落ちこぼれと言われ続けた僕は彼女達に何の夢を見るか。 作:べるぬい
よろしくお願いします!
トレーナーとは、普通の学校で言ってみれば部活の顧問的立場なので、実は午後からの仕事が専らである。午前は基本的には無い。
朝練がある日か、はたまたウマ娘達の自主トレーニングに付き合えと言われた時か。
しかし僕は自分のチームを持っている訳では無いので、朝から出勤はあまり無かった。
ただ今回、何故か僕がお邪魔させてもらってるチーム、【カルロス】のエース、サイレンススズカさんから自分の走りのフォームを見て欲しいと言われ、珍しく朝から学園のトラックにいる。
「ふぅ…ふぅ…どうですか?私のフォーム」
「うーん…そうだな。サイレンススズカさんは見る感じとても体幹が強いと思う。だからもっと前傾姿勢で走ってみるのはどうだろう?」
「前傾姿勢…ですか?」
「うん。こう前に傾く感じで走れば風の抵抗が少なくなると思うんだ。軽く1周してみようか」
「…はい!」
そしてサイレンススズカさんは言われた通り、先程の姿勢とは違い前傾姿勢で走り始めた。その姿勢のおかげか見違えるほどに速くなってるのが分かる。
そしてあっという間に彼女は一周を終えて来た。
「凄いです!トレーナーさんの言う通りにしたらとても速く走れました!」
「それは良かった。あと僕は君のトレーナーじゃないよ」
「でもトレーナーさんはトレーナーさんです」
「いやそうだけど……先輩いないしいっか!」
「そうですよ!……トレーナーさんは自分のチームを持たないんですか?」
「えっ?いや……えっと……」
つい口ごもってしまう。自分のチーム。是非とも持ってみたいものだ。けど落ちこぼれの僕が誰かをスカウトしてみよう。誰も来るわけが無いのだ。
「トレーナーさんがチームを作ったら教えてくださいね!私が入るので」
「えっ?えっ!?いやいや冗談はやめてくださいよ!あはは!」
「ふふっ。楽しみにしてます。今日はありがとうございました。それでは!」
そう言って彼女は去っていった。そう言えばもうそんな時間か。
と言っても教師では無いのでここは一旦寮に戻ろうと思う。
事務作業も特に無いし、久しぶりに朝早かったし、ちょっと二度寝しようかな。
◇◇◇
目が覚め、時計を見ると14時を回っていた。
「結構寝ちゃったな…。まだ時間に余裕はあるし、軽食でも食べるか」
明日はデビュー戦だ。牧野先輩のチームからも一人出走予定だ。エルグランドっていうウマ娘だったかな。気が強いからどうにも苦手だ。
僕も自分のチームを持ってたら今頃は……。いやいやこんなこと考えても仕方ない。そろそろ学園にも向かおう。
◇◇◇
校門を抜け、トラックへと向かう途中、誰かの叫びが聞こえてくる。その叫び声は段々とこちらに近づいてきてるような…
「…ぉぉぉぉぉ!!!」
「…おぉぉぉぉぉぉ!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!!!」
長い銀髪をたなびかせ、端正な顔からは想像できない逞しい雄叫びを上げたウマ娘がこちらに向かって走ってきていた。
え?何?怖。
「どこだ!?トレーナーって奴はどこにいる!?確かにここら辺の筈なんだが……」
自分のトレーナーを探してるんだろうか。こんな癖の強いウマ娘がいるチーム聞いた事無いけどなぁ。
そんなことをぼんやりと考えていたら彼女と目が合った。
「おっ?お前トレーナーバッジ付けてんじゃねぇか!じゃあお前で決まり!!」
「え?ちょっ!?」
いきなり頭から麻袋を被せられ、視界が遮られる。え?え?何事?何事ですか???
「よっしゃー!!野生のトレーナーゲットだぜ!!早速アタシの手持ちにしてやろー!」
そして足が宙に浮く感覚を感じる。え?もしかして僕持ち上げられてる??もしかして誘拐されるのか??え??食われる…?
