「俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ…………」
水たまりに反射する自分の姿に向かって呪詛じみた呟きを連呼する女の姿があった。
腰まで伸びた茶髪はボリューミーで、睫毛がくりんと伸びて目はぱっちりと開いている。
「俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ」
足元にある水たまりに向けてしゃがみ込んで顔を俯かせて背中を丸めているため、下着に包まれていないやけに豊満な両の乳房が衣服の内側でぷらんと垂れ下がって揺れている。
ぴったり閉じた両足はむっちりした太腿がぴっちり合わさって窮屈で、そんな様子が映った水たまりに向けてどうにか自己の認識を保とうと試みる女がひとり。
即ち、俺である。
「俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ俺はサトウカズマ」
そう、俺は。
俺は、男だ。
今は、そうでないというだけで。
俺は、男なんだ。
かつての姿、股間にぶら下がっていたかつての相棒の雄姿をどうにか忘れまいと、鏡面を見つけては自己紹介の練習を延々と繰り返す羽目になって数日。
俺。サトウカズマ。俺。サトウカズマ。俺。サトウカズマ。そう、俺。
大丈夫だ。俺はサトウカズマだ。忘れていない。大丈夫だ!
「カーズマー、買い出し行きますけど何か要りますー?」
背後から声をかけてくれた仲間のひとりの声に、すっくと立ちあがって反応する。
「あー、あたしは特にいいかなー。気を付けてね、めぐみん」
「はーい」
そのまますたすたと俺の、俺、そう俺、の、横を通り過ぎていくめぐみん。
残されたのは冷や汗をだくだくと流す元男。
即ち、あたしである。
違う。
こうならないための練習だったというに。
あの一瞬、あの瞬間で、その全てが無為に帰してしまうのだ。
「ッッッァ"ア"ーーーーーーーーーーーイ!!!!!!!!!」
そして押し寄せるどうにもならない気持ちを発散するために。
あたしは懐から取り出した石鹸洗剤を水たまりに向けてブン投げた。
*
時を戻そう。
あれはとある日のこと。
「いらっしゃいませー……あ、カズマさん」
「おうウィズ。なんか面白いアイテムない?」
その日俺は、一人でウィズの店を訪れていた。
特に何かしらの用があったわけでもない。暇だったからだ。
やることもないので各々が分かれて自由行動をすることは稀によくある。今がそれだ。
「面白いかどうかはわかりませんが……先日、少し珍しいものが届きましたよ」
そう言ってウィズは棚の奥から小さなアミュレットを取り出し、手に持って俺に見せる。
いわゆるアミュレットペンダントというものだろうか。首飾りのように見えるな。
中央に丸い宝玉がはめこまれていて、上には矢印らしき紋章と、下には十字がついている。
どっかで見たな、こんな感じのマーク。なんかのゲームに出てきたかもしれない。
「とあるダンジョンから発見されたアイテムなのですが……ご丁寧に説明書と一緒にしまわれていたそうなんです」
こちらがその説明書です、と古ぼけた紙を広げるウィズ。
俺はそのアミュレットを自分の手でも持ってみて、その輝きをまじまじと見つめた。
ふーむ。どっかで見たんだよな、こんな感じのマーク。
「説明書と一緒に? 買ったこと忘れてそのまま放置されたのかもな。えーっと、使い方とかあるのかな……」
……あ、アレだ。
あの、アレ。
ん~ちゃらモンスターズジョーカーの神獣のマークだわ。オスメス問わず子供作れるやつ。
あー、そうか。このマーク、オスとメスが丸の部分で繋がってるよくある形だ。
「はい。まず、性的欲求を溜め込んでいる方を用意します。………………??」
「ちょっと待て」
思わずウィズを止める。
「何だそれは? そんな直接的な表記の仕方あるか? このアイテムが18禁ですって公言しているようなもんだぞ?」
「だ、だってそう書いてあるんですもの……! え、っとですね、それ以外の方が装着しても、効果はないそうで……」
「はー……成程。要するに条件をクリアしたら発動するアイテムってわけか。……こうやってつけるのかな?」
文面は不穏だが、まあ発動なんてするわけないだろとひょいっとお試し気分で首にかけてみる。
「はい、そんな感じみたいです。つけた場合、その人が抱えている……その……性的欲求が、その人にとって身近な人に分散して移されてしまうそうで」
「へー……いったいどんなヤツが使ってたんだ、こんなもん……」
