【ホロラバ】√:AlterNative最速クリア目指す 作:鈴北岳
微かに顔を赤くした黒上フブキ──クロは言う。
「言っとくが、バレる時はバレるからな、
クロは目の前の少女に懇々と説明する。
年上のようだが関係ない。
その事実に違和感しかないが、クロは先輩として諭す。
「はい、わかりました」
「わかってねえだろ。返事が軽い」
「──わかっているから、口調を変えていました。いくら私でも、ここにいるのがマズいことくらいは理解しています」
声量は変えず声を張る。
姿勢を整え目を細めて見せる。
その変貌ぶりにクロは目を丸くした。
人はここまで変われるのかと。
「そうしときゃ妹なんて言われんだろうに」
「営業用です。学生なのにコレはおかしくないですか?」
「別に。自分に合ってると思う方でやりゃ良いだろ」
「そうですか。……そう、ですか」
レイラは静かに自爆した。
自然に振舞うために取り繕わなかった。
あやめがいたこともある。
とどのつまり、自分の振る舞いは姉ではないのだ。
「何急に落ち込……。……ああ、まあ、どんまい」
クロも察した。
というか自分の言葉が引き金だった。
まあ、私が悪いわけでもなし、とクロは切り替える。
話題を変えよう。
姉の話題は避けて。
「で、気になったんだけどさ。お前、恋人いるの?」
パブでの一件は式神越しに把握している。
非常に手慣れた様子だった。
「いえ、姉なのでいません」
どういう理屈だ。
恋人よりも弟妹を優先している、ということだろうか。
さっとそんな仮説が出た辺りクロは内心落ち込む。
「お前のアイデンティティ姉かよ……。ま、あやめちゃん辺りは構いたくなるか」
「はい。可愛いので存分に甘やかしたいです。あやめちゃんの髪は綺麗なんですよ、さらさらで。フブキ先輩方の髪も綺麗ですね」
「ついでのようにどーも。まあ、やってることがやってることだし。私もそこそこ……いや、アイツがか。かなり気を使ってるよ。今度誉めてやれ」
「仲が良いんですね」
「──双子だからな」
「どちらが姉ですか? 姉らしい振る舞いのコツを訊きたいです」
「お前のトークデッキ姉だけか!?」
姉の話題を避けるはずが姉の話題をしている。
というかレイラから振られている。
こいつさてはそうとう図太いな。
あるいは立ち直りが早いか。
「知らねえよ、そんなこと。意識が先にはっきりしたのは私だけど、どっちが上かっつーとアイツだからな。権限とか。……ま、あいつが姉らしいだろうよ。コツが知りたきゃアイツに訊きな」
「でしたら、クロ先輩が姉ですね」
「お前、話聞いてたか?」
「はい。先に見守っていたのでしょう? 傷つかないように、片割れを。あるいは、傷ついても支えられるように」
「家族だからな、当然だろ」
「はい。そこに姉妹は無関係です。娘が母を想う様に、妹も姉を想います。であれば、先か否か、その自覚があるか。先にクロ先輩が意識を持ったのであれば、クロ先輩が姉です。恥じない先達としてあろうとしていませんか?」
クロは黙った。
現状や実情はどうあれ、そうした意識はあった。
生まれた時からフブキは見守る対象だ。
今もそれは変わらない。
それはそれとして。
「知らね。恥じない自分でいるのは当然だろ。もう一度言うが、姉らしさはアイツに訊け。間違っても私に訊くな」
「わかりました。クロ先輩は姉だと」
「わかってねえじゃねえか」
無敵かよこいつ。
クロは辟易とする。
どうあれ、次からはそこまで気にかける必要が無さそうで何よりだ。
受け答えはしっかりしている。
変に怯える様子もない。
違う意味で気にかける必要があるが。
レイラと男のやり取りを記録した式神をフブキへ飛ばす。
「ま、今後ああいうことはすんなよ。痴情のもつれはメンドーだからな」
