【ホロラバ】√:AlterNative最速クリア目指す   作:鈴北岳

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お待たせしました。
日常が苦手なので不登校になります。







6.(表)日々は回る その1

 

 

 翌日は朝から最悪だった。

 

『昨夜未明、住宅地のアパートの一室で原因不明の火災が──』

 

 ニュースキャスターが告げる。

 テレビ画面には見覚えのある住宅地が映っていた。

 というよりレイラが住んでいた場所だ。

 

 フブキとクロは閉口した。

 何も言えなかった。

 昨日に引き続き、事情聴取をしに来た警察官ですらレイラを気の毒そうに見ていた。

 

「──ご協力、ありがとうございます。火元は屋内からなので事故だと見込みです。ただし、ポーンズさんは先日のことがありますので、その報復であるという線もあります。しばらく一人で行動することは避けてくださいね」

 

 警察・検察は有能だが完璧ではない。

 そのことを悔しくも良く理解している上での忠告だった。

 

 あやめからメールもあった。

 心配させてとても心苦しい。

 しばらく同じ部屋で住まないかという提案があったが、申し訳ないので断った。

 

「え゛、断ったの?」

 

「あやめちゃんに迷惑かけたくありません」

 

「……そっかー。でも家はどうするの? 一応、白上も色々調べてみたけど」

 

 はいこれ、と気軽に渡される。

 いつの間にまとめていたんだろう。

 

 礼を言って、物件を読み込んでいく。

 条件が良さそうなのが一軒。

 家具付きの2LDK。

 

「こことか良さそうですね」

 

 そう言った後はとんとん拍子だ。

 ざっと内見を済ませ、問題が見られなかったので即入居。

 フブキとクロにお礼を言い、携帯端末の記録を読み込んで、衣類と家電を買いに行った。

 

 その際、フブキとクロが同行を申し出たが断った。

 暗くなる前に帰る予定だ。

 明るいうちの襲撃はないだろう。

 

 駅前で最低限の衣類を買い、家電量販店へ。

 

「お、レイラちゃんじゃん。パソコンでも選びに来た?」

 

 その店にぼたんがいた。

 

 事情を説明すると気の毒な顔をされた。

 

「災難だったね。それで買いに来たと」

 

「うん。幸い、家電付きの部屋に移れたから」

 

 雑談をしつつ、パソコンを見ていく。

 ぼたんは詳しいようで、レイラのしたいことを告げると、次々と必要なスペックを挙げていく。

 

「FPSするんだ」

 

「あやめちゃんが好きみたいだし、やってみようかなって」

 

 お祖母ちゃんみたいだな。

 そんな感想をぼたんは飲み込んだ。

 微妙に若者文化に不慣れなのがらしい。

 

「じゃあ、コラボしない? 今度」

 

「やりましょう。ぼたんちゃんに教わればきっとあやめちゃんを驚かせられるはず……!」

 

「いいねえ。私もあやめ先輩には借りがあるからね。全面的な協力を約束しよう」

 

 望外の機会にぼたんは柄にもなく血が滾った。

 リベンジは早ければ早いほど良い。

 

「ちなみに資金はどれくらい?」

 

「……20万くらいかしら。ネットで調べるとそれくらいだったから」

 

「充分も充分だね」

 

 専門店へ連れて行く。

 ここの品揃えも悪くは無いが、選択肢が狭い。

 

「へえ、科学の授業」

 

「ちょうど最近、電磁波の勉強してるし雑談も兼ねてしようかなって」

 

「そりゃ面白そうだね」

 

「うん。けど、皆がついてきてくれるか少し心配なんだよね……」

 

「確かに、続きモノだと難しいか」

 

 どの回にも初見はいる。

 固定客を掴むことも、新規を掴むことも大事だ。

 馴染みと真新しさの配分は誰でも悩むことだ。

 その時の波もある。

 

「ぼたんちゃんはどうするの?」

 

「私は色んなゲームをサクサク進める方でやるよ。得意だし」

 

「……ううん、やっぱりゲームは人気だよね」

 

「あー、あまりやったこと無さそうだもんね。レイラちゃんならすぐに慣れると思うけどな、私」

 

「覚えることが少ないものはできたよ。ただ、最近のゲームは説明書が無くて、少しとっつきにくいのよね」

 

