朝が終わり、時刻は昼過ぎ。
俺は、自宅の屋敷や冒険者ギルドから離れた場所にある、普段は足を運ばないカフェに居た。
「……意外と美味いな、この紅茶」
「であろう? 我輩、そこはかとなーく店番に疲れを感じたとき、仕入れついでによく足を運ぶのだ」
「お前……本体がソレなのに、味とか解るのか?」
「フハハハハ! 我輩の体が何で出来ているか、もうお忘れか? そう、土くれだ! ともすれば意味することは何か?」
「染み渡るのだ。文字通りな」
「……そうか」
それは果たして味わっていると言えるのかどうか、疑問に思いつつ。
俺は比較的マシだろうと思われる人物の繋がりを求め、こいつに出会った。
元魔王軍幹部にして、今はウィズの魔道具店に勤めている男、バニル。
「体といえば、貴様…………随分面白いことになっているようだが」
「最初、何も聞かずにお茶に付き合ってくれたことにまずは感謝するよ、バニル……」
そう答え、俺は本題に入る。
発端はウィズ……あんたのとこの店で試着したアミュレットのお陰でこうなったということ。
そして今は男の性欲を宿した知り合いの女どもに追い掛け回されているということ。
それらの説明を終えると、バニルは仮面……もとい自分の本体の上から眉間を押さえ。
「ハァー……………………」
と、長い溜息をついた。
「確認させてくれ」
「いいけど」
「まず、『説明書つきの遺物を入荷した』と言ったな? その説明を目の前で読んだと?」
「ああ。俺の前で説明してくれた」
「つまりどういったモノかの確認もせず受領したということか? あ奴は?」
「良さげだったら並べるつもりだったんじゃねーかな……店の奥から引っ張り出してきてたし……」
「…………」
バニルはおもむろに席を立つと、懐からいくつか指輪を取り出した。
何の指輪だろうか? 同じ形のがいくつもあるな。なんて思いながら、それを見つめていた矢先。
「馬鹿なのか!! 馬鹿なのか奴は!!! バーーカ!!!! アホかーーーーー!!!!!」
と、突然罵声を飛ばしたかと思いきや――その指輪たちを天高く放り投げた。
次の瞬間。
飛散した無数の指輪たちはカッと光って爆発し、巻き起こった爆風が俺の服と髪をばたばたとはためかせた。
「――………………」
あまりの展開に、口が開きっぱなしになる。
「はースッキリした。失礼。今のはネガティブな言葉に反応して爆発する言語統制のために造られた指輪だ。在庫を抱えているのでたまにこうして投げて爆発させるとスッキリする」
「……確認させてくれ」
「いいぞ」
「そんな代物ばっか仕込むのか?? ウィズ……あんたのとこの店主は……??」
「……汝が今、首に提げているものとかな」
「大変…………だな……」
「……うむ」
やけに素直な様子で席に座り直すバニルの肩が、ちょっとだけ小さく見えた。
「あっと、そうだ、これ……結局会計できてないんだけど……返したほうがいいか?」
そこで俺は、なんだかんだ気にかかっていたことに関して問いかけてみる。
つけっぱなしのアミュレットに関してだ。バニルは淡々と俺の問いに問いで答える。
「貴様は、我輩が今しがた投げた爆発物……もとい、指輪を貰えと言われて、貰うか?」
「いや。いらん」
「そういうことだ」
なるほど。
*
「なんとかなりませんかね……バニルさん……」
ずるずると紅茶を啜りながら、俺は藁にも悪魔にもすがる思いでそう尋ねる。
縋れる神があればよかったのだが、その神は股間をいきり立たせて俺に襲い掛かる始末だ。どうにもならねえ。
「そうは言われてもだな……我輩が用いる禁呪ですら生やすか無くすかが精々のところ、完全な陰陽の反転など、それこそ忌々しい神だのの所業でもなければ不可能だ。アホみたいな効果だが、そのアミュレットは神器に近いと見える」
「神器ねえ……」
いや待てよ。
ふと思い出す。転生というシステムに付く、いわゆる特典というやつ。
「なんでも好きなものをひとつ寄越す」がそれだったはずだ。そしてこの、広範囲に及ぶ性転換あるいは異性の要素を付属させる効果。
そしてバニルが口にした、神器、という言葉。
(こいつはまさか……過去の日本人、それもとびきりの変態が要求した……エロいことがしたいが為だけに創られた、性転換の神器……だとでもいうのか……??)
