【ホロラバ】√:AlterNative最速クリア目指す   作:鈴北岳

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5.(表) + 闇蟲模索 その2

 

 

 「死霊術師(ネクロマンサー)」潤羽るしあは地下収容所に呼び出されていた。

 保険医の悪魔、癒月ちょこと共に。

 要件は捕らえた洗脳兵の調査。

 生体面からちょこが、魂魄面からるしあが調べる手はずだ。

 

 DNA鑑定から本人の身元は割り出せた。

 数年前からウェスタ国外で行方不明になっていた獣人。

 

 しかし分かったことはそれだけだ。

 肝心の洗脳兵の施術者、暴虐の悪魔メルビレイの手掛かりは欠片も見つからない。

 記憶を浚えど出てくるのは人体実験の記憶の断片。

 顔も何もわからない。

 たちの悪いネット広告だ。

 それ以外が不自然なほどに出てこない。

 

 死霊術で体との繋がりを薄くし、魂と対話を試みるも失敗。

 ただひたすらに苦痛を訴えるのみ。

 その様は非力な怨霊のようだった。

 

 精神が疲弊した二人は休憩すべく宿直室へ向かった。

 

 休んでいたちょこが出て行ったのは三十分ほど前。

 

 同じく休んでいたるしあが悲鳴(・・)を聞き外へ出て行ったのが十分前。

 

 

/

 

 

 悪魔は見た。

 己を見つけた声の主を。

 

「ハ、は。今夜は同族に良く出会うな」

 

 緑の髪。青いドレス。

 夜闇に浮かぶは朧げな少女。

 華奢で儚く。蝶のような手弱女。

 柳の下の幽霊の方がよほど現実的だ。

 それほどまでに、気配が薄い。

 

「知ってるのね、るしあのこと」

 

「知っているとも。死霊術師(ネクロマンサー)、亡国の姫君」

 

 悪魔が滅ぼした国の王家の末裔。

 その謀略に間接的に関わった。

 下調べの資料で見た覚えがある。

 

 思わぬ因縁の相手に煽る算段を考えた。

 能力は強大だが先の美女と同じく戦の素人だ。

 一対一での危険は皆無。

 ……ここが敵地でなければ。

 

「逃がしてはくれんか? 見れば君は一人きり。ここでオレと戦うのはしんどいだろう」

 

 逃走の算段を立てる。

 恐らくこの少女はあの群れを呼んでいる。

 

 だが問題は無い。

 少女の目は悪魔を捉えていない。

 如何なる術かは不明だが、少女に分かるのは悪魔のおおよその位置のみ。

 現に少女の焦点は悪魔に絞られていない。

 

 であれば撃ち込まれるのは広範囲の攻撃魔法。

 大雑把な位置情報を元にした爆撃。

 当たれば怖いがそれだけの話。

 悪魔は銃弾、矢、魔法の飛び交う戦場を駆けた猛者だ。

 逃げることは充分可能だ。

 骨は折れるだろうが。

 

「ふふっ」

 

 悪魔の言葉を聞き、少女は笑った。

 楚々と。けれど堪え切れずに。

 目尻に涙が光る。

 

「やっぱり見えないのね、この人」

 

 ふと、悪魔は違和感を抱いた。

 地響きが無い。

 あの恐竜がこちらへ来ているのならば、足音が聞こえるはずだ。

 だが聞こえない。

 

「るしあは独りじゃないの。ねえ、そうだよね──ふぁんでっどさん」

 

 虚空を見る少女に悪魔は気付く。

 どうやら少女の周りには非活性の死霊が漂っているらしい。

 魔法で探知をしたところ、微弱な反応がある。

 

 ──この一帯に。

 

「──よもやこれほどか……!」

 

 悪魔はすぐさま駆けた。

 足音など考えない。

 臭気も気にしない。

 

 これはまずい。

 非常にまずい。

 いかに攻撃性能に乏しい死霊術とはいえ、ここまで場が整っているのであれば話は別だ。

 ──舐めてかかればあっという間に呪い殺される。

 

