最強ノ一振り   作:AG_argentum

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弁明

「いったいどうなっとるんだ!?」

 

 深夜真っ只中。

 ボーダー本部の会議室に怒号が響き渡る。

 

「迅の妨害にトップチーム(精鋭部隊)の潰走! そして嵐山隊の戦闘参加!!」

 

 激情をこれでもかと表に出し、鬼怒田がその手を机に叩きつけた。

 

 上層部の、城戸派の面々からして、トップチーム(精鋭部隊)を対処した迅、そして嵐山隊の戦闘参加は寝耳に水であった。

 だがしかし。

 

「それ以上に! 一番の問題は何故、()()()が! 来栖が戦場に()る!?」

 

 来栖の登場はそれを上回る事態であった。

 「どうなっとるのだ!? 忍田本部長!!」と、鬼怒田は腕を組む忍田真史を直視する。

 

「来栖隊員は三ヶ月前に昏睡状態を脱し、今現在は玉狛支部で療養中だ」

 

 目は閉じられ、眉間に皺を寄せる忍田は淡々と事実だけを伝える。

 

「何故そのような重大なことを我々と共有しなかった!?」

 

「諸事情故だ」

 

「そのような理由で納得できるとでも!?」

 

「納得いただけるものだと自負している。事情については後日改めて説明させて貰おう」

 

「それよりもだ」と、忍田は話を打ち切り、閉じていた目を開いては鋭く鬼怒田を睨み返した。

 

「議論を差し置いて強奪を強行した理由を聞かせてもらおうか?」

 

「…………っ!」

 

 その気迫に気圧されて、鬼怒田は思わず息を呑む。

 

 ボーダー内での、政治的な話にはなるが。

 ボーダーは3つの派閥に分かれている。城戸派、忍田派、玉狛派に分かれており、その規模は城戸派>忍田派>玉狛派と続く。

 そしてこれが、()()()()()()()()()()()()()()パワーバランスとも言いえる。

 

 もし今回の騒動の渦中にいる空閑遊真がボーダーの、玉狛派に所属したならば。

 そのパワーバランスは大きく入れ替わる。玉狛を頂点としたパワーバランスに。

 

 それほどまでに強力なのだ。(ブラック)トリガーの存在は。

 たった一つの(ブラック)トリガーの誕生が、小国を大国に押し上げれるほどに。勝利を目前とした大国を敗走に追いやれるほどに。それを求めて、政争が起こるほどに。

 そして今回は、ボーダー内のパワーバランス崩壊を危惧した城戸派により強奪という事態にまで発展した。

 

 城戸派の判断。

 パワーバランスの崩壊により波及する組織運営の困難化。近界民(ネイバー)という対象への憎悪で組織・人員を巨大にしてきたボーダーにとって、ネイバー擁護(玉狛)派をパワーの頂点に据えた状態での組織運営は紛れもなくボーダーの根幹を揺るがす。

 

 それを回避するが為の今回の決断であることを忍田もまた理解している。

 しかし。

 

「もう一度、はっきりと言わせて貰う。私は(ブラック)トリガーの強奪には反対だ。ましてや彼は有吾さんの息子」

 

 空閑遊真の父である空閑有吾の存在。

 彼の父である空閑有吾は、忍田にとって大恩ある人物である。

 

「これ以上、()を危険に晒すつもりであるならば」

 

 忍田は、彼に礼を失するような。あまつさえその彼の息子に刃を向けるような真似は断じて許すわけにはいかなかった。

 

 故に。

 

「私が相手になるぞ。城戸一派」

 

 まるで烈火の如く。

 その場の城戸派に当たる人物らへと敵意を剥きだす。

 

()に充てられた鬼怒田は動揺に肩を揺らし、メディア対策室長である根付英蔵は椅子から腰を浮かせていた。そしてそれに一切たじろかない二人。外務営業部長である唐沢克己とボーダーの、そして城戸派の長である城戸だけが凪いだ表情で考えを巡らせる。

 

「なるほど。……ならば、仕方ない」

 

 忍田に向けて、思考を終えた城戸が言い渡す。

 

「次の刺客には、天羽を使う」

 

「「「!!」」」

 

 城戸の一言で会議室に緊張が走る。

 それは敵対を示した忍田だけにではない。城戸派に属する鬼怒田と根津にもだ。

 

「城戸指令、彼を表に出すことは。万が一市民に見られでもしたらボーダーのイメージに……」

 

 天羽を使う。その光景を知っており、どのような影響が市民に及ぶか察知した根津は、忍田のせいで流れる冷汗が更に止まらなくなったのを感じながら、やんわりと城戸を止めにかかった。

 

「迅に来栖隊員、そして忍田くんとなれば、こちらも手段は選んでいられない」

 

「街を破壊するつもりか、城戸さん」

 

 忍田に城戸。両者譲らずにらみ合う。

 組織を守る為、恩人の息子を守る為、どちらも決して引くわけにはいかなかった。

 

「失礼します」

 

「……!?」

 

 声が、会議室に響き渡る。

 

 充満していた緊張が一瞬だけ開けられたドアから抜け、僅かに空気が緩まる。

 誰だこんな時にと、一斉に視線がドアに向けられた。

 

「どうも皆さんお揃いで」

 

「なっ!?」

 

 ドアから入ってきたのは、ブリッジ部分の無い特徴的なサングラスを首から下げた、今回の騒動の妨害者(立役者)

 

「実力派エリートです」

 

 玉狛支部所属、迅悠一が上層部の前に躍り出る。

 

 =====

 

 

「はい、そのまま迅と上層部の会話は俺にも通してください。お願いしますね、ゆりさん」

 

 

 =====

 

「……迅」

 

 重々しさが残っていた会議室で、一番に口を開いたのは城戸だった。身を乗り出すわけもなく、背筋を伸ばす城戸に動揺は見られない。

 

 ただ飄々とした態度の迅へと視線をぶつける。

 

「何の用だ。宣戦布告でもしに来たか?」

 

「まさか。違うよ、城戸さん。おれは弁明と交渉に来たんだ」

 

「交渉、いや弁明じゃと?」

 

 聞きに回っていた鬼怒田が、迅の言葉を繰り返す。

 迅の言葉の”交渉”という単語よりも”弁明”という単語に惹かれたような口ぶりだった。

 

 何に対する弁明か?

