最強ノ一振り   作:AG_argentum

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3月末までに争奪戦終わらしたかったんだがな。悪ぃ、無理だった。
28巻の教訓をもとに結果と向き合います。
一応、3日間連続投稿は確定。
ほんとはこの3話で争奪戦を終わらしたかったんですがね。
書いてるうちに書きたいことが増えてきてまだまだ日がかかりそうです。

この作品ではよくやってた、久しぶりの過去回というやつです。
相変わらずの亀投稿ですがよろしくお願いします。


風間蒼也①

『あ。来たな蒼也』

 

『来栖おまえ。呼んでおいてこれは何だ?』

 

 呼ばれて来栖隊の隊室に来てみれば、まず目に入った光景にを苛立ちを覚え、たまらずしかめ面をする。

 

 汚い。

 テーブルに広がる書類であったり、ソファに脱ぎ捨てられたシャツなどが目についてしまう。

 

 嫌悪感丸出しのこちらに対して、来栖はたはは、と小さく笑った。

 

『いやぁ、ごめんごめん。片付けの時間作りたかったんだけど、上層部に呼ばれた案件があってな』

 

『言い訳はいらん』

 

『ああ、うん。マジでごめん』

 

 書類を書く手を止める来栖。

 テーブルにある書類を無理やりテーブルの隅に寄せたり、脱がれてるシャツたちを手元にかき集め始める。

 

『とりあえずそこ座っといて。牛乳でいい?』

 

『ああ』

 

 何とか確保されたソファのスペースに腰掛けていると、給油室から来栖が盆をもってやってきた。

 

『牛乳と、みかんです』

 

 盆には、牛乳が注がれたコップとみかんが数個。

 

『あいからわず、みかんがでてくるな』

 

 冬のシーズンになると、来栖隊の茶請けはみかんが多くなりがちな気がする。

 そう突っ込んでみれば、来栖はまた曖昧に笑った。

 

『国近のご家族が送ってきてくれるんだよ。ただ、多くてなぁ。こうやってお客さんに出さないと、消費しきれないんだよ』

 

 そう言われて周りを見渡すと、”みかん”と印字された段ボールが目に入った。

 上から段ボールを見ているわけではないので箱の中は詳しくわからないが、まだまだみかんがはいっていそうな気がする。 

 

 みかんの皮を剥いて、中にある果肉を口に入れる。

 三門でもみかんが栽培されているが、それとはまた違ったうまさがあった。

 こっちの方がスッキリした味わいな気がする。

 

『どう、その牛乳? ちょっとお高いやつなんだが』

 

『ん、悪くない』

 

 口直しに牛乳を流し込むと、濃厚な味わいが口に広がる。

 

 来栖が今しがたお高い、と言っていたがそれはまことのようだ。

 是非とも次回からこの牛乳を俺には出してほしい。

 

 さて、と一飲み終えたコップをテーブルに置き、口にする。

 

『それで? わざわざラウンジじゃなくて隊室まで来させた理由はなんだ?』

 

 つい先日。『話したいことがあるから明日、隊室に来てくれないか?』と、来栖から連絡があったのではるばるやって来たが、こちらもそこまで暇ではない。

 今までは、ただの隊員として活動していたが、来シーズンからは部隊長として活動を開始することとなっており、自分が多忙であることは来栖も知るところであろう。

 

 オペレーター集めに隊員集めは既に終えたが、それだけでは新たに始まるB級ランク戦を勝ち抜くことはできない。

 基礎的な戦術の共有。訓練生から上がりたての二人の実力の底上げ。近接戦闘で肝になる連携の訓練など、やることはとにかく山積みであった。

 

 雑談はそこそこに、さっさと本題に入るよう来栖に促す。

 

『あー。じゃあ話すんだけどさ』

 

 目を伏せがちに、気まずそうに来栖が口を開く。

 続いた言葉に思わず俺は目を見開いてしまった。

 

『ボーダーを、離れる事になった』

 

『は?』

 

 驚きのあまり空いた口が塞がらない。

 パクと口が開いては閉じかけて、また開く。

 

 なんとなしに、くだらない相談をするのだと決めつけていたが、そんな思考は彼方に消し飛んだ。

 

『辞める、という事か?』

 