 

「聞こえたの」

 

 

 死霊術(ネクロマンシー)に攻撃魔法は存在しない。

 そも死霊術とは肉なき霊魂に意思を与え、交信することを目的とした魔法である。

 死者の復活はできない。

 仮初の肉体を与えることはできるがそれまで。

 死霊術師の魔力が尽きればそれで終わり。

 これが死霊術の基本であり限界。

 死者の魂を魔法で繋ぎ止める。

 死霊術にできるのはそこまでだ。

 

 だが。

 繋ぎ止められた霊魂にはできることがある。

 

 基本、彼ら(・・)は死霊術師と会話しかできない。

 周囲の状況の把握、記憶もできるがそれも死霊術師の魔力に依存する。

 尽きればそれまでで、術師から離れて行動するにも制限がある。

 ふわふわ浮いている人工知能付きのカメラと見做して構わない。

 それほどまでに死霊術師の霊魂は貧弱だ。

 本当に、繋ぎ止められているだけの存在だ。

 

 霊魂はそこにあるだけ。

 死霊術師は繋ぎ止めるだけ。

 

 死霊術師の第一歩は霊魂を認識することだ。

 存在を見るか、声を聴くか。

 死霊術師の少女、潤羽るしあは見て聞こえて触れられる。

 天性の素質だ。

 

「悲鳴が聞こえたの、苦しそうだった。胸が締め付けられる想いがしたの。痛いのね、苦しいのね、辛いのね。分かるよ、聞こえたから。知ってるよ、聴いてきたから──」

 

 緑の髪が染め上がる。

 薄い紅色。

 皆既月食の月のよう。

 夜の海(ナイトメア)に浮かび上がるような。

 

 紅い瞳が非業の魂を捉える。

 

「その悪魔にやられたのね(・・・・・・・・・・・)」

 

 ぞわりとした。

 姿は見えていないはずだ。

 現にるしあの焦点は悪魔に無い。

 変わらず悪魔の近くを見ているが──見ている?

 

 悪魔は右手に持つ洗脳兵の頭部を翳す。

 己の顔のすぐ横。

 るしあを見るように、その洗脳兵の頭を向けて──

 

 ──目が合った

 

「傑物め」

 

 悪魔は笑い、洗脳兵の頭部を握り潰した。

 飛び散る脳漿と鮮血。

 幻影の魔法が悪魔のものに上書きされる。

 

 片手で肉塊を固め、るしあへ投擲。

 魔法で補助。弾丸同等の速度で迫る。

 

「大丈夫」

 

 速度はすぐに落ちた。

 水の中に落ちたかのように緩やかに。

 最後にはふわりとるしあの腕に収まった。

 

 血に汚れるのも厭わず、肉塊を抱きしめる。

 

「大丈夫だよ、もう大丈夫。るしあに任せて」

 

 強く、強く、慰めるように。

 抱きしめて。

 

「大丈夫だよ。るしあは弱いけど、るしあの力は強いから」

 

 虚空へと語りかける。

 

「許せないよね?」

 

 焦点の合わぬ瞳が虚空を見る。

 

「るしあは許せないよ、ううん、絶対に許さない。ねえ、ふぁんでっどさん、るしあ、まだ見えないの。許したくないけど、見えないの。聞こえもしない。凄いよね、ここまでしっかり隠れられるなんて、本当に凄くて……許せない。

 ねえ、悪魔さん、どうしてこんなことしたの? この人、とても痛い思いをしたの。とてもとても痛いって叫んでいたわ、今も言葉を出せないくらいに、過去のことも思い出せないくらいに。

 ──酷いよね、惨いよね、許せないよ、絶対に絶対に絶対に……」

 

 悪魔は既に逃げ出している。

 姿をくらまし、大きく迂回し、隙間を縫うように。

 最早恐竜はごまかすのは難しい。

 距離は稼げている。

 ここまで攻撃魔法を届かせるのは難しい。

 

 だが。

 

「絶対に許さない」

 

 なぜ、ここまで声が届いているのだろう。

 

 

「許さない、許さない、許さない……!!