「気を付けます」
よろしい、とクロは一区切りつける。
……正直、レイラの恋愛周りが気になるがこれもここでする話でもない。
「でさ、結局何しにこんなところに来たんだよ。姉だからいないっつー以上は、出会いが目的でも無いだろ」
「武器を探しに。戦果はこれですね」
腰に下げたワイヤーの束を見せる。
パッと見には目立たないリールだ。
少なくとも脛に巻かれた鎖よりは目立たない。
「方向性はそれで決まりか。良いんじゃねえの。……しかし、改めて思うが。お前の鎖厳ついな」
「だいたいの人はこれでやっと対等に見てくれます」
まあそんだけ小さいとな。
思うだけに留める。
正直、クロもこの年上に対し、威厳は感じていない。
時折怖いが、何をやらかすかわからない類のものだ。
威厳ではない。
「幼子扱いにはあまり怒るなよ。嫌だろうが」
「……そんなに無いですか」
「重さが無いわけじゃないが、掴み所がない。その外見もあって世間知らずのお嬢様みたいに見えるだろうさ」
「そんなものですか」
「少なくとも私にはな。嫌な言葉は流して次に進めとけ。他の掴み所を提供してやりゃ良い。思いつかなきゃ頼れ」
「クロ先輩……」
「フブキをな」
「クロ先輩じゃないんですか。そこは」
「私はそんな暇じゃない」
クロは言葉を切る。
レイラが地面に鎖を擦らせたからだ。
わざと。
耳障りな音に眉をしかめる。
「お前ね」
「失礼しました。威嚇です」
「それが先輩にする態度か?」
黒い狐耳がピンと逆立つ。
レイラの逸らした視線の先。
音を探る。
衣擦れ。
鉄擦れ。
──撃鉄の音。
「『矢除け』」
「『転送』」
瞬く間の出来事だ。
銃弾が狙いを逸れる。
鉄塊が投擲される。
狙い過たず、狙撃手は鉄塊に吹き飛ばされた。
頭上に影が差す。
廃墟の上階から複数名の襲撃者が来る。
手を翳す。
指が指し示す。
リールに触れる。
視界に収める。
照準を定めた。
「『
「『鉄操作』」
十条奔る。
九条の黒炎、一条の銀閃。
炎が襲撃者の武器を焼き斬り。
銀閃が襲撃者を束ねた。
「先輩」
次いで、銀閃に引かれ鉄塊がクロの手元へ。
鉄塊──巨大な剣斧。
大上段に振りかぶる。
束ねられた襲撃者はその一撃に沈んだ。
「逃げるか」
「はい。私が残りますね」
「はあ!? お前もだよ!」
「狙いは恐らく私です。先輩に狙われる理由は無いでしょう?」
ある、とは言えなかった。
心当たり。
クロがここにいた理由。
「──クソッタレ。後輩置いておめおめ逃げられるかよ」
飲み込む。
余人に話すことじゃない。
妖力を滾らせる。
丹田から全身へ。
細腕が剣斧を軽々と振り回す。
「強い奴は私に投げろ。どうせ上手い連携なんて出来やしない」
「わかりました。好きに動きますね」
「帽子、飛ばされんなよ」
風が吹き荒ぶ。
レイラは「飛行」した。
銃弾の雨などものともしない。
容赦無く「突風」を吹かし。
襲撃者をワイヤーで束ねた。
上昇。
獲物を捕らえた猛禽が戦果を誇る。
「『雷の暴風』」
束ねた襲撃者を上空へ放り投げ魔法を撃ち込む。
音と光が白昼を揺るがす。
眼下の人々がざわめくのを確認する。
マズルフラッシュ。
銃声。
「矢除け」が逸らす。
人玉をより強くワイヤーで固めた。
まだ息はある。
この程度ではまだまだ死なない。
「痛いけど我慢してね」
狙撃手のいる廃墟の屋上を薙ぎ払う。
轟音。
まだ建物は壊さない。
「集音」が廃墟群に住む人々の逃げる声を捉えた。
そして──。
「そぉらよっ!」
黒風が吹く。
巨大な剣斧を振り回し、敵を薙ぎ払う。
縦横に駆ける鈍色の嵐。
銃弾、魔法、何するものぞ。
攻防一体の戦闘機動。
豪快な振り回しとは裏腹に誰として掠りもしない。
「温い」