 信じられなかった。

 目の前にいるこいつがそんなことを言い出すなんて。

 

 何か悪い物でも食ったのか、熱でもあるのか。

 若しくはついに。

 

 壊れてしまったか。

 

『いや待て。言葉が悪かった。ボーダーを辞めるわけじゃない!』

 

『…………来栖』

 

 俺の反応をみた来栖が慌てて、身振り手振りで否定する。

 

 ジトッと、来栖を睨むが俺は密かにほっとした。

 まだ、こいつが大丈夫だという事実に安堵する。

 

『…………』

 

 ボーダーという組織に、来栖響は今後も必要だ。

 今後もボーダーのトップをひた走るだろうこいつを損失することは、紛れもなくボーダーの大きな損失になる。

 

 ボーダーの損失もそうだろうが、いきなり居なくなられては、自分含め多くの人間がガッカリするだろう。

 

 ボーダーの攻撃手(アタッカー)はなかなかに戦闘狂いだ。

 来栖を越えようと、毎日毎日挑みにいくバカがいるくらいには、狂っている。

 自分もそのうちの一人だとは死んでも認めたくないのだが。

 

 すると、オレの安心する姿を見た来栖がおかしげに笑い始めた。

 

『辞めるわけないだろ』

 

 カラカラと。乾いた笑みを浮かべる来栖。

 

『俺がしなきゃいけないこと。まだ、できてないんだから』

 

『…………!!』

 

 それは恐怖を覚えそうになるくらい狂気な笑みだった。

 口元は、三日月を幻想するくらい弧を描いていて。目は、その奥が視えないくらい、黒く濁っている。

 

 笑っているのに、笑っていない。

 

 壊れかけの来栖の一面が垣間見え、空気が凍るような錯覚を覚える。

 

 次に何を呟けばいいのか。思考が固まってしまった。

 

『…………ん。…………あぁ』

 

 パァアアン!! 

 

 ビクリッ、と来栖の突飛な行動に肩が揺れた。

 猫だましのような行動をとった来栖の拍手が発した音は、さながら小さな爆弾のようだった。

 

 張り詰めた空気が、顔の目の前で鳴らされる甲高い拍手の音で霧散する。

 

『言葉を正しく選び直すとさ』

 

 弛緩していく空気の中で、穏やかな口調で来栖が語り始める。

 さっきまで浮かべていた狂気な笑みがなかったように口を開いた。

 

『三門を離れて、海外に行くことになったんだよ』

 

『海外だと?』

 

『そ、海外』

 

 これまた突飛な、とは思ったが。

 

『紛らわしい言い方を』

 

『いや、ごめんごめん』

 

 凍った空気の件含め、来栖をこれでもかと睨みつけた。

 それに対し、来栖は悪びれる様子もなくヘコヘコと謝る。

 

 気圧された自分の未熟さを恥じつつ、『それで?』と来栖に続きを促した。

 

『何のために行くんだ?』

 

(ゲート)の調査だってさ。あと、海外からのスポンサー集めの為に』

 

(ゲート)の調査だと?』

 

『うん。今のところ三門でしか大体的に確認できていない(ゲート)だけど、海外の特定地域でも似たような現象が起きてるらしい。それの調査に出向くことになった』

 

 なる程な、と小さく呟き、付け加えられているスポンサー集めというのも納得がいった。

 

 組織を運営する上で金は当然に必要な物だ。

 ボーダー本部施設の維持やトリガーの研究開発、隊員へ支払う賃金などなど、ボーダーという組織のカネ周りについて詳しく知らなくとも、入り用であることは簡単に想像できる。

 

 そして実のところ、ボーダーの資金の大半は民間からの出資で賄われている。

 国からの補助もあるにはあるが、出資した額の比率で言えば、民間の方がやはり多くなるのだろうし、今後の組織運営のために手広く海外から出資を募ろうという上層部の判断なのだろう。

 

 そう考えていると、ふと疑問が湧いて。

 深く考える間もなく口にする。

 

『まさかだが、おまえの部隊全員でか?』

 

『蒼也、お前それ本気で言ってるのか?』

 

 では、その海外には来栖以外に誰が行くのかという素朴な疑問を投げ掛ければ、呆れた、それこそ信じられないというように口元を引くつかせながら来栖が言う。

 

