【ホロラバ】√:AlterNative最速クリア目指す 作:鈴北岳
お待たせしたので登校します。
問われたレイラは淀みなく応える。
「武器を探していました」
ピッとレイラはワイヤーを示す。
それを見たフブキは少し微妙な表情になった。
「その方向性で行くんだね……」
クロとは違う反応が少し新鮮だ。
「それと、お金稼ぎのための情報を」
「それで男の人をナンパしていたの?」
「はい。エルフの森との境で武器の買い付けが多くなっていると聞こえたので」
その言葉にフブキは驚いた。
そんな顔をした。
元々そうしたやり取りをしていたことは聞いている。
「……それで、何をしようと?」
「運び屋ですので、一枚噛もうかと」
「なんだ、傭兵としてじゃないのか」
「少しでも身元をごまかしたかったんです」
なるほどね、とクロは思う。
認識阻害のイヤーカフ。
それがあるからこその行動か。
(しかし、それにしても手際が良すぎる)
淀みが無い。
何度かしているのだろう。
十世紀も前。
それも運び屋という職業では当然なのか。
従軍経験があるかもしれない。
戦争において補給部隊は重宝される。
戦時の運び屋は高給の傾向がある。
「ちなみに、お金を稼ごうと思った理由は?」
「落ち着かなくて」
「どうして?」
「私は単独の事業主なので、稼げる時に稼がないと落ち着かないんです」
「あー、確かに。急な変化があるとそわそわするよね。ただ、それこそあそこで探す必要は無いんじゃないかな? 学園で探した方がよほど良いと思うけど」
「……それもそうでした」
レイラは今気づいたように呟いた。
フブキはくすりとほほ笑む。
「今度案内してあげるよ」
「ぜひ」
「ただ、今すぐに買いたいものが無いなら、後に回した方が良いかな」
けっこー配信は疲れるよー。
ニッコリとフブキは笑う。
「あと、しばらくはあそこに近づくなよ。変装しててもな」
クロが付け足す。
これでこの話は終わりだ。
後は経過を見る。
これ以上の情報をレイラは吐かない。
クロがまだ信用していないように。
レイラもまた信用していないだろう。
「では、一つ良いですか?」
「何かな?」
一段落してレイラが言う。
クロは厄介事を予想した。
「私はその森との境を警邏しようと考えています」
クロは真意を量りかねた。
運び屋としてではなく警邏、パトロール。
先程は金銭が目的と言った。
にも関わらずの発言だ。
案の定、フブキは困惑した。
「どうして?」
「聞いた以上は放っておきたくありません」
「それは警察に報告すれば良かったんじゃないかな……? というかそれ、警察に言ったんじゃ?」
「言ってません」
なんで。
フブキは宇宙に放り出された気分になり。
クロはレイラの狙いを悟った。
「じゃあ、なんで、今私に……?」
フブキは嫌な予感がした。
「フブキ先輩なら伝手があるかと思いまして」
的中した。嫌な大当たりだ。
フブキは迷った。
確かに伝手はある。
あるが、表向きには無い。
(やっぱり知ってやがるな)
クロは得心した。
(レイラはそうした集団があることを知っている。誰がそうとは知らずとも)
であるならば。
そうした集団の一員がいそうな場所に訪れれば。
(接触してくると。……まあ、そう考えるよなぁ)
めんどくせえ。
心底からそう思う。
偶然ならまだしもレイラは違う。
何か目的がある。
それも目的があると悟られても構わないもの。
(というかこいつ、元から巻き込むつもりだったな)
──狙いは恐らく私です。先輩に狙われる理由は無いでしょう?
