となればさらなる別角度から歌川の、まさに三位一体の連携攻撃が今の自分に繰り出されようとしている。

 

 タイミングは完全に一致。

 最早風間を自分から引き離し、連携そのものを崩すことは間に合わない。

 

 来栖は悟る。

 緻密に築かれた連携は完膚なきまでに自分を倒しきるだろう。

 

 ──時間稼ぎには、なったかな。

 

 諦観が口をつく。

 

 ひとまず、目的は果たせただろうか。

 体感時間ではそこそこだが、そういうときこそ意外に時間が経っていないことがある。

 体感時間通りかそれ以上であってほしい。

 

 ──これからどうなるんだろう? 

 

 これは空閑を守る戦いだった。

 この先の空閑の運命に自分は介入できない。

 この戦場に残される人物らに運命は委ねられる。

 

 ──記憶は戻らなかったな。

 

 空閑には悪いが、悔いてしまう。

 戻りかけたような感覚。結局はそこ止まり。

 あと少し、もう少しで思い出せそうだったというのに。

 

 凶刃が迫りつつある。

 トリオンキューブは全身を。風間は胴体。もう歌川(一人)は未知数で。

 

 倒される、ということは嫌というほど玉狛で経験しているはずだ。

 

 受け入れろ。ここから先に自分はもう介入できない。

 ──本当にか? 

 そうだ。ここを切り抜ける実力は今の俺にはない。

 ──だから諦めると? 

 抵抗することは無意味だ。迫る通常弾(アステロイド)と目の前の風間の攻撃を受け止めようと同時にくるであろう歌川(二人目)の攻撃が確実に自分を刈り取る。

 ──いいや、お前にもみえてるはずだ。この絶望的な状況を乗り越えれる唯一の方法があることを。

 この絶望的な状況を乗り越えれる方法は確かに存在する。最後の、抵抗ではない。

 ここから先、なおも風間隊と戦闘を続け、空閑と自らの未来を切り拓ける方法は確かに存在する。

 風間の攻撃を。同時にくるであろう歌川(二人目)の未知数の攻撃を防ぐ方法は確かに存在する。

 

 だがそれは。

 

 無理だ。それを実行するには実力が。経験が不足しすぎている。勝機はほぼ、無いに等しい。

 ──そうかも知れない。だけど、俺の声が聞こえているのなら可能性は残っている。

 勝機はほぼ無いに等しい。それでも。そうだ、それでも。

 

 

 頭痛がしだした。その先に行くな、と訴えかけてきて、痛みが思考を鈍らせようとする。──止まるな。

 

 ──思い出せ。思い出せるはずだ。お前が本当に未来を変えたい意思を持つのなら。

 目の前の、()()()()の未来を変えれずして。望まぬ未来を跳ね除けることなど出来はしない。

 

 

 頭痛が酷くなる。脳が、万力で締め付けられるなんてものじゃない。壊れる。つぶされる。その先に行くことはお前を殺す、と生存本能がひしひしと警告してくる。──構うな。

 

 

 ──お前が、もう二度と誰にも涙は流させないと願うなら。誓うなら。

 この程度の未来、超えてみせろ。これすら超えれない存在が、理想(ユメ)を叶えるなど不可能なのだから。 

 

 

 胸の傷が業火に焼かれるように熱い。ここが分水嶺だと、生存本能が全力で告げる。戻れ。戻れ。戻れ戻れ!ここで戻ればまだお前は死なない! と最後の最後まで懇願する。──邪魔をするな。

 

 必要だ。必要なんだ。強さが。未来を変えるには。超えるには。

 何かを、成すためには。

 

 もう二度と誰にも涙は流させないために。

 もう二度と誰も無力感に打ちひしがらせはしないために。

 もう二度と壊れるかもしれない明日に絶望させはしないために。

 

 平和を作るには。理想(ユメ)を叶えるには。

 

 強さが、必要なんだ。

 

 だから、()()()()()

 たとえ叶わぬ理想(ユメ)だとしても。幻想だとしても。だからなんだと生涯不可能()に手を伸ばし続けることを、ここに。

 

 

 ──ああ、そうだ。お前が本当に目指すなら。求めるなら── 

 

 

 生存本能のもたらす痛みを振り払い、意志(引き金)に指をかける。そして「来栖響」は、世界に弾丸(言葉)を放った。

 

「俺が、最強になるんだ」

 

 

 ──お前()が作ったこの枷は。いとも容易く解けるはずだから。

 

 




next 枷は解かれた
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