『うちにはあの太刀川がいるんだぞ』

 

『ふっ』

 

『ふっ、てお前。自分で言った事になに笑ってんだが』

 

『いや、くくっ』

 

『また笑って』

 

 そういう来栖も少し笑っている。

 

 自分で言っておいてなんだが、あり得ないことを考えてしまった。

 もう少し考えてから口にすべきだっただろう。

 

 来栖隊には来栖のみならず、その部下にはオペレーターの国近や、戦闘員の出水・烏丸がいる。

 そして最も海外調査などに向いているはずがない太刀川がいるのだ。

 

 あまり本人のいないところで悪口は慎みたいものだが、あえて言おう。

 

 太刀川を連れて海外など、絶っっっっっっっっっっ対に行きたくはない。

 

 まさかbe動詞が何なのかすらわかっていない高校生がいるとは太刀川に出会うまで思いもよらなかった。

 

 海外圏では取りあえず英語さえ話せれば何とかなると考えているが、まともに話せない太刀川を引き連れての海外など、死んでもごめんである。

 

『全員で行くわけないだろ。太刀川がいるだけじゃなくて、うちにはまだ中学生の京介もいるんだからさ』

 

『ああ、そういえばそうだったな』

 

 そういえばそうだったと、来栖隊最年少の烏丸を思い出す。

 確か今現在で中学二年生。あと二か月もすれば3年生に上がるであろう来栖隊きってのしっかり者を思い浮かべた。

 

 本当にしっかりしているのだ。歳不相応なくらいに。

 むしろ来栖隊の他メンバーがずぼらすぎるのかも知れない。

 

『来栖おまえ、本当に烏丸には感謝しろよ』

 

『……? ああ』

 

 目の前のこいつも、他人が関わる物事にはしっかりきっちりとするのだ。

 遅刻はしないし、書類の提出などで焦っているところは見たことがない。

 

 ただしかし、来栖は自分のこととなると一気に気を抜くのだ。

 もしくは無頓着。

 だからこそ、入隊当時の無茶を通すことが出来たのだろう。

 

『…………』

 

 少しだけ、考えが逸れたなと思い、話を戻しにかかる。

 

『なら海外には、だれと行くんだ?』

 

『いや、俺一人。単独で行く』

 

『一人で、だと?』

 

 流石に1人で行くとは思っていなかった。

 勝手ながら、海外には複数人で調査に出向くと予想していたが、あっさりとその考えは裏切られる。

 

『大丈夫なのか?』

 

 来栖もオレもまだ19歳。成人した大人といえるが、海外で一人とはさすがに防犯的な観点から厳しいのではないかと思えてしまう。

 

『まあ、トリオン体の機能とかでどうにかなると思うぞ』

 

『それだけでどうにかなるか?』

 

 訝しむこちらの言葉を他所に、どうにかなるだろ、と何やら楽観気味な姿勢の来栖。

 普段の来栖ならば、もう少し慎重に物事を考える気がするが、気のせいか? 

 

『おまえがいない間の部隊はどうなる?』

 

『とりあえず、太刀川に臨時で隊長をやらせるよ。書類業務の方で少し不安だけどさ』

 

 いやほんと不安だわ。あいつこの前会議中に爆睡カマしたんだぜ、と呆れた口調で来栖がぼやく。

 本当に太刀川に臨時隊長をまかせて大丈夫だろうか? 

 書類の不備やらなにやらで泣きつかれそうな、嫌な予感がひしひしとする。

 

『でさ、今日呼び出した理由はさ。その調査のことをお前に伝えとく、ってのも理由なんだけどさ』

 

『頼みが、あるんだ』

 

 なんだ、このらしくなさは?

 

『俺がいない間のボーダーを、太刀川たちをよく見といてやってくんないか』

 

『電話などで。やりとりすればいいだろう』

 

 言葉につまる。

 なにか。なにか普段とは違う気がする。

 だが、普段との違いをつかめない。

気づけ、何かおかしい。 

 

『いやー、それがさ。だいぶ忙しくなりそうでさ。そんな余裕なさそうなんだわ』

 

 やけに明るく振舞うそれに来栖らしくないと違和感を覚える。

 何がだ? 何に違和感を覚えている? 

