【ホロラバ】√:AlterNative最速クリア目指す 作:鈴北岳
変化は無い。
当然だ。
昔の記憶を思い出しても何も変わらない。
嫌な気分になるだけ。
終わったことだ。
覚醒劇なんて物語の出来事だ。
現実は噛み合わない。
「『突風』」
洗脳兵を吹き飛ばす。
細身の獣人。
顔は無い。
猛禽類を思わせる手の形をしている。
「鉄操作」で瓦礫をどかす。
「矢除け」「飛行」を起動する。
帽子は無い。
血に濡れた金髪が重い。
その湿り気が現実を突きつける。
悪夢なんかじゃない。
疼痛。
痛みの種類からして裂傷と打撲。
刺さった金属は「鉄操作」で摘出。
裂傷を雷で焼き潰す。
失血死は避ける。
まずは合流だ。
飛び上がりクロを視認する。
複数人に囲まれていた。
加勢しなくては。
「ねッ゛、ネ゛ええエ゛ぇぇえぇ……!!」
背後から迫る洗脳兵。
翼を出して飛んでいる。
レイラよりも速い。
旋回し爪の一撃を避ける。
追撃。
胴体へ足が迫る。
「突風」を使用し横へスライド。
唸り声。
「魔法は使えないのね」
使う必要が無いのか。
いや、使えないのだろう。
使えたとしても魔法未満。
本能的な動作の補助が精々か。
魔法は論理的な思考が必要だ。
カラダに依った頭では発動の難易度は高い。
洗脳兵は素のままにレイラに追いすがる。
翼の形。猛禽類の爪。
ハヤブサの獣人。
速度では敵わない。
必ず追いつかれる。
眼下。
レイラを追いかける者を見た。
狙いは自分。
矢や銃弾が見えた。
「矢除け」が逸らす。
「突風」を使い上空へ。
敵が旋回し追いかけてくることを確認。
翼による飛行の限界は身に染みている。
できることも。
逃げることは不可能。
必ず倒す。
急降下。
すれ違い様に頬が裂かれた。
爪。
避けたと思った。
だが生きている。
血が目に入りかねない。
雷で止血。
傷跡は考えない。
(鋭い。昔見た時よりも手強くなっている)
昔はもっと愚鈍だった。
重装備の大男だけだった。
武器も重量のある棍棒だ。
今回のような洗脳兵は初めてだ。
洗脳兵もまた追いかけてきている。
翼を広げ一時的に加速。
一瞬、距離が空く。
すぐに詰められる。
空いた距離を頼りに地面すれすれに曲がる。
「突風」を使用。
背のすぐ後ろにいた洗脳兵へ。
背中が裂かれた。
灼熱。
直後に轟音。
反転、転進し洗脳兵を視界に。
落下の衝撃に呻いている。
「鉄操作」でワイヤーを操作。
洗脳兵の足を吊る。
外そうと手を伸ばした所。
鎖で頭を打ち据える。
周囲からの攻撃を避ける。
危険なものは魔法と近接。
魔法は「突風」で自身を動かし。
近接は上空へ退避する。
洗脳兵を振り回し周囲の敵へぶつける。
同時にワイヤーを操作。
複数人をまとめて捕らえる。
きつく締めて気づく。
ハヤブサの獣人の力が強い。
あえて緩める。
抜け出そうともがき始めた。
動きが手に取るようにわかる。
緩んだところをきつく締める。
同時、振り回した。
瓦礫に何度も叩きつける。
まだ死にはしない。
「突風」で加速。
数名、ブラックアウトしたようだ。
洗脳兵はまだ意識がある。
力強い。
クロの元へ助太刀に向かう。
武器は確保した。
/