有り得ない話ではない。世界は広い。
現に俺も、特典として特に役に立つわけでもない女神を選んでしまったのだから。
大昔には厄介ごとしか持ち込まなかった、好きなものを生産する能力を得た奴もいた。
ミツルギのように真っ当に主人公をする奴なんて……いっそ、かえってそっちのが珍しいんじゃないのか?
(そうなるとどうだ、こいつの元の持ち主は性転換を繰り返しながらそれはエロエロな体験をしたのか? そうかちょっと待てよ、こいつが発動するきっかけは『性欲が限界に達した人間』が着用することだったな?? それはつまり――『性転換した後に性欲が極まった状態で着用すれば、元にも戻れる』ということじゃないのか??)
「? おーい。小娘よ。どうした? 冷めるぞ、紅茶」
「バニル……ありがとう」
「……ふむ」
グイッと一気に紅茶を飲み干し、紅茶代のエリスをテーブルの上に差し出す。
「お前のお陰で、元に戻る算段がついた……見通す悪魔よ、俺の言いたいことはわかるだろう?」
「無論だ。成程、しかしまさか本当に神器とはな……だが待て小娘。元はうちの店が招いたことだ」
「うん?」
そう言ってバニルは、スーツの内側から手のひら大の箱を取り出し、俺に手渡した。
箱に貼り付けられているのは……『注文品』と書かれた、札?
「なんだこれ? 特注品らしいけど……」
「我輩のお使いはそれを店主に届けることだったが……汝に渡そう。今、汝が最も必要としているものが、そこに収まっている」
「い……いいのか、バニル?」
「構わんさ。迷惑料とでも思ってくれたまえ。ああそれと、これも」
バニルはピッと紙切れを一枚取り出すと、ササッと手早く何やら書面をしたためた。
ぴらっと渡されたそれに書かれていたのは……。
「……成程……!! そうか、その手が……!!」
「口に出して伝えるのは我輩とてはばかられるため、このような形で。役立てるがよい」
とある魔法の、目からうろこがこぼれるような使い道だった。
今の俺なら行使も可能だろう。なんだ、めちゃくちゃいいやつだなバニル。悪魔のくせに。
「作った貸しはすぐさま清算したいというだけさ。幸運を祈るぞ、カズマちゃん」
「……ちゃんはやめてくれ、頼むから」
そして、バニルと別れたあと。
人気のない通りで、俺はひっそりと手渡された箱を開けた。
「…………」
きっちりと畳まれ、そこに納められていたのは。
柔らかく質のいい布地で出来た…………。
パンツ、だった。
「~~~~~~…………!!!!」
石鹸洗剤よろしくブン投げたくもなったが。
実際に俺はノーパンであり、本当に必要としているものであったため、赤面しながら顔をくしゃくしゃにする以外になかったのだった。
ていうかこれ、元々バニルがお使いで店主に届けるためのものだったってことは、本来はウィズに渡されるはずのものってことか……?
