メスガキに国乗っ取られたワロスww 作:以下、異世界から一般人がお送りいたします
時は少し遡る。
「セイ、ハァ!ラァァ!!!」
魔王が去って直ぐのこと、勇者は剣の鍛練に励んでいた。
「ハァア!セイァ!ハァア!」
観客は当然ながら誰もいない中央の広間。
魔王オーティスから戦力として必要なしと、拒絶されたのにも関わらず、その気迫はまるで三年前の大戦を思わせる真剣なもの。
一族からして見れば軒並みとはいえ、やはり勇者一族の血筋。
その剣技は一族門外から見れば、さぞ目を見張るものに映るだろう。
「ハァア!ラァァァ!!!セイァ!」
だが勇者自身、何故自分がこのような事をしているか分からなかった。
あの大戦が終わった後、自分はもう二度と剣を握らないと心に決め、一人の女性を愛する為に生きようと誓った。
聖剣が折れたのはショックだったが、あれは今の自分には必要のない物。魔王に着いて行って、まんまと洗脳されて敵に寝返る事になるよりも、魔王に全部任せてしまえばいい筈だ。
「セイァ!トァ!ザァ!」
魔王の力は個にして世界最強。
勇者でいう聖剣のように始祖の血を継承する儀式を終えたオーティスは、闇の神の加護の後押しを受け、名実ともに魔王となりて不死王サタンと同等かそれ以上の力を手に入れた。
「ハァァァ!!!!」
その時パキリと予備の剣は握り手の先から折れてしまう。
「やっぱり、普通の剣は脆いな」
魔王が世界最強なら勇者一族は人類最強だ。純鉄性の新品の剣だが、桁の外れたスペックに剣が耐えきれず壊れてしまうのはよくある話。
勇者は新しい剣を自分の身体に合うよう調整する目的で刃を研ぎ石に滑らせながら「代表には成りたくないが、聖剣は欲しい」と言っていた兄の言葉を、こういう面倒な作業が嫌いだったからかと今さらながらに理解する。
「メイメイ、僕はどうしたら……」
洗脳されてから顔を見ていない妻の安否を思うと勇者の心内は暗くなる。仮にも先代魔王の娘としてそれなりの力を持つ彼女だから、魔王対策に前線へと駆り出されているかもしれない。
こんな時、何も出来ない自分が悔しくてたまらない。
血を分けた家族が望まぬ死闘を演じさせられ、その中には自らの妻がいるというのに、待つことしか正解のない自分がひどく無力に感じる。
いっそのこと自分が本当の無力だったら、馬鹿正直に魔王の助太刀へと現れて再洗脳されていたかもしれない。
けれど、勇者は特別だった。原理上、聖剣を持って初めて魔王の不老不死を打ち破るだけの加護の力を得る歴代の勇者達とは違い、彼は素でそれだけの加護を持っている。
彼はよほど神に愛されていたのだろう。
実際に可能かどうかは別として、魔王を撲殺出来る力を持っているのだ。
つまり聖剣が折れた今でも魔王にとって洗脳された自分が生命を脅かす脅威なのは相変わらず、メスガキにとっての起死回生の矢となり得る。
勇者は何も出来ないと言うより、何もしてはいけない。
「何で僕だけ洗脳が解けたんだよ……」
まるで生き地獄だ。
こんなことなら魔王に殺されでもして、全てが終わった後に蘇生されていた方が幸せだったかもしれない。
メスガキが蘇生魔法を使えれば意味ないが、死体だって適当な地下深くに埋めてしまえば…………ダメだった。探知魔法があれば一瞬で見つかってしまう。
探知魔法は、あくまで失くし物を探す魔法だったが、過去の戦争で今回のように生かさなければならない存在を一時的に死亡状態にして、ほとぼりが冷めるまで人が容易に近づけない場所に隠すなどの手段が多く用いられた結果、改良されて死体も探せるようになったのだ。
「もっと僕が頭良ければ洗脳されないように立ち回りながらオーティスさんの役に立つことだって出来るんだろうけど……」
敵に怯えて逃げることしか出来ない自分に嘆息しながら、研ぎ途中の剣を持って立ち上がる。
試しに振ってみよう。と剣を構えた勇者。
「流石は私の夫。この程度の隠密などお見通しという訳ですね」
「えっ、メイメイ……?」
そんな彼の前に現れたのはメイメイという最愛の人だった。