「そりゃ意外だ。むしろ説明書が無い方が楽じゃない? 最近のはチュートリアルとか凝ってるし、ゲーム内で確認できるよ」

 

「なんか電力がもったいなくて……」

 

「気になるのそこなんだ!?」

 

 思わず笑ってしまう。

 この妙なギャップがぼたんは気に入っていた。

 

 

 

 

 無事にパソコンは購入できた。

 ぼたんの協力もあり、早く家に着いた。

 パソコンのセットアップを済ませてジャージに着替え、電気釜にカレーをセットして日課の鍛錬を行う。

 

 独りで行動するなとは言われたが、近所ならば良いだろう。

 それに見つかったところで問題は無い。

 まさかこんなに早く狙われるとは思っていなかったが、想定の範囲内だ。

 同居人もいない。

 

 陽が落ちてすぐに帰宅し、食事をして資料を作る。

 白銀印の牛乳を飲みながらカレーを食パンで挟んだものを頬張る。

 辛さは痛みだ。牛乳で消化器を保護しつつ食べる。

 

 パワーポイントを組み立てているとチャイムが鳴った。

 

「……来客の予定は無かったはずだけど」

 

 手帳を確認し、ワイヤーを腰に提げる。

 そしてテレビドアホンを確認して。

 

「はい、どなたですか?」

 

「こっ、……こっ、こっ……コ……ン、ァ……ぁー」

 

 見覚えのある上級生が盛大にキョドっていた。

 謎にキャリーバッグもあった。

 

 ……。

 

 無心でドアを開ける。

 正直、こんな先輩の姿を見たくは無かったが、湊先輩らしいといえばらしい。

 

「こんばんは」

 

 極力自然体を意識した。

 緊張は相手に伝播する。

 何なら既に伝播している。ダメだった。

 

「……」

 

「……」

 

「……あの、上がりますか?」

 

「アッハイ」

 

 こんなダメなやり取り、したくなかった。

 

 上げて、キャリーバッグは玄関に置いて、二人は対峙した。

 

「どうぞ、粗茶ですが」

 

「アリガトウ」

 

 カチコチ過ぎて困った。

 キャリーバッグを引っ提げて来た以上は何かしらの要件があるはず。

 

 考える。

 正直、話を促すのが一番簡単だが、これ以上緊張させるのは忍びない。

 早くに要件を言い当てて、話を進めるのが一番だが。

 

「……」

 

 頭が痛い。

 一番可能性のある要件は一番断りたいものだ。

 自分が危険人物であるということを理解しているために。

 

 だが、断ることは不可能だろう。

 

「……住み込みの護衛ですか?」

 

 パア、とあくあの顔が晴れた。

 ぶんぶんぶんと頷いて。

 

「そう! 凄腕プロゲーマーの(あてぃし)が貴女を守ってあげる!!」

 

「え、メイドじゃないんですか」

 

「……凄腕プロゲーマーのメイドが守ってあげる!」

 

 ふふーんと存在感のある胸を張る水色メイド。自分の胸を見る。

 勢いを見る限りキメ台詞のようだが、安心できる要素が無かった。

 

「……え、つよつよ護衛の可愛いメイドって()えない?」

 

「大変()えます。湊先輩は文句無しに可愛いですし」

 

「でしょ!! でもなんでそんな嬉しく無さそうなの……? 私、憧れの先輩じゃないの……? あやめちゃんのことはあんなに好き好きオーラだしてたのに」

 

「姉は妹が好きなものです。いえ、ではなく。私、あやめちゃんからの同居を断ったので……」

 

「メイドと剣鬼は違うから大丈夫だよー!」

 

 ケラケラと笑うあくあ。

 その変わりように驚くが、コミュ障はこんなものだ。

 人が好きであることと、適切な距離感が苦手であることは両立する。

 

「それにきちんと理由もあるし。……えっと、クロ先輩からお手紙預かってるんだけど」

 

 はいこれ、とポシェットから手渡される。

 

「これ見せれば頷くって聴いてるよ」

 

「湊先輩は知らないのですか?」

 

「……私は知らない方が良いって」

 

 ずうん、と落ち込んだ。

 レイラは厄介事を察した。

 

『嘘を見抜くあやめが適任だったが、悪意・敵意に敏感なあくあを遣る。あと原理は不明だがメルビレイは他者の肉体を乗っ取る。気をつけろ』

 

