この救いようがない世界で私は生きていく。   作:IXAハーメルン

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第3話

「なるほど……『ラプラス』ですの……!」

 

 勝ちましたわ……!

 

 ラプラスと言えば悪魔の中でも最上位の存在、その気質は一般的に残酷と呼ばれる悪魔としては少しばかり変わっていると有名。

 第一に人に対して非常に友好的だということ。逸話の中には彼、もしくは彼女と契約を結び莫大な知識を授けられた者もいるという。

 

 第二にかの存在の嗜好。

 これもやはり多くの悪魔は血や臓物など即物的で残酷な趣が強い一方で、上位の悪魔になると多少方向性が変わってくる。

 精神的な苦しみを重視するようになるのだ。

 

 恐怖、不安、怒り。そういった負の感情と呼ばれるものを何よりも大事にし、獲物を殺すのはその最終的な結果に過ぎない。

 つまりどういうことか?

 供物として捧げられる時多くの場合は腹を掻っ捌かれ、或いは頭を打ち砕かれ、その存在が手を出すときには既に息絶えていることが多い。

 だが相手が上位悪魔であるなら話は別、生きたまま差し出されることになる。

 

 そして何より……悪魔は頭が弱い……!

 この邪教徒、声や発言からして品や知性に欠けているのは明白。

 このリリス、頭脳の回転には多少の自信がありますの、悪魔を上手く丸め込んで状況を一気に打開して差し上げましょう!

 

「うう……ぐすっ……お父様、お母さま……」

「くははっ! 苦しめ! 泣け! それこそがラプラス様の最高の糧になるのだからなァ!」

 

 己の圧倒的有利とこの先に待つ儀式を妄想し高笑いを上げる邪教徒。

 見なくても分かる、その顔は醜く歪んでいる事でしょう。

 

 哀れですわね。

 ド低能の庶民と私では知能の水準が異なりますわ。いってしまえばアワビとナメクジ、同じ巻貝の仲間でも価値は天と地の差であり……最後に勝つのは私。

 精々その死の瞬間まで己が詰んでいることに気付かず、私の手のひらで踊ってくださいませ。

 

 勝負とは試合の前から始まっていますの、フフフ。

 

「時間が来るまでそこでおとなしくしてるんだな!」

「そ、そんな……!? どうかここから出してくださいまし! ねえ! いやぁっ!」

 

 冷たい鉄格子が私の行く手を阻む。

 

 もちろんこれもブラフ、こうやってか弱さをアピールすることで相手の警戒心は大きく緩むのは間違いありませんわ。

 それに私ほど見目のいい奴隷をほいほいと買える財力、相手は邪教徒一人とも思えません。私のこの態度をきっと他のメンバーに報告するでしょうし、それで気が緩めばなおさらですわ。

 

 計画を練り上げている最中、突如として後ろから一つの声が飛んできました。

 

「やめなよ、無駄だから」

 

 

 

 は?

 

 

「やめなよ、無駄だから」

 

 冷たい牢獄に諦念を含む声が響く。

 

 リリスへ声をかけたのはクレア、齢15。

 その親しみのある優しい性格と穏やかな笑顔、パン屋の看板娘として町内の人々に愛され、すれ違う者で挨拶を返さないものはいないほど……とは表の姿。

 その本性は計算高くさながら女狐そのもの。当然その性格も全て張りぼてであり、馴染みやすくかわいらしい女性という立場を存分に利用し、町内カースト制度の中を立ち回っては甘い汁を啜っていた。

 

 突然人さらいにあって生贄になると分かった時には絶望したけれど、やはり天は私を見捨ててなかったみたいね。

 私の後に連れてこられたのは貴族の娘。艶があり緩やかな金髪、血より紅い深紅の瞳、つやつやの爪に豊満な胸は栄養が足りていた証拠……どこを見ても庶民とは離れた世界に生きてきた箱入り娘。

 しゃべり、動き、どこを見ても初心であり駆け引きなど経験してきたことのなかったのかしら。

 

 この箱入り娘を上手く利用しここから逃げつつ、ついでに絶望に落として愉悦も楽しませてもらうわ。

 何一つ不自由がなく暮らして来たのでしょうね、最期くらい私の役に立って死んでもらおうじゃない。

 

「私たちはもう……死ぬしかないのよ……」

「そんな……!」

 

 あーあーそんなに絶望しちゃって、カワイソ。

 でも死ぬのは貴女だけ、私は違うわ。どの人間も絶望の淵に立つほどその思考は狭く、浅くなっていく。

 経験の少ない貴族の娘などただでさえ浅い思考は水たまりを超えてもはや陸地、行動は全て予測可能な範囲へと収束していくのよ。

 

 即ち狂乱。

 

 露骨に煽るのではなくこちらも絶望した雰囲気を纏わせ言葉を零し続ける。

 陸地並みの浅くなった思考へ零された言葉は決して地に吸い込まれることもなく、ただ、ただ溢れるしかない。

 確実に、着実に精神を侵食し……

 

「毎年あるんだ、一人、また一人って攫われていく。誰も見つからない、誰も助からない。邪教徒はいくら捕まってもどこからか湧いてきて、何年かすればまた人が攫われる」

「ひぃ……!」

「ここから連れ出された瞬間が最後、儀式はすぐに始まってしまうのよ。貴女もそうなる、どちらが先かは分からないけどね」

 

 邪教徒が来た瞬間に発狂させる……!

 

 この手の頭が緩い女は声だけは大きい、きっとその精神的な重圧に耐え切れず発狂して邪教徒の手を煩わせるでしょうね。

 そうすればしめたもの、その隙を突きここから逃げ出す。

 

 そうね、上手く逃げられたらあなたを助けるよう救援を呼んであげてもいいわ……どうせ死んでいるでしょうけどね。

 勿論その状況も利用させてもらうわ。貴女は私と牢獄の中で励ましあった仲、最後まで互いを想い合い……そして私はそんな存在を諦めざるを得ず後悔に苛まれつつ健気に振舞う美少女として町での地位を盤石のものとする。

 

 あは、なかなか愉快だわ。

 

 そうと決まればまずは最初の一手。

 

 

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