 ぜっったいに許さない!!!

 ねえ──力を貸して、ふぁんでっどさん!!

 るしあ怒ってるの!

 とてもとても怒ってるの!!

 だって、ねえ、だって──!!

 ──こんな最期、許せない!!!」

 

 

 希代の死霊術師(ネクロマンサー)が叫ぶ。

 魔性の叫び声が遠く遠く響き渡る。

 

 霊魂はそこにあるだけ。

 死霊術師は繋ぎ止めるだけ。

 

 ──繋ぎ止めて、その存在を確立させる。

 

 霊魂の意思が発露する。

 術師に与えられた力を依り代に声を上げる。

 許せないと、許さないと。

 るしあの怒りに呼応して──怨みを持った。

 

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ──────ォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン…………!!!!」

 

 

 ──怨霊が顕現する。

 八百万(やおよろず)に劣るも、顕現した百万もの怨霊。

 

 薄紅色の怨の大群。

 非業の魂の残り香に呼応し疾駆する百鬼(霊)夜行。

 

 古めかしい鎧を纏う巨大な髑髏。

 手には大剣、あるいは大槍、あるいは大弓。

 戦慣れした巨躯の怨霊共が確かな質量と共に、殺すべき敵へと進軍(・・)を開始した。

 

「ああ、これは逃げられん」

 

 詰んだな。

 悪魔は静かに己の敗着を悟る。

 これが烏合であれば逃走は叶った。

 だが放たれる矢からして歴戦の猛者共。

 大剣と大槍の構え方も風格がある。

 

 計画の遂行を優先するならば、情報を抜かれぬために即座に自害するべきだ。

 しかし敵は悪魔の保険医と死霊術師。

 ただ(・・)死んだところで意味が無い。

 医術も死霊術も修めたからこそ良く分かる。

 

 定石であれば霊魂の奪い合いだが、るしあと怨霊は深く強く繋がっている。

 奪うことは不可能。

 

「で、あれば──滅ぼすしかあるまい」

 

 悪魔が虚空に手を翳す。

 己の得物。

 悪魔の槍。

 

 ではない(・・・・)。

 

「『転送』──三叉槍(・・・・・・)」

 

 音と意味が一致しなかった。

 三叉槍。認識できたのはそれだけ。

 

 悪魔の手に三叉槍が握られる。

 骨の如くに白き槍。

 

「お前は……!」

 

 それを見てるしあは激高した。

 纏わりつく無念、怨念。

 白き槍に半死半生の霊魂が繋がれていた。

 

「ああ、やはりまだ生きているか」

 

 悪魔が嘲り笑う。

 口が三日月のように吊り上がった。

 

「使えなくなった時には死んだとみても良いのかな?」

 

「──ぶち殺す」

 

 魔力が猛り瘴気が噴き出す。

 

 一帯の生物は皆逃げ出した。

 これほどの瘴気、浴びれば1分と保たない。

 

「優しいことだ」

 

 通常であれば。

 

 この悪魔は冷酷なりし暴虐。

 この世で最も悪魔らしい悪魔。

 狂気、瘴気、怨念──激情。

 たかが劣等の不満など微風(そよかぜ)に劣る。

 

 月の瞳が瞬き、狂気が再演された。

 記録の再生による狂気の増幅。

 怨念を狂気で相殺する。

 

 元より激情は狂気である。

 いかな怨霊といえど、自身を上回る狂気を前にしては怯みもする。

 

 その間隙を貫き、三叉槍が奔る。

 激流の如く滑らかに、怨霊を消し飛ばした。

 

 るしあはその軌跡にあり得ざるモノを見た。

 

「光──浄化の魔法……!?」

 

「お目が高い」

 

「悪魔には使えないんじゃないの!?」

 