……履くけど。
*
いや履き心地すっご。
めっちゃフィットする。快適なんてもんじゃねえなこれ。
女連中はいつもこんなパンツ履いてんのか……ちょっとうらやましくもあるが、その分値段が高いとも聞く。
(ま、衣服に関しては好きに買わせてるし……男に戻ってから口を出すのも、それはそれで変態扱いされかねん……)
そんなわけで、女性陣の生活に関しては心の内で理解を示すこととする。
そして今現在、俺は屋敷への帰路についている最中であった。
バニルに会う前までは懐かしの馬小屋で夜を明かすことも致し方ないと覚悟していたが……あいつに教えてもらったとある魔法の使い方がある。男の俺ならいざ知らず、魔力の上昇した今の俺なら使いこなせるはずだ。パンツも履いたし。
と……手をにぎにぎしながらニッコリ微笑みを浮かべつつ、軽やかに歩いていると。
「あら……カズマ…………ふふっ……やっぱり帰ってくると思ってたわよ……?? 愛しの我が家だものねぇ……??」
ほ~ら出た。女神のくせに性欲に支配された哀れな女よ。
アクアはゆらゆら揺れながら屋敷の門の前に立ちはだかり、ギンギンのアレをぶらんぶらんさせながら俺に襲いかからんと構えている。俺はそれに対し、あまりにもわかりやすいその見慣れた的へ、指先を向ける。
「まあ野外が嫌っていうならその意を汲まないでもないのよカズマ? 私もやっぱりそういうことはベッドの上で行うべきだと思っ」
「ロック」
「ひぎッッ!!?!?」
ガチンッ! と音を立て、アクアの股間に魔力の錠前が閉められる。
そう。俺がバニルから教わった魔法の応用とは、これだ。
ロックは開閉できる概念を持つものに対し、鍵をかける魔法。下世話な話になるのでまあ濁しはするのだが、要するに。
魔力による貞操帯を取り付けることも可能なのだ。
すっかり発射態勢になっていたらしいキャノンに鍵をかけられ、押し上がっていたミニスカもだんだんと下がっていく。
「あっっ……あの…………カズマさん…………?? わた、私に何を、したのっ……??」
「落ち着いたか? アクア」
「あ……えっと……その……」
ぺたんとしおらしく足を閉じてしゃがみ込むアクアに歩み寄り、俺は手を伸ばした。
「まあ、なんだ……今回のことは俺が全面的に悪い。そこは謝る。だから話っていうか……相談がしたくてさ。めぐみんやダクネスは? 二人もウチか?」
「え、ええ……そろそろ帰ってるんじゃない……? ゎ、私も、みんな帰ってきてるかなーって様子を見に来たんだし……ぁの」
「ありがと、アクア。んじゃ帰るとするか」
手を掴み、ぐいっと立ち上がらせる。
「……カズマさん??」
「ん?」
「これっ……と……取ってくれないかしら?? 私はもう大丈夫! 大丈夫だから!! ね!?」
俺はにっこりと笑いながら、はっきりと答えた。
「だめ」
*
「おや。おかえりなさいカズマ」
「ただいま、めぐみん。ダクネスは居ないのか?」
「いますよ、自室にこもってます」
てっきり『誰ですかあなたは』みたいな反応をされるものだとばかり思っていたが、案外どいつもこいつも俺を俺としっかり認識するらしい。
それは俺との絆が深いが故なのか、それとも単に俺を最初から男として見ていないだけなのか。後者だとそれはそれでショックなのだが、好都合であることに変わりはないので甘えておく。
「ところで、アクアは……その。どうされたのですか? 随分青ざめてますけど……」
「へっ!? あ、あー、えっとね、あはは、なんでも、なんでもないのよ……うん……」
「ああ、さっきそこでチンチンにロックかけた」
「なっ!!?」
思わずきゅっと内股になってそこを押さえるめぐみん。
「……そんな使い道が……?」
「現に成功してるからな……っていうか、その様子だとやっぱりめぐみんもか……」
「……ダクネスも似たような様子でしたよ。私ほど落ち着いてはいませんでしたけど」
