前回、お気に入りやブクマしてくれた人たち、ありがとうございます。励みになります。
書き始めはネタが思い浮かび安いから書きやすい。
明久が目覚めたのはあの日から3日ほど経った時だった。その間、伸太郎は明久の携帯を拝借して彼の親に優子を交えながら現状を伝えた。貴音は生業であるゲーム配信の片手間に明久に関する情報収集を続けた。
★☆★
「・・・・・・んっ?こ、ここは──?」
明久が最初に目にしたのは見慣れない天井だった。軽く辺りを見回して得られた情報は病院ではない、ということと夕方であるということだけだった。
「ぐっ・・・!」
起き上がろうとすれば身体がズキリと痛む。痛みと同時に思い出すのはあの忌々しい出来事のこと。そして、唯一自分を信じてくれた彼女は無事なのかということだった。
痛みを堪え、扉へ向かってフラフラになりながら壁を伝って歩く。部屋が大きいのか、身体が痛むからか扉へ辿り着くまでに万全ではない明久は息が上がってしまった。
「や、やっと着いた・・・。
──ここはどこなんだろう?」
ガチャリと扉を開けるとその音がいやに大きく廊下に響く。明久は恐々と薄暗い廊下へ一歩踏み出した。
「ろ、廊下ひろっ!?・・・っつぅ。大きい声出しただけなのにこんなに痛いなんて・・・」
明らかに明久の家よりかなり大きい廊下を壁伝いに左側へ歩き出す。右は廊下の突き当たりに階段があっただけなので、光が洩れていて、少し音が聞こえる左側へ必然的に歩き始めた。一歩一歩ゆっくりと、だが確実に光へ近づいて行くと少しずつ音が大きくなってくる。ガシャン、カチャカチャ、シャー、キュッ、トントントントンと何処かリズムの良いその音を明久はよく知っていた。
ようやく光の元へ辿り着くいて部屋を見るとそこには黒いTシャツの上にエプロンを着けた少し歳上であろう男性がキッチンで料理をしていた。
「・・・・・・」
「ん?起きたのか・・・。おはよ・・・う?」
男性は気配に気付いたのかダルそうに挨拶をするが、顔を上げて驚愕する。
「お前、起きたのか・・・!おはよう」
同じ言葉なのにそれに込められた意味や感情が先程とは違うのを明久は何となく感じ取った。戸惑いながらも取りあえずは、と挨拶を返す。
「お、おはようございます・・・。あの、貴方は誰なんですか?ここは何処なんですか?」
「そう思うのも最もだ。だが、まぁまずはソファにでも座れ。立ったままはキツイだろ?
それに、あと30分もすればあいつらも起きてくるだろうから」
指を指された先にはL字のソファと1人用のソファが、確かにいくら壁に凭れているとはいえ、立ったままはキツイのでお言葉に甘えてL字ソファに腰を下ろす。床にはモコモコのカーペットが敷いてあり、ソファの前にはガラスのローテーブルがある。ローテーブルを挟んで反対側には大きな液晶テレビが置いてあった。
既に付けられていたテレビを見ながら明久は今が夕方ではなく、早朝であることを知った。カーテンから伸びる光だけで判断したので勘違いしてしまっていたのだ。
ボーッと天気予報や流行のモノを紹介するニュース番組を見ていると明久が入ってきた扉から誰かが現れた。そして、その人物に驚愕する羽目になった。
「ぉはよー、おにぃちゃん・・・」
「おはよう、桃。今日は早いな」
「んー、仕事用のアラーム切るの忘れちゃってた・・・。おかげで目がさえちゃって」
「それはドンマイだな、顔は洗ったか?」
オレンジ色の短めの髪とサイドテール。TVで幾度と無く聞いてきた声。なんならさっき流行紹介でも見たばかりだ。
「もちろん。ってあれ?起きたんだ?」
あまりの衝撃に放心状態にあった明久はハッとして正気に戻る。
「き、如月桃さん!?」
「あ、知ってるんだね」
「お前のこと知らない人の方が少ないだろ」