 二度、三度読み返して記憶する。

 あやめ、あくあ、クロ、メルビレイの記憶に情報を紐づける。

 そして、雷で手紙を焼却した。

 火災報知器が鳴らぬよう、煙は風で散らす。

 

「うえ!? 何したの!?」

 

「情報の保護です」

 

 手慣れた様子でレイラは灰を生ごみの袋に捨てた。

 

 湊あくあが単独行動を得意とすることは知っている。

 不意打ちに強いことも。

 何だかんだで生き残っている。

 そんな印象だ。

 

 確かに適任ではあるが……。

 

「どうしたの?」

 

 小首を傾げるメイド。

 学園でも上位の先輩だ。

 とても頼りになる。

 

 加えて可愛らしい。

 同性であれ、整った者は目の保養になる。

 

 だからこそ問題は──。

 

「湊先輩」

 

「あくあで良いよ!」

 

「では、あくあ先輩。家事は当番制になりますが」

 

「ま──任せなさいよぅ! プロゲーマーの腕を見せてあげる!」

 

 任せたくないなぁ。

 

「私もまだ年頃ですので、いない時に部屋に立ち入らないでいただきたいことと」

 

「うんうん」

 

「料理は個々人で作りましょう」

 

「うん! 美味しい手料理を振舞っ……て、何で!?」

 

 様子見させてください。

 

 この後メチャクチャはぐらかした。

 

 

 

 

 目覚めは少し遅かった。

 

 手帳を確認する。

 あくあ先輩が来て、同居が決まって、分担を決めて……そうだ、配信の準備も手伝ってもらった。

 流石の手際の良さで、もう二日はかける予定だったのが一日でできてしまった。

 

 あくあの部屋の扉を叩く。

 返事は無い。

 朝は遅いのだろう。

 

 レイラは作り置きのカレーを出汁で薄め、うどんで食べた。

 米は明日に届く。

 それまではパンとうどんだ。

 

 再び扉を叩く。

 

「はぁーぃ……」

 

「おはようございます。朝食にカレーうどんを用意してますので、用意したものが無ければどうぞ」

 

「ありがとぉー……」

 

「では、先に行ってきますね」

 

「いってらっしゃーぃ……」

 

 護衛対象を一人にしたことに気付き、目が覚めたあくあが絶叫するまであと5分。

 

 レイラは飛んで登校した。

 道中同じく飛行する通勤者がいたので挨拶して。

 

 学園に着いてすぐ、保健室へお邪魔した。

 

「失礼します」

 

「はーい、レイラ様、いらっしゃーい」

 

 声だけでわかるのか。

 レイラは少し驚いた。

 

 入ると微かに甘い香りがした。

 カフェラテだろうか。

 

「初めまして、癒月ちょこです。レイラ・ポーンズ様、で合ってるわよね?」

 

「はい。癒月先生」

 

 ちょこで良いわ、と。

 言って、じぃっ、とレイラを見た。

 

「……やっぱり若いわね」

 

「はい。……はい?」

 

「というより、幼いわね」

 

 レイラの目が淀んだ。

 どうして初対面のオトナな美女にそんなことを言われなくてはならないのだろう。

 思わず自分の胸を見た。

 

 ちょこの手が伸びてレイラの頬を触る。

 

「……めちゃくちゃ柔らかいわぁ」

 

「……きちんと手入れはしてますので」

 

 為すがままにされる。

 すぅっと顔の傷跡を撫でられた。

 微かな熱を持つ。

 

「顔は良し。じゃあ腕と背中かしら?」

 

「え。はい」

 

 いつの間に。

 

 促されるままに袖をまくり、背を向けて髪をかき上げた。

 

「鳥類の獣人はこういう服が好きなのね」

 

「そうですね。男性は特に」

 

 指先が傷跡をなぞる。

 ただそれだけできれいさっぱり消えていく。

 本物の魔法のようだった。

 

 そのついでとばかりにちょこはレイラの体を触診した。

 

「うん。問題無いわ。健康優良そのもの。その体の若さは気になるけれど、きっと『次元統合』による良く分からない現象ね」

 

「確か『異世界習合』でしたっけ」

 

「そ。あんまりにも複数世界の『伝承』が『伝承』通りに混ざっているから、少しでも辻褄を合わせるために習合したんだろうっていう仮説」

 

