アニメ本編ではサイレンススズカが本格化した5歳以降しか扱っていませんが、気性難があったサイレンススズカは4歳の弥生賞の時にかなりやらかしています。
そんなサイレンススズカの弥生賞をスペシャルウィークに見せるエアグルーヴ先輩の話です。

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本編

「おい、もう消灯時間だぞ」

 

校舎内を施錠前に一回りして、生徒が残っていないかを確認するのはエアグルーヴの仕事だ。

本来教員がするこの仕事をエアグルーヴが積極的に引き受けているのは、悩んだウマ娘がいないかを探すのも兼ねているからだ。

落ち込んだり思い詰めたりした子が、時々学内に残って何かしている、という事は少なくない。

そういった子をいち早く見つけたいエアグルーヴは、積極的に学内の見回りをしていた。

 

そうして今日は、図書室に併設されたAVコーナーの明かりがまだついているに気づいた。

音からするに、誰かがレース映像を見ているらしい。

他バのレース映像を見て研究する、というのも練習の一つだ。だが、のめり込んでしまい消灯時間を忘れる子は時々いる。

ブース内を覗くと、真剣に映像を見ているのはスペシャルウィークであった。

 

スペシャルウィーク。

生徒会でもたびたび名前が出ているウマ娘だ。

一つには彼女が転入だったという事がある。

トレセン学園の門戸は広く開いているとはいえ、転入というのはあまり多くない。

いきなりの環境変化に体調を崩していないか、寮長たちとともに確認するため転入当時から時々話題に上がっていた。

さらに彼女は、僻地にいたせいで他のウマ娘を見たことが無い、という事だった。

ウマ娘というのは、一般的にほかのウマ娘に勝ちたいという闘争心と、ほかのウマ娘と一緒にいたいという孤独心を持つ面倒な人種だ。

箱入りウマ娘の彼女が、メンタルや体調を崩さないか、オグリキャップが編入してきたとき以上に注意を払っていた。

幸い彼女は非常に人当たりが良く、すぐにクラスメイトにもなじんだので、このあたりは杞憂に終わった。

しかしその後もちょこちょこ、彼女の名前は話題に上がった。

なんせあの、サイレンススズカと同室で、あの気難しい彼女と恋人じゃないかと思うぐらい仲良くなったのだから。

 

リギルで同じチームにいた時分、スズカの評価は

素質とスピードにあふれているが、気難しい娘

だった。

孤独を好む癖に、妙に寂しがり屋なところがあるというめんどくさい気質なのだ。

しかもおとなしそうに見えて自分の考えを曲げない。

リギルのトレーナーもサイレンススズカの管理に苦慮していた。

チーム変更後、あれの手綱を握るスピカトレーナーと、あれと仲良くなるスペシャルウィークに、みんな驚いた、というのは言い過ぎではないだろう。

 

「スペシャルウィーク、消灯時間だぞ」

「ひゃい!? エアグルーヴ先輩!? すいません! 全然気づきませんでした!!」

「そんな熱心に何を見てたんだ?」

「えっと、スズカさんのレースを見てました」

 

ブースに近寄って声をかけると、スペシャルウィークもこちらにやっと気づいたようで顔を上げてぺこぺこ謝り始めた。

モニターに映っているのはスズカのレースだ。

毎日王冠のようだ。確かにこの時のスズカの走りは圧倒的であった。

本当にスズカのことが好きなんだな、この子は。

エアグルーヴは可愛らしいと思うとともに、昔からスズカに世話を焼いていた先輩として、少しだけ嫉妬心が浮かんだ。

少しぐらいいたずらしても許されるだろう。スズカにはあれだけ手間を掛けさせられたんだ。

そんな自己弁護をして、エアグルーヴはスペシャルウィークに、スズカは知られたくないだろうことを教えることにした。

 

「スペシャルウィーク」

「はい!」

「お前、スズカの弥生賞、見たことあるか?」

「弥生賞? ……いいえ」

「だろうな」

 

キーボードとマウスを借りて、スズカが出走していた弥生賞のデータを移す。

ここではあらゆるレースを見ることができる。

そして出走者からレースデータを検索することができるのだが…… 一部については出走者と紐づけられていないことがある。

あまりにふがいない走りなどをした場合に、その出走者とレースデータの紐づけを解除することができるのだ。

そうすると出走者で検索してもレースデータが出てこない。

一般にはあまり知られていないがそういうルールがあった。

スズカの場合は、彼女の2走目、弥生賞がそれにあたった。

おそらくスズカの名前で検索していた彼女は、このレースを見たことが無いはずである。

 