「嫌だー!!!食われたくないよー!!」
「うぉ!?暴れんじゃねぇ!別に獲って食ったりはしねぇから安心しろよ!そんじゃレッツゴー!」
「どこにぃぃぃぁぁぁぁ!?」
袋を被せられて何も分からないが、感覚でわかる。僕は今ウマ娘(持ち上げられ、高速で移動してることを。怖すぎる。
「くくっ。お前その袋被ってんの小さい悪夢みてーだな」
「ごめんちょっと意味がわかんない」
「ふっ。大罪は罪ってことだよ」
「いやそりゃそうだろ」
何なんだこのウマ娘。意味が分からない。どうしよう。マジで一体何をされるんだ…?
逃げる算段を立てようと考え始めると同時に、多分移動が止まった。
そしてドアが開く音がする。
「おりゃ!降りろ!!自分で歩けこの野郎!」
「君が連れてきたんじゃないか!!ぷはっ!……え?ここは?」
袋を外し、見えた光景は使われてなかっただろう部室のようだった。
「ふっ。ここはこのゴルシ様が勝手に解放した本部さ」
「本部?何の?」
「見て分からねぇか?ゴルシちゃんが作る最強のチームの本部さ…!」
「チーム…?え?君はもしかしてどこにも所属してないのか?」
「おうよ!!孤高のゴルシ様だぜ!!ふぉー!アタシってカッコイイー!!」
一人で盛り上がる彼女。名前はゴルシ…ゴルシ?
「ゴルシって……もしかして君はゴールドシップ?」
「ピンポンピンポン!正解した貴方には今から厄介事を押付けまーす!」
「いやいらないです」
いちいち大袈裟なリアクションと声色を変え、表情筋も絶え間なく動かす彼女はゴールドシップ。学園では問題児と言われ有名だ。
彼女の行動はとても掴めるものではなく、トレーナーが誰も担当をしようとしないと言う。
そんな彼女が一体僕に何の用なんだろう?
「なぁお前。名前は?」
「え?あ、
「ユタカ…ね!いい名前してんじゃねぇか!このゴールドシップ様の次の次の次ぐらいにな!」
「あぁ…うん。ありがとう…?」
「おう!でよ〜?単刀直入に聞きたいんだけどさ〜?」
「何?」
一体何を聞かれるんだろうか。さっぱり見当が付かない。なんてったって彼女とは初対面だ。つまり話すことも初めての人だ。マジで何聞かれるんだろ。
「お前、アタシのトレーナーにならないか?」
「え?」
「いやーデビュー戦あるじゃん?あれに出たくてさー!出るにはトレーナーが必要って言うからよ〜!慌てて探してんだわ!!」
「え、うん。事情は分かった…よ???」
トレーナー…。僕が…トレーナー…?
これは最初で最後のチャンスなのか?彼女は僕にとっての女神なのかもしれない。掛けてみるのも、良いのかもしれない。
「トレーナー…か。ゴールドシップさんは何の為に走るの?」
「おいおいゴールドシップさんなんて他人行儀で呼ぶなよな!もうアタシ達は親友だろ!ゴルシちゃんかゴルシ様って呼びな!!」
「え…じゃあゴールドシップで…」
「おいおい連れねぇなぁ?で、質問の答えだけどよ。アタシはアタシの為に走るんだよ。あの大歓声をこの身体に浴びて、誰よりも速く、相手をぶっちぎってゴールする。あの瞬間は絶対に最高に気持ちが良いだろ?」
「そっか。じゃあもしかしてURAファイナルも?」
「ったりめぇよ!!アタシはアタシが認められる最強のウマ娘になるってんでい!」
ゴールドシップには最強のウマ娘になると言う夢がある。そして僕にも夢がある。最強のウマ娘がいるチームを作ること。そうだ。この気持ちだ。久しく忘れていた。
なんで僕はこんなに臆病になってんだろう。1歩でも足を前に出せれば、きっとゴールドシップみたいな娘がいっぱいいるだろうに。
「その話、乗った!これから宜しく!ゴールドシップ!」
「おーよ!トレーナー…いやトレピッピ!宜しくなぁ!!」
僕達は熱い握手をした。僕はこれからずっとこの瞬間を忘れないだろう。死ぬまでずっと。そして夢を叶える為に頑張るんだ。彼女と共に。
……ん?デビュー戦……?
「デビュー戦って明日じゃねぇか!!!!」
「おうそだぜー?宜しくなぁ???」
これは前途多難だなと思いました。
読んでくださりありがとうございました!次回もお楽しみに!