音が聞こえた。
風切り音。
視線を空へ。
たなびく金髪が見えた。
「全くお元気そうで」
何よりだ。
そう簡単に死にはしないだろう。
ああいうのは強かだ。
「さっさと済ませるぞ。もう飽きた」
距離をとる。
最早追いはしない。
空を飛んだ以上は大丈夫だろう。
こちらにもご執心のようだ。
陣形を組みクロを囲む。
銃弾、魔法が横殴りに降ってきた。
慌てずに対処。
足止めを考えなければ難しくはない。
挟撃を避けさえすれば良い。
斧から剣へ。
刃が根元へ。
剣斧が唸りを上げる。
ようやく剣斧の機構に熱が入った。
鉄塊染みた剣斧が正体を表す。
片刃。緩やかな反り。
身の丈超えて2メートルに迫る。
黒風が吹く。
反応できたのは無貌の洗脳兵のみ。
音もなく巨躯が沈み込む。
横殴りの剣閃を大剣で上へ反らす。
響かぬ音。
予定調和。
直後に降るクロの唐竹割り。
洗脳兵は片足を軸に回転し回避。
轟音。斧剣が地面を砕く。
洗脳兵は足を突く。
跳んで避けられる。
頭上。
クロは地に刺さる斧剣を支えに跳んだ。
追って大剣が上へ跳ねる。
「単調だっつったろ」
柄を支点に体を逃がす。
曲芸。
クロは斧剣の影に着地。
取り巻きがその隙へ凶刃を振るう。
しかし。
既に斧剣は地から引き抜かれている。
凶刃が消失。斬り落とされる。
クロの体が回る。
斧剣を目で追う襲撃者。
無貌に斧剣が迫る。
それを隙と見てクロに殴りかかり。
意識の外。頬に裏拳が突き刺さる。
地面に叩きつけられる。
同時に洗脳兵の大剣が斬り飛ばされた。
クロを斬ろうとした直後のことだ。
頭上に位置した大剣を振り下ろそうとしていた。
斧剣の重量と鋭さにモノを言わせた曲芸。
普通の武器では不可能だ。
洗脳兵の意識が上へ。斧剣へ。
直後に足を刈られた。
体が崩れる。頭が下がる。
その顎をクロの足先が掠め意識が混濁する。
迫る銃弾と魔法を斧剣でかき消した。
体を投げ出し、消し損ねたものを避ける。
外周を駆ける。
その内に溜めを終えた。
跳躍。
向けられた銃口全てを視認。
発砲のタイミングは同時。
良く訓練されている。
マズルフラッシュ。
銃声。
「『
──黒炎が奔る。
銃弾を焼き付くし銃を焼き切る。
厄介な武器を無効化。
斧剣を放り出し、黒風が吹く。
こうなれば後は容易い。
魔法は銃より遅い。
あの無貌以外は鈍い。
瞬く間に打ち伏せる。
「ふうっ」
一息。
嫌な視線は既に消えた。
放り出した斧剣が手元に落ちる。
起き上がろうとする洗脳兵へ一撃。
意識を絶つ。
熱が排出され剣斧へ。
軽く振り回し熱を逃がす。
「そろそろか」
クロは断続的な音を捉えた。
瓦礫に何かが落とされている音。
既に趨勢は着いたようだ。
音が近づいてくる。
「……苦戦してるのか?」
走り出す。
もしそうならば加勢しよう。
そうして走ってレイラと合流。
レイラは複数名をワイヤーで括り振り回していた。
「……」
クロは閉口した。
映像で見た時は合理的だと感じた。
楽に倒せるならそれに越したことはない。
けれど。
「あぁ、うん。絵面ひっっでぇわ」
青白い顔に流血があるのがえぐい。
一名、無貌のみがまだ元気そうだが風前の灯か。
「先輩」