あとでまとめて説明すると伝えておき、俺はひとまずダクネスの部屋へ向かう。アクアは置いていった。
男のままなら遠慮したところだが今は女だ、同性なら恥ずかしがることもあるまい。
こんこんとノックをして、扉の向こうのダクネスへ声をかける。
「ダクネスー? 俺だ、カズマだ。開けていいか?」
『かじゅまっっっ!!?!!?』
何だ今の声。
「……カズマですけど。大丈夫か?」
『大丈夫だ全く問題はない、だから今すぐ扉を閉めて私から離れろカズマッッ!!! さあ飛び込んでこい遠慮することはないっっ違う!!! そうではない私!!! いいからとにかく扉を開けるんだ、大丈夫だ痛いようにはしないからああああ!!!』
「……うーわお……」
ごんごんと向こう側からこっちに向かって扉が叩かれる。
言っていることが支離滅裂だが……その理由はなんとなく察しがついていた。
あのダ女神は性欲で突き動く女オークさながらのモンスターと化していたし、ウィズはしっかり理性を保っていたし、クリスはギリギリで踏みとどまりつつ意趣返しのようなことをやってみせた。つまり、性欲による暴走の仕方にも個人差があるということだ。
そして、そのどれもに共通して言えることは――欲求の対象は……『俺』だ、ということ。
(普段はドMの変態であるダクネスに、襲いかかるための凶器が取り付いたら……? ましてやそれが俺を襲いたくて仕方なくなるようなモノであれば――)
『カズマ!! カズマ早く逃げてくれ!! 私がどんどん私でなくなってしまうんだカズマあぁああああ!!! 服を脱いで待っていてくれええええええええ!!!!』
ドンドンドンドン。ドンドンドン。
ドアが蠢いている。おそらくは自制を試みているダクネスの手によって。
(やっぱりそうだ……ダクネスは今――)
――存在しないはずのSの欲求と、元来存在しているMの本性がせめぎ合っている。
戦っているのだ、彼女は。とめどなく溢れる、内なる欲求と……!
「ダクネェス!!」
『はひっ!!?』
そうなれば、仲間である俺が彼女にしてやれること――すべきことはただ一つ。
元凶たる俺が、救ってやらねば――!
俺は今にも叩き割られそうなドアを勢いよく開け放ち、その向こうに立つダクネスを見た。
突然ドアが開いたことでダクネスはがくんと姿勢を崩し、そこに一瞬の隙が生まれる。顔を真っ赤にして汗だくのまま、ぴっちりとした黒インナー姿で現れた彼女の股間めがけ、指先を向けて魔法を放つ。
「今助けるッ!!! ロックッ!!!」
がちんっ。
「あひいいいいいいいいいいいいい!!?!!? ひぎっ、ぃいぃいぃいいいいいっっ!!?!?」
瞬間、アクアよりも余程こたえたのか、到底年頃の女性が出してはいけないような声をあげながらダクネスがごろごろと床を転げまわった。
凄い反応だな。水揚げされた魚がこんな感じの動きをするんだが、あまりの反応にそこはかとなく心配になってくる。
「え……っと……ダクネス? 大丈夫か……?」
「……~~~……~~……」
「……うん?」
はあはあという息遣いに交じり、何かを呟いている。
顔を近づけて耳を澄ましてみると。
「がちがちに膨らんだ醜い雄の欲望が狭苦しい檻の中に囚われているっっ自らの一部であるというのに自らの自由意志で欲求を吐き出すことすら許されないとはっっそうか、そうか……これが雄の……ああ、私は今、雄として……情けの無い雄として、この上ない責め苦を受けているのか……!! はあはあはあはあ、これは、これは不味い、私の身体に向けられる下衆な視線は私に女としての価値があったが故だったというのに、これは最早ヒトとして扱われているかどうかすら怪しい! 生殖器に鍵をかけられる!? 許可なくして繁殖行為に及ぶことすらできないということか!? 家畜じゃないか私は!! 貴族の令嬢である私が、クルセイダーである私が、鎧の内側で施錠された生殖器を隠し持っているだなどと、ああ、ああいけない、戻ってこれなくなりそうだ、そうだ……そうだ! これが私なんだ、誰かを襲い組み伏せる欲望などおまけにすぎない、それをこそ強制的に封じ込められることに私としての在り方があるんだ……!!」
