やはり俺が呪いに関わるのはまちがっている   作:りおん

6 / 7
第6話

術式を回せ。疲れるとか言ってる場合じゃない。今出せる最大出力で時間を稼ぐ。

 

奴の踏み込みで地面が爆ぜる。なんとか目で追えるレベルの速さだ。頭を狙った右フックを上体を反らすことで避ける。そのままの勢いで放たれた回し蹴りは右手の短剣で受け止めた。

 

「重たすぎだろ」

 

1発受けた短剣は刃がぐらついている。俺の手の痺れも激しい。取り落とさなかったのが奇跡だ。

 

嗤っている。今の一連で俺のことを取るに足らぬ存在だと思ったのだろう。今はその余裕がありがたい。

 

嗤うのを止めると奴は俺の足元をみた。嫌な予感がして咄嗟に後ろへ跳ぶ。足元から間欠泉のように沸いた大量の呪力が地面を消し飛ばした。

 

あんな攻撃もできんのかよ。

 

当たっていたらと思うとゾッとする。今避けることが出来たのは俺が奴の視線に気づいただけ、ただのまぐれだ。

 

ホッとした瞬間に俺の腹に衝撃が走った。気づけば奴のパンチがめり込んでいる。そのまま壁まで吹き飛ばされた。視界が赤色に染まる。頭から血が出ているのかもしれない。

 

大量の呪力を目眩ましに使ったのか。目の前の呪力の塊を突っ切ってきた奴に気づくことが出来なかった。

 

体に力が入らない。一撃で戦闘不能に追い込まれたことに歯噛みする。いや、冷静に考えると生きているのが幸運か。術式による強化がなければ、今頃胴体は真っ二つだろう。

 

嗤い声と共に足音が近づいてくる。左腕を捕まれ持ち上げられる。奴の手に力が込められ、俺の腕が軋んでいる。アドレナリンのお陰で痛みはないが、気色の悪い感覚で顔が歪んだ。俺と目があった奴の顔もまた歪んでいた。

 

腕に鋭い痛みが走った。本能的に折られたことを悟る。奴は反応を示さない俺に興味がなくなったのか、倒れている禪院の方へ向かっていく。

 

くっそ。このままだと二人とも死ぬ。思い出せ、考えろ。この状況を打開する方法はないか。時間も全くと言って良いほど稼げていない。

俺がもっと強ければもっと時間を稼げたはずだ。

 

もっと……強ければ?

 

「天与……呪縛」

 

何かを犠牲に何かを得る。天与呪縛は先天的な縛りだが、後天的に自分を縛ることによって己を強化することも可能だ。そうやって120%の力を発揮する呪術師は結構いると習った。

 

今……俺に差し出せるもの……。このままだと二人とも死ぬ。だったら…………死ぬのは一人だけで良い。

 

俺の体に呪力が迸る。本来ならあり得ない呪力出力。量に耐えられないのか生得領域にヒビが入っている。

 

奴は4つの目を見開き俺を凝視している。異常を悟ったのか、禪院へ向かう足を止めて俺の方へ飛び掛かってくる。奴の動きが遅く感じる。これが縛りの力か。

 

俺は奴の拳を左足を前に出して体を横ににすることによって避ける。その踏み込みのまま右の拳を腹にめり込ませた。奴の体が吹っ飛んでいく。追撃の手は緩めない。体勢を崩した無防備な背中に呪力をのせたパンチを叩き込む。勢いで地面にめり込んだ奴の体を観察する。

 

核は呪力の一番濃いところ。腹のあたりに手を突き入れる。手になにかが当たる感触がした。それを無造作に引き抜くと、奴の体は紫の炎に包まれ消滅した。

 

手の中にあるものを確認すると何かの指だった。

 

視界が歪み体に力が入らず、その場に倒れこんでしまう。縛りによる力の代償だろう。自然と目蓋が閉じていく。

 

最期に禪院の顔が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あり得ない量の呪力の奔流を感じて目が覚めた。目の前には異常な光景が広がっている。私を昏倒させた呪霊を比企谷が圧倒している。

 

紫の炎に包まれて呪霊が消滅する。比企谷が倒れ、あわてて近くに駆け寄る。おかしなほどに消耗していた。呼吸も細く心音も小さい。何度呼び掛けても起きる気配がない。

まずは先生に連絡しないと。

 

「せ、先生!比企谷が!」

 

「こちらでも異常を感知している。今、五条と硝子に向かって来てもらっている」

 

 

 

少しして先生たちが到着した。

 

「硝子」

 

「分かってる。時間がもったいない。ここで治療を行う。五条たちは移動の準備をお願い」

 

先生が救助をしている間、私は見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「この前の宿儺の器はまだ分かるが、今回の小僧にも指を使う必要があったのか?」

 

「あったよ。実際に彼は無限の呪力を見せてくれた。彼を手に入れれば呪霊は次のステップに進める。君も分かっているだろう?」

 

「ふん」

 

鼻で笑っているが、否定しないところを見るに分かってはいるのだろう。

 

呪霊は呪力がなければ生きられない。裏を返せば、呪力が無限にあれば、死ぬことはなくなるということだ。自然と笑いが込み上げてくる。

 

「何がおかしい」

 

「いや、なんでもないよ」

 

呪術全盛の時代が来るかもしれない。君は絶対に手に入れる。待っていろ、比企谷八幡。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。