「アミュレットという形から鑑みるに、聖職者かもしれませんね。それと、発散に伴って性的欲求を失いすぎると、男性的あるいは女性的欲求がマイナスに振り切り……性別が反転する、なんて副作用も書かれ」
「えっ何そ」
ヒュゴッッッ
ボ
*
突然。
世界が、
白い閃光に包まれた。
「な………何が………起きた……………ッッ」
全身がぎしぎしと痛む。
爆発か何かに巻き込まれたのか?? 痛む体を押し上げると、首にさげられたアミュレットがちゃらりと鳴った。
閃光がようやく失せてくると、俺と同じく謎の爆風に巻き込まれたらしい、尻餅をついたウィズの姿があった。
「いてて……おいウィズ、大丈夫か……?」
「は、はい……なんとかっ…………?」
「爆発したぞ、爆発……なんだってんだ、このアイテムっっ……!」
のそりと持ち上げる体がやけに軽いような、いややっぱり重いような……局所的に重いような。
そんな謎の感覚を知りつつも、俺はやっとの思いで立ち上がり。
「わた、私もいったい何がなにや……ら…………?」
「……? おいウィズ、どうし……た……」
尻をついたまま、言葉に詰まり出すウィズの様子をいぶかしみ、見下ろそうとしたとき。
俺の視界は。
謎の物体に阻まれて、足元を見ることができなかった。
「……」
そのあたりで。
先程、ウィズに伝えられた副作用のことを思い出す。
「ぉ……お…………おお……!!?」
でかい乳。太い足。伸びて重い髪。
戸棚のガラス面に写った俺の顔。
そこに、俺はいなかった。
「……なんっっ……マジっ……かァァアアアッッ!!?!?」
そこには、なんか、乳のでかい女がいたのだった。
「ハッ――」
そして感づいた俺は即座に股間に手をやる。
すとんとした。
なんか、そう。
すとんっ、て、なったのだ。
「ぁ……あ……ぁぁあああぁああああああ!!!!」
この世のありとあらゆる絶望を一纏めにして受け止めたような叫び声をあげる俺。
「ふざけるな!! ふざけるな!!! 馬鹿野郎!!!! うわああああああああああ!!!!!」
相棒……………!!
もう一人の……俺ェェエエエーーーーッッ!!!
*
「どーーーすんだ!! どーーしてくれんだよウィズ!!! お前のせいだぞ、いや勝手につけた俺も悪いんだけど止めなかったお前にも非はあるし何よりこんなアイテム入荷したのがいちばん悪いィイイヤアアアアアアアア!!!! 声が甲高い!!!! 何この声気持ち悪い!!!?!!?」
「お、ぉおおおちついてくださいカズマひゃっっあばっあばばっばばばばばっ!!」
だくだくと涙と汗を流しながら半狂乱になってその肩をわしづかみぐわんぐわんと揺らす。
ばるんばるんと目の前で揺れるウィズの胸は普段なら視線を奪われて然るべき筈が、今は何の興味というか注目というかそういった意識が湧いてこないどころか揺らしている自分の乳すらばるんばるん同じように揺れる始末。
クッソ重てえつか痛ってえ!! 付け根のあたりがぐいんぐいん引っ張られてやべえ!! でも揺らしてえ。そうでもしないとこの気持ちが収まりつかない。俺は叫び散らしながらウィズに責任を問う。
「これが落ち着いていられるかよ【ッチーン♪】コ無くなったんだぞ俺!!!?!!? 代わりになんだよこの胸!? お前と張り合えるレベルのおっぱいなんて求めてないんですけど!? 【ッチーン♪】コ返せよ俺の【ッチーン♪】コォオオオオオオ!!!!」
「謝りますっっ謝りますからっっそのっは離れていただけると助かりますっっ!! ぉおお願いしますカズマさんっっ!!」
懇願されてようやくおっぱいとおっぱいが離れる。
「はいカズマですっつかカズマでした。離れましたよウィズさん?? 離れましたけど?? それでどうしたら俺の【ッチーン♪】コは戻ってくるんですか。返してくださいよ【ッチーン♪】コ、早く、ハリィ、ハリィ!!」
「あっ……の……ですね……その……ま、マイナスに転じてしまった分の欲求が、その……男性的な欲求が満たされれば……もとに戻れるのですけど……ぁのっ……」
「……何すか。なんでそんなもじもじしてんですかウィズさん。いや確かに俺の体こんなんなっちゃいましたけど。そんな童貞みたいな反……応……」
しどろもどろになって慌てるウィズの様子がどうもおかしく感じ、必死にこちらから視線を逸らそうと試みているウィズをまじまじと見つめて観察してみる。
女性を至近距離に控えた純心な男が丁度こんな感じの反応をする。気がする。そんな感じの反応。
見やるに両腕は股間を押さえているようでもじもじしてて………………股間?