「そうとも。だからこの槍から放たれている」

 

 魔族は光、聖に分類される魔法は不得手だ。

 中でも悪魔は種族の特性から使用することが不可能である。

 

「天使を生きたまま加工するのには手を焼いたぞ。文字通りにな」

 

 嘲笑する。

 手を焼いたが刺激的だった。

 

 悪魔は光と聖に弱い。

 特に悪魔祓いに特化した聖句など致命的だ。

 術者の能力にもよるが、ただの人間が唱えるだけでも悪魔には耐えがたい。

 天使が唱えた暁には致命的だ。

 

 だというのに、この悪魔はそれをねじ伏せた。

 

 この話から推察される眼前の悪魔の脅威度は高い。

 先ほどちょこからきた念話でも、逃走を第一にするように告げられていた。

 いかに有利な場といえど、敵は百戦錬磨の悪魔。

 仲間のふぁんでっどの消耗も激しい。

 悲しいことに数十名繋ぎ止め損ねた。

 逃げるべきだ。

 

 だが、ぶちギレたるしあには関係無かった。

 

「ア──ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

 叫び、突貫する。

 潤沢な魔力にモノを言わせた特攻。

 呼応し猛る怨霊も背中を押す。

 

 あっという間に距離が詰まり、るしあはナイフを振り下ろした。

 

(稚拙だな)

 

 技術も何も無い。

 バッティングのボールめいている。

 ナイフが纏う呪詛こそ恐ろしいが当たらなければどうということはない。

 

 三叉槍でナイフを払──えない。

 

「ぬ」

 

 間近で爆ぜる魔力──怨霊。

 るしあの体を怨霊が覆っている。

 パワードスーツのようにるしあを補助している。

 

(抜かった。術者との距離が縮まればその影響力が強まるのは当然だ)

 

 光纏う三叉槍で払えぬ怨霊と瘴気。

 あっという間に悪魔の全身は怨霊に拘束された。

 

「ハ、は。酷い油断だ」

 

 鍔迫り合う。

 魔力を身体の保護と強化に回し、ナイフと拮抗する。

 

「こっ、ノ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛!!!」

 

「女らしからぬ声と力だな」

 

 嘲り軽口を叩くも悪魔に余裕は無い。

 怨霊に拮抗すべく、出力を上げた三叉槍の光力に手が焼かれている。

 

「降参、したら!? そしたらふぁんでっどに加えてあげる!」

 

「結局殺すのか。それはできない相談だ」

 

「お前みたいなのは体がある限り何でもするでしょう!? 染みついてるの、たくさんね! こうしている今でも、お前を呪う声が響いている!!」

 

 悪魔はその言葉に目を見開いた。

 死霊術師が感じ取れるのは霊魂のみだ。

 霊魂の残滓の認識は不可能とされている。

 

 霊魂の残滓は混ざる。

 混ざり、高まったものを瘴気・呪詛と呼称する。

 あらゆる生命に害を与える「良からぬもの」だ。

 その実態は不確かで、害の振れ幅も大きい。

 微かな冷気から即死させるものまで。

 解明できぬ「良からぬもの」と化す。

 

 それを潤羽るしあは認識している。

 大戦期を駆けた悪魔ですら、そんな死霊術師を見たのは初めてだ。

 潤沢な魔力と類稀な資質。

 正真正銘の傑物だ。

 

「道理で節々が痛いわけだ」

 

 だからこそ悪魔は笑う。

 嘲り笑う。

 楽しくて仕方がないと笑うのだ。

 

「だが所詮劣等よな。それほどの数を以てなお、憎きオレを害せるのがその程度とは。ハ、は。生きていようと死んでいようと大差無いとは、哀れよなぁ」

 

「お前……!!!」

 

「何百だ? あるいは千か? 恨みなど買い過ぎてとんと検討が付かんわ」

 

 笑う。笑う。嘲り笑う。

 

 ジリジリと迫るナイフを前に悪魔は笑う。

 些事と、劣等と。

 オレに劣るゴミクズと嘲り笑う。

 

