【ホロラバ】√:AlterNative最速クリア目指す   作:鈴北岳

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5.突ry(表) 日々の陰に蠢く その2

 

 

 微かに顔を赤くした黒上フブキ──クロは言う。

 

「言っとくが、バレる時はバレるからな、それ(イヤーカフ)。認識阻害が入ってるっつっても、あくまで記憶と情報を結び付きにくくするだけだ。無意識に気付くのを防ぐ程度だよ。動画と見比べたらバレる。ただまあ、私らは人前に出るからな。万が一近くで映像やらが流れても気づかれにくくするために、音と光も細工する仕組みがあるが、ああ、気休めだ。もう一度言うぞ、気休めだ。だから今後、ああしたことはしないように」

 

 クロは目の前の少女に懇々と説明する。

 年上のようだが関係ない。

 その事実に違和感しかないが、クロは先輩として諭す。

 

「はい、わかりました」

 

「わかってねえだろ。返事が軽い」

 

「──わかっているから、口調を変えていました。いくら私でも、ここにいるのがマズいことくらいは理解しています」

 

 声量は変えず声を張る。

 姿勢を整え目を細めて見せる。

 

 その変貌ぶりにクロは目を丸くした。

 人はここまで変われるのかと。

 

「そうしときゃ妹なんて言われんだろうに」

 

「営業用です。学生なのにコレはおかしくないですか?」

 

「別に。自分に合ってると思う方でやりゃ良いだろ」

 

「そうですか。……そう、ですか」

 

 レイラは静かに自爆した。

 自然に振舞うために取り繕わなかった。

 あやめがいたこともある。

 とどのつまり、自分の振る舞いは姉ではないのだ。

 

「何急に落ち込……。……ああ、まあ、どんまい」

 

 クロも察した。

 というか自分の言葉が引き金だった。

 まあ、私が悪いわけでもなし、とクロは切り替える。

 

 話題を変えよう。

 姉の話題は避けて。

 

「で、気になったんだけどさ。お前、恋人いるの?」

 

 パブでの一件は式神越しに把握している。

 非常に手慣れた様子だった。

 

「いえ、姉なのでいません」

 

 どういう理屈だ。

 恋人よりも弟妹を優先している、ということだろうか。

 さっとそんな仮説が出た辺りクロは内心落ち込む。

 

「お前のアイデンティティ姉かよ……。ま、あやめちゃん辺りは構いたくなるか」

 

「はい。可愛いので存分に甘やかしたいです。あやめちゃんの髪は綺麗なんですよ、さらさらで。フブキ先輩方の髪も綺麗ですね」

 

「ついでのようにどーも。まあ、やってることがやってることだし。私もそこそこ……いや、アイツがか。かなり気を使ってるよ。今度誉めてやれ」

 

「仲が良いんですね」

 

「──双子だからな」

 

「どちらが姉ですか? 姉らしい振る舞いのコツを訊きたいです」

 

「お前のトークデッキ姉だけか!?」

 

 姉の話題を避けるはずが姉の話題をしている。

 というかレイラから振られている。

 

 こいつさてはそうとう図太いな。

 あるいは立ち直りが早いか。

 

「知らねえよ、そんなこと。意識が先にはっきりしたのは私だけど、どっちが上かっつーとアイツだからな。権限とか。……ま、あいつが姉らしいだろうよ。コツが知りたきゃアイツに訊きな」

 

「でしたら、クロ先輩が姉ですね」

 

「お前、話聞いてたか?」

 

「はい。先に見守っていたのでしょう? 傷つかないように、片割れを。あるいは、傷ついても支えられるように」

 

「家族だからな、当然だろ」

 

「はい。そこに姉妹は無関係です。娘が母を想う様に、妹も姉を想います。であれば、先か否か、その自覚があるか。先にクロ先輩が意識を持ったのであれば、クロ先輩が姉です。恥じない先達としてあろうとしていませんか?」

 

 クロは黙った。

 現状や実情はどうあれ、そうした意識はあった。

 生まれた時からフブキは見守る対象だ。

 今もそれは変わらない。

 

 それはそれとして。

 

「知らね。恥じない自分でいるのは当然だろ。もう一度言うが、姉らしさはアイツに訊け。間違っても私に訊くな」

 

「わかりました。クロ先輩は姉だと」

 

「わかってねえじゃねえか」

 

 無敵かよこいつ。

 クロは辟易とする。

 

 どうあれ、次からはそこまで気にかける必要が無さそうで何よりだ。

 受け答えはしっかりしている。

 変に怯える様子もない。

 

 違う意味で気にかける必要があるが。

 レイラと男のやり取りを記録した式神をフブキへ飛ばす。

 

「ま、今後ああいうことはすんなよ。痴情のもつれはメンドーだからな」

 

「気を付けます」

 

 よろしい、とクロは一区切りつける。

 ……正直、レイラの恋愛周りが気になるがこれもここでする話でもない。

 