甘い。
「鈍い」
遅い。
「極めつけに脆い」
すなわち──弱い。
一瞥せずに剣斧を投擲。
過たず命中。
大規模な魔法は中断された。
好機とみて勢いを盛り返す襲撃者。
瞬く間に四方を囲まれる。
「だから弱いんだよ、お前ら」
妖力の装填は済んでいる。
──「
九条の黒炎が武器を熔かす。
突如出現した炎に襲撃者が狼狽える。
困惑顔を踏み倒し跳躍する。
掴みかかる腕を蹴り飛ばし進む。
人をからかう狐のように。
軽やかにクロは進む。
薄らと浮かぶ嘲笑。
剣斧を掴む。
「さあ、一塊になってくれたな?」
肩に担ぎ颶風と化す。
一振りで一人が吹き飛ぶ。
受け身など取らせない。
取ろうと無駄な衝撃が襲撃者全員に叩きつけられた。
一分と経たず、襲撃者は全員地に伏した。
クロは終わったぞ、とレイラに声をかける。
残心は解かない。
剣斧は肩に担いだまま。
「お疲れ様です」
「ケガは?」
「ありません。逃げますか?」
「そうだな──」
クロは襲撃者を見る。
ただのゴロツキ。
どこにでもいるような。
風貌こそ厳ついが、それだけだ。
ここの下っ端に殺す度胸は無い。
「──さっさとズラかるぞ」
だからこそ解せない。
なぜ、ただの女二人を殺しにかかったのか。
/
日の届かぬ場所に魔は住まう。
誰も好まぬ場所だからこそ。
誰も好まぬ魔が住まう。
伏魔殿。
そこに、彼らはいた。
「ところで、記憶は記録足りえると君は思うかね?」
暗闇の中。
初老の男が鬼に尋ねる。
「持ち主次第だ。記憶も記録と変わらん」
「なるほど。どちらも保証、確証が必要だからか」
初老の男は人の頭を掴んでいる。
掴んで、眼を覗き込んでいる。
その所作は痴呆そのもの。
だが、その所業は悪辣そのものだ。
「周囲とズレがより少ないものこそが優れた記録だ。我々は生きながらにパズルを組み立てている」
掴まれた人の眼は生気が無い。
息はある。
生きている。
だが意思が見受けられない。
「私なら積み木と言うが」
「ふむ。そちらが良いな。記録は積み重なるものだ。必ずしもかみ合うわけではなく、崩れることもある」
「なぜパズルとした?」
「オレならば容易くかみ合わせられるからだ。だが、他はそうではないだろう」
初老の男は人の記憶を改竄していた。
忘却の魔眼──記録の魔法。
洗い流し植え付ける。
本来ならば月単位で行う悪行を、この男は。
「記憶を押し流し、新たに積み上げる。その行いを人々は洗脳と呼ぶ。オレとは違う──削って埋めるオレとは大違いだ」
記憶の形を歪めることは可能だ。
だが、綺麗に削るとなれば話は別。
それこそ魔法を使わない限りは不可能だ。
その上で精緻な技術を要する。
初老の男はそれができた。
「ふむ。できたぞ」
「おぞましいな。1日で改竄したか」
肉人形が初老の男に傅いた。
その目に生気はない。
だが生きている。
初老の男に従うという目的のみで。
「だが良かったのか。その男、優秀な部下だろう」
「だからこそよ。生成りのサンプルにこれほど適した者はいない」
それに。
「この男は、少々オレのことを理解し過ぎた」
「徹底している。さすがは
「──ハ」
初老の男──悪魔の首が回る。
月の如き瞳が鬼を捉える。
焦点の怪しい獰猛な形相。
余人が見れば腰を抜かす狂気を見て、鬼は眉一つ動かさない。
「止めてくれ。その名の通りにはもう動かんのだ」
「そうしておこう、
「そうさな──」
悪魔は思い返す。
虫を通じて得た情報を鑑みて。
「──いや、今の手駒で充分よ。狩りにはちょうどよい」
十中八九負けるだろうが。
実力を測るには充分だ。
虫を集める。
使い魔に囲わせる。
戦場と餌場、両方。
貴重な手駒だが構うものか。
補充はいくらでも効く。
この一帯に尊厳はないのだから。