間違いじゃないが容赦が無い。
「あるよ」
「ちょ、クロ!?」
「というかコイツがその副リーダー」
「クロぉ!?」
レイラは僅かに目を見開いただけだった。
何となく予想はしていたのだろう。
「リーダーは他の方ですか?」
「まあな。ただあんまりにもアレだから実質コイツがリーダー」
なんせチーム名を「魔王軍」にしようとしたくらいだからな。
口には出さなかった。
さすがにはばかられた。
「いや、アレというか、純粋というか……」
子供っぽいというか。
イイヒトなんだけどね、とフォロー。
「さて」
フブキが何か言いたげだが、これは自分の役目だ。
「フブキは耳を伏せてろ」
「え」
「内緒の話をする」
クロはフブキの耳周りの空気を遮断した。
なにこれ気持ち悪いー! と抗議が来たが無視。
クロが尋ねる。
「私は開示したぞ。レイラ、本当の目的を教えろ」
「探している者がいます」
「復讐か?」
「目的と名前は伏せます。ただ、利害が一致することは確実です」
「なんで言わないんだよ。相手によっては協力できると思うぜ?」
「だから伏せます」
そうかよ。
「監視付けるぞ」
「構いません。ただ、いつでも私を切り捨てられるようにしてください」
──騙されてください。
レイラは暗にそう言っている。
「あっそ」
吐き捨てる。
「だが、メルビレイの情報は共有するぞ。あれの洗脳兵が出た以上、注意する必要がある。きっと、お前も目ぇ付けられてるからな」
「わかりました。共有は密にしましょう」
つけるべき話は以上だ。
あとは表向きの話だけで良い。
結局、レイラは何も言わなかった。
何も言わなかったが、何も言えない。
それだけで一先ずは充分だろう。
これ以上はこちらで勝手にすることだ。
「じゃ、義侠心で志願したと?」
「はい。先達として、争い事は見過ごせません」
自己犠牲。ではない。
そんな脆いものじゃない。
「それに、あやめちゃんを危険に晒したくありません」
レイラはそう言った。
「ほい、良いぞ」
クロは魔法を解いた。
「ねえ、何話してたの?」
クロはレイラを見た。
「内緒です」
「だとよ」
クロは呆れたように溜息を吐いた。
気に食わない。
気に食わないがその律義さは評価してやっても良い。
「クロ?」
「内緒だって言ってるだろ」
フブキはため息を。
長い、長い溜息をついた。
「わかりまーした。イイですよー、白上だけ仲間外れでもイイですよー」
「……すみません」
「……いーよ。考えがあってのことでしょ」
そういうことにしておく。
クロが聴いた以上は大きな問題にはならないだろう。
全幅の信頼を置いている。
気持ちを切り替えて、説明を始めた。
「名称は神祇隊。Tubeのことは知っているよね?」
「はい。混ざった世界の足りない熱量を補うためのテクノロジーと」
「うん。つまりはエネルギーを世界に補給する装置だ。それが過剰だと『炎上』が起きて、足りないと『凍結』が進む」
Tubeの使用にも収集した熱が使用される。
そのため効率の悪いものが乱立すると「凍結」が早く進む。
逆に過剰でもダメだ。
最も激しい感情は主に「怒り」である。
酷い内容の動画が取り上げられると「炎上」が起こる。
「そして、その『現象』内でモンスターが発生する。そのモンスターの討伐は様々な団体が行っていますね」
「そ。だから神祇部の役割はモンスターの討伐──」
「──だけじゃない」
クロが引き継ぐ。
「Tubeの悪用を企む輩をとっちめるのが元々の役割だ」
──Tube・Y黎明期。
当然のように故意に「現象」を起こす輩がいた。
愉快犯、思想犯──テロリスト。
瀕死の世界を前にして主導権を奪いたがる者がいた。
「……なるほど。学園が元締めですもんね」
謎の人工知能Ago・Y。
学園の校長。
怪しさしかないがその実績は信用できた。
「そ。だからまあ、特定もできる。で、乗り込んでとっちめるっつー単純作業が主な業務な訳だが……」
「ここ最近はそうでもないと」
レイラの言葉にクロは頷いた。
犯罪は文化の発展に伴い複雑化する。
「私があそこにいたのはその調査の一環だよ。本当なら退屈な散歩で終わるはずがまあ、どこぞの誰かのおかげで刺激的になったよ」
「どうもです」
「褒めてねえ」
「クロ」
叱責が刺さる。