「おう」
「しぶといやつ、落としてくれませんか?」
「先輩使いが荒えぞ、後輩」
軽口を叩きつつ。
他の奴を気の毒に思う。
せめて手早く終わらせてやろう。
投げられた塊を剣斧で打つ。
狙い過たず。
洗脳兵はそれで沈黙した。
レイラは宙に浮いたまま。
二度、三度と地面に落とした。
ピクリとも動かない。
「お疲れ様でした」
「容赦ねえな」
「はい。抜かりありません」
着地したレイラが胸を張る。
幼げな少女の仕草は可愛らしい。
所業はともかく。
ふと鉄の臭いがクロの鼻をつく。
見ればレイラの頬と額に焼き跡がある。
「ちょっと待て」
レイラの体を診る。
近づくと肉の焦げた臭いがした。
「……おい、このポンコツ」
「パワハラですか」
「うるせえ。ケガの報告をしろ。正確に。あと処置も」
「裂傷と打撲です。刺さった釘は抜きました。裂傷は焼いて止めました」
「────」
クロは。
深く、深くため息をついた。
「おい、ポン」
「ポーンズです」
「生意気なお前はポンで充分だ。で、まだ何か隠してやがるな。血の臭いが酷い」
「そういえば背中を裂かれました」
そちらは未処置です、と。
他人事のように。
「……バカか。とっとと言え」
化膿したら地獄だぞ。
言って、クロは消毒液と布で手当てをする。
携帯していた救急キットだ。
ガーゼとテープで傷口を覆う。
「ありがとうございます」
「……。他の傷は明日にちょこ先に診てもらえ。残すなよ」
「わかりました」
応えて。
レイラは手早くワイヤーで縛り上げた。
手慣れている。
「先輩が倒したのはどちらに?」
「つれてく」
その後。
フブキが呼んできた警官隊が到着した。
縛り上げた下手人らを引き渡し。
簡単な事情聴取と治療を受けて。
クロとフブキはレイラを自宅へ連行した。
/
夕方。
連れてこられた先は山近くのウッドハウス。
「我が家へようこそー!」
喜色満面の白上フブキがレイラを招き入れる。
「豪邸ですね」
「まあ、そういう感想が先に立つよねー」
「稼いでいるから良いんだよ。これくらいフツーだフツー」
言って、クロは二人の横を通り家へ入る。
パッパッパッと家に明かりが灯り始める。
「ハイテクですか?」
「スマートでしょ」
フブキとレイラも続く。
外観と似た雰囲気の内装だった。
近代的だが木の温かみが感じられる。
そこで懐かしいものを見た。
草を編んで作られた床。
いわゆる畳。懐かしい。
流石に質感は昔と異なるが。
「畳は好き?」
「好きです。匂いや質感とか、良いですよね」
「だよねー。ちょっと高かったけど、奮発したよ」
「おいフブキ。くっちゃべってねーで夕食作ってくれよ」
ふと、部屋の奥からクロの声が飛んできた。
「え? クロが作ってくれるんじゃないの?」
「疲れた」
「……むぅ。色々言いたいけど良いでしょう。二人は何が食べたい?」
「何でも良いよ」
「お任せします」
フブキは笑った。
「 な に が た べ た い ? 」
猛獣の笑みだった。
肉食獣二体は寒気を覚えた。
「……オムライス」
「……お味噌汁をお願いします」
「りょうかーい! 混ざらない和洋折衷といきますかー!」
それは折衷ではないのでは?