「でさ、結局何しにこんなところに来たんだよ。姉だからいないっつー以上は、出会いが目的でも無いだろ」

 

「武器を探しに。戦果はこれですね」

 

 腰に下げたワイヤーの束を見せる。

 パッと見には目立たないリールだ。

 少なくとも脛に巻かれた鎖よりは目立たない。

 

「方向性はそれで決まりか。良いんじゃねえの。……しかし、改めて思うが。お前の鎖厳ついな」

 

「だいたいの人はこれでやっと対等に見てくれます」

 

 まあそんだけ小さいとな。

 思うだけに留める。

 正直、クロもこの年上に対し、威厳は感じていない。

 時折怖いが、何をやらかすかわからない類のものだ。

 威厳ではない。

 

「幼子扱いにはあまり怒るなよ。嫌だろうが」

 

「……そんなに無いですか」

 

「重さが無いわけじゃないが、掴み所がない。その外見もあって世間知らずのお嬢様みたいに見えるだろうさ」

 

「そんなものですか」

 

「少なくとも私にはな。嫌な言葉は流して次に進めとけ。他の掴み所を提供してやりゃ良い。思いつかなきゃ頼れ」

 

「クロ先輩……」

 

「フブキをな」

 

「クロ先輩じゃないんですか。そこは」

 

「私はそんな暇じゃない」

 

 クロは言葉を切る。

 レイラが地面に鎖を擦らせたからだ。

 わざと。

 

 耳障りな音に眉をしかめる。

 

「お前ね」

 

「失礼しました。威嚇です」

 

「それが先輩にする態度か?」

 

 黒い狐耳がピンと逆立つ。

 レイラの逸らした視線の先。

 音を探る。

 

 衣擦れ。

 鉄擦れ。

 ──撃鉄の音。

 

「『矢除け』」

「『転送』」

 

 瞬く間の出来事だ。

 銃弾が狙いを逸れる。

 鉄塊が投擲される。

 

 狙い過たず、狙撃手は鉄塊に吹き飛ばされた。

 

 頭上に影が差す。

 廃墟の上階から複数名の襲撃者が来る。

 

 手を翳す。

 指が指し示す。

 

 リールに触れる。

 視界に収める。

 

 照準を定めた。

 

「『狐条玖剡(ナインブレイズ)』」

「『鉄操作』」

 

 十条奔る。

 九条の黒炎、一条の銀閃。

 炎が襲撃者の武器を焼き斬り。

 銀閃が襲撃者を束ねた。

 

「先輩」

 

 次いで、銀閃に引かれ鉄塊がクロの手元へ。

 鉄塊──巨大な剣斧。

 大上段に振りかぶる。

 束ねられた襲撃者はその一撃に沈んだ。

 

「逃げるか」

 

「はい。私が残りますね」

 

「はあ!? お前もだよ!」

 

「狙いは恐らく私です。先輩に狙われる理由は無いでしょう?」

 

 ある、とは言えなかった。

 心当たり。

 クロがここにいた理由。

 

「──クソッタレ。後輩置いておめおめ逃げられるかよ」

 

 飲み込む。

 余人に話すことじゃない。

 

 妖力を滾らせる。

 丹田から全身へ。

 細腕が剣斧を軽々と振り回す。

 

「強い奴は私に投げろ。どうせ上手い連携なんて出来やしない」

 

「わかりました。好きに動きますね」

 

「帽子、飛ばされんなよ」

 

 風が吹き荒ぶ。

 

 レイラは「飛行」した。

 銃弾の雨などものともしない。

 容赦無く「突風」を吹かし。

 襲撃者をワイヤーで束ねた。

 

 上昇。

 獲物を捕らえた猛禽が戦果を誇る。

 

「『雷の暴風』」

 

 束ねた襲撃者を上空へ放り投げ魔法を撃ち込む。

 音と光が白昼を揺るがす。

 眼下の人々がざわめくのを確認する。

 

 マズルフラッシュ。

 銃声。

 「矢除け」が逸らす。

 

 人玉をより強くワイヤーで固めた。

 まだ息はある。

 この程度ではまだまだ死なない。

 

「痛いけど我慢してね」

 

 狙撃手のいる廃墟の屋上を薙ぎ払う。

 轟音。

 まだ建物は壊さない。

 

 「集音」が廃墟群に住む人々の逃げる声を捉えた。

 

 そして──。

 

「そぉらよっ!」

 

 黒風が吹く。

 巨大な剣斧を振り回し、敵を薙ぎ払う。

 縦横に駆ける鈍色の嵐。

 

 銃弾、魔法、何するものぞ。

 攻防一体の戦闘機動。

 豪快な振り回しとは裏腹に誰として掠りもしない。

 

「温い」

 

 甘い。

 

「鈍い」

 

 遅い。

 