クロはへいへいと言って黙った。
「まあ、そういう訳だから、うん。レイラちゃんの言う警邏はすると思うよ。その前に事前調査が入るけど」
茶髪の仕事が増えるな。
クロは内心合掌した。
同時にエルフとの境であればあの二人組の仕事になるな、とも。
「私は参加できますか?」
「うぅん、そればかりは、何とも……。というより、白上的にはレイラちゃんには参加して欲しくないなぁって」
「不安だから、ですか?」
「うん。レイラちゃんは年上で、多分白上よりも経験豊富なんだろうけど、不安」
(フブキよりは生き汚そうだから平気だと思うけどな)
(クロ。これ、私の気持ちの問題)
(はいはい)
クロは推移を見守ることにした。
フブキの好きなようにさせよう。
そうさせた方がこいつのためだ。
レイラはその言葉に考え込む。
困った。そう思う。
実力は示したはずだ。
それで充分に承諾されると考えていた。
継戦能力の高さには自信があった。
無傷じゃなかったのがダメだったのだろうか。
チラリと。
助け舟を期待してクロを見る。
クロは目線でフブキを指し示す。
助け舟は無いようだ。
困る。
「──」
非常に困る。
「────」
これでは折角の手掛かりが……。
「あ」
思いついた。
(げ)
クロは何か察した。
こっちに迷惑が来る。気がする。
「クロ先輩同伴はどうでしょうか?」
「────ふむ」
フブキはクロを見た。
クロは心底嫌そうな顔だ。
フブキはレイラを見た。
クロは撤回しろ、とレイラに目配せした。
レイラはクロに微笑んだ。
フブキはクロに微笑んだ。
「ヨシ」
「ヨシ。じゃねえよ! 私は嫌だぞ、こんなポンの保護者なんて」
「レイラです」
「うるせえ、生意気だぞ後輩。私にメンドーを被せんじゃねえ」
「仲良しだからヨシ」
「仲良しヨシ」
「ヨシヨシうるせえぞ! チキツネコンビ!」
「狐じゃい!」
「猛禽類です」
「鳥はチキンで充ぶn、いや、ネコとか言ってねえぞフブキ!」
「言った!」
「言いました」
「言ってねえ!」
数分後。
「──うん。ということで、クロ同伴ならという条件で相談してみるね」
「私はゼッテー嫌だ」
「楽しみです。クロ先輩は良い人なので」
「──テメエな」
「クロー、怒っちゃダメだよ」
クロの目が据わる。
流石にからかいが過ぎた。
だが、クロが良い人だということは真実だ。
「失礼しました。でも、クロ先輩が一緒なのは心強いです」
頭を下げて目を合わす。
お願いします、と。
レイラの目は雄弁に語る。
「……」
「ね、クロ。私からもお願い」
フブキもクロに頼んだ。
真剣だった。
「……上が許したらな」
クロは苦虫を噛み潰したようにそう言った。
/
温い湯舟に浸かる。
火傷が痛んだがそれ以上に体が休まった。
風呂の縁に後頭部を預けてぼんやりとする。
ついでに赴くままに鼻歌も歌った。
計画通りに話を進めることができた。
レイラは申し訳なく思いつつも安堵した。
本当に申し訳が無い。
あの承諾の後でこうして風呂をいただいていることも尚更拍車をかける。
けれど後悔は無い。
反省するべき部分は多々あるが。
ただ、クロ先輩がいたことは助かった。
ああいう人は嘘を優しくできる。
疲れた。
元々話すことは苦手だ。
どうでも良い相手ならばともかく。
どうでも良くない人には難しい。
人間、丁寧にする方が難しいのだ。
でなくば細部に神は宿らない。
「入るよー」
「どうぞー」
フブキの声がした。
脱衣所へモノを取りに来たのか。
レイラは呆けた頭で応じ、鼻歌を再開する。
「お邪魔しまーす」
「はー……ぃ?」
浴室のドアが開いた。
視線の先にはタオルで前を隠したフブキがいた。
「えへー、ごめんね、急に」
「いえ、構い……ませんが」
綺麗な人だな、とは思っていた。
滑らかな肌、艶やかな髪。
均衡のとれた体つき、整った顔。
こうした裸である場で見ると、より際立った。
「え、白上、なんかやっちゃってます?」
「いえ、綺麗だな、と」
かぁっとフブキの顔が赤くなった。
尻尾と耳が落ち着きなく騒ぎ出す。
「そ、そんなことない……ようなないような。ま、まあ、白上、アイドルですし気を使ってますし? ありがとう?」
「はい、きちんとその成果がでていることかと。ところで、上がった方が良いですか?」
