やっと京都校についた。都心を離れてもやはり京都だという感じで厳かな雰囲気だ。俺は2年に編入という形でこの学校に入学することになった。荷物は新田さんが寮に持っていってくれた。
「まずは楽巌寺学長に挨拶しに行くよ」
短く返事をしてついていく。庵先生曰く五条先生以外には普通に接してくれるという結構高齢の方らしい。
「着いたよ。学長!転入生を連れてきました」
ノックをして部屋に入る。そこには、長い髭を生やした老人が座っていた。壁にはエレキギターなどの楽器が立て掛けられている。なんかパンクな感じのじいさんだな。
「おぬしが比企谷八幡かね」
「は、はい、今日からよろしくお願いします」
「おぬしは何のために呪術を学ぶ?」
なんだこれ、面接か?聞いてないんだけど。ぼっちに対策なしの面接はきつい。
「俺は……生きるために呪術を学びます。なんか俺の周りは呪霊が発生しやすいらしいんで」
「呪術師はいつ死ぬか分からんぞ?呪霊と戦い命を落とす。そんなことは珍しいことではない」
「別に俺は呪術師になるつもりありませんし、自ら戦いに行くことなんて無いですよ。俺はただ自衛のために呪術を学びます」
庵先生はこちらを驚いた顔で見ている。てっきり呪術師になると思っていたんだろう。学長の顔色は変わらない。淡々と質問を続けてくる。
「ほう?……現在日本では変死者、行方不明者が年約1万人いる。そのほとんどが呪いによるものじゃ。おぬしには呪いを祓う力が備わっているにも関わらず、無力な人を見殺しにするというのか?」
呪術師が希少なことも呪いがどれだけ人を殺してるかも知ってる。呪術について話を聞いたときに一番最初に説明されたことだ。
「俺は呪術師にはなりませんよ」
学長が失望した顔をしている。庵先生は俯いていてよく分からない。
脳裏に雪ノ下と由比ヶ浜の顔が浮かぶ。級数の高い呪霊にあてられて呪霊が見えるようになるケースは稀だが無いわけではない。2人はその稀なケースに含まれてしまった。由比ヶ浜からのメールで呪霊が朧気ながら見えたという連絡が来ている。こんな状態であいつらが1万人の中に含まれないなんて希望的観測でしかない。
あいつらの泣き顔を見たとき、やはり凛とした顔、笑っている顔が似合うと思った。これは俺が勝手なイメージを押し付けているだけに過ぎない。雪ノ下は強い女の子で由比ヶ浜は優しい女の子、それは俺が勝手に期待していただけだとこの前分かったはずだ。だけど、俺はあいつらに泣いてほしくないって思ってしまった。これは俺のエゴでしかない。
だから
「でも、定期的に呪霊倒しには行くんじゃないですかね。いざというとき鈍ってちゃ守れないかもしれないんで」
俺は俺のために強くなる。
「……ほっほっほ、面白い奴だ。ようこそ。呪術高専へ。歓迎するよ。比企谷八幡」
◆
「ちょっとあんた!何言ってんのよ!しかも学長の目の前で」
あの後、学長から学生証をもらって今は2年の教室に行く途中だ。ていうか、庵先生焦りすぎですよ。事前に言ってくれないからあんなことになるんです。
「本当のことを言っただけですよ」
「あんた、意外と度胸あるのね。ああ、でもそっか、この前まで普通の高校生だったんだし将来の夢くらいあるのが普通か。何になりたいの?」
「専業主夫です。働きたくないですから」
一瞬の間の後に控えめな笑い声が聞こえる。
「比企谷って冗談言えたのね。真剣な顔で言うから一瞬勘違いしちゃったじゃない」
「冗談じゃないですよ。いたって真面目です」
「……え?」
「あ、ここですか?」
「え、ええそうよ。……ちょっとまって、さっきの話あれでおしまい?人生の先駆者として言いたいことが結構あるんだけど」
「大丈夫ですよ。ありがたいお言葉は前の学校でいやというほど受け取ってます」
肉体言語とともにね。
「はあ、これは時間のあるときでもいいか。じゃあ、私が先に入るから呼んだら入ってきて」
そう言って中に入っていった。さっきまで静かだった教室が賑やかになる。俺の体質の話などをしているみたいだ。ちょっとの間話しただけで分かった。庵先生は生徒に慕われるタイプの先生だ。奇しくも平塚先生と同じ。左手薬指も…………これ以上は止めておこう。俺が呪いとして祓われるかもしれない。
中から入ってきてと声がする。自己紹介は苦手なんだが、噛まないことだけ気を付けよう。
扉を開けて中にはいる。好奇の目線が突き刺さって居心地が悪い。ていうかロボットいるんだけど、え?なにあれ。
スゴい気になる。
「えー、ひ、比企谷八幡です。別にこれからよろしくしなくても良いです」
頭を後ろから叩かれる。凄い良い音が鳴った、めっちゃ痛い。
「ちょっとあんたはさっきから、何でそんなに素直じゃないのよ!」
「いや、むしろ正直なんですけど」
「そんなんだから友達いないのよ!はぁ。彼が転入生の比企谷八幡君。ちょっと……いや、かなり捻くれてるけど仲良くしてあげてね」
目の前の3人からはちょっと困惑した雰囲気を感じる。
そこで水色髪の子が元気よく手を上げた。
「はい、三輪」
「比企谷くんは……えーと、特徴的な目をしてるんですけど、五条先生の六眼みたいな特殊な目を持っているんですか?」
庵先生もこちらを見ている。庵先生や他の人たちが特殊なだけで初対面だと気になるよな、普通。
「その六眼ってのが何かはしらないが、俺のはただ腐ってるだけだ」
「せっかく私が濁したのに自分で言っちゃうんですね……。答えてくれてありがとうございます」
教室が静かになる。質問は無いようだ。こんなイベント俺には無縁だと思ってたんだが、人生何が起こるか分からんな。
「質問はなさそうね。じゃあ、左から自己紹介よろしく」
「改めて、禪院真依よ。主に銃を使って戦うわ。よろしく」
「究極メカ丸だ。こんな感じで武器を出して戦う」
腕から武器を出して見せてくれる。ロボットだからそんなことも出来るのか。
「三輪霞です。シン・陰流を使います。あ、武器は刀です。よろしくお願いします」
「……そうね、武器は銃なら真依。刀なら三輪。それ以外ならメカ丸に教えてもらうのが良いかな。体術は東堂が一番なんだけど、1級だけあって結構忙しいんだよな……。皆ある程度は出来るから教えてもらって。武器は倉庫に練習用のがあるから選んでてね。真依、案内お願いできる?」
武器とかも選ばなくちゃいけないのか。東堂の戦いが頭にあったから武器について考えてなかったな。
「分かりました」
「午後はグラウンドでの訓練よ。比企谷にも参加してもらうからそれまでに友好関係を深めておくように。では、解散」
いきなり組手か。柄じゃないが強くならないといけないからな、頑張りますかね。