「極めつけに脆い」

 

 すなわち──弱い。

 

 一瞥せずに剣斧を投擲。

 過たず命中。

 大規模な魔法は中断された。

 好機とみて勢いを盛り返す襲撃者。

 瞬く間に四方を囲まれる。

 

「だから弱いんだよ、お前ら」

 

 妖力の装填は済んでいる。

 

 ──「狐条玖剡(ナインブレイズ)

 

 九条の黒炎が武器を熔かす。

 突如出現した炎に襲撃者が狼狽える。

 

 困惑顔を踏み倒し跳躍する。

 掴みかかる腕を蹴り飛ばし進む。

 

 人をからかう狐のように。

 軽やかにクロは進む。

 薄らと浮かぶ嘲笑。

 

 剣斧を掴む。

 

「さあ、一塊になってくれたな?」

 

 肩に担ぎ颶風と化す。

 一振りで一人が吹き飛ぶ。

 受け身など取らせない。

 取ろうと無駄な衝撃が襲撃者全員に叩きつけられた。

 

 一分と経たず、襲撃者は全員地に伏した。

 

 クロは終わったぞ、とレイラに声をかける。

 残心は解かない。

 剣斧は肩に担いだまま。

 

「お疲れ様です」

 

「ケガは?」

 

「ありません。逃げますか?」

 

「そうだな──」

 

 クロは襲撃者を見る。

 ただのゴロツキ。

 どこにでもいるような。

 風貌こそ厳ついが、それだけだ。

 ここの下っ端に殺す度胸は無い。

 

「──さっさとズラかるぞ」

 

 だからこそ解せない。

 

 なぜ、ただの女二人を殺しにかかったのか。

 

 

 

 

 日の届かぬ場所に魔は住まう。

 誰も好まぬ場所だからこそ。

 誰も好まぬ魔が住まう。

 

 伏魔殿。

 そこに、彼らはいた。

 

「ところで、記憶は記録足りえると君は思うかね?」

 

 暗闇の中。

 初老の男が鬼に尋ねる。

 

「持ち主次第だ。記憶も記録と変わらん」

 

「なるほど。どちらも保証、確証が必要だからか」

 

 初老の男は人の頭を掴んでいる。

 掴んで、眼を覗き込んでいる。

 その所作は痴呆そのもの。

 

 だが、その所業は悪辣そのものだ。

 

「周囲とズレがより少ないものこそが優れた記録だ。我々は生きながらにパズルを組み立てている」

 

 掴まれた人の眼は生気が無い。

 息はある。

 生きている。

 だが意思が見受けられない。

 

「私なら積み木と言うが」

 

「ふむ。そちらが良いな。記録は積み重なるものだ。必ずしもかみ合うわけではなく、崩れることもある」

 

「なぜパズルとした?」

 

「オレならば容易くかみ合わせられるからだ。だが、他はそうではないだろう」

 

 初老の男は人の記憶を改竄していた。

 忘却の魔眼──記録の魔法。

 洗い流し植え付ける。

 本来ならば月単位で行う悪行を、この男は。

 

「記憶を押し流し、新たに積み上げる。その行いを人々は洗脳と呼ぶ。オレとは違う──削って埋めるオレとは大違いだ」

 

 記憶の形を歪めることは可能だ。

 だが、綺麗に削るとなれば話は別。

 それこそ魔法を使わない限りは不可能だ。

 その上で精緻な技術を要する。

 

 初老の男はそれができた。

 

「ふむ。できたぞ」

 

「おぞましいな。1日で改竄したか」

 

 肉人形が初老の男に傅いた。

 その目に生気はない。

 だが生きている。

 

 初老の男に従うという目的のみで。

 

「だが良かったのか。その男、優秀な部下だろう」

 

「だからこそよ。生成りのサンプルにこれほど適した者はいない」

 

 それに。

 

「この男は、少々オレのことを理解し過ぎた」

 

「徹底している。さすがは暴虐(・・)の悪魔といったところか」

 

「──ハ」

 

 初老の男──悪魔の首が回る。

 月の如き瞳が鬼を捉える。

 焦点の怪しい獰猛な形相。

 余人が見れば腰を抜かす狂気を見て、鬼は眉一つ動かさない。

 

「止めてくれ。その名の通りにはもう動かんのだ」

 

「そうしておこう、忘却(・・)の悪魔殿よ。それで? それに狩りをさせるのか」

 

「そうさな──」

 

 悪魔は思い返す。

 虫を通じて得た情報を鑑みて。

 

「──いや、今の手駒で充分よ。狩りにはちょうどよい」

 

 十中八九負けるだろうが。

 実力を測るには充分だ。

 

 虫を集める。

 使い魔に囲わせる。

 戦場と餌場、両方。

 

 貴重な手駒だが構うものか。

 補充はいくらでも効く。

 

 この一帯に尊厳はないのだから。

 

 

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