「仮説なんですか?」

 

「そうよ」

 

 今は常識みたいだけどね、と。

 レイラの金髪を触りながら。

 

「1500年ほどかしら? 獣人でその寿命はちょっと難しいから、何か混ざっちゃっていると思うわ」

 

「何か影響はあるんでしょうか?」

 

「分からないわ。ただ身体能力自体は他の獣人と変わらないみたいだから、他に何も無ければ老い方の問題ね」

 

「老い方」

 

「老いて死ぬか、老いずに死ぬか」

 

 そのままの姿か、そうではないか。

 

 ちょこはレイラの腰を触って。

 

「……小学生、いえ、ギリギリ中学生かしら」

 

「先生???」

 

「何でもありません。老いるのなら、レイラ様の寿命は1万歳くらいね」

 

 どこを触っての判断だ。

 

 レイラはきゅっと唇を引き結んだ。

 とても悲しいことを言われた気がする。

 でも同時に希望もできた。

 ワンチャン(OneChance)ある。

 

「老いなければ、いつ死んでもおかしくないわ」

 

「──」

 

「なので、卒業しても(・・・・・)定期的にここに来なさいな。そこまで長命なら、混ざっているのは精霊の類よ。初診料がかかる月一がお奨めね」

 

 消えるように死ぬのは酷い話だから、と。

 そう締め括った。

 

 

 

 

 

 

 ありがとうございました。

 

 言って、保健室から出る。

 

 そろそろ講義だ。きちんと受けなければ。

 

 そうして顔を上げると、眼の前に鬼がいた。

 

「──」

 

「──」

 

 ……あと少しで悲鳴を上げるところだった。

 見覚えのある僧衣の鬼でなくば間違い無く悲鳴を上げていた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……、あの、何か?」

 

「……」

 

 鬼は。

 じぃっとレイラを見ていた。

 

 初対面。のはずだ。

 仮面を被った鬼とは会ったことがあるが、仮面を被った僧衣の(・・・)鬼とは初対面だ。

 

「……いいや、何も」

 

 長い沈黙の後、僧衣の鬼は小さく頭を下げた。

 謝罪らしい。

 

「新入生のチャンピオンで相違無いな? お嬢さん」

 

「え」

 

 会話するの。

 この状況で。

 

「あ、はい。レイラ・ポーンズです。……タケクラ先輩、ですよね?」

 

「そうだ、お嬢さん」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙。

 

 この人は何をしに来たんだろう。

 

 すると鬼、タケクラは軽く溜息を吐いて。

 

「先日の戦闘、見事だった。魔法に依存した武器の扱いには驚いたし、拙いとは思ったが、その戦術眼は素晴らしい。君は間違い無く大成するだろう」

 

「……ありがとうございます」

 

「……」

 

「……」

 

「……それだけだ。すまない、時間を奪ったな」

 

「いえ……」

 

 タケクラは保健室の扉に手をかける。

 

「あの、講義は……?」

 

「保険医からの呼び出しでパァだ。お嬢さん、俺が言えた義理では無いが、素行不良は面倒だぞ」

 

「はぁ……」

 

 タケクラは保健室に入って行った。

 

「……」

 

 廊下を歩く。

 

 ……いやほんと、あの人は何がしたかったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしかしてロリコンなの?」

 

「開口一番にそれですか、癒月女史」

 

 僧衣の鬼は呆れた。

 その反応にちょこはもっと呆れた。

 

「不審者丸出しよ」

 

「…………それは悪いことをしたな」

 

 踵を返す。

 タケクラは謝りに行こうとして。

 

「授業前だからダメよー」

 

 いつかのように、体の周囲の空気を固められた。

 けれど、指の先までしっかりと。

 

「パワハラですか?」

 

「それでも動けるでしょう? 生成りのタケクラ様なら」

 

 確かに動かせる。

 いつかほど強固ではない。

 

 ……分かってはいたがバレている。

 タケクラは溜め息を飲み込んで。

 

「何用ですか?」

 

「黙っててあげるから、メルビレイとの取引、全部吐きなさい」

 

 その言葉にやはりか、とタケクラは諦めて、続く言葉を予想した。

 

 まあ大方、二重スパイだろう。

 

 

 







息抜きにバトルを書いていたら日常回が書けなかった罠。
百合ってどう咲かせるんですかね……?

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