「窓から呪霊発見の報告が届いた。呪霊の級数は2級、2人なら楽に祓えるだろう」
「なんで私がこいつと任務に行かなきゃならないのよ。ていうか、2級ならこいつ一人で祓えるでしょ」
「話を最後まで聞いて。この学校には呪物もおかれていない比較的新しい学校なの。そこでの呪霊発生、上の見解では未確認の特級呪物が持ち込まれた可能性があるとのことよ」
「なるほど、つまりは俺が祓って真依が回収というわけか。ならば早く行くぞ。高田ちゃんの番組が今日の8時からあるんだ。速やかに終わらせなければならない」
「録画すればいいでしょ」
「リアタイと録画両方見るんだ。ナメてんのか」
「はいはい、わかったわよ。で?歌姫先生、場所はどこなの?」
「千葉市立総武高校よ」
◆
さっきから落ち着けねえな。ていうのも、いつもは少ない異形が今日は異常に多い。じろじろ見てくるやつもいるし、いつの間に人気者になっちゃったんだよ、俺。
「あら、挙動不審者がいるわね。落ち着いて本も読めないのかしら」
「いや、雪ノ下もそわそわしてただろ。自分のこと棚にあげんじゃねえよ」
「なにか視線を感じて落ち着かなかっただけよ。その犯人も分かったのだけれどね。視姦谷君」
「俺じゃねえから。……ほら、あそこになにか見えないか?」
「ついに視界まで腐り始めてしまったのね。良い眼科紹介しましょうか?」
「ほっとけ。……由比ヶ浜はどうだ?」
「うーん。……ごめんね、ヒッキー。見えないや」
たはは、と笑いながら返事をした。
やっぱりこいつらには見えてないのか。ていうか、なんなんだろうな、この異形たちは。結構昔から見えてるんだけど、俺にしか見えてないのか?
ん?着信音?
「あ、ごめん。隼人くんから電話だ。ちょっと席はずすね」
「ええ、いってらっしゃい」
もしもしと返事をしながら元気よく席を立ったが、足は扉の前で止まった。
「え?今は部室にいるけど。学校から?どうして?
うん、うん。分かった。ヒッキー、隼人くんが代わってって」
差し出されたケータイを受けとる。耳に当てるときほんのり温かくてドキドキしちゃうのは秘密だ。
「もしもし、どうした?」
「比企谷、今すぐ3人で学校から出ろ。詳しいことを話している時間はない。とにかく学校内は危ないんだ」
いつもの葉山とは違う必死な声に少し気圧された。とにかく火事かなにかがあったんだろう。分かったと返事をして切る。
「おい、部活は終わりだ。学校内で問題が起こってるらしい」
「……分かったわ。今日の部活はこれでおしまいよ。鍵は大丈夫でしょう。緊急時なのだし」
そうして教室からでる。いつもの見慣れた廊下のはずだ。だけど、空気が淀んでいる気がする。
「ねえ、ゆきのん。あれ……なに?」
由比ヶ浜が廊下の突き当たりを指差す。そこには、今まで見たことも無い大きさの異形が佇んでいた。ナメクジみたいな体から触手が何本も生え蠢いている。
そいつが振り向き、嗤ったように口を吊り上げた。
まずいっ。
俺の生存本能が全力で警笛を鳴らす。あの化け物は確実にこちらを認識している。現にこっちに向かって結構な早さで迫ってきていた。
良いのか悪いのか、あの化け物だけは由比ヶ浜や雪ノ下にも見えているようだ。2人とも足がすくんでいる。
咄嗟に二人の手を引いて駆け出した。
「逃げるぞ!あれは……関わったらヤバイってことだけ分かる」
「う、うん。まだ自分の目が信じられないけど」
「とりあえず学校外に出よう。そこに葉山たちがいるはずだ」
2人が分かったと返事をして、手を離して走る。
やつはまだ追いかけてきている。速さは俺たちより少し遅いくらいか。これなら逃げられそうだと安堵した。
「ね、ねえ、ヒッキー。おかしいよ。学校の廊下こんなに……長いはず無いもん」
由比ヶ浜の言う通りだ。普通なら20秒も走れば校舎の外にでられるはずだ。それなのに、10分程度走ってもどこにも出口がない。窓も全力で殴ったがびくともせず、開けることもできない。
「ひ、比企谷君」
駆け足に近いとはいえ10分も走っているんだ。体力の無い雪ノ下は限界そうだ。
「あっ」
雪ノ下が足を絡ませて転んでしまった。化け物はすぐそこまで来てしまっている。
「い、いや。ひ、比企谷君」
声を震わせて俺に助けを求めている。化け物は走るのをやめて、触手を雪ノ下に伸ばした。
「雪ノ下!」
伸ばしている手を取って後ろに放り投げる。代わりに俺の体は化け物の方へと向かっていき触手にからめとられた。
「ヒッキー!」
由比ヶ浜の叫び声が聞こえた。俺らしくない。何も考えず無策で飛び込んでしまった。
「くっそ。離れろ!」
どれだけもがいても触手をどかすことはできない。口のような何かが開いて俺を飲み込もうとしていた。
瞬間、空気が弾ける音が聞こえた。
「大切な人を自分の身を投げ出して助ける。良い漢だ。マイフレンド」
いつの間にか俺は雪ノ下たちの後ろにいた。俺のいた場所には制服?を着た大男がいる。
そいつは圧倒的に強かった。絡まった触手は軽く引きちぎられた。そして、パンチ1発で化け物は吹っ飛び、2発で霧散した。
「助かった……のか?」
「ああ、死人はゼロだ。よくやった、マイフレンド」
「友達になった覚えはないが、とにかく助かった。ありがとう」
やけに良い笑顔で話しかけてくる。改めてその男を見ると服の上からでも筋肉が発達しているのが分かる。あの化け物を2発で消し飛ばしただけはあるな。
「ヒッキー!」
「比企谷君!」
「おわっ」
雪ノ下と由比ヶ浜が泣きながら抱きついてくる。あんな化け物に襲われた後だ、泣くのも仕方ない。ホント、全員生きててよかった。
「とりあえずここから出ようか」
「出れるのか?」
「入るのは簡単だが出るのは難しいという術式だろう。しかし、こうしてしまえば問題ない」
そう言って、学校の壁を軽々破壊しやがった。
これには泣いていた2人も唖然としている。
「学校の壁って鉄筋のはずなのだけれど」
「ほら、筋肉すごいしできちゃうのかも」
「いや、普通無理だろ」
「何をやってる。早く行くぞ、マイフレンド」
「あ、ああ、すまん。今いく」
そうして、俺たちは学校から脱出することができた。
それと、俺はお前の友達じゃねえよ。