「…………おいウィズ……まさか……」
「…………はい……」
説明を反芻する。
この現象は俺の中の男性的欲求がマイナスに振り切れて女性に転じてしまって起こったという。
そしてその前、もう一つ。このアイテムは、装着したものが抱えている欲求を分散しぶちまける。という。
ここに男の俺の姿はない。つまり、俺の中の男としての欲求は誰かに分散していったということで。
女になった俺。その目の前で股間を押さえるウィズ。その様子からたどり着く事柄。
「……」
自分のおっぱいを押さえて、見下ろした先に。
ローブを押し上げて屹立する、それはそれは立派な【Dynamite☆】が存在していた。
「………………」
「……あ……あの……カズマさ」
「寄るな」
「へっ」
「寄るな、いいか、俺に、近寄るな」
こういう時。
女になった方が責任を取る、みたいな流れは、腐るほど飽きるほど見てきた。
だが俺はサトウカズマだ。
存在が全年齢の象徴たるサトウカズマさんだ。
「そ、そんなっ!? ちょっとカズマさん待っ……そのまま出ていったら――!!」
「うるせえええええええええええ!!!! 処理ならひとりでしろよォオオオオオ!!!! 俺にその目と【Dynamite☆】を向けるんじゃねええええええええ!!!!!! 世の男性方はみんなそうやって自由という名の孤独のもとで処理してんだせいぜい悩み潰して男を知りやがれってんだ此畜生ォオオオオオオオオオオ!!!!!」
竿役も壺役も真っ平御免だ馬鹿野郎ォオオオオオオオオ!!!!!!!
童貞のまま処女失ってたまるか俺は逃げるぞ!!!!
と、俺はウィズの店を後にした。
命の次に大切なものを失い。
手に入れたのは女の体と、謎のアミュレットだけだった。
これ万引きになるかな。いいや。言及されたら慰謝料ってことにしておこう。そうしよう。
*
「ううっ……ううう……ぐすっ……あんまりだ……ちくしょう……」
アクセルの街をとぼとぼと歩く、泣きじゃくる女がひとり。
即ち俺だったものである。股間の相棒がいなくなった分なんかすたすた歩けるけど、骨盤の形も変わってるせいでふらふらする。朝起きたら女になってたーとかよくあるけど、そんな柔軟な対応力このカズマさんは持ち合わせてなんかいない。
素直にショックだった。体の一部を失ったこともだが、何より。
「俺……もう一生…………童貞のままじゃねえかよ…………」
童貞のまま、処女になっちまったことだ。
俺の性的嗜好に同性愛者は含まれないのだ。こんな体になっても女が好きだ。だが女の方はどうだ、俺を好いてくれるのだろうか? そもそも好いてくれる女がいたとしてもそれは同性なのだ。さる携帯獣の名探偵よろしく脱力しきった体でくしゃくしゃになった顔のままとぼとぼ歩き続ける俺の前に、人影がひとつ。
「あら、カズマじゃない。何してんのよこんなとこで」
「え……? あ、アクア? 今なんて」
「いやだから、何してんのカズマ……って」
「……俺が……カズマだと……?」
「他に誰がいるのよ、あんたはあんた一人でしょ」
いつものようにすっとぼけた感じの顔で立つアクアがそこに居た。
そして、彼女が俺のことを、カズマと呼んだ。
この、体型と言うか、何もかもが大変なことになっている俺を――カズマと認識してくれたのだ。
「お……俺の体を見てなんとも思わないのか!? あ、あとこの声とか、なんかもう全体的に誰だこの女ってならないのか……!!?」