 それをいち早く解いた城戸が核心へと迫りくる言葉を吐く。

 

「迅、おまえだな? 我々から来栖隊員を隠蔽するよう動いていたのは」

 

「うん、その通りだよ。城戸さん」

 

「……聞かせてもらおうか、おまえのいう弁明とやらを」

 

「もちろん。まどろっこしいのは嫌いだろうし、結論から言おうか」

 

 一旦間をおいて迅ははっきりと口にした。

 吐き気すらする、悪夢のような未来を見続けながら。

 

「あの時点。来栖さんが病院で起きた時点で、来栖さんを城戸さんに会わせるわけにはいかなかった。最悪の未来を避けるために」

 

「最悪の未来。それが先ほど忍田くんの口にしていた諸事情というやつか」

 

「そ、一応それについては報告してるよ。ボス(林藤支部長)と忍田さん。それと唐沢さんにね」

 

「な、唐沢部長にもじゃと!?」

 

 迅の言葉を端に、唐沢へと一斉に視線がいく。

 

 林藤、忍田は理解できた。

 城戸派ではない両者に伝えたとて、城戸に情報はいかない。

 少なくとも嬉々として伝えるような真似はしないだろう。

 

 だがしかし、城戸派に属する唐沢にも迅が”諸事情”を伝えていた事に根津や鬼怒田は驚きを隠せない。

 

 視線を向けられた唐沢は、タバコの煙をくゆらせる。

 一つ煙を吐き終えて、唐沢は何の悪びれも見せることなく口にした。

 

「ええ、聞かされていました。来栖君が退院している件と諸事情(それを秘匿にする理由)について」

 

「なぜ我々に報告しなかったのです!? 唐沢部長」

 

「諸事情ゆえ。踏み込んでいうならば、()()()()()()()()()()()()()()でしょうか」

 

「唐沢さん」

 

 迅の咎めの一言に唐沢が肩をすくめる。

 

「唐沢さんはうち(ボーダー)の資金関係を握ってるからね。来栖さんが退院して入院費が浮けば来栖さんの事に気が付く。だから、唐沢さんにだけは話を通しておいた」

 

「むう」

 

 迅の言葉に鬼怒田が納得する。

 

 城戸派に所属する唐沢にも迅が話を通していたのは、彼が組織の経理も担っているからだ。

 ボーダーの資金から捻出されていた来栖響の入院費について、ある時からその支出が不要だと判明すれば調査の末に来栖の存在に行きついてしまう。

 そうなれば城戸にまで話がいく恐れがあるからこそ、迅はあらかじめ唐沢に話を通していたのだ。

 

「なんなのですか!? その、最悪の未来というのは!?」

 

 不穏な言葉に根津が動揺を隠せないまま追及する。

 踏み込んだという唐沢の物言いからすれば、組織の存続にも関わる内容。

 

 下手をすれば市民に影響が出かねないのだ。

 あせあせとした面持ちで根津は迅に説明を要求した。

 

「そうだね、それは──」

 

「すいませんけどその内容。後でやってもらっていいですか?」

 

「!!」

 

 聞こえてきた声に、会議室に居る面々の体がこわばる。

 

 忘れていた声色。

 およそ2年ぶりに聞く彼の声。彼の表情。彼の足音。

 

 忍田と城戸の間でなされたにらみ合いでも。迅との問答でも生まれなかった特異な緊張が会議室に充満する。

 

「お久しぶりですね。皆さん」

 

 けして忘れ難き存在。

 ボーダーの為にその身を捧げ、そして2年という永い眠りにつかせてしまった青年。

 

 自ららの弱さを救った”最強”。

 

「一応、名乗っときます。来栖響、報告に参りました」

 

 その双眼を見開いて、来栖響は立っていた。




キリが悪いので一旦切ります。
あと、続きがいつになるかは未定です。

理由については下に書きますが、私事ですしあまり良い話ではないのでここでのブラウザバックを推奨します。


















改めてですが、あまり聞いてて気分の良いものではないので、もし気分が悪くなったらブラウザバックを推奨します。
また、もし不快に感じられたというご指摘がありましたら、下記文書は即消去します。





実は構想自体は既にできてるんですが、つい先日癌が発覚しました。
大腸癌とのことです。

言った覚えがないので明言するのですが、作者は20代前半でして、まさか自分が癌を患うことになるとはつゆ程にも思っていませんでした。
正直今頭が真っ白です。

この作品の続きを書きたいという思いは間違いなくあり、また構想を練ってるオリジナル小説などもあるのですが、それ以上に病への恐怖が先立ちます。

こんなところでこのような文章を書いて申し訳ありません。
今の不安な心情を吐き出す場所がとにかく欲しかったのです。

続きが未定ではありますが必ずこの作品の続きはあげます。
またいつになるかはわからないですが、この作品をお待ちいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
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