気づけ。気づかなければ、こいつは手の届かないような、どこか遠くへ行ってしまう予感がする。

 

『なあ、頼むよ蒼也』

 

 頭を来栖が深々と下げる。

 

 まるで今生の頼みのような。

 軽薄さの裏に、真剣みを帯びた言葉で頼み込まれる。

 

 違和感があるのだ。なにか。言葉にできない違和感(なにか)がある。

何か、こいつは隠している。何を? 何をこいつは──

 

『頼めるの、お前ぐらいでさ』

 

『おまえ…………』

 

 その、違和感を。見つけるより早く。

 

『…………はぁ。まったく』

 

 来栖の言葉に絆されてしまった。

 

 頼ることを覚えたこいつを、嬉しく思えて仕方がなかった。

 頼ることを頼ることを避けてきた、あの来栖が。俺を頼ってくれているというその事実に絆されてしまう。

 だから結局、感じていた違和感は気のせいだったのだと、勝手に結論づけてしまう。

 

『わかった。気に掛けておく』

 

『っっ! さんきゅ、ありがとう!!』

 

 おれの一言に、来栖が破笑する。それは満面の、と言えるほどで。先ほどのような不気味なものとは天地の差があるとすら思えた。

 

『いつ海外に?』

 

『3日後』

 

『急だな』

 

『ほんとな、全く』

 

『太刀川たちにはいったのか?』

 

『まだ。時間見つけて言っとくよ』

 

『どれほど向こうに?』

 

『んー、1ヶ月って聞いてる』

 

 そんな問答を互い違いに繰り返していく。

 

『そうか。1ヶ月もあれば、十分だな』

 

『何が?』

 

 おれの言葉に来栖が首を傾げる。

 

『わからないか? おまえを総合2位に引きずりおろすのにだ』

 

『…………』

 

 これでもかと挑発的に。目の前の総合一位(来栖)に向けて、宣言する。

 

『ハッ』

 

 おれからの宣戦布告を受け取った来栖は、獰猛な笑みを浮かべておれを睨みつけた。

 

『言ってろ、総合10位。俺と8000Ptぐらい開いてる癖に』

 

『二週間もあればそれぐらい詰めてみせるさ』

 

『ふふっ、そうかよ』

 

 傲岸不遜に。おれに劣らず挑発的に笑っては、来栖の表情は穏やかな笑みに転じていく。

 

『強くなっといてよ蒼也。()()()()()()()()()()()。そんで、あいつらの事も。ボーダーのこともよろしく頼む』

 

『ああ、まかせとけ』

 

『…………よし! 俺の用事終わり! どうするこの後? 食堂でも行くか?』

 

 一つ心配事が解消されて、開放感からくる上機嫌だろう。来栖の面持ちは晴れやかだった。

 

 奢るぞ、来栖が明るく提案してくる。

 

『いや、それより対戦ブースに行こう』

 

『珍しい。お前から誘ってくるなんて。明日は雨か?』

 

『おまえが海外に行く前に、せいぜいポイントをむしり取ってやろうと思ったまでだ』

 

『は~、そんな挑発しちゃうんだ蒼也くん。いいよ、なら覚悟できてるよな』

 

 舐め腐った態度は、余裕からか。

 来栖はおれをあやすような言葉遣いで、おれを煽る。

 

『全力でつぶす。ストレートで負かされても文句言うなよ』

 

『望むところだ、来栖』

 

 ストレートでなんて負けるものか。

 むしろ、今日という今日こそ、こちらがストレート勝ちさせてもらう。 

 

『ふっ』

『にっ』

 

 コップの中にある牛乳を飲み干す。

 互いに顔を合わせて笑い合う。

 

『先にブースいっといてくれ。片付けたら直ぐに向かう」

 

『ああ』

 

 テーブルに残ったコップを来栖は手にとって、洗面台の方へ向かっていく。

 おれはというと、先に隊室を出てその場で待つつもりだった。

 

『よかった。これで彼奴らも──』

 

 何か、来栖が小さな声でつぶやいた気がする。

 ただそれを聞き取れるだけの聴力がおれには無かった。

 

 




「思えばこれが。おまえとの最後の会話だったな、来栖」
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