 るしあは目を見開き悪魔を睨む。

 刺し殺さんばかりの視線だ。

 

「ああ、微風にも劣る。この滾る熱情に差すほどもあれば、使い道があるというのに──」

 

「──黙れ! もう喋るな!!!」

 

 怨霊が一瞬爆ぜかけた。

 その直後に悪魔の四肢がねじ折られた。

 

 急激に魔力と呪詛を注がれた末の、怨霊の怪力だ。

 

 当然、三叉槍を持てるはずもなく。

 るしあのナイフが悪魔の心臓に突き立った。

 

 月の瞳が輝く。

 狂気の再演がるしあに叩きこまれる。

 

 かつて在りし末世の呪詛。

 悪魔が誇る最も消費が軽く、効果が高い狂気の呪い。

 

 

 ──死ね、お前が生きるなんて許さない──

 

 

 死ね、と。許さない、と。

 死を希う悪霊の再現。

 狂死を願う最低最悪、必殺の呪詛。

 対象の精神に直接作用する瘴気だ。

 呪詛・瘴気への抵抗が高くなければ一瞬で死ぬ。

 

 だが。

 

「──ごめんね。聴いてあげられなくて」

 

 そうした呪詛は聴き慣れている。

 十五世紀にわたり聴き続けている。

 

 よって狂死することも、ましてや狂うこともなく。

 

 この手は、なすべきことをなすのだ。

 

「でも、こいつは殺すから」

 

 もう、貴方達を苦しませたりしないから──。

 

 るしあはナイフを突き立てた。

 

 何度も。

 何度も何度も何度も。

 

 今なお嘲り笑う悪魔に、何度も何度も突き立てた。

 

 

 

/

 

 

 

「はーい、それまで。私の検死が大変になるからそれまで」

 

 どれほどの時間が経ったのか。

 るしあの後ろにちょこが現れた。

 

「ちょこ先生……」

 

「もう死んでるわ、そいつ。……凄いスプラッタホラーね。ああ、ほら、泣かないの。可愛い顔だけど見ていて可哀そうになるわ」

 

「うん……」

 

 ちょこは魔法でるしあの返り血を取り除き、ビンに収集する。

 そして黒い人型を呼び出し、悪魔の死体のみ(・・)を「転送」させた。

 

「最低なやつでしょ? 悪魔にも恐れられていたのよ、あいつ。いつ寝首をかかれるかわからないって」

 

 その死体を見送って語り始める。

 ちょこはメルビレイの悪評を知っていた。

 

 メルビレイは悪魔の中でも悪辣だ。

 元来悪魔はそうした性質があるが、より多くの種族との邂逅によってメルビレイの特異性が目立った。

 

 悪魔は悪辣であるが、契約を重視する。

 契約こそが悪魔の譲れぬ一線、尊厳である。

 何をしても許されるからこそ、契約という尊厳は命よりも重い。

 

 だがメルビレイはそうではなかった。

 彼は何よりも己の欲望を優先した。

 大戦期、彼は他種族の協力者との契約を破り、その最期までを使い潰した。

 それを何度も繰り返した。

 この大戦に勝利するという、己との契約だと嘯いて。

 

「魔族、悪魔との契約は破らなかったみたいだけどね。ま、破った際、契約者と目撃者丸ごと皆殺しにしてるそうだから、真偽は定かじゃないわ」

 

「……あの、どうしてそれをるしあに……?」

 

「本気で憎んで良いからよ。あんな外道は殺って正解。報いを与えるために、とっとと昇天させても良い。何ならあいつの霊魂しょっ引いて、ノエル様かかなた様に浄化してもらっても良いわ」

 

 るしあは霊魂になったものを憎めない。

 彼らの言葉を聴いてきた経験もあるが、たくさんの死を目の当たりにしてきたこともある。

 死はとても苦しいものだ。

 その苦痛を知るからこそ、死んだ以上は憎めない。

 からかいが過ぎたら当たるし叫ぶし怒るが。

 