もっともレースデータ自体はすべて公開されているので、ほかの方法で検索すればそのレースデータは出てくる。

単に検索で見つかりにくいというだけでしかない。

数回クリックすると、スズカが出走した弥生賞が出てきた。

 

「わぁ、こんなのあったんですね!」

 

尻尾を振り、耳をぴんと立てて笑顔でモニターにくぎ付けになるスペシャルウィーク。

初めて見るレース映像に興味津々の様だ。

しかし、ゲートイン完了後の次の瞬間、その笑顔は凍り付いた。

 

『エアグルーヴ、どこいったのぉ』

 

情けない声を上げながら、スタート前にゲートをくぐってスズカが出てきたからだ。

耳までしょんぼりして、迷子になった幼子のようにきょろきょろする。

そうしてそのまま、当日応援に来ていたエアグルーヴとトレーナーの下に走り寄ってくる。

 

「え、エアグルーヴ先輩…… これ……」

「弥生賞当日、スズカの奴全然集中できてなくてぼんやりしててな。どうにか私も付き添ってゲートに入れたのだが、出走直前に我に返って寂しくなったらしい」

 

外ラチを飛び越え、エアグルーヴとトレーナーのところに駆け寄るスズカに、エアグルーヴの怒声が届く。

マイクは遠いはずなのに、その声が微妙に音声として入っていた。

スズカの失態に苦笑するしかない。

 

「スズカの奴、ああ見えて案外緊張するタチみたいでな。デビュー後の二戦目のレースで緊張しすぎたらしい」

「スズカさんかわいい……」

「そういえばスズカの奴、今でも左にぐるぐる回ってるのか?」

「毎日元気に回ってますよ?」

「床がすり減ったりしてないよな?」

「さすがにそこまですごくはないですよ。ぺたぺた数分間回るぐらいですし」

「弥生賞の後、あいつの部屋に行ったら部屋の真ん中にミステリーサークルができていたからな」

「ミステリーサークル?」

「蹄鉄つけたまま、一晩中左回りをしてたらしい。そのせいで床に丸い溝ができてたんだよ」

「スズカさぁん……」

「たぶん、スズカのベッド下に痕が残っているはずだ」

 

そういうとスペシャルウィークは興味深そうに目を輝かせた。

あれは非常に驚いた。修理工事も非常に大変で、予算の関係上、床材の真ん中部分をベッドの下のものと交換するので済ませたのだ。

だからいまだにスズカのベッドの下にはあのミステリーサークルができているはずだ。

 

「まあ、お前みたいな世話を焼く恋人がいるなら、スズカのことも安心だな」

「こ、恋人!?」

「違うのか?」

「ち、ちがいますよぉ……」

 

ごにょごにょと真っ赤になり俯くスペシャルウィーク。

てっきりあそこまでかいがいしく世話するのだからそれくらいの関係だと思っていたのだが、どうやら違ったようだ。

トレセン学園は女性ばかりだし、そういった恋人関係もそう珍しくはないのだが……

エアグルーヴは真っ赤になったスペシャルウイークを見ていると、声が聞こえた。

 

「すぺちゃーん?」

「おやおや、スペシャルウィーク、キミの愛しいスズカがお迎えにきたな」

「だからまだそういうのじゃないですってば!」

「ははは。さて、消灯時間も随分すぎてしまった。片付けて早く帰るようにな」

「は、はい」

 

『まだ』、ね。

そのままスズカとすれ違い、一言だけ挨拶をしてエアグルーヴは立ち去った。

後ろから

 

「スぺちゃん!? なんでこんなの見てるの!?」

「エアグルーヴ先輩が勧めてくれたので」

「エアグルーヴ~」

「スズカさんかわいい……」

「エアグルーヴ~!!」

 

なんて声が聞こえてくるが、夫婦喧嘩は犬も食わない。

すべて無視してエアグルーヴは立ち去るのであった。

 




アプリ版だとスズカはエアグルーヴに敬語を使わないし、先輩なのに呼び捨てする関係なので非常に仲が良いのではないかと思います。
スぺスズもいいですが、エアスズもありだと思いますし、トレスズも好きです。

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