「レイラちゃんがそのままいてくれると白上嬉しいなぁー。レイラちゃんが良ければね?」
ではこのまま、と。
レイラは上げかけた腰を下ろす。
フブキは浸かり直したレイラを見て体を洗い始めた。
水音が反響する。
会話は難しいだろう。
レイラは呆けた頭で鼻歌を口ずさむ。
「脱衣所でも聞こえて来たんだけど、その歌、好きなの?」
入るね、と言いつつ。
フブキは湯舟に浸かる。
ほうと一息ついて。
「わかりません。ただ、今は懐かしい気持ちになります」
「故郷の歌?」
「多分、そうです」
「多分?」
「覚えていないんです。二十歳のころ突発的に村を出て、以降、帰ってなくて」
「──そうなんだ。じゃあきっと、故郷の歌だね」
由来の知れぬ懐古の念。
それを想起させるのであれば。
「はい。きっと」
そうなのだろう。
気の抜けた顔でレイラは頷いた。
「ところで、フブキ先輩はどうしてここに?」
「お話がしたくて。ほら、クロがハブったじゃん。可愛い後輩の独り占めはよろしくないと思うんだー」
結果的に聴かれなくて良かったと思う。
恐らくフブキはそれにモヤモヤを抱えている。
しかしクロとのやり取りは聴いていても不明瞭だ。
もっとモヤモヤするだろう。
「ね、私には言えない?」
「詳細はクロ先輩にも言っていません」
「うー、それもそれでモヤモヤするーぅ。あ、ちょっと動かないでね」
「? はい」
よいしょっとフブキはレイラに手を伸ばす。
レイラは言われたまま動かない。
フブキはそのままレイラの脇に手を通し、体の向きを変え、レイラを抱きかかえた。
幼子のような扱いにレイラの目が死んだ。
「あの……」
「うわー、やっぱりだー! レイラちゃんすっぽり収まるー!!」
レイラを後ろから抱きかかえたフブキはご満悦だ。
綺麗な金髪の幼い風貌の少女。
西洋人形のようだ。
ニホン出身のフブキには珍しい上に可愛らしい。
「一度こうやって可愛い女の子を抱えてみたかったんだよねー」
「叶ったようで何よりです……」
「あ、もしかして嫌だったり……?」
「あ、いえ、そんな訳では。手つきが嫌らしいわけでもないので」
「ほほぅ……。ということは今後、レイラちゃんを抱き上げても?」
「私の目が死んでも良いのなら構いません」
「ヤメマス。けどハグまでならオーケーとみた」
「それくらいでしたら」
やったー、とフブキは喜んだ。
そしてそのまま鼻歌を歌いだす。
聞き覚えのある曲調にレイラは目を閉じた。
中断させるのももったいない。
穏やかな時間が流れる。
レイラは流されるままだ。
「ところでさ、レイラちゃんはどうして学園に?」
「あやめちゃんがいたので」
「そうなんだ。けど不安じゃなかった? 会うのとても久しぶりだったんじゃない?」
交流は途絶えていたはずだとフブキは思う。
あやめと一緒に入学しなかったのはそれが理由だろう。
仮に交流があったのならば、昔から話題に上がるはずだ。
「それはあまり。動画で相変わらずのを見ていたので」
「そっか。それなら不安は無いね」
「はい。あやめちゃんは良い子なので」
「あやめちゃんのこと好き?」
「はい」
ふと、昔を思い出す。
初めに流れ着いたのは鬼族の村だった。
今にも死にそうな子供を鬼族はすぐに保護した。
少し前に近くで悪魔が暴れていたこともある。
好意に甘えたまま日々を無為に過ごしていた。
「あやめちゃんは」
その時にあやめと出会った。
あやめに外へ連れ出された。
日が傾き始める前にはレイラが村へ連れ戻した。
朧気に守らなくてはならないと思った。
その理由は定かではない。
ただ、自分より年下だったから何となく。
だから、生きてて良い理由ができた。
素直に、死ぬわけにはいかないと思えた。
「大切な人で、恩人です」
朧気で不確かな記憶の中。
これだけは確かだと言える。
「レイラちゃん……」
その真剣な声音に感じ入るものがあったのか。
フブキは少し、レイラに回した腕に力を籠める。
きっと、その言葉は掛け値無しの本音だろう。
「そして私の妹です」
「レイラちゃん……」
唯一不可解なのはその姉への執着心だ。
アインデンティティなのだろうか。
この後めちゃくちゃ寝た(
難産でした。
次回は(裏)か(表)の裏話です。
なすときのこに中ったので失踪します。