「…まだここにいたんだね…」
唐荷島家は所謂富豪の家柄だった。
故に、その土地には屋敷があり、豪華な庭園もあった。
そんな屋敷から、僕は逃げだした。
両親が暮らしていた家を、子供の頃の思い出を、その全てを捨ててきた。
釛とまだ一緒に過ごせていた屋敷。
僕は、久方ぶりに実家へ帰って来たんだ。
「釛まで素通り出来れば……よかったな…」
「ならよかったじゃないか。俺はここだぞ?」
門を開けて現れるのは、僕にとって十数年も前から会っていなかった親戚…唐荷島 釛だった。
目付きは鋭く、髪は白、その髪をオールバックにしているスーツ姿の男。
ぱっとみヤクザだ。
「とても頭脳キャラには見えないな…」
「……来て早速だが…お前の用を済ませよう。」
「分かるだろ?」
「…そうだな。…なあ育。俺の実験は…この十年程で、完成したと思うか?」
「…さあ?」
「ふっ…したさ…完璧に。俺の望んだ通り、俺はもう死ぬことはない。」
「どうして?」
「お前と同じつぎはぎの体、それだけでは足りなかった。かといって魔術など非科学的な物の存在は、流石の俺でも知り得ない。」
「それでも完成出来たと?」
「『ホムンクルス』…それが何か分かるか?」
「…?」
「ホムンクルスとは錬金術師パラケルススの研究結果さ。最古の人造人間…その知識は膨大であり、神の遺物のような扱いを受けている。パラケルスス以降、制作に成功した者はいなかった。」
「…ホムンクルスはパラケルススでさえ、フラスコから出すことは出来なかっただろ?そんなもので何を…」
「察しが悪い…俺の能力を忘れたか?」
「…まさか…」
彼の能力は全てに答えを出す。
それが敵わない『死』という概念の研究を続けていた。
ホムンクルスの研究、それがその過程に成っているということは…
「フラスコから出す方法も、
「何で…人間を止めてまで…そんなことを続けるんだ…」
「俺の目的は変わらない。死への探究。それ以外に何もない。だけどな……」
「!?」
目の前にナイフが飛んでくる。
「何を…」
釛は腕を広げ何かを待つ。
その体制では、そのナイフで自分を刺せとでも言うようだ。
「俺を殺しに来たんだろう?やれよ。もう死にたいんだ。俺はもう人間じゃない。首を落とそうが心臓を貫こうが死ぬことはない。しかしそのナイフは、それらを全て滅ぼすための…ホムンクルス専用の殺傷ナイフだ。」
「……今更後悔でもしたのか?」
「…はは…違うな…後悔はないさ…研究は完成した。俺は死をも越えたんだ…もはや人造人間である俺は、心臓も動いてなければ血も通わない。だが…この死をも捨てれば…どうなるのだろうな?」
「死んでも研究するつもりなのか…」
「そうだ。その辺の凡百が天国や地獄を夢見るように、俺はそれら以外の世界を想像する。」
こいつは戻る気もなければ、進む意志しかないのだ。
研究の行き着く先は、誰にも分からない。
そんな『分からないこと』を目指しているんだ。
「……」
「…育?」
僕はナイフを拾わない。
こいつに、ただ死を与えるのでは足りない。
自己満足のために、何人もの人生を狂わせた。
そんな奴のために、ただ望む通り殺すなど…赦されない。
「…せめて…もっと苦しんでから逝け。」
遠くから鳴るサイレンの音。
僕の携帯には、警官を呼ぶための機能を付けてある。
押せばその人の携帯が鳴るように設定をして。
釛が出てきた時点でこれは押していた。
それがやっと来たようだ。
「…警察か…なるほどな。お前は手を出すつもりがないわけだ…」
「寿命がお前にあるかは知らないけど…永遠に牢屋で籠っててくれ。」
「……そうか…ふっ…死後の研究の前に、俺の寿命を試すのも悪くない。」
殺す覚悟でやって来た僕の時間は、それを嗤うようなあっさりとした終わりを迎えた。
―――――
「……お前はどうなんだろうな?」
連れて行かれる直前に、あいつはそう言った。
さーて…次からは日常書けそうだ…AP◯Xやろ…