まだ
事情も聞かずに家に置いてくれた。
無二の親友を一緒に連れて来てくれた。
温かいご飯、寝床、そして…家族。
汚ならしいホームレスに、手を差し伸べてくれた。
しかし反面、誰かに恨まれていたりするのではないかとも思ってしまう。
家もなく、家族もいない、そんな状況での暮らし、当然似た境遇の知り合いも出てくる。
自分だけが幸福な道を選んでいいのか。
この『幸せ』は、彼らにとっての『嫉妬』に繋がるのではないか。
自分はまだ、路上で暮らす方がいいのではないか。
そう考えてしまう。
だから、僕は家を出た。
いや家出ではない。
ただ出掛けただけだ。
過去に助けられた人達に、せめてお礼の一つ、報告の一つでもしなければ、僕の『幸せ』は、『罪』として残り続ける。
せめて、いくら罵られようと、暴力を振るわれようと、彼らにお礼をしなければ。
今の自分は確かに幸せだ。
しかし前の生活でも、確かに幸せだった。
たとえ食事が貧しくても、道行く人に汚ないと罵られようと、あの頃の生活も、確かに幸せだった。
親のような接してくれたよき隣人達。
彼らも間違いなく、一つの家族の形だった。
だから、罵倒や暴力が怖くとも、彼らの元へと向かうのだ。
―――――
僕が暮らしていたのは、あの公園じゃない。
近くの河川敷に、ホームレスの集まりみたいな場所がある。
そこで暮らしていたというのは少し違い、日によっては路地やそれこそ公園にいたりした。
僕は今、その河川敷にいた。
見知った顔、よく知る場所、誰だという疑念の視線。
しかしそれは、一人のおじさんの一言で消えた。
「お前…光希…か?」
「…おじさん。」
ホームレスとして一年の間、彼はずっと、僕を守ってくれた。
彼もまた、僕の父親だった。
だから怖い。
彼に拒絶されることが。
嫌われることが。
妬まれることが。
しかしそれは…そう思っていたのは…僕だけだった。
「…光希…よかったな。」
「…え?」
「身なり見りゃ分かるだろ?誰か引き取ってくれる人でもいたか?それとも仕事でも貰えたか?何にしろお前は、この生活から抜け出したんだ。」
「…僕は…」
「お前のこった。どうせ自分だけ…みたいな感じで少し負い目でも感じてんだろ?なぁ?」
「………」
図星だった。
信じた人に責められることが怖いから、自分が裏切ったから、幸福になることが怖かったから…僕は、泣いた。
静かに、涙を滴らせた。
彼らは責めるどころか祝ってくれた。
なけなしのはずの食料を、少ない体力を、ごみ溜めを掃除してまで、僕を祝う。
「どうして?」
「ん?何だ?」
「だって…僕は自分だけが救われたんだよ?皆を置いてきぼりにして、僕だけが…」
「…ははは!何言ってんだ!ガキが大人に遠慮するもんじゃねぇぜ?なあ?」
『そうだそうだ(笑)』
「俺らは自分の意思でここにいる。勉強サボって、学校サボって、働くのも嫌で、こんなごみ溜めに落ちて来た。」
「ごみ溜めじゃねぇだろ~」
「一緒にすんじゃねぇよ~」
「同じだろーが。まあ、それでもな…お前みたいにそれしか道がなかった奴なんて、ここにゃ一人もいねぇよ。何せガキはお前だけだからな!ははは!」
そう言い彼らは笑う。
河川敷を通る一般人が引く程に、大声で笑う。
まるで面白いものでも見たかのように。
事実そうなのかもしれない。
僕は彼らにとって、珍妙な生物に近かったのかもしれない。
「俺らは言えば敗北者だ。努力しないでただ敗けたプレイヤーだ。でもお前はまだ、プレイヤーにもなってない。勝利も敗北も自分次第、真っ白なキャンパスだ。」
「かっけぇ言い回しだな!」
「似合わねぇ~」
「うるせぇよ。…で…ああ何だったか?まあとにかく、これからどうなるかはお前次第。どうしたいか、どう進むか、お前の道はお前が決めろ。ほら、お前はこれから、どう生きたいんだ?」
「僕は……」
何をすればいい。
何も思い付かない。
勿論世話になるあのお兄さんや少女に、少しでも恩返しをしなければならないだろう。
今ここにいる仲間達にも、何かお礼をしたい。
「……悩んでんなぁ~どうせ恩返しでも考えてんだろ?」
「必要ねぇよ!聞いたろ?俺らは自分の意思でここにいんだ!何なら将来酒驕れよ!?がははは!う、おぇ…」
一人の男性が酒を吐いた。
随分飲んだから酔ったのだろう。
でも…やりたいことは分かった。
「お?決まったか?」
「…ふふ…そうだね…将来お酒でも驕るよ。」
「…はは!楽しみにしてるぜ!」
僕はまた、彼らと過ごしたいんだ。
―――――
「ここにいたんだな。ヒイロ。」
路地で一匹の猫を見つけた。
彼は僕の友達だ。
ホームレスのおじさん達が親なら、彼は親友だ。
ずっと一緒にいてくれた、唯一無二の親友だ。
彼も一緒にいたら…それが口に出ていた。
「言葉分からないよなぁ…知ったことじゃねぇか…」
それでも言ってしまう。
「お前も一緒ならなぁ…」
「…猫?」
「!?」
そこに来たのは、俺を探していたお兄さんだった。
いや…そこにいたのは…
前瞳ちゃんでもやった閑話です。彼の過去はもっと先で考えてるので、話展開のためまだ出しません。『俺』と『僕』の使い分けの理由もその時。何話かは自分も分からないけど。