最強ノ一振り   作:AG_argentum

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書いてて思う事として、小説で伏線を張るってどうすればいいんだってことです。
そんなわけでの2日目です。



託す想い

 勝敗は決した。

 

 一瞬の攻防。

 ほんのコンマ数秒、風間が来栖にとどめを刺すよりも、来栖の攻撃は速かった。

 

 手足全てを失い、身動きをとれなくなった風間が地に這いつくばる。

 

 脚も腕も奪われたとあらば、継戦はもう不可能。

 風間はそう判断するし、本部にてこの戦いの行く末を見ていた風間隊隊員達から見ても明らかであった。

 

【警告。トリオン漏出甚大】

 

 追い打ちをかけるように、システム音が事実を告げる。

 トリオンによって構築された戦闘体がパキと音を立て、陶器に亀裂が入るように割れ始めた。

 

 もってあと数十秒。

 自発的に緊急脱出(ベイルアウト)を宣告せずとも、トリガーの自動判断で風間はボーダー本部にある風間隊の隊室にあるベットに生身を預けることになるだろう。

 

 風間は、冬の地面の冷たさを肌で感じながら、自身を倒してはその場から動かず立ち尽くしている勝者(来栖)を見上げる。

 ぼぉ、と何を考えているのか定かではない表情で、来栖は空を見上げていた。

 

「…………うん、そうだな」

 

 そして何かを納得した素振りを見せて呟いた。

 

「トリガー、オフ」

 

「っ!? 何を!」

 

 風間の驚愕に構うことなく、来栖の見た目が変化していく。

 纏っていた黒の隊服が消えていき、青空のような淡い青のトレンチコートと雪のように白いパーカーを着込んだ来栖が現れる。

 

 ──ああ。

 

 換装が解かれ、生身が露わになった来栖を見て、風間は安堵の息を吐いた。

 

 見開かれた双眼。

 生気を宿すその証を風間は2年ぶりに、確認した。

 

 ──やっと。生きて、帰ってきた。

 

 三上の報告を疑っていたわけではない。

 来栖の口から紡がれた言葉を、嘘だと思っていたわけではない。

 

 ただ、少しだけ。

 遠征で疲れた自分が、願望から無意識に生み出した夢なのではないかと思い込んでしまっていた自分が居たのだ。

 

 それを、底冷えのする夜の冷たさが否定してくれる。

 自らを見つめるその蒼い瞳が否定してくれる。

 

 ただ機械に繋がれ、生かされていた友が。

 意思をもって立っていることに風間は喜びを隠せなかった。感動で、胸が張り裂けそうになる。

 

「静かな夜だって思ったんだ」

 

 夜空を見上げながら。来栖()は独白を始めた。

 

「俺の知ってるこの街は、夜だろうと鬱陶しかった。爆発音に倒壊音。不快な音がこっちの都合なんてお構いなしに鳴り響く」

 

 風間の感動を無視するかのように、嫌悪をその声に乗せて来栖は囃す。

 

「それがどうだ? 今夜はこれっぽっちも聞こえない」

 

 手を大っぴらに広げ、木霊する自らの声で静寂さを誇示する来栖。

 その声は嫌悪とは真逆。まるで歓喜するようにはしゃいでいた。

 だが、風間にはわかった。

 

「これが、永遠に続けばいいのに」

 

 その歓喜の中に自嘲が、諦観が含まれていることに。

 

「…………どうせトリオン障壁で()()、出てこないんだろ?」

 

「…………ああ」

 

 広げていた手をだらんと脱力させ、肩を落とした来栖が確認する。

 それに風間は是であると答えた。

 

 来栖の言う”連中”とはトリオン兵の事だ。

 そして来栖の発言は正しい。

 

 今現在。

 遠征組がブラック()トリガー強奪に際して予期せぬ妨害や損耗を避けるために警戒区域全域にはトリオン障壁が展開され、(ゲート)は強制封鎖されている。

 そして(ゲート)が封鎖されるという事は、そこから這い出てくるトリオン兵も現れない。

 

 来栖が換装を解いたのは、トリオン兵が現れないと理解して。その身に危険が迫ることはないと判断しての事だろう。

 

「なら、少し話そう。蒼也」

 

「……トリガー、オフ」

 

