校門の外に出た。部活をしていただろう生徒や先生の姿もある。
「おい、大丈夫か!?怪我はないか?」
平塚先生が駆け寄って話しかけてくる。
「大丈夫ですよ。ちょっと疲れたぐらいです」
「本当に良かった。火事の中に戻る人の気持ちが分かったよ。本当に……良かった」
心配してくれていた気持ちが痛いほど伝わってくる。本当に良い先生だと思う。
「平塚先生も無事で良かったです」
「人の心配をする前にだな。ほら、こことか制服が破れてるじゃないか」
見てみると化け物に触られた場所が化学繊維特有の焼き切れた跡のようになっていた。今思うと、あんなのに掴まれてよく無事だったな、俺。
話を聞いてみて分かったことだが、この事件は不審者が学校に現れたということになっているらしい。あの化け物については保護監督という人に口止めをされた。雪ノ下や由比ヶ浜も注意されているようだ。
「ちょっと、どこにも呪物なんて無いんですけど。どうなってんのよ」
「ふむ、やはりか、ちょっとそんな気はしていた」
あの大男と綺麗な女の人が話している。どうやら呪物というものを探しているらしい。普段なら痛い人扱いだが、あれを見た後だとそんなものがあっても不思議じゃないと感じる。
「はあ?先に言いなさいよ。」
「見た後に分かった。ほら、あいつだ」
なんか、こっちを指差している気がする。本格的に人気者になっちゃったのかしら。いや、この場合だと陰口の類いだ。関わらないが吉。
反対方向に足を踏み出そうとしたが、それは肩を掴まれることで阻止される。
「なに逃げようとしてんのよ。その奇妙な呪力が何なのか教えなさい」
「いや、そもそも呪力ってなんすか」
「……はあ?」
そんな、なに言ってんだこいつみたいな顔されても困るんですけど、なんなら俺がその顔したいまである。
「みなさんここに居たんスね。歌姫さんに連絡してきたっスよ。あ、その人が変な人っスか?その人調べに五条さんも来るらしいっス」
「はあ、分かったわ。取り敢えず先生が来るまでに呪術のことについて教えようかしら」
「え?俺もここにいなきゃいけないの?」
「あなたが中心の話なんだから当然よ」
「えっと……どれくらい?」
「そうね、東京からだから……ざっと1時間くらいかしら」
◆
先生とやらが来るまでに呪術についての話を聞いた。呪力や呪霊、呪術師、術式など正直何がなんだかさっぱりだった。だけど、取り敢えず概要だけは分かった。まとめると、人の悪意の塊が呪霊でそれを祓うのが呪術師。そして、呪霊は呪力を持ったものでしか祓えないということ。
あと、自己紹介もした。大男が東堂葵。綺麗な女の人が禪院真依。保護監督が新田明というそうだ。3人とも京都を中心に呪術師の任務を行っているらしい。
1時間半くらい経ったころに目隠しを着けた銀髪の男性と巫女服の女性が来た。おそらく、男が五条悟で女が庵歌姫だろう。
「みんな、お待たせ。はい、千葉県名物のみそぴー」
「まったく、こいつは。待たせているというのに寄り道なんて」
「まあまあ、いいじゃん。それで、君が例の比企谷八幡君だね」
「は、はい。えっと、あなたが五条悟さんですか?」
「うん、そうだよ。そして、こっちの巫女服が庵歌姫ね」
どうもと頭を下げられたので、こちらも下げ返す。
五条さんからは目隠しをしているにも関わらず、視線を感じる。どんな眼力だ。ちょっと挙動不審になってしまった。
「ねえ、見られてるの分かるの?」
「ええ、まあ、そんだけじろじろ見られれば」
「へえ、君なかなかスゴいね」
誉められてるのか呆れてるのか分からないトーンでそう言われた。すいませんね、ぼっちは視線に敏感なんですよ。
「五条、何か分かったか?」
「そうだね、この年まで生きてこられたのが不思議なくらいだ」
「どういうこと?」
「この子は、悪意を集める体質だ。だから、彼の周りでは呪霊が発生しやすい。そしてさらにその集まった悪意を自分の呪力に変換している」
全員が訳が分からないという顔をしている。
「そうだね、簡単に言えば……八幡は人から嫌われやすいってことかな。どう?意味不明な糾弾とか、学校で受けなかった?」
そう言われると思い当たることは多くあった。中学のころの謝れコールとかな。あれだけは本当に泣きそうになった。
「それと、比企谷君の呪力にどう関係がある?嫌われただけで呪力が増えるなど聞いたことがない」
「うーん、彼の場合は悪意の矛先を向けられているんじゃなくて、悪意そのものを受け取ってしまっているんだよ。だから、呪力に変換できる」
「は?……いや、待て五条、それが本当なら彼の呪力は……」
「歌姫の懸念は当たってるよ。八幡の呪力は人間が絶滅しない限り尽きることはない」
みんなの絶叫が夜空に響き渡った。