「……うわっ…………」
変態が人格破綻者にランクアップマジックしていた。
呼び起こしてはいけなかったものをサルベージしてしまったようだ。
*
ところ変わってリビング。
俺、めぐみん、向かいにアクア、ダクネス。と言う形でテーブルを囲み、俺はアミュレットに関する説明をした。
「……ってわけだ。すまん」
「よし、ちょっとあの魔道具店にカチコミに行きましょっか、本格的に除霊する必要があるみたいね」
ボキボキと指を鳴らす女神を指先で制す。
「待て。店主は目の前でアミュレットの効果を受けながら俺に襲い掛かるようなことはしなかったし、バニルに至っては俺の知らない魔法の使い方を教えてくれた。手を出すことは許さん、一生ロックかけたままにするぞ」
「一生!?」「一生だと……!!? はぁっ、はぁっ……!!」
なんかいらん声もついてきたのはいいとして。
「い、一生はちょっと……悪かったわよ、ほんのジョークだから……」
ロックをちらつかせただけでこうも大人しくなるとは。
元はあたしの性欲だと思うと悲しくなるな……。女から見る男ってこんな感じなのかなあ……。
「そういえば、めぐみんは? 体調が悪くなったりとか、そういう副作用はなかった?」
「え? ああ、私はその、特には……はい」
さっと赤らんだ顔をそっぽ向けるめぐみん。
アクアとダクネスはこうまで性欲の権化と化していたのに、めぐみんだけというのも不思議な話…………。
いや。待て、アクアと、ダクネス?
「……」
「……? な、何よ、人のことじろじろ見て……」
「ど……どうした、カズマ? 普段のお前ならいざ知らず、今のお前に見つめられると、おかしなときめきが湧いてくるというか……」
アクアはダがつくとはいえ女神である。となると人間が普段するような行いとは無縁だろう。
ダクネスに至っては生まれが生まれだ。そういったこととは無縁のまま育ち、結果的に多少なり歪んだ形で発露してしまったとしてもおかしくはない。つまりは両者とも、解消する手段というものに行きつく人間ではないのではなかろうか。
「…………?? ど……どうしました、カズマ……?」
半面、めぐみんはどうだ。
一軒家の中、家族と一緒に暮らしている、年頃の女の子である。
行為というか、その手段に自然に行きついたとしても、おかしくはあるまい。
邪推も邪推だが……めぐみんだけは、自分でなんとかする手段を知っていた可能性が……高い。
「めぐみん。ありがとう」
「はい!? 何がですか!?」
「いや……あたしを襲わないでいてくれて……」
頭の中ではなんかされたかもしれないが、襲われるよりもずっとありがたい。
特にこの二人と会った後なものだから、心底ありがたく思ってしまった。
「あ……当たり前でしょう、仲間なんですから。それで? 私たちやカズマは元に戻れるんですか? ……なんか、だいぶ手遅れな気もしますけど」
「手遅れとは何手遅れとは!? あたしだって頑張ってるんだけど!? ケダモノみたいな仲間と対峙したりパンツ奪われたり!」
「いや、口調がってことじゃないかしら」
「口調? …………」
……。
「パンツ奪われたんですか?」
「話を戻そう。これはあたしあたっ……おれがおもうに神器だとおもわれる。このアミュレットに見覚えはないか、アクア」
「ねえ今ノーパンなんですかカズマ」
「履いてるから」
「そうですかよかったです、ノーパンにさせられる気持ちわかりました?」
「わかったから!! 話をさせて!? ごめんってば謝るからっ!!」