 ほんの少し、悩む素振りを見せた風間だが、来栖に倣い換装を解く。

 

 トリガーホルダー内部に格納されていた生身が戦闘体と入れ替わり、風間の失った肢体が復活する。

 這いつくばっていた体勢から立ち上がり、服に付いた汚れを払ってから風間は来栖と目を合わせた。

 

「久しぶりだな、蒼也」

 

「ああ、そうだな来栖」

 

 互いの吐いた息が白みながら宙へ霧散していく。

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人の間に、幾ばくかの沈黙が続いた。

 

「……何から、聞こうかな」

 

 沈黙を裂いたのは来栖の一言だった。

 ただそれは、沈黙した状態から少しも好転しない、なんとも間抜けな発言である。

 話がしたいと言い出したのは来栖であったくせにそのセリフを吐かれたのだから、風間としては盛大な肩透かしを喰らった。

 

「なんの考えも無しにさっきの発言か?」

 

「聞かなきゃいけないことはたくさんあるんだけどな。不必要なことばっかり聞きたくなる」

 

 苛立ちを僅かに浮かべた風間の一言へ困ったように小さく苦笑いを浮かべる来栖。

 

「本当に。聞きたいことが、多すぎる」

 

「来栖、おまえ…………」

 

 苦笑いを浮かべていた来栖が、物鬱気な顔をする。

 空を見上げて口にする来栖が、何を思っているのかを風間は掴み切れない。

 ただ強いて。強いて無理やり。その来栖から感じた所感を言葉にするのなら。

 

 ──まるで、死に際の問答のようだ。

 

「なあ、蒼也。お前の部隊、どうなったんだ?」

 

「なに?」

 

 来栖が朗らかに話し始める。

 さっき風間が感じた所感が、的外れと思わせるほどに。

 

 その明るさに、風間はたじろいでしまう。

 

「確かさ。B級ランク戦? だったけ。そこで部隊同士競い合うんだろ? で、確か上位数チームがA級に上がる試験を受けれるんだっけか」

 

「…………ああ。それでおれたちは1シーズンでA級入りした」

 

 思い出すように、説明するように。

 風間は来栖の質問に肯定してから、自分たち(風間隊)のささやかな。いや、素晴らしい自慢を口にした。

 

「今、A級なのか。ああ、そういえばエンブレムつけてたな。肩あたりに」

 

 エンブレムを有することは、ボーダーにおいてA級であることの証だ。

 確か来栖が昏睡になる前にそのことは決定されていたから、来栖もその事実を理解できた。

 

「なあ、そのA級。今何部隊あるんだ?」

 

「玉狛を除けば八部隊だな」

 

「除けばってどうゆうこと?」

 

「玉狛はトリガーの規格(スペック)を理由にA級から除外扱いだ」

 

「相っ変わらず無法だな。玉狛は」

 

「…………」

 

 その無法と部隊戦を繰り広げていた人間のいう事か、と風間は心の中で毒づく。

 

「B級は何部隊?」

 

 急かすように来栖が聞きこむ。

 

「今は、……21部隊だな。どこも曲者ぞろいだ」

 

「そか。じゃあ今度から22部隊になんのか」

 

「?」

 

 来栖が訳の分からないことを口にして、風間が疑問符を頭上に浮かべる。

 が、そんなことはお構いなしに来栖は風間に言葉を投げた。

 

「なぁ、太刀川たちは元気にやってた?」

 

「…………」

 

 来た、と風間は思った。

 

 今までで一番物静かで、けれども熱を感じる問い。

 来栖が、この質問をすることなどとうの昔にあたりをつけている。

 

「おまえのことを知るまでは元気にやってたさ。ただ……」

 

 自然と、ある感情が風間の中に浮かぶ。

 

「おまえのことを知ってからは一時期元気をなくしていたよ」

 

 風間の中に浮かんだのは怒りだった。

 だからこの言葉が来栖をひどく傷つけるものだと理解しながら、淡々と口にした。

 その来栖の部下たちは、来栖以上に傷ついていたことを身近な風間は知っていたからこそ口にする。

 

「おまえの事情は機密事項だからな。周囲に悟られない様、直ぐに元気を振りまいていたさ」

 

「痛ましいほどに」と最後に風間は付け加える。

 

 その言葉に、来栖は苦虫を噛み潰したかのような苦い顔をした。

 

