この救いようがない世界で私は生きていく。   作:IXAハーメルン

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第一話

 あれは今から14年……いや、十五年前のことでしたわ。

 地球の日本と呼ばれる国で生きていたかつての(ワタクシ)は単刀直入に言えば貧乏、日々の食事を食用の野草とパンの耳で生きていく日々を過ごしていました。

 野良犬同然、なんとみじめな生活だったのでしょう。今でも泣けてきますわね。

 

 そんなある日のことですわ。

 

「あれは……500円!?」

 

 霞む視界でとらえたのは路上できらりと輝く黄銅の硬貨。

 正しく神の導き、ああこれはきっと私を憐れんで施された神からの恩寵に違いない。

 

「ひゃっほーい!」

 

 何を食べよう!? やっぱりラーメン!? たしか290円で食べられる店がここらに……いやまて、パチンコで無限に増やせばラーメン食べほうだ

「ほげおぎょぎぃっ!?」

 

 そう、確かこんな感じで車に轢かれて死にましたの。

 ええ、ええ、みなまで言わなくとも分かっております。

 確かにちょっとばかし間抜けな死に方であったとは自分自身思っておりますし、時々思い出す度顔から火が出る程の周知に死んでしまいそうになってしまいますわ。

 

 たった五百円ごときで死ぬなんて……

 

 

 まあそのおかげで今は贅の限りを尽くせると思えば、失敗どころか成功と言って過言でありませんわ!

 そう、今のわたくしは子爵であるリリィブルーム家の愛娘、リリス・オーレリア・リリィブルームとして異世界で優雅な高貴ライフを過ごしておりますの! おーっほっほっほっほゲホッ!ゴホッ! ウゲーッホ!

 

 朝の目覚めは温かな紅茶から。

 毎日税の限りを尽くした食事と華やかなお茶会や舞踏会、正に絶頂、人生の勝ち組とはこのことですわね。

 

 

「それにしても寒いですわね……ちょっとセバス! この時期に窓開けっぱなしなんて配慮に欠けててよ! クビですわクビクビ! さっさと出て行き……」

 

 寒さと頬をチクチク刺激する何かに目が覚めれば、物理的に大きく炎上する(元)我が家。

 放射熱で随分離れていても暖かいですわ。

 

「……え、なんで?」

 

 リリス・オーレリア・リリィブルーム、もといただのリリス。

 本日よりホームレスになりますわ。

 

 

『焼き討ちじゃああああああ!』

『悪性を敷く子爵へ死の鉄槌を!』

『燃やせ! 殺せ! 奪え!』

 

「ひええええ……なんですのこの人たち……!? 知性のかけらもありませんわ……! とんでもねえキチ〇イ集団ですの……!」

 

 ボロボロで妙なにおい漂うクッソきったねえ布に身を包み路地裏で縮こまる私、リリス。

 その横を一斉に駆け抜けるのは今回の騒ぎを聞きつけ便乗する民衆たち、方向からしてきっと消し炭になった我が家に残るものを奪おうという卑しい考えのもと動いているのでしょう。

 

 見つかったら殺されますわ……!?

 

 平穏な日々を過ごしていた私でもそれは容易に理解できますの。

 (元)子爵家へ向かう彼らの目はギラギラと欲や殺意に満ち溢れていて、飢える野獣の瞳さながらなその前にこの私がのこのこと姿を現せば、きっとそのおぞましい衝動のままに嬲られるに違いありません。

 

「かえちて……にっぽんにかえちて……!」

 

 悲しみに喉が震えてろれつが回りませんわ、イヤホンマに異世界恐ろしすぎる。

 ちょっと好き勝手に過ごしただけだというのに、なんと理不尽な事なのでしょう……!

 

 ……長い金髪がうっとおしいですわね。

 

 長く美しい髪は貴族のステータス。庶民は決して手入れが行き届かないそれらをぶら下げていれば、私は貴族の関係者と言っているもの。

 生き残るためにもどうにかしなければ……おっ?

