『あそこのお嬢様の噂聞いた?』
『あー凄い悪い性格らしいわねー?』
『まあ尾ひれも付いてるけどさー…にしてもねぇー?』
「……くだらない。」
あんな噂どうでもいい。
屋敷の動植物を全て焼いた。
屋敷に来た友達を拷問して殺した。
夜な夜な屋敷を出て男漁り。
薬の材料を栽培している。
実の家族を奴隷にした。
殺した焼いた奪った貶した苦しめた捨てた。
…全て虚構に過ぎないのに。
「白馬の王子様に憧れる年でもないのにね…」
誰でもいい。
この場所から救ってほしい。
―――――
それは、目も開けられない程の豪雨の中……
「――」
「――」
少女との初めての出会いだった。
―――――
「もうないと思ってたのに…」
「ずぶ濡れじゃない!早く入って!」
「お兄さんお風呂入って下さい!風邪引いちゃいます!」
「あはは…ありがとう。でもお風呂にはこの子から入れて…」
「必要ありません。」
おぶっていた少女は、背から降りて出口へ向かう。
台風の中平気で帰るつもりだ。
「待った待った!」
茜ちゃんが前を遮る。
全員帰すつもりはない。
「とりあえずお風呂入って服着替えて。私の貸すから。」
「それにこんな台風の中出て、どこ行くんだ?」
「……知りません。目的地なんてありませんから。ここがどこかも知らないのに、行く宛などありません。それがどうしました?私には必要ありません。」
『………』
正直何故この少女がここにいるかも分からない。
そもそも台風の中傘も指さずに歩いているのもそうだし、服もやたらと高そうに見える。
髪は金髪、先が少し赤みがかった長髪。
偏見だが金髪は外人か金持ちかぐらいに思う。
流暢な日本語からして日本人のようだが…
「…ならホームレスのおじさんとこ行くか?」
「……そうですね…まだマシそうですね。」
(マシ…?)
そう言う彼女は外に…出ることもなく茜ちゃんに捕まる。
「逃がさないよ?」
「…逃げるも何も…帰るだけですが?」
「それが駄目なの!いいから、お風呂入る!」
そしてそのまま無理矢理連れて行かれた。
―――――
「お風呂に入れて頂いたのは感謝します。しかし私はここにいてはいけないのです。家から出して下さい。」
「いちゃいけないの?」
「また茜みたいなやつか?」
「それとも光希君みたいに素直じゃないだけかな?」
「殴るぞ育。」
「ごめんごめん。」
「……同じ筈がないでしょう。…貴方達に迷惑はかけたくないんです。」
「迷惑ねぇ…」
「お兄さんは慣れてますよね…」
「確かにね…」
「どういうこと…?」
困惑した表情を見せる少女。
それも当然だろう。
なにせこちらの事情も知らないのだから。
「瞳ちゃんは捨てられたし、光希君は逃げ切った。茜ちゃんは守られた。僕らは全員、多少の闇を抱えてる。」
「……そう…ですか…」
興味深そうに、少女は光希君に顔を向けた。
「何故逃げられたの…?」
「何故って…育に会えたから…?」
「そんな…ことで…?」
「育は…馬鹿でお節介で、親切が迷惑になるような奴だけど…」
(あれ!?貶されてる!?)
「他とは違う優しさも、諦めない根性も、誰かのための行動力も、全部自慢出来る兄貴分だ。」
「……拾われたことではなく、拾った人が重要だった…?」
「私もお兄さんに助けられて、凄く感謝してます。捨てられて身寄りのない私を…赤の他人の筈なのに連れて行ってくれて…」
「あたしの時なんて、助けるのに命掛けてくれたしね!」
「……育さんは…何故自分の行動に疑問を抱かないのですか?そんな慈善行為を、何故好き好んでやるのですか?」
「何故って…うーん…難しいけど…疑問がないっていうことは、そうしたいからしてるんじゃないかな?」
「したいから?」
「三人を引き受けた時、僕が思い出せるのは…何も考えなかったことだからね…」
「…根っからの親切の塊ね…」
「それが育だな。」
「うんうん。」
「育さんは、とってもいい人です!」
全員に肯定されると少し照れる。
少女は納得したような…しきれないような顔をしながら、自分のことを話し始める。
「…私は、とある一家の奴隷なの。そんな私でも…助けてくれるのかしら…?」