「…………」

 

 来栖の後悔してるような表情を観察しながら、風間は考えを巡らせる。

 

 来栖が三門の病院で昏睡状態であることも、そうなった原因も、おいそれと外には出せない事情があった。それが漏れ出れば、ボーダーという組織が致命傷を負ってしまう可能性すら帯びていたのだから。

 

 だからこそ、上層部はそれを本気で隠そうとしたし、知ってしまった太刀川たちは必死に取り繕ったのだろう。

 

 後悔の顔から絞り出すように来栖がつぶやく。

 

「そっっ、かぁ。てか、お前も知ってるんだな」

 

「俺も、知ったのは最近だ」

 

 それを風間が知ったのはほんの数ヶ月前だ。

 3度目のネイバーフット(近界)への遠征がボーダー内で噂され始め、風間隊(自身の隊)として2度目の参加となろうかという頃。

 

 上層部から招集され、場合によっては記憶封印措置もなされると念を押され、機密事項が伝えられた。1年前に海外調査に向かったというカバーストーリーによって覆われた、来栖と上層部の決して明かせぬ機密事項を。

 

「…………あの時の、おまえの判断を責めることはできない。正しいとも、言えないがな」

 

「ああ、そこまで知ってんのか」

 

 今なお苦い顔を続ける来栖を励ますように風間は来栖へ言葉を投げた。

 

「カッコ悪いなぁ、俺」と気恥ずかしさを表に出して肩を落とす来栖。

 

 肯定するつもりはさらさらないが、否定の言葉を投げる必要もないと考え、風間はただただ押し黙った。

 

「…………なあ、蒼也」

 

 落ちていた肩を持ち上げ直した来栖が、風間の赤眼を捉える。

 

「強くなったな」

 

 混じり気のない賞賛。

 どこまでも真っ直ぐに、来栖が風間に語りかける。

 

「戦い方の組み立て方から、技の冴えまで。全部が全部、俺の知るお前から2段も3段も違ってた。あの、先制攻撃。こっちに伸びてきた技だってほんの些細な違和感がなければ防げなかった」

 

 来栖が指摘したのは風間が繰り出した“マンティス”の事だ。

 

 トリガーのメインとサブにあるスコーピオンを同時に起動し繋ぎ合わせる変則的な両攻撃(フルアタック)

 スコーピオン単体では届かない中距離であろうと()()()()届かせる荒技である。

 

「おまえは初めて見る技のはずなのだがな。少しの違和感だけでああも簡単に対処するか」

 

 数刻前を思い出した風間は呆れたように顔を歪める。

 

 風間のマンティスのモーションが他の動作と比較して僅かに違うのものだからとすぐさま中距離技と察しがつくとは。

 つくづく来栖のポテンシャルに驚かされる。

 

「それは、まあ。『俺』が最強だからってことで」

 

「ふっ」

 

「なんで笑うんだよ」

 

「いやなに」

 

 自らを”そう”だと呼称する来栖。

 変わらない『彼』に懐かしさが込み上げ、笑みを溢した。

 

「ほんと、最後の場面、お前が選択を間違ってなければ俺が負けてたよ」

 

「勝てるチャンスがオレにあったと?」

 

「あったよ。間違いなく」 

 

 視線は変わらずまっすぐに。穏やかな笑みを浮かべながらもしも(if)の敗北を来栖は口にした。

 

「お前の事だ。俺がスコーピオンを()()()()組み立てをするのを予測してたし、事実壊された後も冷静だった。片腕と少ないトリオン。更には軽い一撃でも貰えば即退場な状況で戦わざる得ない俺とのアドバンテージ(有利点)を活かした、そもそも破壊されることを前提にしたセットの組み立て。スコーピオン一本を俺の片腕(ワンアクション)を誘う囮に使って残りのスコーピオンで俺を仕留める。大筋としてはこんなとこだろう?」

 

「その通りだ」

 

「確かにその筋書きは正しい。片腕しか残ってない俺が弧月で起こせるアクションはどうしたって1つのみ。攻撃から防御に繋げるまでのほんの数瞬の防御は、任意箇所に発動できるシールドを使わざるを得ない。その上でお前の敗因は──」

 

 

「スコーピオンの奇襲性を捨ててしまったことだ」

 