「……じゃあ、さっさと手放すのです」

 

「あら? 二人には頼まないのね」

 

「そんなやつなら、友達に見せたくないのです」

 

「それもそうね。可愛い女の子の目を汚しちゃうもの」

 

 るしあは悪魔の霊魂を繋ぎ止め、ふぁんでっどに警戒させている。

 一度、死霊術を使った気配があったためだ。

 死霊術師の霊魂はしぶとい上に、霊魂のできることを把握している。

 怨霊と化して厄介事を起こされるのは面倒だ。

 

「じゃ、さっさと済ませちゃいましょう。腰を落ち着けて、ね」

 

 「テレポート」を使用する。

 

 ちょことるしあは収容所の一室、特別な魔法防護が為された部屋で、悪魔の霊魂を尋問して。

 

 

 

 

 メルビレイならざる悪魔の悲鳴を聴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

/

 

 

 

 

 

 瞳と槍は忘却の手の内に。

 

 燃えるアジトを蟲の目に映し、悪魔は笑う。

 

「手痛い出費だ」

 

 数少ない貴重な生体端末(・・・・)の喪失と、己の業の一端の流出。

 かつて御輿にし損ねた古き悪魔に己の術理は解明されよう。

 

 だが猶予はある。

 肝心要の三呪の義眼(TriaMagiesMatioy)は回収した。

 義眼が抑えていた瘴気は内臓の腐乱を早め、腐り果てた脳は、寄生させた蟲が食い荒らしている。

 解明は早くて一年。

 以降は義眼の製造が難しくなる。

 

「さて、あれも動けなくなるだろうが、ムリに構う必要は無い。ここから先は検証で事足りるだろうし、仮に行き詰る頃には警戒も下がっていよう」

 

 ばったり会ったのならばまた端末を窓口に使えば良い。

 あれはあれで破格の護衛だ。端末もタダではない。

 加えて彼の目的への協力もそう難しくは無い。

 戦乱の最中に人質の一人でも立てれば事足りる。

 

 だからこそ、新たに注意を払うべきは一人。

 

「レイラ・ポーンズ」

 

 猛禽類の獣人。

 タカだのコンドルだのと嘯いている正体不明の獣人。

 あの翼の形に見覚えはある。

 見覚えはあるが思い出せない。

 

 であれば、この眼(・・・)になる以前に滅ぼした獣人か。

 

「く、ハは」

 

 笑う。

 いつもそうだ。そうだった。

 

 過去は忘却より襲い来る(・・・・・・・・・・・)。

 

 懐かしい。とても懐かしい。

 大戦期には良くあることだった。

 傲慢な悪魔が滅ぼし損ねた劣等が襲い来る。

 その尻拭いに己はいつも奔走していた。

 信用・信頼を得るためではあったが、そうした傑物(・・)は貴重なインスピレーションになる。

 

「丁度良い。久方ぶりに怨霊でも扱うか」

 

 「狂気の呼声」の術理は完成している。

 強制的な発狂、その果ての死。

 精神への作用は熟知している。

 

 自殺願望へと調整するか。

 被験者は感受性の高い人族が良い。

 多少面倒だが復讐目的の怨霊でも作るべきかな。

 ムリヤリ憑かせ、変化を促すか。

 

 それが良い。

 あれも要は復讐だ。

 自殺めいた復讐。

 ああ、その線で試そう。

 

「ハ、は──愉しくなってきた」

 

 月煌々と悪魔が笑う。

 

 瞳は変わらず、狂気をたたえていた。

 

 

 







意図せぬ予約登校が起こってしまったので疾走しました。


次回は裏。



・TriaMagiesMatioy
 散々「月の瞳」とか称した義眼。
 この呼称は二度と使われない。ノリ。文法間違い疑惑。
 自身を「暴虐の悪魔」と思い込むようになるが、忘却、記録、幻影の三種類の魔法が使えるようになる。


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