―偽善者
類似した言葉は、言われ慣れていた。
本心からの救い。
無意識での手助け。
教師の手伝いをすれば良い子ぶってると陰口を。
溺れた人を引き上げたら触れるなと。
轢かれた人を見て病院に連絡をしたら遅いと。
思えば酷く不運だろう。
稀とはいえ、『助ける』ことが僕にとっては『罵り』だった。
それでも腐ることがなかったのは、お礼を言ってくれる人がいたから。
逆に助けてくれる人がいたから。
罵る人に、それは違うと言ってくれる人がいたから。
それが…僕の心だったから。
もしかしたら、この子達に出会うために、運命がそうさせてたのかもしれない。
まあどんな過去があろうと、今が幸せならそれでいい。
「さて…職場に連絡しなきゃ…」
そのために…せめて、来たばかりの彼のためにも、一緒にいてあげよう。
そうして仕事を休むのだ。
いっそ一気に有給を使い切ってもいいかもしれない。
―――――
「………」
「あ、起きた?この家が無駄に広くてよかったよ。よく眠れたかな?」
「おはようございます。」
「……夢じゃねえのか…」
「そうだよ。僕が今日から君の親代わり。」
「一緒に朝ご飯…」
「食うよ。世話になるって…言ったしな。」
彼は少し意地っ張りかもしれない。
言ったことに責任を持つ良い子だ。
そうして三人でご飯を食べた。
彼には何も聞かない。
どんな過去があろうと構わないが、話したくないことを無理矢理聞くのは、傷を抉ることになる。
名前くらいは教えてほしくて聞いたが、教えてくれない。
心を開くのは長くなりそうだ。
―――――
「瞳ちゃんは、今日はどうしたい?」
「……」
「…んだよ。」
「い、いえ…!」
二人が仲良くなるのも難しそうだ。
当然だが、もう少し気さくに接してほしいとも思う。
「…今日は三人でお喋りでもしようか?それとも三人で遊ぼうか?」
「…俺まで巻き込むんじゃねぇ。」
「え、ちょっと…」
そう言い残して彼は家を出てしまった。
家出ではなく、単純に出掛けたのだろう。
どこへ行くかも予想出来ない。
止める権利も、僕にはない。
無事に帰ってくるのを祈るばかりだ。
そう思っていると、瞳ちゃんが何か思い付いたかのようにはっとした。
「お兄さん…今日は…」
瞳ちゃんがやりたいことを聞き、僕も強く賛同した。
そのために、また買い物に行かなければ。
それからの行動は早い。
僕は出掛ける準備をし、瞳ちゃんには家の準備をしてもらう。
短い時間とはいえ、一人で留守番させるのは怖いが、入れ違いになったら困る。
僕は瞳ちゃんを家におき、買い物に出掛けた。
―――――
一刻も早く買い物を済ませ帰宅する。
折り紙で作られた飾りが、色とりどりに飾られている。
ここまでで分かるだろう。
彼の歓迎会の準備をしていたのだ。
喜んでくれるといいなと思いながら、僕は料理を、瞳ちゃんは飾り付けを続けるのであった。
―――――
「……帰ってこない…」
「…大丈夫でしょうか…」
夕方になっても、彼が帰ることはなかった。
流石に心配になった僕は、瞳ちゃんに家にいてもらい、再び家を出た。
―――――
「どこに……すみません!子供を見ませんでしたか!?黒髪で中学生くらいの…ああ…えっと…!」
黒髪の中学生などいくらでもいる。
どう説明すれば…
「……そうだ!首からロケットをかけた子なんですが…」
誰の写真か分からないが、ロケットをずっと首から提げていた。
それだけで見つかるかは分からないが、どうにか見つかってほしい。
僕は道行く人に聞き込みを続け、彼を探し続けた。