 

 来栖の一旦間をおいたその一言に、風間は思わず歯を食いしばった。

 それは、勝利まであと一歩と迫っていたことを真に理解し、同時に敗因をこれでもかと突きつけられる。

 

「蒼也、お前はあの時破壊されていないスコーピオンを握り込んでしまっていた。もしもあの時、最後の最後までお前がスコーピオンを体内に忍ばせれば、俺はその一本の攻撃がどこから来るかの意識を割かざるを得なかった」

 

 スコーピオンは武器の性能上、その軽量さをよく特筆されるが、奇襲性も取り沙汰にされる。

 身体のどこからでも出し入れが可能であるスコーピオンはつまり、弧月とは違い攻撃位置を手のみに限定されない。

 蹴りに頭突きに肘打ち。ただの戦闘体ならば衝撃を与えるに過ぎないその攻撃は、スコーピオンを生やすことで、敵の戦闘体を破壊できる攻撃に様変わりするのだ。

 

 そして攻撃位置を悟らせない攻撃は防御すべき位置の把握を難化させる。

 その攻撃がどこから来るのか。どのタイミングで来るのか。

 

「たったの一撃すら俺からすれば、致命傷だからな。だからこそ、俺はその握りこんだ手さえ切り落とせばお前からスコーピオン(戦闘能力)を奪えると。トドメさえ刺さると確信した」

 

 そこまで聞いた風間は。

 

「──ーくそ

 

 小さく、ほんの少しの物音があれば搔き消されてしまいそうな声で悔しさをにじませた。

 

「まだ、おまえに届かないのか」

 

 来栖との、最後の会話を思い出す。

 

 自らがいない間、強くなってくれと。ボーダーを、太刀川たちを頼むと任された、何気ない約束と思っていたあの会話。

 帰ってきた時には自分など倒せるほどに強くなっていてくれと、頼まれたあの約束。

 

 その会話は時を経て。真実を知って、重いものになっていた。

 

 それがこのざま。

 遠征での疲労なんて言い訳にならない。

 あと一歩だったろうがなんだろうが、届かなかったことには変わりはない。

 おおよそ2年、来栖は時が止まっていたと言うのに結果が敗北とあっては、情けないと思えてしまい、顔を俯かせた。

 

「なあ、蒼也」

 

 それを見た来栖の感情を風間は把握しきれなかったが、それでも来栖は確かに口にした。

 

「さっき俺言ったよな。強くなってくれた、って」

 

 混じり気のない賞賛。

 ただただ素直に、思ったことを来栖は口にする。

 伝わらないというのなら、もう一度だって。何度だって口にする。

 

「お前の剣は届くよ。絶対、俺に」

 

 今回は、自らの勝利で幕を閉じたに過ぎない。

 次があれば、きっと。風間蒼也の剣はさらに輝きを増し、自らの喉笛を裂きにかかる。

 

 そう、『来栖響』は信じている。

 

「…………」

 

 ただ、それで風間蒼也は納得しないだろう。

 

 だから、頼むことにした。

 

「なあ、蒼也。最後にお願いしていいか?」

 

「多分いつか。俺は────────」

 

 彼ならば、自らの思いを託すことができると思ったから。

 

 =======

 

 

 =======

 

「頼んでも、いいか?」

 

「…………」

 

 来栖のこれまでの言葉に、風間は押し黙った。

 

 上手く、咀嚼しきれなかったのだ。

 来栖の言うそれは、まるで()()()()のようだった。

 

 そしてその確定事項があまりにも頓珍漢すぎる。

 する理由がない。する必要がない。

 そんな未来、万が一にも、億が一にも起こり得ないだろう。

 

 ああ、しかし。それでも。

 真剣みを帯びたその視線が言葉なく告げるのだ。

 

 起こるのだと。

 来栖自らが口にした事柄は、確定事項なのだと。

 

「…………」

 

 そして悟る。以前は見逃してしまったが。

 風間蒼也は託されたのだ。

 

 無様にも敗北を喫した自分が。

 それでもお前ならば託していけると。

 

『最強』は確信している。

 

 だから。

 

「今度こそおまえに。届かせてやるぞ、来栖」

 

 震えそうになる声を押し殺して。

 自信満々に親友へ告げたのだ。




――お前だから、託す。
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