レイラは疑問を口にしなかった。
フブキは上機嫌にして料理へ取り掛かる。
「……迫力がありましたね」
「間違っても怒らせるなよ。めんどくせえ」
「それは問題なく。後輩ですので」
「お前少し前の自分の言動思い出せ」
「気を付けます」
そそくさと二人はテーブルに着く。
お茶はクロが用意していた。
クロが慣れた仕草で湯呑に茶を注ぐ。
「すみません。何から何まで」
「一応客だからな。あと、紅茶はティーバッグしかない。コーヒーはインスタント」
「折角の畳ですので」
茶を啜る。
上等な茶葉を使っているのだろう。
風味が良い。
「美味しいですね」
「まあな」
微かに笑う。
クロはテレビを点ける。
ニュース番組がやっていた。
早速今日の出来事が流れている。
「早いですね」
「そりゃ手回ししたからな。こういうのは噂になる前に流すもんだ」
内容は「暴徒が出た」というもの。
洗脳兵の話は一切出てこない。
姿も。
ただのスラムの出来事として扱われていた。
「幸い目撃者はいなかったからな」
空気がひりつく。
何気なく零した言葉──に、見せかけて。
レイラは躊躇なく応えた。
「洗脳兵ですね」
「どこまで知ってる?」
「一般常識程度、ですね。あとは──メルビレイの備品であるということだけ」
目は。
レイラの目はいつも通りだった。
じっ、と。
クロはレイラを見て。
「オーケー。フブキが来たらそれ、話すぞ。良いか? 正直に話せよ」
「はい。私からも、お知らせしたいことがありますので。……けど私、そんな信用無いですか?」
「いや、会って一日の奴を信用しろとかムリだろ」
あの変わり様も思い出す。
レイラは必要とあらば騙すだろう。
「えー、私はレイラちゃん信用してるけどなー」
「そりゃお前が疑いたくないだけだろ」
クロは鼻を引くつかせる。
良い匂いだ。出来上がったのだろう。
レイラが立ち上がる。
「フブキ先輩、持って行きますね」
「わ。ありがとー! クロも手伝ってー」
「はいよっと」
三人分のオムライスとお味噌汁が並ぶ。
遅れてサラダと取り皿も。
健康的な食事だ。
「「「いただきます」」」
一口。
美味しいオムライスだ。
表面が半熟なのが流行を押さえている。
「凄くて美味しいですね。やっぱりあの動画ですか?」
「そうそう。美味しそうだったし、クロも喜ぶから練習したよ」
「……まあ、好物のバリエーションが増えるのは良いことだ」
「それにクロの得意料理だしね。クロのはもっと美味しいよー」
「それは是非食べてみたいですね」
お前ね、とクロは眉根を寄せる。
尻尾は緩く揺れていた。
「これはフブキより数こなしてるから当然だっつの。そういうポーンズは? 得意料理の一つはあるだろ」
「レイラで大丈夫ですよ。そうですね、カレーなどは良く。あとはチャーハンですね」
「カレーならフブキも得意だっけか。レシピ無しで作れるんだろ?」
「こだわるものの一つです。……といっても季節の具にこだわるくらいだね。好きなカレーとかあったりするの?」
「チキンカレーですね」
沈黙。
「……いや、あの。私、猛禽類ですよ?」
「あっ! そ、そのっ……そっ、ソウダヨネー。何もおかしくは、ないね? ウン」
慌てるフブキを横目に、クロは無言で首を縦に振る。
黒い狐耳がピンと直立していた。
「……いえ、まあ。安価だったこともあり、好んで良く。あと、作り置きができるので」
「カレーはそこが強いよねー。私も良く忙しい時は作ってたよ」
「おかげで一時期カレーの匂いがやばかったな」
あはー、とフブキは視線を逸らす。
焼肉ほどではないがカレーもきつい。
獣人にはそこそこ死活問題だ。
雑談もそこそこに食事が終わる。
お味噌汁には珍しいことに生わかめが入っていた。
旬は春だったな、と。
ぼんやりとレイラは思う。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「お粗末様でした。……クロは?」
「いつも通り美味かったよ」
良かったー、とフブキは笑顔。
食器をシンクに漬け置き、テーブルにつく。
胡坐をかいたクロが口を開こうとして。
「さて。じゃあ、ちょっと難しいお話ししようか。レイラちゃん」
フブキが言う。
「君は、あそこで本当は何をしようとしていたのかな?」
湯呑のお茶が温かい。
春先の夜は冷え込む。
ああでもこうでもないと失踪してました。
左回りって可愛いですよね。
遅れたのでまた失踪します。