この救いようがない世界で私は生きていく。   作:IXAハーメルン

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第二話

 火が大きく燃え広がった直後のことでしたわ。

 有利な立場で私をやりこめ嘲笑っていたであろうジジイが炎に気付き、慌てふためいているであろうことを妄想し高笑いをしていた私。

 

「おい貴様」

「ぎょぇっ!?」

 

 突然頭上へ走った衝撃、己の意思とは裏腹に崩れる膝。

 

 い、一体何が……頭がクソいてぇですわ……!?

 

 ぬるりと伸びる巨大な影とその半分程度しかない小柄な影。

 背後から現れたのは先ほどの糞ジジイとムキムキの髭だるま、達磨の手には一本の太い木材が。

 

「まさか人様の家で盛大に焚火とは……奴隷商へ売りつけようと追っ手をつけておいて正解じゃったわ」

「あ、貴方この私を奴隷商に……!? 狂ってますわ! 最低! 屑! 人の皮を被った下種! 悪鬼羅刹畜生道を闊歩する害獣!」

「黙れクソアマぁ! 人の家を躊躇いもなく燃やそうとする奴に言われとうないわ!」

「私にはもう失うものなんてありませんの! 好き勝手やって何が悪くて!?」

 

 くそっ、ここからうまく逃げたらその時は覚悟しておくことですわ。

 二度と正気で昼間を歩けぬようその身の髄まで絶望を叩きこんで……

 

「な、なにかしら……?」

 

 はたと気付いた。

 先ほどまで無言であった髭だるまがこちらをじっと見つめ、何か気付いたようにゆっくりと手を伸ばしてきたことに。

 

 ま、まさかこれは……!

 

「はっ、まさかこの私で下卑た欲望を発散しようななんて考えているので? 困りますわ、貴方のような存在バナンナでも貪っていればぶげっ」

「おらっ! ちょっとはっ! 口をっ! 慎めっ!」

 

 当然の要求を伝えた私の顔へ帰って来たのは無慈悲な拳の返答。 

 しかも一回ではありません。二度、三度、口を開けばそれをふさぐような連撃。

 

 暴力に頼ろうとするなんてっ、脳みそまで人間からやせいぃっ!? やめっ、星がっ!? ひぬ!?

.

.

.

 

 

「ごべんな゛さ゛い……ゆ゛る゛ぢて……」

「どうしやすおじい、この女顔はともかく中身腐り果ててますぜ」

「ふぇふぇ、どんなものでも使い道はあるという物。丁度邪教徒の要求で見目の整った生贄が必要らしくてな、ちょうどいいというものよ」

 

 なにかとても不穏な雰囲気を感じますわ。

 木のせいでなければ邪教徒だとか、はたまた生贄だとか聞こえたような……

 

「生贄ぇ!?」

「ああ? なんだ死にたくないのか」

「誰だって死にたいわけありませんわ!?」

 

 ま、まずいですわ……!

 私の輝かんばかりの美貌、男が手を出さないはずがないとは考えていましたが、ここでまさかの生贄宣言……!?

 もし手を出されたら甘言でうまく束縛を解き、キ〇〇マをひねりつぶし、もしくは棒を噛みちぎって脱出を図ろうと思っていましたのに、よりによって生贄!? 

 どうあがいてもスプラッタ不可避の残酷描写、この作品開始三話目にて綿流〇編が始まってしまいますの!?

 

 まずい、非常にまずい……私は崇高な夢の道半ば、そげなくだらないことで命を尽き果てさせることなど到底出来はしませんの……! 

 ここは頭を、知略を巡らせ切り抜けねば……!

 

「な、ななな、なんかおっ、おお、っ、おなかが痛くなってきましたわわわっ!」

「そうか、じゃあこの袋の中で存分に……してろっと!」

『~~~!?』

 

 暗い! 狭い! 臭い! 一体何が起こってますの!?

 

「運べ」

「うす」

 

 無慈悲に振り下ろされた頭部への一撃、薄暗い世界が漆黒へ飲み干されていく艱苦の恐怖が心を締め付ける。

 そうして哀れな私は抵抗むなしく運ばれていったのです。

 

 

「あら……ここは……」

 

 冷たい……寒い……セバス、アーリーモーニングティーはまだですの……私が寒いといっているのに、まだ……ああ、寒い……

 

「おらっ! いつまでも寝てんじゃねえ!」

「痛っ! な、ななっ、乙女の寝室へ勝手に!?」

「寝ぼけてんじゃねえ! それともぶっ叩かれ過ぎて頭湧いてんのか!」

 

 目の覚めたそこにはごつごつと硬い岩に囲まれていました。

 お父様からもらった大事なペンダントも、民衆から搾り取った血税で編み上げられた華美なインテリアの数々も、私の大事なものが何一つとして存在しない、昏く冷たい洞窟の奥底。

 

 そうか、私は……!

 

「かっ、帰してくださいまし! 私には帰る家が……!」

 

 まあないんですけれど、燃えましたし。

 

 私の必死の懇願を笑ったその存在は全身を黒いローブに包み込み、唯一みえる口元をニィと持ち上げました。

 カッコつけているところ悪いのですが髭とニキビでキモイですわね、お肌のお手入れは男性でもすべきですわ。

 第一黒のローブって、自分から怪しいですよとアピールして他人へ警戒してほしいといっているもの。その上思わせぶりの態度、恥ずかしくないのかしら。

 見ているこちらが共感性羞恥で頭がおかしくなって死にそうですわ。

 

「おいおい、そんな顔を赤くして……怖いのか?」

 

 恥ずかしいだけですわよ、きも。

 

「でももう大丈夫だぜ……なんたってもうじきお前たち(・・)は死ぬんだからなァ! 偉大なるラプラス様の生贄となってよォ!」

 

 ラプラスの悪魔、その名を知るものは多いだろう。

 18世紀の数学者ピエール=シモン・ラプラスが提唱した存在であり、ある時点においてすべての物質における『力』と『状態』を認識し全てを解析した上で計算することのできる知能があれば未来を予測できる。

 勿論すべては理論上の話であり不可能……悪魔でもなければ。

 

 すなわちその存在を『ラプラスの提唱した存在』、ラプラスの悪魔という。

 

 はたしてこの世界においてラプラスの悪魔とそれが『=』でつながるとは言えないものの、悪魔というものは確かに存在していた。

 邪教と呼ばれるものは多々あれどその崇拝を向ける存在は多種多様、しかしその中でも悪魔という物は一大勢力を誇っている。

 それはやはり悪魔という存在が人間の欲から生まれ、人間をかどわかす性質があるからに他ならない。

 

 件の悪魔『ラプラス』も悪魔として広く知られており、地域によっては悪いことをした子に『ラプラス様が連れ去る』と脅し教育に使われることもあるという。

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