 

 ふと目に転がり込んできたのは雑に地面へぶっ刺されたナイフ。

 柄の木はボロボロで刃は錆びだらけ、お世辞にも上等な逸品とは言えませんが背に腹は代えられませんわ。

 髪を捨てるか命を捨てるかの瀬戸際、どなたが捨てたかは知りませんが有り難いことでしてよ!

 

「ふぬっ! ああ、私のいとおしい金髪……さようなら……」

 

 ゴミみたいな切れ味で悪戦苦闘した末、はらりと肩から落ちていく金糸。

 最後に残ったのは肩から上で雑に揃えられた髪型、これで隠すのも楽になりましたわね。

 

 最後にすべきは……

 

 

 

「失礼しますわ」

 

 かび臭いですわね……。

 

 次の手として私が訪れたのは一般的に質屋だのと呼ばれる場所。

 寝巻のまま外に放り出されていたので宝石の類は全くありませんが、それでも寝巻そのものは上等の物。

 これと先ほど切った髪をを売ってまずは手持ちを増やしますの。

 

 薄暗い店内を進めば骨と皮しか残っていなさそうな老爺がポツリと座り、鋭い眼光でこちらを見つめていましたわ。

 目つき悪いですわねこいつ。

 

「さあこれを買っていただけます? そうですわね……金貨5枚で……」

「銀貨5枚」

「は? 何言ってますの?」

「困ってるんだろぉ? 別に買わなくたっていいんだこっちは」

 

 ニヤリと黄色い乱杭歯を見せつけ下卑た笑み。

 

 こ……この糞ジジイ……! 完全に足元を見てますわね……!

 ぶっこ〇してやろうかしら。

 

「おっと、くだらないことを考えない方がいいよ」

「な……!?」

 

 こいつ思考が……!?

 

「ここに来る奴は必ずそうやって企み事をするんだ。ただでさえ短い命を縮めたくはないだろう?」

「……わかりましたわ」

 

 覚悟しておけよ……

 ホンマにぶち切れそうですわ、ぶちぶちのぶちですわ。

 

 怒りに震える手の上へ雑に投げ渡される銀貨たち。

 が、一枚足りない。

 

「この一枚であんたに服と靴をやろう」

「え……?」

「どうせその頭陀袋の下は裸なんだろう、これを売ったってそんなんじゃ逆に目立つからねぇ」

「おじいさま……ありがとうございます」

.

.

.

 

 

 好意(?)で庶民の簡素な布服や木靴を受け取り、小袋に詰まった銀貨を片手に店を出る。

 

「さて……」

 

 ピリ……ビリ……

 

 店の横に座り込み頭陀袋をおもむろに細かく裂く。

 できるだけ細く、あえて布を解いて端っこをほつれさせることも忘れずに。

 

 あとは目的の物さえあれば……っと。

 

「ええっと……ありましたわ!」

 

 私が探していたのは石ころ。

 それを布屑の上に転がすと……さびたナイフの柄を激しく叩きつける!

 

 幸いにして完全に内部までさびているわけではないようで、木片やじゃりじゃりとした錆が飛び散ったのちに火花が散り始めました。

 かなり大振りのナイフですし野外作業用なのでしょう、しっかりとした作りでよかったですわね。

 

 飛び散った火花はその布切れへ付き、もうもうと煙を上げ始めた。

 

 しかしこれで終わりではありませんわ。

 さっとそれの周りを布で包み込むと片手で端を握りしめ、円を描くよう大きく振り回しますと……

 

「けほ……んん、ふんふんふーん♪ もえろよもえろー♪ あちっ! ちょっとやり過ぎましたわね」

 

 布の隙間から空気を受け火種は燻り、そして大きく燃え上がりだしますの。

 ふふ、ガスが止められたときはよく空き地で枯れ木をこうやって燃やして、釣ったボラやトカゲを焼いて食べていたのを思い出しますわね。

 こうなればしめたもの。小枝や枯草、千切っては放り込む度炎は歓喜の声を上げ大きく燃え上がり、あっという間に私の身長を超す大火へと早変わり。

 

 おお、カルシファーよもっと元気になりなさい。

 そしてこの家を……燃やしちゃいましょうねー

 

「おーっほっほ! この私を馬鹿にした貴方が悪いんですわよー!」

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