「あのね、私を誰だと思ってるわけ? 女神よ、それも転生担当の! 性別だとか体がどうであれ、そいつが誰なのかくらい魂の形を見れば一発よ、安心しなさい! 何があったか知らないけど!」
「アクアアアアアアアッ――――!!」
はじめて。
はじめて心の底から、こいつの存在がありがたいと思ってしまった。
男から女になってしまって懸念すべきこと。それは自分が、かつての仲間に受け入れられるかどうかだ。
まああいつらなら「そんなこともあるか」的に流してはくれそうでもあるが、万が一ということもある。
勝手に心配していたことが勝手にゆるりと融け消えて、俺は自分のでかい胸を撫でおろしたのだった。
「そうだ、俺はカズマだ!! カズマなんだよ俺は!! それがウィズの店であんなことやこんなことがあって……俺は大事な相棒をッ――くっ……!!」
「……あー、まあいいんじゃない? どうせ使う予定もなかったでしょ、その聖剣エクスカリバー。それより早く、うちに帰る前に済ませていきましょ」
「あるし!! いやあったし!! あったのか? うん、未来のことなんて誰にもわかんないからあった筈だし!! わかんないからこんなことになってんだけ……何? 済ませるって」
「決まってるでしょ」
背筋にぴたりとつららを這わせられた感覚があって。
俺は、おもむろに両腕で自分の胸を押さえ、視線を落とした。
ミニスカを。
押し上げている――それは。
えっと。
「アクア……さん? あの、そのご立派なモノは」
目を配った先。目を合わせた先。アクアの瞳孔から光が消え失せ、ぎゅっと縮まって俺を見た。
「脱げって言ってんのよ。今から使うから」
「うわあああああああああああああああああああああああティンダアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!」
「ギャアアアアアアア熱ッッづあああああああああああああああ!!?!!!?!!?」
そのあまりの恐怖から俺ははじめて全身全霊のティンダーを放った。
小さな火を出すだけの初級魔法である筈のそれは、何故かやけに高い火力を持ちながら飛び出し、渦巻きながらアクアの体に纏わりついた。
「使うって何使うって何使うって何どこを使うんだよ何を使うんだよ!!? どんだけだよ俺の性欲!! どんだけ溜め込んでたわけ!!? なんで知り合いの誰も彼もに【Dynamite☆】が生えてんだよおっかしいだろォオオ!!!」
火事場の馬鹿力というやつだろうか――俺の体は男であった時よりも素早く走れている。先ほどのティンダーも謎に魔力のブーストを受けていたようだった。
背後から「セイクリッド花鳥風月」とかなんとか、あと水がザッバアアと流れる音を聞きながら必死で走り、俺は路地裏に潜り込む。
「はあっ――はあっ……!! 潜伏……!!」
潜伏スキルを用いて身を隠し、ずるずると壁にそって腰を下ろした。
『ウオオオオオ出てきなさいカズマァアアア――!! 限界なのよこっちはもうジリジリしてんのよォオオオ……!! カァアアアズマァアアアアア…………!!!!』
(何なんだ、あいつのあの執着……!? いつぞやの女オークみたいだぞ……!? いくらダ女神とはいえ仲間のひとりだ、こんなアイテムの効果ひとつであそこまで人の心を失うもんなのかよ……!!?)