「そうかも・・・?自己紹介は皆が集まってからにしよっか。」
「わ、分かりました・・・」
明久はいよいよ自分の置かれている状況が分からなくなっていた。目覚めたら豪邸にいて、傷だらけの身体は処置が施してあり、知らない人がいるかと思えば超有名アイドルが現れ・・・。混乱するなという方が無理な話であった。
「桃、あの二人はまだか?」
「さっき洗面所ですれ違ったからもうそろそろ来ると思うよ」
「そうか、なら丁度良いな。料理できたから桃も配膳を手伝ってくれないか?」
「はーい」
明久が必死に状況を整理していると、食卓に次々と料理が並べられていく。
「よし、大体は並べれたな。俺は貴音を起こして来るから後は頼んだぞ」
「りょうかーい!」
桃は元気に返事をしてから残りの料理を並べ始めた。明久は未だに混乱している。
どうすれば良いのかあたふたしているうちに明久の耳に馴染みのある声が入ってきた。
「おはようございます。桃さん」
「おはようなのじゃ、師匠」
「ゆ、優子さん!?秀吉!?って痛ぁ・・・」
「「あ、明久(君)!?起きたの(か)!?」」
明久の声に気付いた二人が駆け寄る。目の端には涙を浮かべて喜んでいる。
「目が覚めてよかったわ!」
「明久、お主は三日も眠っておったのじゃ」
「そ、そんなに・・・。」
「ふあぁ・・・。あ、本当に起きてるわね」
「だろ?しかも割と元気そうだよな」
「お、おはようございます?」
「ん?あぁ、おはよ」
優子と秀吉とわちゃわちゃしているとさっきの男性が桃とは別の女性を伴って現れた。
「お、二人も来たか。おはよう」
「おはよ」
「おはようございます」
「おはようございますなのじゃ」
男性は明久の視線に気付き、言葉をかける。
「聞きたいことも沢山あるだろうし、メシでも食いながら話そうぜ」
「はい」
食卓に皆が座って挨拶をしてから食事がスタートする。明久の分はお粥になっていて胃に優しい。
「俺は如月伸太郎だ。伸太郎と呼んでくれ。
桃は俺の妹だ、隣にいるのが・・・」
「如月貴音、伸太郎の妻よ。私のことは貴音って呼んでちょうだい」
「それで、私が如月桃。お兄ちゃんたちの妹だよ、桃って呼んでね!」
「あの日、伸太郎さん達が助けてくれたのよ。怪我の処置も伸太郎さんがしてくれて」
「ワシらの面倒もわざわざ見てくれておるのじゃ・・・」
「な、なるほど・・・。僕は吉井明久です。なんだか、色々お世話になっちゃったみたいで・・・。ありがとうございます・・・」
明久は優子と秀吉の補足を聞いてようやく緊張が解れたのであった。一先ず、最低限必要な紹介が終わり食事が再開する。
なんだかんだ─メシ食いながらと─言っても自己紹介の時は皆箸を置いてきちんと話を聞いていたからだ。
(嵌められてリンチされた時は先が見えなくて、全てを諦めそうだったけど・・・)
明久は楽しそうに食事をする皆を見る。
「だし巻き卵もーらいっ!」
「あっ、お前!」
「お兄ちゃん、鮭少し貰うね~」
「っ!桃まで・・・!!」
「漬物少し頂きますね!」
「おいこら優子!!」
「ならばワシはこれを貰おうかのう・・・」
「ひ、秀吉もか・・・!」
ヒョイヒョイと皆が伸太郎の皿からおかずをかっさらっていく。その度に嫌がりながらも笑う伸太郎を見て明久は謎の安堵感を得るのであった。
「伸太郎さん」
「な、まさか明久まで・・・!?」
「違います。えっと、これからもお世話になっても良いですか?」
「あぁ。そんなことか、元よりそのつもりだ。お前のご両親にも了承は得ている。俺たちは全力でお前らをサポートしてやるよ」
「はい・・・!」
この出会いが後に明久の将来を大きく変えることを今は誰も知らない。
ありがとうございました~!
出会ったばかりだから兄さん呼びじゃない。でも、桃は秀吉にアドバイスしたから既に師匠呼び。