めぐみんの視線が突き刺さりながらも、あたしはアミュレットを首から外して見せる。
違うわ俺だわ俺。俺はサトウカズマ。サトウカズマだ。
「え? うーん……あるようなないような……あっ」
ぽんと手を叩き、アクアは「あー」とひょうきんな声を出した。
「いたわ。これ作ったわ。転生特典ってことで作って渡したけど……」
「渡したの!? こんな危険物を!!?」
「いやいや確かに作ったけどね? 説明書も同封したのよ、極限まで性欲が高まってないと発動しないって。まあ結局人間が一生で溜め込める性欲の量なんてたかが知れてるし、発動することなんてありえないくらいの性欲が必要になる設計をしておいたから、悪さされることはないだろうと思った……ん……ですけど…………」
「……??」
頭にハテナを浮かべて目を丸くしているめぐみんとダクネスの両名はひとまず放っておき、あたっ俺は問い詰める。
「……じゃあそいつは、エロエロなことができることを期待しながら……いつまでも発動しないこいつを握ってたってことか……?」
「い、一応、不可能ではない設計にしたのよ? 持ち主の欲求を、そいつが吸い取って貯め込む形になってるから……だからまあ……爺さんになった時にでも……使えるんじゃないかなーって…………」
「――――」
そうか。
そういうことか。
このアミュレットは持ち主の性欲を貯め込み、一定以上に達すると発動する。
しかしそれには莫大な量の性欲が必要となる。元の持ち主はきっと、これを発動させることができないまま死んでいったのではないだろうか?
その際、死ぬ間際の無念とか怨念だとかで、臨界寸前に達したアミュレットは、その状態で放置され――時を超えて発掘され、俺のもとに辿り着いた。
その時、俺の抱いていた、さほど高まってもいない性欲を吸い取り……発動してしまったのではないだろうか。
「待てよ……じゃあ…………もとに戻るために、またこいつが発動する量の性欲が必要なのか……?」
「……性転換と分散を行うには……そうなるわね。あ、でも安心して。分散した量の欲求は自然と消えるようになってるから、だから本人と違ってなんか生える程度で収まってるのよ?」
「え、えと……つまり……これはアクアが作ったもので、私達はそれの弊害を喰らった……と?」
「そういうことになるわね。まあほっとけば治るわよ、問題は――」
「…………………………」
「……そこの、元、男だった冒険者の……カズマちゃんかしらね……」
お父さん。
お母さん。
あたしは。
いったい、何を失い。
何を、手に入れたのでしょうか……。
*
そして、時は戻る。
石鹸洗剤をブン投げ、俺はカズマだと自分に言い聞かせる日々。
「あ、ねえかずみん、石鹸ってまだありましたっけ? 洗剤じゃないほう」
「体洗う方……? まだあったと思う、アルカンレティアで貰ったやつが……って待て、何、かずみんって。グリス?」
「ぐり……? カズマの新しい女の子としての名前ですけど」
「名付けないでくれるかなあ!!? 何で新たなゴッドファーザーになろうとしてるわけ!? あたしはカズマ! サトウカズマ!! ね!?」
べしべしと邪魔くさい両胸を叩き、自分を示す。
俺はカズマ。サトウカズマだ。相棒を失い二度と戻ることのない悲しみに明け暮れ続けている女だ。
男だよ違うよ男なんだよ。
「あたしって言ってる時点で二度とカズマには戻れない気もしますけど。じゃあ他のにします? ゆんゆんの案がありますが」
「……聞くだけ聞く」
「『みんみん』はどうかな!? って言ってました」
「うん、カとズとマは何処に行ったのかな?? っていうか改名するとしてもお前ら紅魔族のネーミングセンスに頼ることなんてないからな!?」
「予定はあるんですか? かずみちゃん」
「それっぽく縮めんな!! ないよ!! 俺はサトウカズマだぁあああーーーーーッッ!!!!」