怒り肩で口から蒸気みたいなのを噴きながらどしどしと早歩く姿が目に浮かぶようだ。それほどまでの覇気を伴った声だった。
恐ろしすぎる。【ッチーン♪】コ生やしただけでああなるのかよ、女って。いやアクアだからなのか? わからん。
「はあ……けどウィズも変化があったっぽいけど、あそこまで酷くはなかったからな……人によるのか……? ……っと、そうだ……」
そのあたりで俺は、先ほどのティンダーや脚の速さについて変化があったのを思い出す。
懐から取り出したのは冒険者カードっつか邪魔だな胸やっぱ……難儀しつつどうにか取り出したそれに書いてあったもの。俺のステータスの数値は。
「……全ステータスが……上昇している……」
あらゆるステータスが平均を優に超え、まさしく高レベル帯の冒険者のものとなっていた。
性別が反転した副作用で、ステータスまでも反転したのだろうか? それはそれでありがたい、と言えなくもないが……とすると、唯一秀でていた俺のステータスは。
幸運の、数値は。
「1」
最低値だった。
「売ったら珍品扱いにならねえかな、幸運が最低値の冒険者カード」
なんかもうどうでもよくなりつつあった。
「性別は変わるわ……知り合いには襲われるわ……この分だとめぐみんもダクネスも似たような感じだろうし、帰るに帰れねえよなあ……はあ、まったく……なんでこんな散々なんだよ、こんチクショウ……!! ……んっ?」
そんな無気力と脱力の極みみたいな状態にある俺の前に、ざっと足音を立てて誰かが現れる。
今度は誰が来たのかと、冒険者カードの向こうに立つそいつの姿を確認してみる、と。
「……あの……や、やっほ……カズマ……?」
「…………クリス」
クリスだった。
うん。
こいつもやはり、御多分にもれず、股間を押さえてむずむずしている。
赤面しながら。
「こっ……こんなとこで何してるの? 路地裏にひとりだと……その……危なくないっ??」
「寄るな」
「えっ」
すっと立ち上がり、俺は叫ぶ。
「お前らから逃げるために身を潜めてたんだよバカヤロオオオオ!!! よくものこのこと現れやがったな性欲の権化め!!! あーーもう証明されたこれで証明されたQED!! 幸運のせいだなそうだな? 最底辺まで下がったからここまで絡まれまくるわけだ畜生!! 逃げるからな? 俺は逃げるからな!? 変態と叫びながら逃げる側なんだからな今の俺は」
「ごめんっっ!!!」
「えっ」
こちらの考えに反し、クリスは勢いをつけて頭を下げた。
「あ……あたし、そのっ……なんか……よくわかんないんだけど……! お、お腹の奥がむずむずしてて……へんなのは生えるし……それなのに、頭の中じゃ……カズマのことしか、考えられなくって……」
「お……おう?」
なんだ。しおらしいな。女神とは大違いの態度だ。どういうことだ?
いやしかし、何であれこのしおらしさは可愛らしくもある。
「……続きを。聞こうじゃないか」
「あ……ありがとう、ほんとにごめんっ……。姿形は変わってても、カズマはカズマだから、見つけられたのが嬉しくて……っでも、その、傷つけるようなことがしたいわけじゃなくてね!? だからね、その……」
「いいよ……俺は……一向にかまわない」
「え……?」
まあ……クリスなら、いいかなって……思わなくもないのだった。
クリスだし。
それにウィズが言っていたことも、今更思い出したのだ。
「元はと言えば俺が撒いた種だ。責任は俺にある……だから…………いいぜ」
握り拳に立てた親指で、むにっと胸を示す。
――「男性的欲求が満たされれば、男に戻れる」。
それは即ち、男の心を持ちながら、彼女らの欲求を受け入れることで……俺は男として、あくまで体は女でも男として、欲求を満たすことができるんじゃないかと思ったのだった。
クリスは顔をさらに赤く染め、小さく、
「ありがと……」
と呟いてから。
「スティール」
「うん…………え?」
右腕を輝かせ。
俺が履いていたパンツを、奪い取った。
「…………あの……クリスさん??」
「大丈夫だから……何もしないから……だからさ」
「これだけ…………貸してね……?」
そう言って、物凄い勢いでクリスは逃げていった。
俺のパンツを抱えながら。
ノーパンの女を、そこに残したまま。
「ぱ…………」
そのパンツでナニをされるのかなど想像に難くなく。
むしろ本来ならば俺がすべきであろう行いをされることは容易に想像ができて。
「――パンツ返してえええええええええええええええええええ!!!!!!」
まさか、まさかの、俺が、それを口にする羽目になるのだった。
予想以上に長くなりそうだったので連載という形で分割します。